中国
2021.12.22
当然台湾側は反発し、台湾外交部は21日、韓国駐台北代表部(大使館に相当)の代理代表を呼んで抗議した。そして翌日の定例会見で経緯を説明し、会議直前での突然の、一方的なキャンセルは「礼儀を欠いている」とした。
韓国側がこのようなキャンセルを行ったのは、中国からタン氏の講演を中止するよう圧力がかかったためであることはほぼ間違いない。
韓国の現政権が中国を刺激しないように努めていることは今に始まったことでない。文在寅政権は2017年5月の成立早々から、THAAD(高高度防衛ミサイル)配備問題に反発した中国による対韓報復の撤廃が課題であり、文氏の努力でいちおうの調整が行われ、文氏は同年末国賓として中国を訪問した。しかし、文大統領に対する中国側の扱いはあまり友好的でなく、韓国内では不満の声が上がった経緯がある。
2021年になってからも、韓国が中国から圧力を受けていることを示唆する出来事が起こっている。
3月にはクアッド(日米豪印戦略対話)の首脳会議がオンラインで開催され、参加4か国は『自由で開かれたインド太平洋』の実現に向け連帯を強化することで合意した。
その際、韓国内ではクアッドは対中軍事協力でない、この4か国協力の枠組みに韓国が参加しなくてもよいのか、と疑問の声も上がった(尹永寛/元外交部長官・ソウル大学名誉教授、中央日報2021年5月9日)。にもかかわらず韓国はクアッドに背を向けたのだが、そのようになったのは中国から参加しないようくぎを刺されたためであったと思われる。
9月、英国空母クイーン・エリザベスが米第7艦隊の母港横須賀港に入港した。同艦はそれに先立って釜山に入港予定であったが、これは取り消され、韓英海軍は8月31日、東海南部海上で人道主義支援と災害救助中心の訓練など、縮小した交流活動だけを実施した。クイーン・エリザベスは同時期に横須賀港に入港した米国、オランダ、カナダ、それに日本の海上自衛隊の艦船と共に、7日まで「パシフィッククラウン21-3」という名の多国籍共同訓練を行った。
1週間後、中国の 王毅外相が訪韓し、鄭義溶韓国外相と会談した。この会談で表向きは中韓の協力面が強調されたが、王毅外相は参加しなかった韓国を称賛するとともに今後についてもさらにくぎを押したと推測される。
さらに文在寅大統領は12月13日、中国の人権問題を理由とした北京冬季五輪への「外交的ボイコット」について、「韓国政府は検討していない」と表明した。
そしてタン氏に対する講演の一方的なキャンセルとなったのである。その理由として「中台関係をめぐる様々な点を考慮した」と韓国側が挙げたのはかなり露骨な中国重視の表明であった。
タン氏が講演したからと言って中国の安全保障にはいささかの関係もないだろう。そんな問題についてまで韓国が中国の言いなりになっている、ならざるをえないのは遺憾なことである。韓国では来年3月9日に大統領選挙が行われる。どの候補が有力か、予断を許さないが、新大統領になると中国との関係に変化は起こるのだろうか。日本にも大いに関係してくる問題である。
タン台湾デジタル担当相の講演を韓国側は突然キャンセル
12月16日、韓国で予定されていたオンライン「グローバル政策会議」において講演を依頼されていた台湾のオードリー・タン・デジタル担当相に対し、韓国側は講演当日の午前7時50分になって突然メールでキャンセルの申し出を行った。理由として「中台関係をめぐる様々な点を考慮した」と挙げていたという。この会議は、韓国の文在寅大統領の指示で設けられた「第四次工業革命委員会」が主催したものであった。当然台湾側は反発し、台湾外交部は21日、韓国駐台北代表部(大使館に相当)の代理代表を呼んで抗議した。そして翌日の定例会見で経緯を説明し、会議直前での突然の、一方的なキャンセルは「礼儀を欠いている」とした。
韓国側がこのようなキャンセルを行ったのは、中国からタン氏の講演を中止するよう圧力がかかったためであることはほぼ間違いない。
韓国の現政権が中国を刺激しないように努めていることは今に始まったことでない。文在寅政権は2017年5月の成立早々から、THAAD(高高度防衛ミサイル)配備問題に反発した中国による対韓報復の撤廃が課題であり、文氏の努力でいちおうの調整が行われ、文氏は同年末国賓として中国を訪問した。しかし、文大統領に対する中国側の扱いはあまり友好的でなく、韓国内では不満の声が上がった経緯がある。
2021年になってからも、韓国が中国から圧力を受けていることを示唆する出来事が起こっている。
3月にはクアッド(日米豪印戦略対話)の首脳会議がオンラインで開催され、参加4か国は『自由で開かれたインド太平洋』の実現に向け連帯を強化することで合意した。
その際、韓国内ではクアッドは対中軍事協力でない、この4か国協力の枠組みに韓国が参加しなくてもよいのか、と疑問の声も上がった(尹永寛/元外交部長官・ソウル大学名誉教授、中央日報2021年5月9日)。にもかかわらず韓国はクアッドに背を向けたのだが、そのようになったのは中国から参加しないようくぎを刺されたためであったと思われる。
9月、英国空母クイーン・エリザベスが米第7艦隊の母港横須賀港に入港した。同艦はそれに先立って釜山に入港予定であったが、これは取り消され、韓英海軍は8月31日、東海南部海上で人道主義支援と災害救助中心の訓練など、縮小した交流活動だけを実施した。クイーン・エリザベスは同時期に横須賀港に入港した米国、オランダ、カナダ、それに日本の海上自衛隊の艦船と共に、7日まで「パシフィッククラウン21-3」という名の多国籍共同訓練を行った。
1週間後、中国の 王毅外相が訪韓し、鄭義溶韓国外相と会談した。この会談で表向きは中韓の協力面が強調されたが、王毅外相は参加しなかった韓国を称賛するとともに今後についてもさらにくぎを押したと推測される。
さらに文在寅大統領は12月13日、中国の人権問題を理由とした北京冬季五輪への「外交的ボイコット」について、「韓国政府は検討していない」と表明した。
そしてタン氏に対する講演の一方的なキャンセルとなったのである。その理由として「中台関係をめぐる様々な点を考慮した」と韓国側が挙げたのはかなり露骨な中国重視の表明であった。
タン氏が講演したからと言って中国の安全保障にはいささかの関係もないだろう。そんな問題についてまで韓国が中国の言いなりになっている、ならざるをえないのは遺憾なことである。韓国では来年3月9日に大統領選挙が行われる。どの候補が有力か、予断を許さないが、新大統領になると中国との関係に変化は起こるのだろうか。日本にも大いに関係してくる問題である。
2021.12.06
中国はこれに反発したのであろう。数日前から大々的な反民主主義サミット・キャンペーンを始め、中国外務省は2日、「何が民主で、誰が民主を定義するのか」と題する座談会を開いた。また各地の大学やシンクタンクも同様の討論会を開催。国営メディアも民主主義についての記事やインタビューを相次ぎ掲載した。
3日には王毅国務委員兼外相が、友好国パキスタンのクレシ外相との電話会談で、「米国の目的は民主主義ではなく、覇権を守ることにある」「民主主義を議論するなら国連で議論すべきではないか」などと対米批判を行った。
そして4日、中国政府は「中国の民主」と題する白書を発表し、「長い間、少数の国々によって民主主義の本来の意味はねじ曲げられてきた。一人一票など西側の選挙制度が民主主義の唯一の基準とされてきた」などと主張した。
中国は2019年に習近平主席が上海視察を行った時から「全過程人民民主」をとなえ、自国の現実や歴史に根ざして実践する民主主義を主張し、地方レベルの直接選挙や人民代表大会など、中国では政策の立案から実施まで様々なプロセスで民主制度が機能しているというが、中国の選挙が共産党の指導の下で行われており、選挙民が自由の意思で投票できないことは世界の常識である。
ただ、中国が米国を批判していることには賛成する国が多数あるだろう。世界中の2百弱の国々の中で、民主的な国家はその半数に満たないので、中国は非民主主義的な多数の国家が賛成するであろうことを見越して、米国批判を行っているのである。王毅外相の「民主主義を議論するなら国連で議論すべきではないか」との発言も「国の数では負けない」という意味である。
しかし、中国が米国を批判してもどのような効果が期待できるか、国際政治の実態が変わるわけでなく、宣伝に終わることは目に見えている。
一方、バイデン大統領による「民主主義サミット」の呼びかけについても唐突な感じはあったが、中国は最近わが道を行くと言わんばかりの姿勢を強め、また台湾に対して実力行使を示唆するともとられる言動を行っている。民主主義の諸国家が、専制主義の中国などと対峙するのも辞さないとの姿勢を示し、また台湾に対する支持を表明することは時宜にかなっている。
「民主主義サミット」と「中国の民主」白書
バイデン大統領は12月9、10日、110を超(こ)える国家・地域の指導者を招いて、オンライン形式で「民主主義サミット」を開催する。NGOや市民団体の代表らも招かれている。中国はこれに反発したのであろう。数日前から大々的な反民主主義サミット・キャンペーンを始め、中国外務省は2日、「何が民主で、誰が民主を定義するのか」と題する座談会を開いた。また各地の大学やシンクタンクも同様の討論会を開催。国営メディアも民主主義についての記事やインタビューを相次ぎ掲載した。
3日には王毅国務委員兼外相が、友好国パキスタンのクレシ外相との電話会談で、「米国の目的は民主主義ではなく、覇権を守ることにある」「民主主義を議論するなら国連で議論すべきではないか」などと対米批判を行った。
そして4日、中国政府は「中国の民主」と題する白書を発表し、「長い間、少数の国々によって民主主義の本来の意味はねじ曲げられてきた。一人一票など西側の選挙制度が民主主義の唯一の基準とされてきた」などと主張した。
中国は2019年に習近平主席が上海視察を行った時から「全過程人民民主」をとなえ、自国の現実や歴史に根ざして実践する民主主義を主張し、地方レベルの直接選挙や人民代表大会など、中国では政策の立案から実施まで様々なプロセスで民主制度が機能しているというが、中国の選挙が共産党の指導の下で行われており、選挙民が自由の意思で投票できないことは世界の常識である。
ただ、中国が米国を批判していることには賛成する国が多数あるだろう。世界中の2百弱の国々の中で、民主的な国家はその半数に満たないので、中国は非民主主義的な多数の国家が賛成するであろうことを見越して、米国批判を行っているのである。王毅外相の「民主主義を議論するなら国連で議論すべきではないか」との発言も「国の数では負けない」という意味である。
しかし、中国が米国を批判してもどのような効果が期待できるか、国際政治の実態が変わるわけでなく、宣伝に終わることは目に見えている。
一方、バイデン大統領による「民主主義サミット」の呼びかけについても唐突な感じはあったが、中国は最近わが道を行くと言わんばかりの姿勢を強め、また台湾に対して実力行使を示唆するともとられる言動を行っている。民主主義の諸国家が、専制主義の中国などと対峙するのも辞さないとの姿勢を示し、また台湾に対する支持を表明することは時宜にかなっている。
2021.11.19
その後、彭帥氏の所在・安否が分からなくなった。
現在、中国の検閲当局は、彭さんが投稿したとされる内容への言及をすべてブロックしており、どの検索エンジンを使っても何も出なくなっている。
彭さんを心配する声が各方面から上がり、女子テニス協会(WTA)のサイモン最高経営責任者(CEO)は14日、「深い懸念」を表明。性暴力は「最大限に深刻に」受け止められるべきだと主張し、「完全で、公正で、透明性があり、検閲のない調査が行われなければならない」と強い口調で訴えた。
彭さんの友人たちも相次いで懸念を表明した。大坂なおみ選手は「彭帥はどこにいるの」を意味するハッシュタグを付け、「いかなる場合でも検閲は許されない」と批判した(17日のツイッター投稿)。またノバク・ジョコビッチ選手(セルビア)も15日、記者団に対し「消息不明は衝撃的。過去のツアー戦で顔を合わせていた人物ならなおさらだ」と語った。
一方、中国国営の英語放送CGTNは18日、彭さんがWTA宛てに、「(WTAの声明文は)根拠も実証もなく、自分の同意なく公表されたものだ」と述べ、「性的暴行の申し立てを含むニュースは真実ではない」「私は安全で、自宅で休んでいる」などと、協会側に伝えたとするEメールを公表した。
これに対し、サイモン氏は18日、「かえって彼女の安全と消息への懸念が高まった」とコメントし、メールが本物だとは信じられないとの見方を示した(18日、AFPなど)。
中国側と国際社会の見方が対立しているわけだが、CGTNの報道は国際社会の納得を得られないだろう。中国のメディアは政府・党の厳しい統制下にあり、その意に反した報道はできないからだ。
日本も含め各国のメディアは常に厳しいチェックを受けている。政府や党によるチェックでなく、世界の読者によるチェックである。具体的には、政治の影響を受けない自由な報道であること、客観的な証拠によって裏付けられていること、透明性が確保されていることなどであり、それらを満たして初めて世界に真実を伝えることができる。そのような要件を満たすことなく、政府や党の指示に従ったものは宣伝に過ぎない。
彭さんに関するCGTNの18日報道は、残念ながら、それらの要件を満たしていないのではないか。だから、世界の懸念を払しょくすることはできないのではないか。
今回の事件は、コロナ禍に関し、ウイルスの起源を調査した際のことも想起させた。中国当局は多大の努力を払ってWHOや各国専門家と合同調査を行った。しかし、中国側は世界を納得させることはできなかった。一部であるが重要な点について実態をさらけ出すことができなかったからである。
厳しい言論統制は中国政府・党が必要を感じて行っているのだろうが、果たして中国の利益になっているか、むしろ逆に不利益になっているのではないか。世界は、中国に対して宣伝でなく、客観的な報道を願っている。
彭帥選手の告白
中国テニス界の女子スター選手で、かつては世界のトップクラスであった彭帥(Peng Shuai)さんが、張高麗(Zhang Gaoli)前副首相兼共産党政治局常務委員から性的関係を強要されたとソーシャルメディアで告発した(11月2日、微博への投稿)。しかし、その情報は4日までに検閲対象となりインターネット上から削除された。ただし、削除される以前に10万回以上閲覧されており、その内容は一部に出回っていたという。彭さんが張氏に性行為を迫られたと訴える投稿のスクリーンショットとされる画像には、情感のこもった長文で「とても怖かった」とつづられていた。また、「たとえ岩に卵を投げつけるような行為にすぎないとしても、自ら火に飛び込んで身を滅ぼすガとなっても、私は事実を話す」と書かれていた。その後、彭帥氏の所在・安否が分からなくなった。
現在、中国の検閲当局は、彭さんが投稿したとされる内容への言及をすべてブロックしており、どの検索エンジンを使っても何も出なくなっている。
彭さんを心配する声が各方面から上がり、女子テニス協会(WTA)のサイモン最高経営責任者(CEO)は14日、「深い懸念」を表明。性暴力は「最大限に深刻に」受け止められるべきだと主張し、「完全で、公正で、透明性があり、検閲のない調査が行われなければならない」と強い口調で訴えた。
彭さんの友人たちも相次いで懸念を表明した。大坂なおみ選手は「彭帥はどこにいるの」を意味するハッシュタグを付け、「いかなる場合でも検閲は許されない」と批判した(17日のツイッター投稿)。またノバク・ジョコビッチ選手(セルビア)も15日、記者団に対し「消息不明は衝撃的。過去のツアー戦で顔を合わせていた人物ならなおさらだ」と語った。
一方、中国国営の英語放送CGTNは18日、彭さんがWTA宛てに、「(WTAの声明文は)根拠も実証もなく、自分の同意なく公表されたものだ」と述べ、「性的暴行の申し立てを含むニュースは真実ではない」「私は安全で、自宅で休んでいる」などと、協会側に伝えたとするEメールを公表した。
これに対し、サイモン氏は18日、「かえって彼女の安全と消息への懸念が高まった」とコメントし、メールが本物だとは信じられないとの見方を示した(18日、AFPなど)。
中国側と国際社会の見方が対立しているわけだが、CGTNの報道は国際社会の納得を得られないだろう。中国のメディアは政府・党の厳しい統制下にあり、その意に反した報道はできないからだ。
日本も含め各国のメディアは常に厳しいチェックを受けている。政府や党によるチェックでなく、世界の読者によるチェックである。具体的には、政治の影響を受けない自由な報道であること、客観的な証拠によって裏付けられていること、透明性が確保されていることなどであり、それらを満たして初めて世界に真実を伝えることができる。そのような要件を満たすことなく、政府や党の指示に従ったものは宣伝に過ぎない。
彭さんに関するCGTNの18日報道は、残念ながら、それらの要件を満たしていないのではないか。だから、世界の懸念を払しょくすることはできないのではないか。
今回の事件は、コロナ禍に関し、ウイルスの起源を調査した際のことも想起させた。中国当局は多大の努力を払ってWHOや各国専門家と合同調査を行った。しかし、中国側は世界を納得させることはできなかった。一部であるが重要な点について実態をさらけ出すことができなかったからである。
厳しい言論統制は中国政府・党が必要を感じて行っているのだろうが、果たして中国の利益になっているか、むしろ逆に不利益になっているのではないか。世界は、中国に対して宣伝でなく、客観的な報道を願っている。
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