オピニオン
2016.05.10
新設のポストである「党委員長」についたのは、祖父の金日成主席、父の金正日総書記と並ぶ指導者としてふさわしい肩書があったほうがよいという考えからだろう。もっとも、金正恩が「第1書記」から「党委員長」になっても直ちに実態が変わるのではない。
一部ではすでに「党委員長」を肩書として使用し始めているようだが、本稿では従来通り「第1書記」と表示する。
指導者としての地位の承認だけでない。金正恩第1書記は大会で過去4年半行ってきたことを報告し、承認された。具体的なことはいちいち示されないが、金正日総書記の逝去後、金正恩第1書記が新しい指導体制作りの過程で、義理の叔父にあたる張成沢を処刑するなどきわめて衝撃的なことを行ったことなども当然承認されたことになるのだろう。
政策面では、金正恩政権の看板である経済改革と核開発の両方を進める「並進路線」が承認された。
核実験は過激になりすぎて国際社会と鋭く対立し、ほとんど孤立状態に陥っているが、これも承認されたことに含まれている。
経済改革を重視する路線が承認されたのはもちろんだ。
要するに金正恩第1書記の指導下で今後も「並進路線」が継続されることになったのだ。
今回の党大会では、金正恩第1書記の「軍ではなく党」を重視する考えが目立っていた。
そもそも36年ぶりに党大会を開催したこと自体が象徴的だ。また、金正日時代の重要政策であった「先軍」が強調されなかったのも党重視のためである。
金正恩第1書記は政権について以来軍の指導層について極端な人事を行ってきた。金正日総書記の葬列で霊柩車に付き添った5人の老軍人は、死亡した者を除き、すべて追放した。処刑した者もいると言われている。
軍のナンバー・ツー(ナンバー・ワンは金正恩)である総参謀長は、金正日時代に任命されていた李英浩を玄永哲に,次いで金格植に、さらに李永吉に代え、さらに今年に入ると李永吉も代えた(処刑した?)ので、金正恩は4年あまりの間に4回総参謀長を変えたことになる。
人民武力相(防衛相に相当する)については総参謀長よりさらに頻繁に代えた。
このようなことは、他の国ではありえないことであり、これを実行した金正恩第1書記のパワーは並々ならぬものだと思う。
ただし、金正恩第1書記は軍を過度に重視することはしないにしても、軍の役割を縮小しようとしているとみなすのは早計にすぎる。これまでの変革はいずれも軍の指導層において起こったことであり、また、「軍よりも党」も指導層の問題だろうからである。そもそも核開発の継続にこだわるのは北朝鮮の軍事的環境を厳しく見ているからである。
今回の党大会で決定された新しい指導部も注目された。金正恩第1書記以下、最高人民会議常任委員長の金永南、朝鮮人民軍総政治局長の黄炳誓、首相の朴奉珠、党書記の崔竜海の5人が政治局常務委員になったことだ。
崔竜海は建国初期の人民武力相の子であり、金正日の葬儀時の序列は第18位であったが、その後金正恩の下でナンバー2にまで引き上げられた。しかし、その後下されては、また引き上げられた。それも1回でなく、同人の地位はエレベーターのように浮沈を繰り返した。『多維新聞』(米国に本拠地がある中国語新聞)などは同人がかつて3回地方での労働に追いやられたことがあると解説している。
これだけの変遷を経ながらも崔竜海が今回北朝鮮のトップ5に入れたのは金正恩に対し絶対的に忠実だからだ。
一方、黄炳誓は、崔竜海に代わって軍総政治局長に昇進した人物であり。党の組織部(人事を担当する)出身だ。当然金正恩の信頼が厚いのだろう。
黄炳誓も崔竜海も軍服を着用していることが多いが、職業軍人でなく党官僚らしい。政治局常務委員に軍人はだれも入れなかったのにこれら2人を入れたのも党重視の表れと言える。
以上、今回の党大会の意義に絞って記述してきたが、その成功、つまり、大会の目標を達成したことと、北朝鮮という国家がどう発展できるかは別問題だ。今回経済計画が発表されたようだが(報告の全文は未発表)、その実行も含め北朝鮮の行動次第である。
朝鮮労働党大会
朝鮮労働党第7回大会が5月6~9日、開催された。36年ぶりの党大会であり、様々な角度から観察されるのは当然だが、今回の党大会の最大の眼目は金正恩第1書記が北朝鮮の唯一・絶対の指導者であることを確立することにあり、その目的は達成したのだと思う。新設のポストである「党委員長」についたのは、祖父の金日成主席、父の金正日総書記と並ぶ指導者としてふさわしい肩書があったほうがよいという考えからだろう。もっとも、金正恩が「第1書記」から「党委員長」になっても直ちに実態が変わるのではない。
一部ではすでに「党委員長」を肩書として使用し始めているようだが、本稿では従来通り「第1書記」と表示する。
指導者としての地位の承認だけでない。金正恩第1書記は大会で過去4年半行ってきたことを報告し、承認された。具体的なことはいちいち示されないが、金正日総書記の逝去後、金正恩第1書記が新しい指導体制作りの過程で、義理の叔父にあたる張成沢を処刑するなどきわめて衝撃的なことを行ったことなども当然承認されたことになるのだろう。
政策面では、金正恩政権の看板である経済改革と核開発の両方を進める「並進路線」が承認された。
核実験は過激になりすぎて国際社会と鋭く対立し、ほとんど孤立状態に陥っているが、これも承認されたことに含まれている。
経済改革を重視する路線が承認されたのはもちろんだ。
要するに金正恩第1書記の指導下で今後も「並進路線」が継続されることになったのだ。
今回の党大会では、金正恩第1書記の「軍ではなく党」を重視する考えが目立っていた。
そもそも36年ぶりに党大会を開催したこと自体が象徴的だ。また、金正日時代の重要政策であった「先軍」が強調されなかったのも党重視のためである。
金正恩第1書記は政権について以来軍の指導層について極端な人事を行ってきた。金正日総書記の葬列で霊柩車に付き添った5人の老軍人は、死亡した者を除き、すべて追放した。処刑した者もいると言われている。
軍のナンバー・ツー(ナンバー・ワンは金正恩)である総参謀長は、金正日時代に任命されていた李英浩を玄永哲に,次いで金格植に、さらに李永吉に代え、さらに今年に入ると李永吉も代えた(処刑した?)ので、金正恩は4年あまりの間に4回総参謀長を変えたことになる。
人民武力相(防衛相に相当する)については総参謀長よりさらに頻繁に代えた。
このようなことは、他の国ではありえないことであり、これを実行した金正恩第1書記のパワーは並々ならぬものだと思う。
ただし、金正恩第1書記は軍を過度に重視することはしないにしても、軍の役割を縮小しようとしているとみなすのは早計にすぎる。これまでの変革はいずれも軍の指導層において起こったことであり、また、「軍よりも党」も指導層の問題だろうからである。そもそも核開発の継続にこだわるのは北朝鮮の軍事的環境を厳しく見ているからである。
今回の党大会で決定された新しい指導部も注目された。金正恩第1書記以下、最高人民会議常任委員長の金永南、朝鮮人民軍総政治局長の黄炳誓、首相の朴奉珠、党書記の崔竜海の5人が政治局常務委員になったことだ。
崔竜海は建国初期の人民武力相の子であり、金正日の葬儀時の序列は第18位であったが、その後金正恩の下でナンバー2にまで引き上げられた。しかし、その後下されては、また引き上げられた。それも1回でなく、同人の地位はエレベーターのように浮沈を繰り返した。『多維新聞』(米国に本拠地がある中国語新聞)などは同人がかつて3回地方での労働に追いやられたことがあると解説している。
これだけの変遷を経ながらも崔竜海が今回北朝鮮のトップ5に入れたのは金正恩に対し絶対的に忠実だからだ。
一方、黄炳誓は、崔竜海に代わって軍総政治局長に昇進した人物であり。党の組織部(人事を担当する)出身だ。当然金正恩の信頼が厚いのだろう。
黄炳誓も崔竜海も軍服を着用していることが多いが、職業軍人でなく党官僚らしい。政治局常務委員に軍人はだれも入れなかったのにこれら2人を入れたのも党重視の表れと言える。
以上、今回の党大会の意義に絞って記述してきたが、その成功、つまり、大会の目標を達成したことと、北朝鮮という国家がどう発展できるかは別問題だ。今回経済計画が発表されたようだが(報告の全文は未発表)、その実行も含め北朝鮮の行動次第である。
2016.05.08
最大の懸案である北方領土問題ははたして進展するか。今後の交渉次第であるのはもちろんだが、「今までの発想にとらわれない新しいアプローチで交渉を精力的に進めていく」としたことは注目される。
外務省が発表した会談の内容と結果(概要)は平和条約締結問題について次の通り説明している。
①両首脳の間で北方領土問題について突っ込んだやり取りが行われた。その結果、これまでの交渉の停滞を打破し、突破口を開くため、双方に受入れ可能な解決策の作成に向け、今までの発想にとらわれない「新しいアプローチ」で、交渉を精力的に進めていくとの認識を両首脳で共有した。日露二国間の視点だけでなく、グローバルな視点も考慮に入れた上で、未来志向の考えに立って交渉を行うこととし、このアプローチに立って、次回の平和条約締結交渉を6月中に東京で実施することで一致した。
②この関連で安倍総理から、日露双方が静かな交渉環境を維持するために互いの国民感情に配慮し、相手の国民感情を傷つけるような行動や発言を控えるべきであることを指摘した。
「新しいアプローチ」とはなんのことか。注目が集まっている。今まで交渉は進展していなかったので、「新しいアプローチ」でというのは新鮮な響きがあり、期待も抱かせる。報道では安倍首相の方から持ち掛けたそうだ。同首相の気持ちがこもっている言葉だ。
一方、プーチン大統領はどのようにこの言葉を受け止めたのか。ロシアとしても「新しいアプローチ」は都合がよいと見たのではないか。具体的には、「領土問題を棚上げ」にして平和条約を結ぶこと、あるいは、ロシア極東地域の経済開発に今後の交渉の重点を移すことなどもロシアにとっては「新しいアプローチ」だろう。
実は、「新しいアプローチ」という言葉を初めて聞いたとき、ロシア側から言い出したことかと思ったくらいだ。
しかし、日本側としては、領土問題を棚上げにして平和条約を結ぶようなアプローチはありえない。言葉は同じ「新しいアプローチ」でも日露にとって意味することは違っている可能性がある。
次に、プーチン大統領の訪日については、「その準備を進めていくことを確認し、今後、中身のある訪問となるよう準備を進める中で、引き続き最も適切な時期を探っていくことで一致した」と発表されている。これだけではあまりにも建前論だけで何とも言い難いが、ロシアのラブロフ外相は会談後、記者団に対して「具体的な日付も含め、詳細について検討した。検討が終了したらロシアと日本の双方で発表するだろう」と述べたそうだ(朝日新聞5月7日付)。こういうことであれば、話はかなり煮詰まっているようである。本当にそうか、一抹の疑問はぬぐえないが、近日中に発表されることを期待したい。
6月には事務レベルの平和条約締結交渉が始まる。ロシア側には北方領土を占領し、実効支配を続けている事実があるのでこの交渉は本来的に平等な立場で行われるのではなく、さまざまな困難が待ち受けているだろうが、日本側は粘り強く交渉してほしい。
経済協力に関する日本側の提案をロシア側は率直に歓迎し、喜んだようだ。現在はロシアに対し日本は制裁措置を課しているので、貿易、投資面で制約がある。日露で協議される経済協力が実現するとしてもまだ先の事なので、制裁はいずれ解除されることを前提にしているのだろう。
しかし、現実の交渉においては、とくにロシア側はこの話を早く実現したいので制裁の解除が話題になることも考えられる。
一方、ウクライナでは今もミンスク合意違反の状況が続いている。安倍首相がミンスク合意の順守をプーチン大統領に求めたのは正しいが、問題が未解決のまま長引いているのは事実であり、今制裁の解除を前提とする話し合いを始めることについて米欧などには異論があるのではないか。それには一理あると思う。
G7サミットではウクライナ問題も議論されるだろう。日露交渉への影響があるかないか、目が離せない。
安倍首相とプーチン大統領のソチ会談
安倍首相とプーチン大統領は6日夜、ロシア南部のソチで会談した。ウクライナ問題以来困難な状況にあった日露関係を改善し、平和条約締結問題を進展させるための再出発だ。ここまで来るのに日露双方はそれぞれ努力したと思う。最大の懸案である北方領土問題ははたして進展するか。今後の交渉次第であるのはもちろんだが、「今までの発想にとらわれない新しいアプローチで交渉を精力的に進めていく」としたことは注目される。
外務省が発表した会談の内容と結果(概要)は平和条約締結問題について次の通り説明している。
①両首脳の間で北方領土問題について突っ込んだやり取りが行われた。その結果、これまでの交渉の停滞を打破し、突破口を開くため、双方に受入れ可能な解決策の作成に向け、今までの発想にとらわれない「新しいアプローチ」で、交渉を精力的に進めていくとの認識を両首脳で共有した。日露二国間の視点だけでなく、グローバルな視点も考慮に入れた上で、未来志向の考えに立って交渉を行うこととし、このアプローチに立って、次回の平和条約締結交渉を6月中に東京で実施することで一致した。
②この関連で安倍総理から、日露双方が静かな交渉環境を維持するために互いの国民感情に配慮し、相手の国民感情を傷つけるような行動や発言を控えるべきであることを指摘した。
「新しいアプローチ」とはなんのことか。注目が集まっている。今まで交渉は進展していなかったので、「新しいアプローチ」でというのは新鮮な響きがあり、期待も抱かせる。報道では安倍首相の方から持ち掛けたそうだ。同首相の気持ちがこもっている言葉だ。
一方、プーチン大統領はどのようにこの言葉を受け止めたのか。ロシアとしても「新しいアプローチ」は都合がよいと見たのではないか。具体的には、「領土問題を棚上げ」にして平和条約を結ぶこと、あるいは、ロシア極東地域の経済開発に今後の交渉の重点を移すことなどもロシアにとっては「新しいアプローチ」だろう。
実は、「新しいアプローチ」という言葉を初めて聞いたとき、ロシア側から言い出したことかと思ったくらいだ。
しかし、日本側としては、領土問題を棚上げにして平和条約を結ぶようなアプローチはありえない。言葉は同じ「新しいアプローチ」でも日露にとって意味することは違っている可能性がある。
次に、プーチン大統領の訪日については、「その準備を進めていくことを確認し、今後、中身のある訪問となるよう準備を進める中で、引き続き最も適切な時期を探っていくことで一致した」と発表されている。これだけではあまりにも建前論だけで何とも言い難いが、ロシアのラブロフ外相は会談後、記者団に対して「具体的な日付も含め、詳細について検討した。検討が終了したらロシアと日本の双方で発表するだろう」と述べたそうだ(朝日新聞5月7日付)。こういうことであれば、話はかなり煮詰まっているようである。本当にそうか、一抹の疑問はぬぐえないが、近日中に発表されることを期待したい。
6月には事務レベルの平和条約締結交渉が始まる。ロシア側には北方領土を占領し、実効支配を続けている事実があるのでこの交渉は本来的に平等な立場で行われるのではなく、さまざまな困難が待ち受けているだろうが、日本側は粘り強く交渉してほしい。
経済協力に関する日本側の提案をロシア側は率直に歓迎し、喜んだようだ。現在はロシアに対し日本は制裁措置を課しているので、貿易、投資面で制約がある。日露で協議される経済協力が実現するとしてもまだ先の事なので、制裁はいずれ解除されることを前提にしているのだろう。
しかし、現実の交渉においては、とくにロシア側はこの話を早く実現したいので制裁の解除が話題になることも考えられる。
一方、ウクライナでは今もミンスク合意違反の状況が続いている。安倍首相がミンスク合意の順守をプーチン大統領に求めたのは正しいが、問題が未解決のまま長引いているのは事実であり、今制裁の解除を前提とする話し合いを始めることについて米欧などには異論があるのではないか。それには一理あると思う。
G7サミットではウクライナ問題も議論されるだろう。日露交渉への影響があるかないか、目が離せない。
2016.05.05
(寄稿文)
「日本政府は民進党の逢坂誠二議員と無所属の鈴木貴子議員からの質問に対する回答において、「自衛のための必要最小限度の実力保持は憲法9条でも禁止されているわけではなく、核兵器であっても、仮にそのような限度にとどまるものがあるとすれば、保有することは必ずしも憲法の禁止するところではない」という解釈を示しました。
日本政府は、この答弁は従来と同趣旨の説明だとしています。
核兵器の使用が認められるか否かについては、国際法、日本国憲法など国内法、日本の政策を区別してみていく必要があります。
国際法においては、核兵器が違法で禁止されているか、各国の考えは一致していません。日本政府は、戦後間もないころ違法だとみていたことがありました。1960年、フランスがサハラ砂漠で核実験を行い、アフリカ諸国を中心として、核兵器は国連憲章や国際法に違反しており禁止すべきだという決議案が国連総会に提出されたとき日本は賛成したのです。
しかし、中国が核兵器を開発したことなど、国際政治において核の抑止力に頼らざるを得ない状況になり、それ以後日本は核兵器を違法であり、禁止されるとすることに賛成していません。
一方、日本国憲法では、核兵器が違法で禁止されている、あるいはいないなどと直接的に規定されていません。第9条の、戦争や国際紛争においては「武力の使用を永久に放棄する」という規定の解釈にゆだねられています。
1954年に日本政府は、「日本に対して武力攻撃が加えられた場合に、国土を防衛する手段として武力を行使することは、憲法に違反しない」という解釈を示しました。この考えに立って創設されたのが自衛隊です。それ以来、政府は「自衛のための必要最小限度の実力を持つことは憲法で禁止されていない」という解釈を維持しています。ここで言う「実力」が武器のことです。
この解釈に対しては批判的意見もありましたが、わたくしは妥当な解釈であり、今や日本国民の大多数によって受け入れられていると思います。
では、核兵器は憲法が認めている自衛のための武器にあたるでしょうか。
核兵器は一度使用されると市民に甚大な被害をもたらしますので、「自衛のために必要最小限度」の武器か、その範囲を超えるのではないかという疑念を抱かれるのは当然ですが、日本政府は、冒頭で引用した答弁のように「核兵器であっても自衛のために必要最小限度にとどまるものがありうる」という立場です。
しかし、核兵器が禁止されているかいなかについては、さらに次の2つの点を勘案する必要があります。
1つは、日本は、戦後米国の統治下におかれていた小笠原諸島と沖縄が本土に復帰するに際に(それぞれ1968年、72年)、「核を持たず、作らず、持ち込ませず」の非核三原則を表明したことです。
つまり、核兵器は、日本国憲法では必ずしも禁止されていませんが、日本の政策として「核を持たず、作らず、持ち込ませず」と決めたのです。憲法は一定の場合可能と言っているだけで、核兵器を保有、使用しないという政策は憲法となんら矛盾しません。
もう1つは、日本は、沖縄返還から4年後の1976年に批准した核兵器不拡散条約(NPT)で、核兵器の保有、使用など一切のことを国際法上禁止されていることです。この禁止がある限り日本国憲法では禁止されていないと言っても実際上意味はありません。
以上、核兵器が禁止されているか否かを判断する場合に日本国憲法、非核三原則およびNPTの3つが問題になることは従来の国会答弁でもちろん指摘されていますが、その説明ぶりが適切かについては再検討の余地があると思われます。とくに、NPTについては、憲法や非核三原則に比べ、説明が不明確な時がありました。その一例がさる3月18日の参議院予算委員会での答弁です。法制局長官は、「核兵器を始め全ての武器の使用についての制約というのは、国内法、国際法それぞれございます」と言いつつ、「武力の行使を可能となるのは、新三要件の下におきましても、我が国を防衛するための必要最小限度のものでございます」と説明しました。
しかし、核兵器に関する限り、自衛であろうとなかろうと、また新三要件を満たそうと否とは関係なく、NPT条約に加盟している以上、禁止されています。
法制局長官の説明は憲法との関係だけに限ったものかもしれませんが、誤解を生みやすく、今後は「法的にも使用、保有などできない」ことを強調し、明確に説明するべきではないでしょうか。
(いただいたコメント)
こんにちは
私自身は憲法の変更は反対派です。また核の拡散を決して是としておりません。被爆三世というのも大きいかも知れません。また、現在アメリカの核の傘の下で安定しておりますので特に物を申すことはありません。韓国の友達と北朝鮮との関係を議論していた時、核の傘があるのは羨ましいと言われましたし、他国の学生はやはり日本をそのように見ているのだと自覚しております。
この度、ヤフーニュースにて、憲法の取扱で気になる点がありましたのでメールさせて頂きまました。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20160504-00000001-wordleaf-pol&p=2
「しかし、NPT条約に加盟している以上、核兵器に関する限り、自衛であろうとなかろうと、また新三要件を満たそうと否とは関係なく禁止されています。」
このようにありますが、日本国憲法は国際法を含めて全ての法律に優先しますので、日本国憲法で核兵器が必要だとされる場合には国際条約は破棄される話に思います。文章を読んでいて、国際条約の方が優先されるような話があり法律解釈に危うさを感じております。
例えばですが周辺国、特に北朝鮮やアメリカ(アジアへの駐屯を一切行わない)など今とは全く異なる情勢や更に想定外の悪い情勢になった場合、自国防衛のために核に頼らざるを得ない状態は想定しておくべきだと思います。
(コメントに対するわたくしの追加説明)
ご照会いただき、お礼申し上げます。
わたくしがヤフーのTHEPAGEに寄稿した文章「日本は憲法上「核兵器の保有」は認められないのか?」の中で述べた「NPT条約に加盟している以上、核兵器に関する限り、自衛であろうとなかろうと、また新三要件を満たそうと否とは関係なく禁止されています。」について、「日本国憲法は国際法を含めて全ての法律に優先しますので、日本国憲法で核兵器が必要だとされる場合には国際条約は破棄される話に思います。文章を読んでいて、国際条約の方が優先されるような話があり法律解釈に危うさを感じております」とのコメントをいただきました。
これに対するわたくしの考えの要点は次の通りです。
○憲法が優先するか、国際法が優先するかについては、わたくしは専門家でありませんが、解釈が分かれていると理解しています。
○いずれの解釈をとるにしても、日本が将来必要な場合、憲法で条約を破棄できるとは考えません。条約は国家間の約束であり、それを一国の判断で破棄することは国家の信用を失うことになり、すべきでないからです。
○なお、核兵器拡散禁止条約(NPT)は、国家の存続のためなどどうしても必要な場合は、条約からの「脱退」という方法があることを定めています。これはあくまで条約が認めた方法であり、条約の他の締約国によって認められなければなりません。一方的に行う「破棄」ではありません。
日本国憲法上「核兵器の保有」は認められないのか?
THE PAGEに5月4日、次の文章を寄稿しました。寄稿文の後に、ある方からいただいたコメントとそれに対するわたくしの追加説明があります。(寄稿文)
「日本政府は民進党の逢坂誠二議員と無所属の鈴木貴子議員からの質問に対する回答において、「自衛のための必要最小限度の実力保持は憲法9条でも禁止されているわけではなく、核兵器であっても、仮にそのような限度にとどまるものがあるとすれば、保有することは必ずしも憲法の禁止するところではない」という解釈を示しました。
日本政府は、この答弁は従来と同趣旨の説明だとしています。
核兵器の使用が認められるか否かについては、国際法、日本国憲法など国内法、日本の政策を区別してみていく必要があります。
国際法においては、核兵器が違法で禁止されているか、各国の考えは一致していません。日本政府は、戦後間もないころ違法だとみていたことがありました。1960年、フランスがサハラ砂漠で核実験を行い、アフリカ諸国を中心として、核兵器は国連憲章や国際法に違反しており禁止すべきだという決議案が国連総会に提出されたとき日本は賛成したのです。
しかし、中国が核兵器を開発したことなど、国際政治において核の抑止力に頼らざるを得ない状況になり、それ以後日本は核兵器を違法であり、禁止されるとすることに賛成していません。
一方、日本国憲法では、核兵器が違法で禁止されている、あるいはいないなどと直接的に規定されていません。第9条の、戦争や国際紛争においては「武力の使用を永久に放棄する」という規定の解釈にゆだねられています。
1954年に日本政府は、「日本に対して武力攻撃が加えられた場合に、国土を防衛する手段として武力を行使することは、憲法に違反しない」という解釈を示しました。この考えに立って創設されたのが自衛隊です。それ以来、政府は「自衛のための必要最小限度の実力を持つことは憲法で禁止されていない」という解釈を維持しています。ここで言う「実力」が武器のことです。
この解釈に対しては批判的意見もありましたが、わたくしは妥当な解釈であり、今や日本国民の大多数によって受け入れられていると思います。
では、核兵器は憲法が認めている自衛のための武器にあたるでしょうか。
核兵器は一度使用されると市民に甚大な被害をもたらしますので、「自衛のために必要最小限度」の武器か、その範囲を超えるのではないかという疑念を抱かれるのは当然ですが、日本政府は、冒頭で引用した答弁のように「核兵器であっても自衛のために必要最小限度にとどまるものがありうる」という立場です。
しかし、核兵器が禁止されているかいなかについては、さらに次の2つの点を勘案する必要があります。
1つは、日本は、戦後米国の統治下におかれていた小笠原諸島と沖縄が本土に復帰するに際に(それぞれ1968年、72年)、「核を持たず、作らず、持ち込ませず」の非核三原則を表明したことです。
つまり、核兵器は、日本国憲法では必ずしも禁止されていませんが、日本の政策として「核を持たず、作らず、持ち込ませず」と決めたのです。憲法は一定の場合可能と言っているだけで、核兵器を保有、使用しないという政策は憲法となんら矛盾しません。
もう1つは、日本は、沖縄返還から4年後の1976年に批准した核兵器不拡散条約(NPT)で、核兵器の保有、使用など一切のことを国際法上禁止されていることです。この禁止がある限り日本国憲法では禁止されていないと言っても実際上意味はありません。
以上、核兵器が禁止されているか否かを判断する場合に日本国憲法、非核三原則およびNPTの3つが問題になることは従来の国会答弁でもちろん指摘されていますが、その説明ぶりが適切かについては再検討の余地があると思われます。とくに、NPTについては、憲法や非核三原則に比べ、説明が不明確な時がありました。その一例がさる3月18日の参議院予算委員会での答弁です。法制局長官は、「核兵器を始め全ての武器の使用についての制約というのは、国内法、国際法それぞれございます」と言いつつ、「武力の行使を可能となるのは、新三要件の下におきましても、我が国を防衛するための必要最小限度のものでございます」と説明しました。
しかし、核兵器に関する限り、自衛であろうとなかろうと、また新三要件を満たそうと否とは関係なく、NPT条約に加盟している以上、禁止されています。
法制局長官の説明は憲法との関係だけに限ったものかもしれませんが、誤解を生みやすく、今後は「法的にも使用、保有などできない」ことを強調し、明確に説明するべきではないでしょうか。
(いただいたコメント)
こんにちは
私自身は憲法の変更は反対派です。また核の拡散を決して是としておりません。被爆三世というのも大きいかも知れません。また、現在アメリカの核の傘の下で安定しておりますので特に物を申すことはありません。韓国の友達と北朝鮮との関係を議論していた時、核の傘があるのは羨ましいと言われましたし、他国の学生はやはり日本をそのように見ているのだと自覚しております。
この度、ヤフーニュースにて、憲法の取扱で気になる点がありましたのでメールさせて頂きまました。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20160504-00000001-wordleaf-pol&p=2
「しかし、NPT条約に加盟している以上、核兵器に関する限り、自衛であろうとなかろうと、また新三要件を満たそうと否とは関係なく禁止されています。」
このようにありますが、日本国憲法は国際法を含めて全ての法律に優先しますので、日本国憲法で核兵器が必要だとされる場合には国際条約は破棄される話に思います。文章を読んでいて、国際条約の方が優先されるような話があり法律解釈に危うさを感じております。
例えばですが周辺国、特に北朝鮮やアメリカ(アジアへの駐屯を一切行わない)など今とは全く異なる情勢や更に想定外の悪い情勢になった場合、自国防衛のために核に頼らざるを得ない状態は想定しておくべきだと思います。
(コメントに対するわたくしの追加説明)
ご照会いただき、お礼申し上げます。
わたくしがヤフーのTHEPAGEに寄稿した文章「日本は憲法上「核兵器の保有」は認められないのか?」の中で述べた「NPT条約に加盟している以上、核兵器に関する限り、自衛であろうとなかろうと、また新三要件を満たそうと否とは関係なく禁止されています。」について、「日本国憲法は国際法を含めて全ての法律に優先しますので、日本国憲法で核兵器が必要だとされる場合には国際条約は破棄される話に思います。文章を読んでいて、国際条約の方が優先されるような話があり法律解釈に危うさを感じております」とのコメントをいただきました。
これに対するわたくしの考えの要点は次の通りです。
○憲法が優先するか、国際法が優先するかについては、わたくしは専門家でありませんが、解釈が分かれていると理解しています。
○いずれの解釈をとるにしても、日本が将来必要な場合、憲法で条約を破棄できるとは考えません。条約は国家間の約束であり、それを一国の判断で破棄することは国家の信用を失うことになり、すべきでないからです。
○なお、核兵器拡散禁止条約(NPT)は、国家の存続のためなどどうしても必要な場合は、条約からの「脱退」という方法があることを定めています。これはあくまで条約が認めた方法であり、条約の他の締約国によって認められなければなりません。一方的に行う「破棄」ではありません。
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