平和外交研究所

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朝鮮半島

2023.08.21

日米韓首脳会談2023年8月(その2)

 8月18日、米国のキャンプデービッドで日米韓首脳会談が行われた。この会談については17日、当研究所HPに一文を掲載したので、今回は箇条書き的に要点を記しておきたい。

 自衛隊と米韓両軍による3か国共同訓練の毎年実施は我が国にとって重要な意味がある。日本の自衛隊と韓国の軍隊はこれまであまり友好的な関係でなかった。どちらに非があるか本稿では論じないが、韓国での観艦式に自衛隊の護衛艦が参加できなかったり、レーダー照射があったり、GSOMIA(軍事情報に関する包括的保全協定)の継続ができなくなったりした。この度これらの問題は解消され、これからは米を交えて3か国で共同訓練を行うこととなった。

 日本の憲法体制として問題ないか。また近隣諸国との関係で問題とならないか。かりに問題となってもそれを上回る利益があるか。日本としては今まで以上に考え方を明確にしておかなければならない。岸田首相は「日米韓3カ国の安全保障協力を新たな高みに引き上げる」と述べたが、日本国民はこのような大きな変化が起ころうとしていることの意味合いを明確にかつ具体的に認識しておくべきだし、日本政府にはそれを助けてもらいたい。

 韓国の安全保障面での変化は大きく、「大変化」とでも言えるものである。文在寅前大統領に限らないが、韓国の歴代大統領は米国との同盟か中国との伝統的関係か、いずれが重要かどっちつかずの姿勢であったので、米国は強い不満を募らせてきた。

 尹錫悦大統領は登場するとともにそのようなあいまいさを解消する第一歩を踏み出し、今回のキャンプデービッド会談では民主主義陣営間の協力と米韓同盟が重要だと第二歩を踏み出した。今回の3者会談は米国の呼びかけで実現したものであり、韓国との長年にわたる安全保障上の問題を解決に導いたバイデン政権の外交は見事であった。

 しかし、未確定要因は残っており、一部の問題は今後悪化する危険もある。今回の日米韓3首脳会談は中国と北朝鮮、さらにはロシアにとっては外交的後退であった。これらの諸国がどのような反応を見せるか、韓国の経済面での中国依存は依然として大きい。また、文在寅政権下で起こったことを見れば、中国は安全保障面でも韓国にとって危険な国になりうる。

 未確定問題は韓国と日米両国との関係でも存在している。日本とは徴用工や慰安婦などいくつかの問題については解決の方向に向かいつつあるが、一向に解消されていない問題もある。

 日米両国にとってなによりも頭の痛い問題は、韓国の将来がどうなるかである。韓国大統領の任期は5年であり、4年後には新大統領となる。その交代後も日米韓の3国関係が現在のような良好な状態にあり続ける保証はない。また、韓国民の中には、日本について同じ民主主義の国だと急にいわれても戸惑いを覚える人が少なくない。さらに、世論は昔から政府支持とは限らない。

 だからこそ米国は今回の首脳会談で、日米韓3か国間の協力が後戻りしない仕組みの構築を重視した。情報の共有やホットラインなどは重要でないとは言わないが、3か国間の後戻りできない協力体制の構築が最重要だったのである。ブリンケン米国務長官は「3か国の協力関係を制度化する」と説明している。

 日本にとっても日米韓3か国間の安全保障面での協力強化は望ましいが、日本の憲法体制下では米韓と同様の同盟関係を作ることはできない。何が可能か、また必要か、国民的合意を形成していく必要がある。
2023.08.17

日米韓首脳会談2023年8月

 岸田首相、バイデン米国大統領および尹錫悦韓国大統領は18日、米ワシントン近郊のキャンプデービッド山荘で会談する。過去1年間、3首脳は複数回あってきた。岸田首相は1月に、尹錫悦大統領は4月に訪米し、また3人の首脳は5月のG7広島サミットで会談した。これだけでも決して少なくないが、さらに8月米国で会談することにしたのである。その会談目的についてブリンケン国務長官は経済安全保障、人道支援、途上国の開発支援、先端技術、公衆衛生、などに関する協力などに言及しつつ、「3か国の協力関係を制度化する」と説明している。この説明は興味深い。

 経済安全保障などブリンケン長官が示した個別の問題についての協力はもちろん重要であるが、過去1年の間に何回も会ってきた3首脳があらためて集まって協議するにはさらに大きな方向性があるはずである。

 韓国の尹錫悦大統領が登場して以来、米韓の同盟関係は前任の文在寅大統領時代に比べ顕著に改善された。文時代には米国との同盟か、中国との伝統的関係かいずれが重要か明確でなかったが、尹氏はその不正常な状態を明らかに同盟重視に戻した。北朝鮮との特別の関係についても文氏のような情緒的なとらえ方でなく、民主主義を貫くことが大事だとプライオリティを明確に示し、米国はもとより日本との関係も改善させた。文大統領に限らないが韓国の歴代大統領のどっちつかずの姿勢に米国は不満を募らせてきたが、尹錫悦大統領の登場とともにそれが解消される第一歩を踏み出したのである。

 このことは米国の外交にとっても、また日本を含む3者間の関係においても大きな前進であり、また中国と北朝鮮にとっては後退に他ならなかった。

 しかし、韓国の大統領は任期が5年であり、4年後には尹氏から新大統領となる。その交代後も日米韓の3国関係が現在のような良好な状態にあり続ける保証はない。また4年の間においても韓国はG7首脳国会議への参加を求め、日米などに支持を求めてくるかもしれない。そんな場合に日米両国はどのように対応できるか。

 そんなことも考慮すれば、日米韓3国にとって、とくに日米にとって決定的に重要なことは、現在の良好な関係を維持するのはもちろん、後戻りさせないことである。ブリンケン長官が言った「3か国の協力関係を制度化する」とはそのことを意味している。「制度化」とは言葉としては必ずしもパンチが効いていないが、その趣旨は、今後も後戻りさせないための努力を続けることにある。3者協議を毎年開催するのも結構だが、ポスト尹錫悦大統領を見越して手を打っていくことが肝要である。
2023.08.11

北朝鮮の最近の外交・安全保障

 北朝鮮ではコロナ禍の3年目にあたる2022年に約70発のミサイル発射実験を行った。それまでの最多は2019年の25発であったので一挙に3倍近くに跳ね上がったのである。今年はどうなるか。まだ年の半分をちょっとすぎたばかりであり、はっきりしたことは言えないが、印象としてはかなり少なくなる傾向である。

 ミサイルの発射実験数もさることながら、ICBMの完成に近づいていることが注目される。朝鮮中央通信は4月13日、固体燃料を使ったICBM「火星18」を試験発射したと報道した。ミサイルを遠くへ飛ばすための分離の技術、様々な機能を制御するシステムなども試験し、「驚異的な成果」を得たと誇った。ミサイル開発の順調な進展に自信を抱いているらしい。

 北朝鮮による核とミサイルの開発は我が国にとって重大な脅威であるが、北朝鮮としては米国への対抗が最大の目的であり、ICBMが完成すれば必要な抑止力を持てると考えている。これは以前からの対米軍事戦略の核心であり、この点では特に変化はない。
 
 変化したのは大韓民国との関係である。たとえば、北朝鮮の対韓国窓口機関である「祖国統一委員会」を解消した。また、「わが民族」という呼び方をしなくなった。最大の変化は、以前は韓国を「南朝鮮」、または「南朝鮮かいらい」などと呼んでいたが、最近「大韓民国」という呼称を使い始めたことである。さる7月10日、金与正氏が米軍の偵察活動を非難する談話で「『大韓民国』の合同参謀本部が米国の報道官のように振る舞っている」と述べて注目され、その後もこの呼称を使うようになった。

 北朝鮮のこうした対韓方針の変化は、2021年1月の第8回朝鮮労働党大会から徐々に現れた。同党大会で党規約を改正し、「全国的な範囲で民族解放民主主義革命の課業を遂行」という文言を削除して「共和国北半部で富強かつ文明ある社会主義社会を建設」といった文言を新たに加えた。半島の統一は金日成主席から受け継いできた基本戦略であったが、金正恩総書記はこのころから変更しはじめたのである。

 これら一連の変化は米国との関係に根がある。金総書記は19年のハノイでの米朝首脳会談が決裂したことに非常に不満であり、外交と軍事のトップレベルを大幅に入れ替えた。また、米国との交渉はうまくいかない、バイデン政権とはなにも新機軸を試みることはできないという認識を抱くようになり、挑戦的な姿勢を取り始めた。
 
 ミサイルの大規模開発はその象徴であり、米朝会談後、早速発射実験を繰り返し行ったので19年の実験回数は過去最高となった。20~21年はコロナ禍の対策を進める傍ら、ミサイルの開発を進めたためか、発射回数は19年より著しく減少したが、22年には激増し、ICBM「火星18」を試射するに至った。

 北朝鮮は国連から受けた制裁が重荷となっており、解除ないし緩和を望んでいた。米国との首脳会談に応じたのもそのためであった。しかし、米国との交渉は行き詰まり、制裁の解除も実現しなかった。北朝鮮はなけなしの資源をミサイルの開発に投入した。北朝鮮からすれば米国との話し合いがとん挫し、バイデン政権が北朝鮮との関係改善に熱意を示さない以上必要なことと考えたのであろう。

 北朝鮮は韓国との関係でいくつかの新機軸を見せているが、基本戦略の核心はあくまで米国との関係にあり、韓国との関係は米朝関係に次ぐものであろう。韓国の尹錫悦大統領は米国との同盟関係を重視し、さる4月にバイデン大統領と会談し、北朝鮮の核に対抗するための「ワシントン宣言」に合意した。これは東アジアの安全保障にとって大きな前進であったが、北朝鮮からすれば主要な相手はあくまで米国であろう。南北の統一を考えない姿勢を見せているのも韓国との関係はさほど重視していないことの表れと思われる。

 日本との関係では、岸田首相が5月27日、東京都内で開かれた、北朝鮮による拉致被害者全員の即時帰国を求める「国民大集会」に出席し、首脳会談の早期実現に向けて「私直轄のハイレベルで協議を行っていきたい」と述べたことに応じ、2日後に北朝鮮外務次官が談話を発表した。談話は、「日本が新しい決断を下し、関係改善の活路を模索しようとするなら、朝日両国が互いに会えない理由はない」と関係改善に前向きの発言であったが、拉致問題については「すでに解決した」と従来通りの姿勢を変えなかった。

 日本政府がどのように動いているか承知していないが、このような両様にとれる談話は以前にも行っており、米国や韓国との関係が膠着状態に陥った時、日本に関心を向けることが過去何回かあった。小泉首相の訪朝の際もそのような背景があったという。現在の状況は似ているところがあるが、だからと言って、金総書記が岸田首相との会談実現に前向きになるわけではない。

 繰り返すが、北朝鮮にとっては一にも二にも対米関係が死活にかかわる重要問題である。もちろん日本としては北朝鮮流の外交に付き合う必要はない。今後も国連制裁違反のミサイル発射を非難し、拉致被害者全員の帰国実現を求めることは正義にかなっている。ただ日本がそうするだけでは、金総書記は岸田首相に会おうとしないだろう。今回の外務次官談話が述べていることは明確であり、北朝鮮には北朝鮮としての言い分がある。それを無視しては外交は成り立たない。

 最後に、金正恩の娘であるキム・ジュエさんについては、将来の後継者として育てているとする見方が大勢である。しかし、それは誰でも考えうる推測にすぎない。
 キム・ジュエさんは2013年に誕生しているので、年齢は今年で10歳になる。この少女をどのように育てようとしているのか。金正恩氏の本当の考えはわからない。
 キム・ジュエさんが初めて公の場に現れたのは2022年11月18日、ICBM「火星17」の発射実験の際であり、北朝鮮の尊称らしく「尊い子ども」と呼ばれた。その後何回か金総書記に連れられて姿を現したが、2023年5月16日金正恩氏と軍事偵察衛星を視察(報道は翌17日)したのを最後に写真の公開はなくなった。ただし、7月26日、金正恩氏がロシアのショイグ国防相に新兵器などを説明した際、ジュエ氏と正恩氏が一緒に写っていたという。
 10歳の少女は国防の現場などに現れないほうが自然である。常態に戻ったとみるべきかもしれない。
 ミサイルなど軍事戦略においても穏健な路線に立ち返ることが期待されるが、はたしてそれは可能か疑問である。真相が見えてくるにはなお時間が必要であろう。

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