朝鮮半島
2023.09.19
ロシアは今回、その時とは比較にならない歓待ぶりであった。プーチン大統領は外国の要人と会談するとき遅刻の常習癖(意図的だといわれている)があるが、今回は逆に会談開始より数十分早く会談場に来ていたという。
金正恩氏は極超音速ミサイルや巡航ミサイル、戦闘機など最新兵器を視察した。見て回っただけでなく、手で触れてみたり、操縦席に乗ったりした。また、ウラジオストックではロシアの太平洋艦隊を訪問した。金正恩氏の視察にはショイグ国防相が、一部はプーチン氏が同行した。
金正恩氏は軍事施設以外にも、ウラジオストク郊外にある極東連邦大学、海洋生物学を研究する「ロシア科学アカデミー」、海洋水族館を訪問し、セイウチのショーも楽しんだ。帰国の前夜にはバレー、「眠れる森の美女」を観劇した。そして出発に際しては軍事モードに戻り、沿海地方の知事から攻撃用無人機5機、偵察用無人機1機、防弾チョッキを贈呈された。
金総書記の今回の訪ロについては、ロシア側は北朝鮮側からウクライナで必要な砲弾などの提供を受け、北朝鮮側はロシア側から人工衛星用の技術提供を受けることなどが噂されていた。当然、そのようなことが話し合われたと推測されるが、詳細は分からない。ロシアの通信社は、今回の訪問が、露朝の「同志的友誼(ゆうぎ)と戦闘的団結に根差した伝統的な絆をさらに強固にした」とか、「首脳会談で戦略的協力で一致を見た」とおまじないのようなことを伝えただけである。
ウクライナ侵攻という特殊事情から始まった新しい露朝関係は今後どうなるか。ロシアは、中国に加え北朝鮮との結託を強くして民主主義世界にとってますます厄介な勢力となるか懸念されるが、結局米国との関係がカギであり、露朝関係も米国を抜きにしては語れない。ロシアが米国を目の敵にしていることはウクライナ侵攻後一層激しくなった感があるが、本稿ではロシア側の状況はさておき、北朝鮮側の状況を考察してみたい。
北朝鮮が弾道ミサイルの開発に異常なほど国力を注ぎ込んでいるのは、ICBMなど長距離ミサイルを開発して米国が北朝鮮に簡単に手を出せないようにするためである。北朝鮮がミサイルの開発に本格的に取り組み始めたのは、大きく見て1990年代からのことであるが、米国を北朝鮮にとって最大の敵とみなすことは朝鮮戦争以来の変わらぬ姿勢であり、今日のミサイル開発もそのような認識に立っている。
北朝鮮は一度だけ、2018年6月のシンガポールにおける米朝首脳会談において、話し合いによる解決を探ることに前向きになったことがあったが、長続きしなかった。とくに翌年2月のハノイにおける第2回首脳会談が失敗に終わって以来、金正恩氏はもとの米国との対決路線に戻ってしまった。
その様子を見てプーチン大統領は2か月後の4月、露朝の話し合いを持ちかけ、金氏は訪露した。ロシアは当時クリミア侵略のため米国はじめEUや日本から制裁を受けており、米朝首脳会談が失敗に終わったことはプーチン大統領にとって外交の幅を広げ、力を取り戻す絶好の機会となったのであるが、北朝鮮はロシアに頼ってくることはあっても、ロシアが頼っていく国ではなかった。
しかし、今回状況は一変し、ロシアはウクライナ侵攻のために北朝鮮の兵器を必要とするようになり、下手に出ても金正恩のご機嫌を取ろうとした。また北朝鮮にとっては、従来から尊大に構える兄貴分的なロシアから技術を導入するよい機会となった。つまり、ロシアも北朝鮮も米国に負けないために協力を強化し始めたのである。
もっとも、新しい露朝関係が長続きするとは思えない。今はそういう状況にあっても、ロシアにとって弾薬などの不足は一時的な問題である。ウクライナ侵攻が何らかの形で終結すれば北朝鮮に弾薬を求めることなど自然になくなる。そうすれば、今は下手に出ているロシアは、以前からの兄貴分的振る舞いに戻るのではないか。
話は飛ぶが、1999年3月、石川県能登半島沖で北朝鮮の工作船が我が国領海に侵入してくる事件が発生した。これに対し、海上保安庁と海上自衛隊が対応し、工作船の一部はロシアの領海内に逃げ込んだ。
偶然であったが、その直後に野呂田防衛庁長官がロシアを訪問し、ロシア太平洋艦隊の司令官と会談を行った。するとロシアの司令官は野呂田長官に対し、今後同様の事件が起こるなら日本の艦船がロシアの領海内に入ってきてもかまわないと、日本にとっては友好的、北朝鮮にとっては非友好的な発言を行った。当時は、ロシアのエリツィン大統領からプーチン氏に交代するときであり、日露関係は冷戦終結後最も良好なときであった。ロシアと北朝鮮の関係は当時も悪いわけではなかったが、北朝鮮が違法な行為を働くならば、日本が対応するのに協力してもよいという冷静さがロシアにあったのである。同じことが再度起こるかわからないが、金正恩総書記の訪露から始まった両国の関係変化は中長期的な観点から分析していくことも必要である。
金正恩総書記の訪露
金正恩総書記は9月10日午後に平壌(ピョンヤン)を専用列車で出発し、13日にロシア極東アムール州のボストーチヌイ宇宙基地でプーチン大統領と会談した。帰国の途に就いたのは17日であり、1週間を超える長旅であった。金氏は4年前にもロシアを訪問したことがあったが、その時はあまり大事にされなかったらしい。予定を切り上げ帰国してしまった。ロシアは今回、その時とは比較にならない歓待ぶりであった。プーチン大統領は外国の要人と会談するとき遅刻の常習癖(意図的だといわれている)があるが、今回は逆に会談開始より数十分早く会談場に来ていたという。
金正恩氏は極超音速ミサイルや巡航ミサイル、戦闘機など最新兵器を視察した。見て回っただけでなく、手で触れてみたり、操縦席に乗ったりした。また、ウラジオストックではロシアの太平洋艦隊を訪問した。金正恩氏の視察にはショイグ国防相が、一部はプーチン氏が同行した。
金正恩氏は軍事施設以外にも、ウラジオストク郊外にある極東連邦大学、海洋生物学を研究する「ロシア科学アカデミー」、海洋水族館を訪問し、セイウチのショーも楽しんだ。帰国の前夜にはバレー、「眠れる森の美女」を観劇した。そして出発に際しては軍事モードに戻り、沿海地方の知事から攻撃用無人機5機、偵察用無人機1機、防弾チョッキを贈呈された。
金総書記の今回の訪ロについては、ロシア側は北朝鮮側からウクライナで必要な砲弾などの提供を受け、北朝鮮側はロシア側から人工衛星用の技術提供を受けることなどが噂されていた。当然、そのようなことが話し合われたと推測されるが、詳細は分からない。ロシアの通信社は、今回の訪問が、露朝の「同志的友誼(ゆうぎ)と戦闘的団結に根差した伝統的な絆をさらに強固にした」とか、「首脳会談で戦略的協力で一致を見た」とおまじないのようなことを伝えただけである。
ウクライナ侵攻という特殊事情から始まった新しい露朝関係は今後どうなるか。ロシアは、中国に加え北朝鮮との結託を強くして民主主義世界にとってますます厄介な勢力となるか懸念されるが、結局米国との関係がカギであり、露朝関係も米国を抜きにしては語れない。ロシアが米国を目の敵にしていることはウクライナ侵攻後一層激しくなった感があるが、本稿ではロシア側の状況はさておき、北朝鮮側の状況を考察してみたい。
北朝鮮が弾道ミサイルの開発に異常なほど国力を注ぎ込んでいるのは、ICBMなど長距離ミサイルを開発して米国が北朝鮮に簡単に手を出せないようにするためである。北朝鮮がミサイルの開発に本格的に取り組み始めたのは、大きく見て1990年代からのことであるが、米国を北朝鮮にとって最大の敵とみなすことは朝鮮戦争以来の変わらぬ姿勢であり、今日のミサイル開発もそのような認識に立っている。
北朝鮮は一度だけ、2018年6月のシンガポールにおける米朝首脳会談において、話し合いによる解決を探ることに前向きになったことがあったが、長続きしなかった。とくに翌年2月のハノイにおける第2回首脳会談が失敗に終わって以来、金正恩氏はもとの米国との対決路線に戻ってしまった。
その様子を見てプーチン大統領は2か月後の4月、露朝の話し合いを持ちかけ、金氏は訪露した。ロシアは当時クリミア侵略のため米国はじめEUや日本から制裁を受けており、米朝首脳会談が失敗に終わったことはプーチン大統領にとって外交の幅を広げ、力を取り戻す絶好の機会となったのであるが、北朝鮮はロシアに頼ってくることはあっても、ロシアが頼っていく国ではなかった。
しかし、今回状況は一変し、ロシアはウクライナ侵攻のために北朝鮮の兵器を必要とするようになり、下手に出ても金正恩のご機嫌を取ろうとした。また北朝鮮にとっては、従来から尊大に構える兄貴分的なロシアから技術を導入するよい機会となった。つまり、ロシアも北朝鮮も米国に負けないために協力を強化し始めたのである。
もっとも、新しい露朝関係が長続きするとは思えない。今はそういう状況にあっても、ロシアにとって弾薬などの不足は一時的な問題である。ウクライナ侵攻が何らかの形で終結すれば北朝鮮に弾薬を求めることなど自然になくなる。そうすれば、今は下手に出ているロシアは、以前からの兄貴分的振る舞いに戻るのではないか。
話は飛ぶが、1999年3月、石川県能登半島沖で北朝鮮の工作船が我が国領海に侵入してくる事件が発生した。これに対し、海上保安庁と海上自衛隊が対応し、工作船の一部はロシアの領海内に逃げ込んだ。
偶然であったが、その直後に野呂田防衛庁長官がロシアを訪問し、ロシア太平洋艦隊の司令官と会談を行った。するとロシアの司令官は野呂田長官に対し、今後同様の事件が起こるなら日本の艦船がロシアの領海内に入ってきてもかまわないと、日本にとっては友好的、北朝鮮にとっては非友好的な発言を行った。当時は、ロシアのエリツィン大統領からプーチン氏に交代するときであり、日露関係は冷戦終結後最も良好なときであった。ロシアと北朝鮮の関係は当時も悪いわけではなかったが、北朝鮮が違法な行為を働くならば、日本が対応するのに協力してもよいという冷静さがロシアにあったのである。同じことが再度起こるかわからないが、金正恩総書記の訪露から始まった両国の関係変化は中長期的な観点から分析していくことも必要である。
2023.08.21
自衛隊と米韓両軍による3か国共同訓練の毎年実施は我が国にとって重要な意味がある。日本の自衛隊と韓国の軍隊はこれまであまり友好的な関係でなかった。どちらに非があるか本稿では論じないが、韓国での観艦式に自衛隊の護衛艦が参加できなかったり、レーダー照射があったり、GSOMIA(軍事情報に関する包括的保全協定)の継続ができなくなったりした。この度これらの問題は解消され、これからは米を交えて3か国で共同訓練を行うこととなった。
日本の憲法体制として問題ないか。また近隣諸国との関係で問題とならないか。かりに問題となってもそれを上回る利益があるか。日本としては今まで以上に考え方を明確にしておかなければならない。岸田首相は「日米韓3カ国の安全保障協力を新たな高みに引き上げる」と述べたが、日本国民はこのような大きな変化が起ころうとしていることの意味合いを明確にかつ具体的に認識しておくべきだし、日本政府にはそれを助けてもらいたい。
韓国の安全保障面での変化は大きく、「大変化」とでも言えるものである。文在寅前大統領に限らないが、韓国の歴代大統領は米国との同盟か中国との伝統的関係か、いずれが重要かどっちつかずの姿勢であったので、米国は強い不満を募らせてきた。
尹錫悦大統領は登場するとともにそのようなあいまいさを解消する第一歩を踏み出し、今回のキャンプデービッド会談では民主主義陣営間の協力と米韓同盟が重要だと第二歩を踏み出した。今回の3者会談は米国の呼びかけで実現したものであり、韓国との長年にわたる安全保障上の問題を解決に導いたバイデン政権の外交は見事であった。
しかし、未確定要因は残っており、一部の問題は今後悪化する危険もある。今回の日米韓3首脳会談は中国と北朝鮮、さらにはロシアにとっては外交的後退であった。これらの諸国がどのような反応を見せるか、韓国の経済面での中国依存は依然として大きい。また、文在寅政権下で起こったことを見れば、中国は安全保障面でも韓国にとって危険な国になりうる。
未確定問題は韓国と日米両国との関係でも存在している。日本とは徴用工や慰安婦などいくつかの問題については解決の方向に向かいつつあるが、一向に解消されていない問題もある。
日米両国にとってなによりも頭の痛い問題は、韓国の将来がどうなるかである。韓国大統領の任期は5年であり、4年後には新大統領となる。その交代後も日米韓の3国関係が現在のような良好な状態にあり続ける保証はない。また、韓国民の中には、日本について同じ民主主義の国だと急にいわれても戸惑いを覚える人が少なくない。さらに、世論は昔から政府支持とは限らない。
だからこそ米国は今回の首脳会談で、日米韓3か国間の協力が後戻りしない仕組みの構築を重視した。情報の共有やホットラインなどは重要でないとは言わないが、3か国間の後戻りできない協力体制の構築が最重要だったのである。ブリンケン米国務長官は「3か国の協力関係を制度化する」と説明している。
日本にとっても日米韓3か国間の安全保障面での協力強化は望ましいが、日本の憲法体制下では米韓と同様の同盟関係を作ることはできない。何が可能か、また必要か、国民的合意を形成していく必要がある。
日米韓首脳会談2023年8月(その2)
8月18日、米国のキャンプデービッドで日米韓首脳会談が行われた。この会談については17日、当研究所HPに一文を掲載したので、今回は箇条書き的に要点を記しておきたい。自衛隊と米韓両軍による3か国共同訓練の毎年実施は我が国にとって重要な意味がある。日本の自衛隊と韓国の軍隊はこれまであまり友好的な関係でなかった。どちらに非があるか本稿では論じないが、韓国での観艦式に自衛隊の護衛艦が参加できなかったり、レーダー照射があったり、GSOMIA(軍事情報に関する包括的保全協定)の継続ができなくなったりした。この度これらの問題は解消され、これからは米を交えて3か国で共同訓練を行うこととなった。
日本の憲法体制として問題ないか。また近隣諸国との関係で問題とならないか。かりに問題となってもそれを上回る利益があるか。日本としては今まで以上に考え方を明確にしておかなければならない。岸田首相は「日米韓3カ国の安全保障協力を新たな高みに引き上げる」と述べたが、日本国民はこのような大きな変化が起ころうとしていることの意味合いを明確にかつ具体的に認識しておくべきだし、日本政府にはそれを助けてもらいたい。
韓国の安全保障面での変化は大きく、「大変化」とでも言えるものである。文在寅前大統領に限らないが、韓国の歴代大統領は米国との同盟か中国との伝統的関係か、いずれが重要かどっちつかずの姿勢であったので、米国は強い不満を募らせてきた。
尹錫悦大統領は登場するとともにそのようなあいまいさを解消する第一歩を踏み出し、今回のキャンプデービッド会談では民主主義陣営間の協力と米韓同盟が重要だと第二歩を踏み出した。今回の3者会談は米国の呼びかけで実現したものであり、韓国との長年にわたる安全保障上の問題を解決に導いたバイデン政権の外交は見事であった。
しかし、未確定要因は残っており、一部の問題は今後悪化する危険もある。今回の日米韓3首脳会談は中国と北朝鮮、さらにはロシアにとっては外交的後退であった。これらの諸国がどのような反応を見せるか、韓国の経済面での中国依存は依然として大きい。また、文在寅政権下で起こったことを見れば、中国は安全保障面でも韓国にとって危険な国になりうる。
未確定問題は韓国と日米両国との関係でも存在している。日本とは徴用工や慰安婦などいくつかの問題については解決の方向に向かいつつあるが、一向に解消されていない問題もある。
日米両国にとってなによりも頭の痛い問題は、韓国の将来がどうなるかである。韓国大統領の任期は5年であり、4年後には新大統領となる。その交代後も日米韓の3国関係が現在のような良好な状態にあり続ける保証はない。また、韓国民の中には、日本について同じ民主主義の国だと急にいわれても戸惑いを覚える人が少なくない。さらに、世論は昔から政府支持とは限らない。
だからこそ米国は今回の首脳会談で、日米韓3か国間の協力が後戻りしない仕組みの構築を重視した。情報の共有やホットラインなどは重要でないとは言わないが、3か国間の後戻りできない協力体制の構築が最重要だったのである。ブリンケン米国務長官は「3か国の協力関係を制度化する」と説明している。
日本にとっても日米韓3か国間の安全保障面での協力強化は望ましいが、日本の憲法体制下では米韓と同様の同盟関係を作ることはできない。何が可能か、また必要か、国民的合意を形成していく必要がある。
2023.08.17
経済安全保障などブリンケン長官が示した個別の問題についての協力はもちろん重要であるが、過去1年の間に何回も会ってきた3首脳があらためて集まって協議するにはさらに大きな方向性があるはずである。
韓国の尹錫悦大統領が登場して以来、米韓の同盟関係は前任の文在寅大統領時代に比べ顕著に改善された。文時代には米国との同盟か、中国との伝統的関係かいずれが重要か明確でなかったが、尹氏はその不正常な状態を明らかに同盟重視に戻した。北朝鮮との特別の関係についても文氏のような情緒的なとらえ方でなく、民主主義を貫くことが大事だとプライオリティを明確に示し、米国はもとより日本との関係も改善させた。文大統領に限らないが韓国の歴代大統領のどっちつかずの姿勢に米国は不満を募らせてきたが、尹錫悦大統領の登場とともにそれが解消される第一歩を踏み出したのである。
このことは米国の外交にとっても、また日本を含む3者間の関係においても大きな前進であり、また中国と北朝鮮にとっては後退に他ならなかった。
しかし、韓国の大統領は任期が5年であり、4年後には尹氏から新大統領となる。その交代後も日米韓の3国関係が現在のような良好な状態にあり続ける保証はない。また4年の間においても韓国はG7首脳国会議への参加を求め、日米などに支持を求めてくるかもしれない。そんな場合に日米両国はどのように対応できるか。
そんなことも考慮すれば、日米韓3国にとって、とくに日米にとって決定的に重要なことは、現在の良好な関係を維持するのはもちろん、後戻りさせないことである。ブリンケン長官が言った「3か国の協力関係を制度化する」とはそのことを意味している。「制度化」とは言葉としては必ずしもパンチが効いていないが、その趣旨は、今後も後戻りさせないための努力を続けることにある。3者協議を毎年開催するのも結構だが、ポスト尹錫悦大統領を見越して手を打っていくことが肝要である。
日米韓首脳会談2023年8月
岸田首相、バイデン米国大統領および尹錫悦韓国大統領は18日、米ワシントン近郊のキャンプデービッド山荘で会談する。過去1年間、3首脳は複数回あってきた。岸田首相は1月に、尹錫悦大統領は4月に訪米し、また3人の首脳は5月のG7広島サミットで会談した。これだけでも決して少なくないが、さらに8月米国で会談することにしたのである。その会談目的についてブリンケン国務長官は経済安全保障、人道支援、途上国の開発支援、先端技術、公衆衛生、などに関する協力などに言及しつつ、「3か国の協力関係を制度化する」と説明している。この説明は興味深い。経済安全保障などブリンケン長官が示した個別の問題についての協力はもちろん重要であるが、過去1年の間に何回も会ってきた3首脳があらためて集まって協議するにはさらに大きな方向性があるはずである。
韓国の尹錫悦大統領が登場して以来、米韓の同盟関係は前任の文在寅大統領時代に比べ顕著に改善された。文時代には米国との同盟か、中国との伝統的関係かいずれが重要か明確でなかったが、尹氏はその不正常な状態を明らかに同盟重視に戻した。北朝鮮との特別の関係についても文氏のような情緒的なとらえ方でなく、民主主義を貫くことが大事だとプライオリティを明確に示し、米国はもとより日本との関係も改善させた。文大統領に限らないが韓国の歴代大統領のどっちつかずの姿勢に米国は不満を募らせてきたが、尹錫悦大統領の登場とともにそれが解消される第一歩を踏み出したのである。
このことは米国の外交にとっても、また日本を含む3者間の関係においても大きな前進であり、また中国と北朝鮮にとっては後退に他ならなかった。
しかし、韓国の大統領は任期が5年であり、4年後には尹氏から新大統領となる。その交代後も日米韓の3国関係が現在のような良好な状態にあり続ける保証はない。また4年の間においても韓国はG7首脳国会議への参加を求め、日米などに支持を求めてくるかもしれない。そんな場合に日米両国はどのように対応できるか。
そんなことも考慮すれば、日米韓3国にとって、とくに日米にとって決定的に重要なことは、現在の良好な関係を維持するのはもちろん、後戻りさせないことである。ブリンケン長官が言った「3か国の協力関係を制度化する」とはそのことを意味している。「制度化」とは言葉としては必ずしもパンチが効いていないが、その趣旨は、今後も後戻りさせないための努力を続けることにある。3者協議を毎年開催するのも結構だが、ポスト尹錫悦大統領を見越して手を打っていくことが肝要である。
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