平和外交研究所

ブログ

朝鮮半島

2023.10.09

日韓共同宣言を考える

 25年前に行われた日韓共同宣言は画期的な合意であった。金大中大統領と小渕首相は相互に信頼しつつ、両国の関係を高い次元に発展させ、21世紀に向けた新たな日韓パートナーシップを構築する共通の決意を抱いて臨んだ。両国の国民も賛同し、日韓関係の発展を期待した。
 今や第2の日韓共同宣言を待望する声が双方で出始めている。それが実現すれば、日韓両国にとって友好関係を増進する新たな刺激となるだろう。

 だが、この25年間、宣言で示された未来への期待に沿うことばかりでなく、両国関係は最悪の状態にあるといわれたこともあった。今後の日韓関係については、そんなことにも注意を払っていく必要がある。25年前の共同宣言の知恵を借りつつ、次のように考えた。なかには共同宣言に記載されていなかったことも含めている。

 第1に、紆余曲折のあった両国関係であるが、今後も率直に向き合うことが重要である。日本側では過去の一時期韓国国民に対し植民地支配により多大の損害と苦痛を与えたという歴史的事実を謙虚に受けとめ、これに対し、痛切な反省と心からのお詫びを述べるという姿勢は変わらない。

 第2に、両国は国際法にのっとり関係を発展させることが基本の姿勢である。こうすることにより日韓関係は第三国との関係でも矛盾なく発展できる。

 第3に、日韓関係を発展させるために高邁な理想をうたうこともよいが、今後は積極的な意義のあることを一つ一つ積み重ねていく。お互いに実行により信頼関係を高めていくのである。

 第4に、青年、留学生など両国民の文化・スポーツ交流は近年大いに発展しており、両国関係を常に押し上げる役割を果たしている。今後各種交流を一層増進していく。また在日韓国人は日韓両国民の相互交流・相互理解のための架け橋であり、その地位の向上のため、両国間の協議を継続していく。

 第5に、25年前には、関係発展のため両国の指導者が果たす役割は大きいと認識された。しかし、今後は指導者と一般国民がともに日韓関係を増進していくことが重要である。
2023.09.19

金正恩総書記の訪露

 金正恩総書記は9月10日午後に平壌(ピョンヤン)を専用列車で出発し、13日にロシア極東アムール州のボストーチヌイ宇宙基地でプーチン大統領と会談した。帰国の途に就いたのは17日であり、1週間を超える長旅であった。金氏は4年前にもロシアを訪問したことがあったが、その時はあまり大事にされなかったらしい。予定を切り上げ帰国してしまった。

 ロシアは今回、その時とは比較にならない歓待ぶりであった。プーチン大統領は外国の要人と会談するとき遅刻の常習癖(意図的だといわれている)があるが、今回は逆に会談開始より数十分早く会談場に来ていたという。

 金正恩氏は極超音速ミサイルや巡航ミサイル、戦闘機など最新兵器を視察した。見て回っただけでなく、手で触れてみたり、操縦席に乗ったりした。また、ウラジオストックではロシアの太平洋艦隊を訪問した。金正恩氏の視察にはショイグ国防相が、一部はプーチン氏が同行した。

 金正恩氏は軍事施設以外にも、ウラジオストク郊外にある極東連邦大学、海洋生物学を研究する「ロシア科学アカデミー」、海洋水族館を訪問し、セイウチのショーも楽しんだ。帰国の前夜にはバレー、「眠れる森の美女」を観劇した。そして出発に際しては軍事モードに戻り、沿海地方の知事から攻撃用無人機5機、偵察用無人機1機、防弾チョッキを贈呈された。

 金総書記の今回の訪ロについては、ロシア側は北朝鮮側からウクライナで必要な砲弾などの提供を受け、北朝鮮側はロシア側から人工衛星用の技術提供を受けることなどが噂されていた。当然、そのようなことが話し合われたと推測されるが、詳細は分からない。ロシアの通信社は、今回の訪問が、露朝の「同志的友誼(ゆうぎ)と戦闘的団結に根差した伝統的な絆をさらに強固にした」とか、「首脳会談で戦略的協力で一致を見た」とおまじないのようなことを伝えただけである。

 ウクライナ侵攻という特殊事情から始まった新しい露朝関係は今後どうなるか。ロシアは、中国に加え北朝鮮との結託を強くして民主主義世界にとってますます厄介な勢力となるか懸念されるが、結局米国との関係がカギであり、露朝関係も米国を抜きにしては語れない。ロシアが米国を目の敵にしていることはウクライナ侵攻後一層激しくなった感があるが、本稿ではロシア側の状況はさておき、北朝鮮側の状況を考察してみたい。

 北朝鮮が弾道ミサイルの開発に異常なほど国力を注ぎ込んでいるのは、ICBMなど長距離ミサイルを開発して米国が北朝鮮に簡単に手を出せないようにするためである。北朝鮮がミサイルの開発に本格的に取り組み始めたのは、大きく見て1990年代からのことであるが、米国を北朝鮮にとって最大の敵とみなすことは朝鮮戦争以来の変わらぬ姿勢であり、今日のミサイル開発もそのような認識に立っている。

 北朝鮮は一度だけ、2018年6月のシンガポールにおける米朝首脳会談において、話し合いによる解決を探ることに前向きになったことがあったが、長続きしなかった。とくに翌年2月のハノイにおける第2回首脳会談が失敗に終わって以来、金正恩氏はもとの米国との対決路線に戻ってしまった。

 その様子を見てプーチン大統領は2か月後の4月、露朝の話し合いを持ちかけ、金氏は訪露した。ロシアは当時クリミア侵略のため米国はじめEUや日本から制裁を受けており、米朝首脳会談が失敗に終わったことはプーチン大統領にとって外交の幅を広げ、力を取り戻す絶好の機会となったのであるが、北朝鮮はロシアに頼ってくることはあっても、ロシアが頼っていく国ではなかった。

 しかし、今回状況は一変し、ロシアはウクライナ侵攻のために北朝鮮の兵器を必要とするようになり、下手に出ても金正恩のご機嫌を取ろうとした。また北朝鮮にとっては、従来から尊大に構える兄貴分的なロシアから技術を導入するよい機会となった。つまり、ロシアも北朝鮮も米国に負けないために協力を強化し始めたのである。

 もっとも、新しい露朝関係が長続きするとは思えない。今はそういう状況にあっても、ロシアにとって弾薬などの不足は一時的な問題である。ウクライナ侵攻が何らかの形で終結すれば北朝鮮に弾薬を求めることなど自然になくなる。そうすれば、今は下手に出ているロシアは、以前からの兄貴分的振る舞いに戻るのではないか。

 話は飛ぶが、1999年3月、石川県能登半島沖で北朝鮮の工作船が我が国領海に侵入してくる事件が発生した。これに対し、海上保安庁と海上自衛隊が対応し、工作船の一部はロシアの領海内に逃げ込んだ。

 偶然であったが、その直後に野呂田防衛庁長官がロシアを訪問し、ロシア太平洋艦隊の司令官と会談を行った。するとロシアの司令官は野呂田長官に対し、今後同様の事件が起こるなら日本の艦船がロシアの領海内に入ってきてもかまわないと、日本にとっては友好的、北朝鮮にとっては非友好的な発言を行った。当時は、ロシアのエリツィン大統領からプーチン氏に交代するときであり、日露関係は冷戦終結後最も良好なときであった。ロシアと北朝鮮の関係は当時も悪いわけではなかったが、北朝鮮が違法な行為を働くならば、日本が対応するのに協力してもよいという冷静さがロシアにあったのである。同じことが再度起こるかわからないが、金正恩総書記の訪露から始まった両国の関係変化は中長期的な観点から分析していくことも必要である。
2023.08.21

日米韓首脳会談2023年8月(その2)

 8月18日、米国のキャンプデービッドで日米韓首脳会談が行われた。この会談については17日、当研究所HPに一文を掲載したので、今回は箇条書き的に要点を記しておきたい。

 自衛隊と米韓両軍による3か国共同訓練の毎年実施は我が国にとって重要な意味がある。日本の自衛隊と韓国の軍隊はこれまであまり友好的な関係でなかった。どちらに非があるか本稿では論じないが、韓国での観艦式に自衛隊の護衛艦が参加できなかったり、レーダー照射があったり、GSOMIA(軍事情報に関する包括的保全協定)の継続ができなくなったりした。この度これらの問題は解消され、これからは米を交えて3か国で共同訓練を行うこととなった。

 日本の憲法体制として問題ないか。また近隣諸国との関係で問題とならないか。かりに問題となってもそれを上回る利益があるか。日本としては今まで以上に考え方を明確にしておかなければならない。岸田首相は「日米韓3カ国の安全保障協力を新たな高みに引き上げる」と述べたが、日本国民はこのような大きな変化が起ころうとしていることの意味合いを明確にかつ具体的に認識しておくべきだし、日本政府にはそれを助けてもらいたい。

 韓国の安全保障面での変化は大きく、「大変化」とでも言えるものである。文在寅前大統領に限らないが、韓国の歴代大統領は米国との同盟か中国との伝統的関係か、いずれが重要かどっちつかずの姿勢であったので、米国は強い不満を募らせてきた。

 尹錫悦大統領は登場するとともにそのようなあいまいさを解消する第一歩を踏み出し、今回のキャンプデービッド会談では民主主義陣営間の協力と米韓同盟が重要だと第二歩を踏み出した。今回の3者会談は米国の呼びかけで実現したものであり、韓国との長年にわたる安全保障上の問題を解決に導いたバイデン政権の外交は見事であった。

 しかし、未確定要因は残っており、一部の問題は今後悪化する危険もある。今回の日米韓3首脳会談は中国と北朝鮮、さらにはロシアにとっては外交的後退であった。これらの諸国がどのような反応を見せるか、韓国の経済面での中国依存は依然として大きい。また、文在寅政権下で起こったことを見れば、中国は安全保障面でも韓国にとって危険な国になりうる。

 未確定問題は韓国と日米両国との関係でも存在している。日本とは徴用工や慰安婦などいくつかの問題については解決の方向に向かいつつあるが、一向に解消されていない問題もある。

 日米両国にとってなによりも頭の痛い問題は、韓国の将来がどうなるかである。韓国大統領の任期は5年であり、4年後には新大統領となる。その交代後も日米韓の3国関係が現在のような良好な状態にあり続ける保証はない。また、韓国民の中には、日本について同じ民主主義の国だと急にいわれても戸惑いを覚える人が少なくない。さらに、世論は昔から政府支持とは限らない。

 だからこそ米国は今回の首脳会談で、日米韓3か国間の協力が後戻りしない仕組みの構築を重視した。情報の共有やホットラインなどは重要でないとは言わないが、3か国間の後戻りできない協力体制の構築が最重要だったのである。ブリンケン米国務長官は「3か国の協力関係を制度化する」と説明している。

 日本にとっても日米韓3か国間の安全保障面での協力強化は望ましいが、日本の憲法体制下では米韓と同様の同盟関係を作ることはできない。何が可能か、また必要か、国民的合意を形成していく必要がある。

アーカイブ

検索

このページのトップへ

Copyright©平和外交研究所 All Rights Reserved.