平和外交研究所

2013 - 平和外交研究所 - Page 16

2013.10.31

パク・ハンチョル憲法裁判所所長の慰安婦関係発言

パク・ハンチョル韓国憲法裁判所長が10月29日、ハーバード大学ロースクールで講演を行なった。立場上、また、場所柄、法的な議論を期待したいが、パク所長の主張は日韓間の関係条約に照らし説得力があるか疑問である。
1965年の日韓請求権協定について、パク所長は「日韓間の民事債務、債権関係に限ったもので戦争犯罪は含まない」としている。また、パク所長は河野談話が日本政府による強制を認めているかのように言っているが、同談話が認めたことは「業者らがあるいは甘言を弄し、あるいは畏怖させるなどの形で本人たちの意思に反して集めるケースが数多く、さらに、官憲等が直接これに加担するなどのケースもみられた」「慰安婦たちは戦地においては常時軍の管理下において軍とともに行動を共にさせられており、自由もない、痛ましい生活を強いられていたことは明らかである」ということであり、それ以上のことではなかった。
日本として慰安婦をそのような状況においたことについて責任を負うのは当然であるが、法的に戦争犯罪と言えるか、その概念は最近明確化されてきたものであり、よく分からない。法的には、戦争犯罪の構成要件いかんなどは明確にした上で議論していかなければならないのではないか。
また、パク所長は、請求権協定が締結された時慰安婦問題は議論に出ていなかったと言っている。このこと自体は事実であるが、当時、交渉は請求権の問題で行き詰っており、協定締結を以って請求権問題は「完全、かつ最終的に解決された」と規定した(第2条)のは、そうしなければいつまでも解決できなくなることを両国政府が恐れたからである。この規定は、その時に表面化していないことについてもあてはまるというのが日本政府の理解であり、もし韓国側がそうでないと主張するのであれば、やはりその説明が必要である。
「謝罪」については、パク所長は講演のなかで矛盾したことを言っている。もっとも、これは報道に問題がある可能性もあり、実際の発言は、「日本政府はいったん謝罪したが、その後謝罪しないという態度に変わった」ということかもしれない。それなら明らかな矛盾はないが、事実には反している。日本政府は謝罪しており、橋本総理の謝罪書簡を被害者に直接届けている。そのことを無視してはならない。
一方、韓国政府は、憲法裁判所の慰安婦問題に関する「日韓会談では協議されていないので未解決であり、韓国政府が、日本政府と解決のための協議を行なわないでいるのは、政府に国民の人権を守る義務を課している韓国憲法に違反する」との決定(2011年8月30日)を受けて、9月15日、日本政府に日韓請求権協定第3条に基づく協議を求めたが、日本政府は、「日韓請求権協定で解決済み」として協議に応じていない。表面的には、3条で決められた協議に応じるべきだという議論も可能に見えるが、竹島問題はちょうど日韓の立場が逆になっており、日本政府が国際司法裁判所での解決を望んでいるのに対し、韓国政府は応じない。慰安婦と竹島は異なる問題であるが、政治的には関連があるかもしれない。
韓国政府が真に第3条の協議による解決を希望するなら、竹島問題についても同様の態度を取ることが一案である。
また、同じことが日本政府についても言える。日本が竹島問題のICJでの解決を望むならば、慰安婦問題についても請求権協定第3条にしたがっての解決を図るのが一案となろう。

2013.10.30

三中全会の開催日の決定

10月29日の中共中央政治局会議で、三中全会は11月9~12日に開催されることが決定された。
これに呼応するかのように、中央軍事委員会は、各部隊、各組織に「巡視隊」派遣を決定した。決定文を見ると、腐敗の摘発が主要な目的らしく、「ハエだけでなく虎も叩け」の標語も出てくる。
一方、最高人民法院も同日、数項目からなる「意見」を発表した。その要点は、次のようなものであり、相変わらず司法の根本にかかわる問題が存在していることがうかがわれる。
「意见」の要点(抜粋)
独立した審判の確保と「保護主義(かばいあいなどを指すのであろう)」を排すること。
違法な裁判の禁止。
裁判以前に家屋などを強制的に撤去することを禁止。
専門家による解決の確保(専門家でない者、すなわち裁判官でない者が問題を解決することを指しているのであろう)。

2013.10.29

天安門広場での車の炎上事故

昨日(28日)、北京の天安門広場で四輪駆動車が歩道に突っ込み、巻き添えになった者を含め5人が死亡した。乗っていた人が旗を振りながら暴走していたことが目撃されており、単なる事故ではなかったらしい。中国当局も事故でなくウイグル族により引き起こされた事件であったとの見方である。
中国各地で大小の事件が頻発しており、いわゆる「群体性事件」のように多数の人が参加するケースから個人の焼身自殺や爆破のような事件まで多種多様であるが、いずれも中央・地方の政府に対する抗議行動であることはほぼ間違いない。
天安門広場ではこれまで1989年の事件のように大規模なデモが起こっており、北京の当局は対応に慣れている。今回の事件も、現場での処理活動はもちろん、被疑者の身元や、「違法な容疑車両」を追っていることを手際よく発表している。
しかし、中国政府はどのような気持ちで見ているのだろうか。11月に開催される中共の三中全会ではいくつかの問題が取り上げられる、あるいは取り上げられるべきであると指摘されているが、そのなかで、個人や集団の抗議事件に直接かかわりうる問題としては、不動産の価格などに関係する「マクロコントロール」、工業用地の確保など土地問題、都市住民と差別されている農民の戸籍、村民を犠牲にする地方政府の歳入確保などの諸問題がある。つまり、三中全会での主要議題と目されていることの多くが抗議事件と関係があるのだ。
しかるに、今回の事件がウイグル族のような少数民族によって引き起こされたとなれば、民族問題が原因であるという印象が強くなり、その分だけ、中国で広く存在する内政問題であるという性格がかすんでくる。
中国政府がこのようなことを認識していたか否か、もとより知る由はないが、一般論としては、政府は、重要会議を控えて政治状況が不安定であるという印象を国民に与えないよう努めるであろうし、また、抗議する側としては、まさにそのために事件を起こしたのかもしれない。いたずらに想像を重ねることは控えなければならないが、中国の政治には日本などでは想像もできないような不安定性がある。

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