中国
2021.10.15
また、中国軍は台湾付近の海域で演習を繰り返しており、10月11日には台湾の対岸に位置する福建省の島で海岸上陸・攻撃の演習を行った。中国軍はこれ見よがしに演習の事実を公表し、映像も公開している。
10月10日、辛亥革命110周年記念大会において、習近平主席は演説で「台湾問題は純粋な中国の内政であり、いかなる外部からの干渉も許さない」、「(台湾の)統一という歴史的任務は必ず実現させなければならない」と訴えるなどいつにもまして強い姿勢を見せた。
これまで中国は、米国が認めない武力行使は控えてきたが、今回頻繁に威圧的姿勢を見せるようになったので台湾の内外で緊張が高まり、中国はついに武力行使に踏み切るのではないかという見方も現れるに至った。だが、中国は基本的には台湾に対する揺さぶりを強めているものとみられる。もちろん圧力を受けた台湾が先に手を出すようなことがあれば中国にとっては武力行使の格好の口実となる。中国軍はそのような事態に発展する可能性も想定のうちに入れているだろうが、現在のところは武力行使に至らない範囲内で台湾に対する工作を強化しているものと推測される。
習近平政権は来年で10年となるところ、反腐敗運動(権力闘争)、言論の封じ込め、香港の中国本土化などにおいては顕著な成果を上げたが、台湾の統一問題は何ら進展せず、むしろ後退気味である。米国のバイデン政権はアフガニスタンや環境問題などについて中国との協力が必要であり、また貿易上の利害も絡んでいるため中国との対立が過熱しないよう努めているが、台湾問題については従来よりもむしろ強気の姿勢になっている。特に、日米豪印戦略対話(クワッド)、米英豪の安全保障枠組み(AUKUS)、英語圏5か国の機密情報共有枠組み(ファイブアイズ これはバイデン政権以前から)などは、中国を念頭に置いていることは明らかである。また英仏独など欧州諸国もインド太平洋地域での活動を活発化させており、中国を取り巻く国際情勢は中国にとって厳しさを増している。
一方、台湾の蔡英文総統政権は、香港の中国本土化という中国のイメージを落とす出来事も手伝ったが、安定しており、あと2年で(2024年に)2期目が満了する。蔡英文総統は習近平主席の演説と同日の双十節において、「中国がわれわれに示した道を歩むことを誰からも強制されないよう、われわれは引き続き国防を強化し、自衛の決意を表明していく」、「これは、中国の示す道が、台湾の自由で民主的な生活や、台湾市民2300万人の主権につながらないためだ」と自信のほどを示した。
台湾においては、さる9月末、国民党の党首選挙がおこなわれ、親米派で対中国でも穏健路線をとる元主席の朱立倫が党首に復活した。習近平主席は祝意を表したが、台湾の国民党は弱すぎる。台湾では中台統一を希望しない現状維持派が80・4%を占めている。国民党が今後台湾の世論を中国寄りに導けるとは到底考えられない。
そんな中、中国では来年(2022年)共産党の全国大会が開催され、習近平氏が党の総書記を続けるか問われる。当然台湾との関係も問題になりうる。習氏は独裁者になりつつあると言われるが、決して盤石の地位を築いているわけではない。習氏としては、次期党大会までに台湾に対する工作を強めておく必要があると考え、台湾への圧力を強めているのではないか。
台湾に対する中国の威圧的行動
中国の台湾に対する威圧的姿勢が強くなっている。中国軍機による台湾の防空識別圏(ADIZ 西南域に集中)への侵入が9月に入ってから顕著に増加しており、10月4日には延べ56機が侵入した。台湾国防部が中国軍機の侵入数を発表し始めた2020年9月以降、1日の最多数であった。また、中国軍は台湾付近の海域で演習を繰り返しており、10月11日には台湾の対岸に位置する福建省の島で海岸上陸・攻撃の演習を行った。中国軍はこれ見よがしに演習の事実を公表し、映像も公開している。
10月10日、辛亥革命110周年記念大会において、習近平主席は演説で「台湾問題は純粋な中国の内政であり、いかなる外部からの干渉も許さない」、「(台湾の)統一という歴史的任務は必ず実現させなければならない」と訴えるなどいつにもまして強い姿勢を見せた。
これまで中国は、米国が認めない武力行使は控えてきたが、今回頻繁に威圧的姿勢を見せるようになったので台湾の内外で緊張が高まり、中国はついに武力行使に踏み切るのではないかという見方も現れるに至った。だが、中国は基本的には台湾に対する揺さぶりを強めているものとみられる。もちろん圧力を受けた台湾が先に手を出すようなことがあれば中国にとっては武力行使の格好の口実となる。中国軍はそのような事態に発展する可能性も想定のうちに入れているだろうが、現在のところは武力行使に至らない範囲内で台湾に対する工作を強化しているものと推測される。
習近平政権は来年で10年となるところ、反腐敗運動(権力闘争)、言論の封じ込め、香港の中国本土化などにおいては顕著な成果を上げたが、台湾の統一問題は何ら進展せず、むしろ後退気味である。米国のバイデン政権はアフガニスタンや環境問題などについて中国との協力が必要であり、また貿易上の利害も絡んでいるため中国との対立が過熱しないよう努めているが、台湾問題については従来よりもむしろ強気の姿勢になっている。特に、日米豪印戦略対話(クワッド)、米英豪の安全保障枠組み(AUKUS)、英語圏5か国の機密情報共有枠組み(ファイブアイズ これはバイデン政権以前から)などは、中国を念頭に置いていることは明らかである。また英仏独など欧州諸国もインド太平洋地域での活動を活発化させており、中国を取り巻く国際情勢は中国にとって厳しさを増している。
一方、台湾の蔡英文総統政権は、香港の中国本土化という中国のイメージを落とす出来事も手伝ったが、安定しており、あと2年で(2024年に)2期目が満了する。蔡英文総統は習近平主席の演説と同日の双十節において、「中国がわれわれに示した道を歩むことを誰からも強制されないよう、われわれは引き続き国防を強化し、自衛の決意を表明していく」、「これは、中国の示す道が、台湾の自由で民主的な生活や、台湾市民2300万人の主権につながらないためだ」と自信のほどを示した。
台湾においては、さる9月末、国民党の党首選挙がおこなわれ、親米派で対中国でも穏健路線をとる元主席の朱立倫が党首に復活した。習近平主席は祝意を表したが、台湾の国民党は弱すぎる。台湾では中台統一を希望しない現状維持派が80・4%を占めている。国民党が今後台湾の世論を中国寄りに導けるとは到底考えられない。
そんな中、中国では来年(2022年)共産党の全国大会が開催され、習近平氏が党の総書記を続けるか問われる。当然台湾との関係も問題になりうる。習氏は独裁者になりつつあると言われるが、決して盤石の地位を築いているわけではない。習氏としては、次期党大会までに台湾に対する工作を強めておく必要があると考え、台湾への圧力を強めているのではないか。
2021.10.06
中国の公安は日本の警察と公安を合わせたくらい強大な権限を持つ機関であるが、日本の警察とは異なり、国民生活を監視・コントロールするとともに権力闘争の手先ともなる。
習近平主席は就任以来反腐敗運動を大々的に展開し、「虎(大物)もハエ(そうでない者)も叩く」として、胡錦濤政権下の政治局常務委員であり、2002-07年公安相を務めた周永康を追放した。習近平はそのほか、とくに2020年以降、公安関係者への追及を強め、元公安部次官の李東生、元天津市公安局長の武長順、元重慶市公安局長の何挺、元公安部共産党委員の夏崇源、元公安部次官の孫力軍、元重慶市公安局長の鄧恢林、元上海市公安局長の龔道安等の高官を罷免した。
これらの人たちは、詳細は不明だが、いずれも周永康の人脈であったという。しかし、今回失脚した傅政華はそうではなく、習政権の下で2018年3月~20年4月司法相を務め、周永康の摘発に貢献し、習氏の権力基盤固めに功績があげた人物であった。
この他、去る6月、国家安全部の董経緯次官が米国へ亡命し、米国の国防情報局の保護のもとにあるとの報道が流れた。新華社通信同月18日付で同氏が防諜会議を主宰したと報じ、火消しを図ったが、共和党全国委員会では亡命の事実を認めている。
いずれにしても、習近平主席は昨年まで部下として活躍していた人物を切ったのである。習氏が公安関係部門の現状に不満であることは間違いない。
習氏は側近の 陳一新 党中央政法委員会秘書長や王小洪公安部次官を重用する考えであり王氏は来年の党大会で公安相に昇格するとの見方が出ているというが、両者は本当に習近平の眼鏡にかなうか、今一つ明らかでない。
習近平はもともと司法・公安関係の現状に不満であり、新たに党の機関として「中央国家安全委員会」を創設した。これは常設ではないが中国版NSC(国家安全保障会議)であり、習近平が主席を務める。従来は党の「中央政法委員会」が司法・公安を監督していたが、「中央国家安全委員会」はさらにその上に立つ最高意思決定機関である。
公安関係の新体制は機能するか。習氏はかつて宣伝部門に対しても批判的になったことがあった。容易に進まないこともあるらしい。
習近平主席は公安部門に満足していない?
中国共産党中央規律検査委員会は10月2日、傅政華・前司法相を重大な規律違反などの疑いで調査していると発表した。傅氏は公安畑が長く(「老公安」と呼ばれている)、公安次官を経て司法相を務めた人物であるが、事実上の失脚であり、いずれ正式にその処分が発表されることになる。中国の公安は日本の警察と公安を合わせたくらい強大な権限を持つ機関であるが、日本の警察とは異なり、国民生活を監視・コントロールするとともに権力闘争の手先ともなる。
習近平主席は就任以来反腐敗運動を大々的に展開し、「虎(大物)もハエ(そうでない者)も叩く」として、胡錦濤政権下の政治局常務委員であり、2002-07年公安相を務めた周永康を追放した。習近平はそのほか、とくに2020年以降、公安関係者への追及を強め、元公安部次官の李東生、元天津市公安局長の武長順、元重慶市公安局長の何挺、元公安部共産党委員の夏崇源、元公安部次官の孫力軍、元重慶市公安局長の鄧恢林、元上海市公安局長の龔道安等の高官を罷免した。
これらの人たちは、詳細は不明だが、いずれも周永康の人脈であったという。しかし、今回失脚した傅政華はそうではなく、習政権の下で2018年3月~20年4月司法相を務め、周永康の摘発に貢献し、習氏の権力基盤固めに功績があげた人物であった。
この他、去る6月、国家安全部の董経緯次官が米国へ亡命し、米国の国防情報局の保護のもとにあるとの報道が流れた。新華社通信同月18日付で同氏が防諜会議を主宰したと報じ、火消しを図ったが、共和党全国委員会では亡命の事実を認めている。
いずれにしても、習近平主席は昨年まで部下として活躍していた人物を切ったのである。習氏が公安関係部門の現状に不満であることは間違いない。
習氏は側近の 陳一新 党中央政法委員会秘書長や王小洪公安部次官を重用する考えであり王氏は来年の党大会で公安相に昇格するとの見方が出ているというが、両者は本当に習近平の眼鏡にかなうか、今一つ明らかでない。
習近平はもともと司法・公安関係の現状に不満であり、新たに党の機関として「中央国家安全委員会」を創設した。これは常設ではないが中国版NSC(国家安全保障会議)であり、習近平が主席を務める。従来は党の「中央政法委員会」が司法・公安を監督していたが、「中央国家安全委員会」はさらにその上に立つ最高意思決定機関である。
公安関係の新体制は機能するか。習氏はかつて宣伝部門に対しても批判的になったことがあった。容易に進まないこともあるらしい。
2021.09.17
豪州は核兵器不拡散条約(NPT)の参加国であり、AUKUSの下での原潜技術供与が同条約に違反しないか問題になりうるが、モリソン氏は「豪州は核兵器の獲得を目指しているわけではない」と主張し、バイデン氏も豪州が保有するのは「原子炉を動力とした通常兵器搭載の潜水艦だ」と説明した。これらの説明でNPTをクリアできるか。豪州は元来NPT参加国の中でも非核を厳守してきたので、批判の声が上がる可能性は排除できないが、動力としての原子炉は核兵器でないとの考えで乗り切るのはさほど難しくないかもしれない。
AUKUSの設置は中国への対抗が目的であることは明らかであり、中国は反発するとみられている。しかし、米国が豪州と英国を誘って共同の安全保障枠組みを設置したことは、中国が南シナ海で国際法違反の拡張行動を取り続け、また公海における航行の自由を脅かし、台湾に対しては軍事力で揺さぶりをかけ、東シナ海でも尖閣諸島へのハラスメントを繰り返したこと、また、中国の新疆ウイグル自治区でイスラム教徒の人権を擁護せず、香港では国際約束を無視して強引に本土化し、民主派を弾圧したことなどに触発された結果である。
EUの主要国、とくに英、仏、独なども米国と同様、中国に対抗する必要性を認識するようになり、相次いで海軍艦艇を南シナ海へ派遣している。フランスは2021年2月、原子力潜水艦を、英国は8月、空母クイーン・エリザベスを派遣し、またドイツはフリゲート艦を向かわせている。
日米豪印4か国は最近インド・太平洋海域での戦略対話(クアッド)を強めてきた。9月末には首脳会合を行うことが予定されている。米欧諸国が、それに加え、軍事的な面で連合して行動することは第二次大戦後初めてのことである。それは、南シナ海から東シナ海にまで延びる海域における中国の行動があまりにも国際法上問題であり、対処困難であると感じているからである。
中国には中国の言い分があろう。中国がこのような各国連携の動きをどのように見るかはもちろん中国の問題だが、今後の道は二つしかない。一つは軍事的な対立が継続ないし激化することである。中国が9月1日に「改正海上交通安全法」を施行し、外国船に領海外退去を求めることを可能としたことはさらなる強硬策であった。
もう一つの道は、中国が各国との対話を深め、平和的に解決していくことである。どちらが優れているか、答はおのずと明らかである。
米英豪3か国の安全保障協力枠組み「AUKUS」
バイデン米大統領は9月15日、インド太平洋地域における米英豪3か国の新たな安全保障協力の枠組み「AUKUS」を設置することを明らかにした。米英はまず豪州に対し原子力潜水艦の技術を支援することになっている。豪州はステルス性に優れ、長距離潜航が可能な原潜を保有することになる。米国がこの機密性が高い高度の軍事技術を供与したのはこれまで英国のみであった。今後18か月間、3か国でチームを結成し実行計画を策定するという。AUKUSの発表には、英国のジョンソン、豪州のモリソン両首相もオンラインで参加した。豪州は核兵器不拡散条約(NPT)の参加国であり、AUKUSの下での原潜技術供与が同条約に違反しないか問題になりうるが、モリソン氏は「豪州は核兵器の獲得を目指しているわけではない」と主張し、バイデン氏も豪州が保有するのは「原子炉を動力とした通常兵器搭載の潜水艦だ」と説明した。これらの説明でNPTをクリアできるか。豪州は元来NPT参加国の中でも非核を厳守してきたので、批判の声が上がる可能性は排除できないが、動力としての原子炉は核兵器でないとの考えで乗り切るのはさほど難しくないかもしれない。
AUKUSの設置は中国への対抗が目的であることは明らかであり、中国は反発するとみられている。しかし、米国が豪州と英国を誘って共同の安全保障枠組みを設置したことは、中国が南シナ海で国際法違反の拡張行動を取り続け、また公海における航行の自由を脅かし、台湾に対しては軍事力で揺さぶりをかけ、東シナ海でも尖閣諸島へのハラスメントを繰り返したこと、また、中国の新疆ウイグル自治区でイスラム教徒の人権を擁護せず、香港では国際約束を無視して強引に本土化し、民主派を弾圧したことなどに触発された結果である。
EUの主要国、とくに英、仏、独なども米国と同様、中国に対抗する必要性を認識するようになり、相次いで海軍艦艇を南シナ海へ派遣している。フランスは2021年2月、原子力潜水艦を、英国は8月、空母クイーン・エリザベスを派遣し、またドイツはフリゲート艦を向かわせている。
日米豪印4か国は最近インド・太平洋海域での戦略対話(クアッド)を強めてきた。9月末には首脳会合を行うことが予定されている。米欧諸国が、それに加え、軍事的な面で連合して行動することは第二次大戦後初めてのことである。それは、南シナ海から東シナ海にまで延びる海域における中国の行動があまりにも国際法上問題であり、対処困難であると感じているからである。
中国には中国の言い分があろう。中国がこのような各国連携の動きをどのように見るかはもちろん中国の問題だが、今後の道は二つしかない。一つは軍事的な対立が継続ないし激化することである。中国が9月1日に「改正海上交通安全法」を施行し、外国船に領海外退去を求めることを可能としたことはさらなる強硬策であった。
もう一つの道は、中国が各国との対話を深め、平和的に解決していくことである。どちらが優れているか、答はおのずと明らかである。
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