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2016.12.16

韓国の朴槿恵大統領が職務停止 慰安婦合意など日韓関係への影響は。

THE PAGEに寄稿した韓国情勢と慰安婦問題に関する一文です。

 「韓国の朴槿恵大統領は、12月9日、国会が弾劾訴追案を可決したため職務の執行を停止されました。朴大統領の友人が国政に不当に関与したことが明るみに出て以来、朴大統領自身の言動にも疑惑が生じ、韓国民がその退陣を要求するようになり、ついに国会が大統領の弾劾を決定したのです。
 今後、憲法裁判所が弾劾の適否を判断することになっており、その結果次第で朴大統領がその地位を失うか、それとも職務執行の停止が解け通常の状態に復帰するかが決まります。その時期は早ければ2月初め、遅ければ6月頃になると推測されます。その間、大統領の職務は黄教安首相が代行することになりますが、韓国の国政が影響を受けることは避けがたいでしょう。
 対外面でも懸念材料があります。韓国には日本や中国とともに東アジアの平和と安定に果たすべき重要な役割があり、朴大統領は北朝鮮の核実験などに厳しい姿勢で対処してきました。
 また、さる11月末に日本と秘密軍事情報保護協定(GSOMIA)を締結しました。防衛情報を米を介さず日韓両国で共有するのが狙いであり、これにより北朝鮮の核やミサイル問題への対応能力が向上することが期待されます。GSOMIAは米国が防衛協力強化のため同盟関係にある各国と結んでいる取り決めです。しかし、韓国の野党は日韓のGSOMIAにも反対しており、韓国の政変はこの面でも悪影響を及ぼす恐れがあります。

 日本との二国間関係ではいわゆる「慰安婦」問題への影響が懸念されます。これは非常に複雑で、日韓両国にとって頭の痛い問題ですが、今からちょうど1年前の12月下旬に両政府は解決について合意しました。
 日本政府はあらためて「責任」を認め、安倍首相は「おわび」するとともに、元慰安婦の「心の傷の癒やすための事業」に10億円を拠出することになりました。そして、両国政府はこの合意により慰安婦問題が「最終的かつ不可逆的に解決される」ことを確認しあいました。
 在韓国日本大使館前の少女像については、韓国政府は,「適切に解決されるよう努力する」と表明しました。
 日本政府による10億円の拠出はさる8月に完了しています。韓国政府は元慰安婦に対して事業を受け入れるよう説得し、日韓合意の時点で生存していた元慰安婦46名(その後6人死亡)のうち29名が受け入れを表明しました。10月中旬、事業実施のための財団の理事会で報告されたことです。
 しかし、少女像の撤去については、韓国政府は関係者に説得を続けていますが、まだ実現していません。このため日本では不満の声が上がっていますが、この問題については韓国政府が努力を強化するよう粘り強く求めていくことが必要です。

 このような状況の中で今回の政変が起こったのです。野党は慰安婦問題に関する合意が成立した時から反対の姿勢を続けており、去る9月には朴大統領に面会して再交渉を要求しました。この合意は「屈辱的合意」だとも言っています。かりに、朴槿恵大統領に代わって野党から新大統領が選出されると、何らかの新しい取り決めを求めて再交渉を日本に提案してくる可能性があります。合意を一方的に破棄する可能性もないとは言い切れません。1965年に結ばれた日韓基本条約ですべての請求権について「完全かつ最終的に解決済み」とされたことについて、日本側は文字通りの解釈ですが、韓国側では慰安婦問題はこれには含まれないと主張している例があります。
 しかし、再交渉に日本政府が応じることはないでしょう。1年前の合意により慰安婦問題が「最終的かつ不可逆的に解決された」ことは両国政府が確認しあったことであり、しかも文書に明確に記載されています。国際法では政府間の合意には国家を拘束する力がないとされていますが、それは理論の問題です。両国政府が合意したことが、政権が代わったからと言って守られないと信頼は失われ、政治・経済・文化面にわたる密接な協力関係は甚大な影響を受けるでしょう。日本は新大統領に誰が選ばれようと、韓国に対しあくまで日本との合意を守ることを求めていくでしょう。当然のことです。
 ただし、「慰安婦問題」については国際的な同情があり、日本政府が開き直ったりするとその悪影響は計り知れないものがあり、それには注意が必要です。この問題についてはあくまで丁寧に、誠意を尽くして対応していかなければなりません。

 朴大統領の退陣を求めて広場を埋め尽くした人々がコンサート会場よろしくペンライトを振りながら弾劾の決定に喜んでいる姿もどうかと思いますが、朴槿恵大統領の責めに帰せられるべき過ちが何であり、またどれほど深刻か、まだ明確になっていないのに弾劾という強制的手続きで大統領の職務を停止することが妥当か、隣国のこととは言え、正直なところ、強い違和感を覚えます。
 ともかく、韓国における世論と政治との関係は日本の今後の対韓政策にも参考にしなければならないと思います。

2016.12.14

(短文)プーチン大統領の訪日と北方領土問題

 明15日からプーチン大統領が訪日する。日本で非常に注目されているが、北方領土問題については、プーチン大統領に期待するのは的外れだ、日本は米ロ関係が明確になるのを待ち、あらためて対ロ戦略を構築すべきだ、という趣旨の一文を東洋経済オンラインに寄稿した。「プーチン来日でも進展困難な「北方領土問題」」とのタイトルになっている。
2016.12.10

(短評)朴槿恵大統領に対する弾劾

 12月9日、韓国国会は朴槿恵大統領の弾劾を決定した。同大統領は職務の執行を停止され、今後は黄教安首相が大統領の代行を務める。弾劾が適法か、憲法裁判所は180日以内に決定することになっており、弾劾が認められれば朴槿恵大統領は失職し、60日以内に新大統領が選出される。したがって、最も時間がかかる場合を想定すれば、来年の8月初めに新大統領が誕生するのである。これは朴槿恵大統領の本来の任期満了より約半年早い。

 今回の弾劾決定についてはいくつか疑問の点がある。弾劾は韓国と韓国人の問題であり、日本人としてとやかく言うべきでないが、韓国は日本に最も近い隣国であり、韓国との友好関係なくして日本の安泰を確保することは困難だ。韓国のことはよく知らなければならず、疑問点を認識することはそのための第一歩である。

 朴槿恵大統領の退陣要求について疑問があることは当HPで複数回指摘したが、最大の疑問は、朴槿恵大統領の責めに帰せられるべき過ちが何であり、またどれほど深刻か、まだ明確になっていないのに弾劾という強制的手続きで大統領の職務を停止することが妥当かということである。
 デモに参加し大統領の退陣を要求する者は150万人にも上ったと言われている。また、国会やマスコミもこれに同調した。弾劾はそのような状況に立ち至った結果だということはよく分かるが、デモの参加者の多くは弾劾の決定を喜んでいるようだ。音楽コンサートでの観客のようにペンライトを振っている。サッカーの試合でのようにウェーブも起こっている。参加者の中には大統領が変わらなければ韓国の政治はよくならないと言う者がいる。いろいろあるが、どうも違和感を覚えることが多すぎる。大統領を首にすることは悲しくないのかとさえ思う。世界の歴史上、圧政を倒して人々が歓喜することは何回もあった。ベルリンの壁を倒したときもそうだった。しかし、朴槿恵大統領の犯した問題はまるで違うのではないか。
 韓国では、何が問題となり、どうなると政治が動くのか、これは日本にとって極めて重要なことだ。日本の基準で測るべきでないのはもちろんだが、韓国では情緒で政治が動くというような大雑把な議論では真相は分からない。

 憲法裁判所は朴槿恵大統領の過ちがどれほど大きいか、弾劾は正当かについて判断を示すだろう。それはまた、韓国で燃え盛っている国民感情を立憲主義的民主主義国家においてどのように扱うべきかをも示してくれるのではないか。

 なお、2004年の盧武鉉大統領弾劾の場合、国会での訴追案の可決から憲法裁判所がこれを棄却するまで2カ月と2日かかった。今回も同程度の日数がかかるとすれば、来年2月の初めに判断が下ることになる。それまで韓国の政治が混乱するのは避けがたいが、早く正常化することを期待したい。

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