中国
2015.07.14
問題はこの時期に、なぜ、かくも多数の人を拘束したかである。人権派弁護士に対する弾圧は中国自身のイメージを損ない、ひいては9月に予定されている習近平主席の訪米に暗い影を落とす恐れがある。
中国当局が問題視しているのは、生活の窮状を訴え善処を要望するために北京や地方の省都に上ってくる(中国語では「上訪」と言う)人たちを、人権派の弁護士らが各地方と情報交換・連携しつつ支援していることである。山崎豊子の小説、『大地の子』にそのような訴えの話が出てくる。現在も多数の訴えが省レベル、全国レベルで行なわれており、それに対する中央および地方の政府の妨害も頻発しているので支援が必要なのである。
当局の過剰とも見える対応の背景には、人権派によるこのような行動が民主化要求運動に発展することへの恐れがある。本HPでは、「習近平主席の民主化革命への警戒(4月21日)」など年に数回関連の記事を掲載しているので参照していただきたい。窮状にある農民らを支援する弁護士らは必ずしも反政府的でないが、民主化運動を起こす潜在力であることは間違いない。ノーベル平和賞を贈られた劉暁波(まだ拘留中)もその一人である。
中国当局の今回の行動が習近平主席の意を体して行なわれていることは確実である。言論を強い統制下に置き、中央の方針に従わない者は投獄するなど、体制を揺るがしかねない動きには強権的な措置で対応する習近平政権の性格がここにも表れている。
(短文)人権派弁護士の大規模逮捕
最近、7月9日以降とも言われているが、中国で多数の人権派弁護士らが拘束されている。その数は、7月14日付の香港紙『明報』によれば、13日までに107人に上っている。取り調べの後釈放された者もかなりあり、現在も拘留中は20人くらいらしい。問題はこの時期に、なぜ、かくも多数の人を拘束したかである。人権派弁護士に対する弾圧は中国自身のイメージを損ない、ひいては9月に予定されている習近平主席の訪米に暗い影を落とす恐れがある。
中国当局が問題視しているのは、生活の窮状を訴え善処を要望するために北京や地方の省都に上ってくる(中国語では「上訪」と言う)人たちを、人権派の弁護士らが各地方と情報交換・連携しつつ支援していることである。山崎豊子の小説、『大地の子』にそのような訴えの話が出てくる。現在も多数の訴えが省レベル、全国レベルで行なわれており、それに対する中央および地方の政府の妨害も頻発しているので支援が必要なのである。
当局の過剰とも見える対応の背景には、人権派によるこのような行動が民主化要求運動に発展することへの恐れがある。本HPでは、「習近平主席の民主化革命への警戒(4月21日)」など年に数回関連の記事を掲載しているので参照していただきたい。窮状にある農民らを支援する弁護士らは必ずしも反政府的でないが、民主化運動を起こす潜在力であることは間違いない。ノーベル平和賞を贈られた劉暁波(まだ拘留中)もその一人である。
中国当局の今回の行動が習近平主席の意を体して行なわれていることは確実である。言論を強い統制下に置き、中央の方針に従わない者は投獄するなど、体制を揺るがしかねない動きには強権的な措置で対応する習近平政権の性格がここにも表れている。
2015.07.03
一方、中国の新華社電7月1日付は、同報告が「ロシア、イランおよび北朝鮮の3カ国を名指しで米国および全世界の安全に巨大な脅威となっている」と指摘しているとしつつ、別の文章で、同報告は「中国の軍事力は米国にとって「一定の脅威」となっていると解説している。また、「中国が国際社会の安全を維持するために協力するパートナーとなることを望んでいる(原文は「支持」)」と記載している。
しかし、同報告の原文は、中国とロシア、イランおよび北朝鮮の3カ国と中国をあたかも別のカテゴリーであるかのように扱っておらず、続けて、つまり中国は北朝鮮のすぐ後に記載している。
新華社電が指摘している「中国が国際社会の安全を維持するために協力するパートナーとなることを望んでいる」は原文にもあるが、叙述の順序を入れ替えることにより全体を穏やかなトーンにしている。報告の原文は中国にとってもっときびしい内容であり、中国の行動を「アジア太平洋地域で緊張を高めている」「南シナ海のほぼ全域に対する領有権の主張は国際法に反している」「国際社会による問題を強制でなく、協調的に解決してほしいという要請にもかかわらず、中国は大胆に(aggressive)土地造成を行なった」などと述べている。
同報告が中国を「一定の脅威」としているというのは事実でなく、新華社電の解釈に過ぎない。
北朝鮮への言及のすぐ後に出てくる原文の中国関係部分は次のとおりである。
We support China’s rise and encourage it to become a partner for greater international security. However, China’s actions are adding tension to the Asia-Pacific region. For example, its claims to nearly the entire South China Sea are inconsistent with international law. The international community continues to call on China to settle such issues cooperatively and without coercion. China has responded with aggressive land reclamation efforts that will allow it to position military forces astride vital international sea lanes.
None of these nations are believed to be seeking direct military conflict with the United States or our allies. Nonetheless, they each pose serious security concerns which the international community is working to collectively address by way of common policies, shared messages, and coordinated action.
As part of that effort, we remain committed to engagement with all nations to communicate our values, promote transparency, and reduce the potential for miscalculation. Accordingly, we continue to invest in a substantial military-to-military relationship with China and we remain ready to engage Russia in areas of common interest, while urging both nations to settle their disputes peacefully and in accordance with international law.
このように見てくれば、新華社電の報道が米統合参謀本部の「国家軍事戦略」をかなり歪曲しているのは明らかである。中国の国有通信社である新華社は中国国内向けにそうしたのであろうが、米国が中国に対する批判的姿勢を強めていることをぼやかして何の利益があるのだろうか。
米「国家軍事戦略」を中国はいかに報道したか
7月1日、米統合参謀本部は4年ぶりに「国家軍事戦略」を発表した。中国については、ロシア、イラン、北朝鮮と並んでserious security concerns、すなわち「深刻な安全保障上の懸念」であるとの認識を述べている。前回2011年の戦略では中国の宇宙やサイバー、海洋活動などに「憂慮」を示しつつ、「中国と建設的、協力的、包括的な関係を追求する」としていたが、今回はより批判的なトーンである。一方、中国の新華社電7月1日付は、同報告が「ロシア、イランおよび北朝鮮の3カ国を名指しで米国および全世界の安全に巨大な脅威となっている」と指摘しているとしつつ、別の文章で、同報告は「中国の軍事力は米国にとって「一定の脅威」となっていると解説している。また、「中国が国際社会の安全を維持するために協力するパートナーとなることを望んでいる(原文は「支持」)」と記載している。
しかし、同報告の原文は、中国とロシア、イランおよび北朝鮮の3カ国と中国をあたかも別のカテゴリーであるかのように扱っておらず、続けて、つまり中国は北朝鮮のすぐ後に記載している。
新華社電が指摘している「中国が国際社会の安全を維持するために協力するパートナーとなることを望んでいる」は原文にもあるが、叙述の順序を入れ替えることにより全体を穏やかなトーンにしている。報告の原文は中国にとってもっときびしい内容であり、中国の行動を「アジア太平洋地域で緊張を高めている」「南シナ海のほぼ全域に対する領有権の主張は国際法に反している」「国際社会による問題を強制でなく、協調的に解決してほしいという要請にもかかわらず、中国は大胆に(aggressive)土地造成を行なった」などと述べている。
同報告が中国を「一定の脅威」としているというのは事実でなく、新華社電の解釈に過ぎない。
北朝鮮への言及のすぐ後に出てくる原文の中国関係部分は次のとおりである。
We support China’s rise and encourage it to become a partner for greater international security. However, China’s actions are adding tension to the Asia-Pacific region. For example, its claims to nearly the entire South China Sea are inconsistent with international law. The international community continues to call on China to settle such issues cooperatively and without coercion. China has responded with aggressive land reclamation efforts that will allow it to position military forces astride vital international sea lanes.
None of these nations are believed to be seeking direct military conflict with the United States or our allies. Nonetheless, they each pose serious security concerns which the international community is working to collectively address by way of common policies, shared messages, and coordinated action.
As part of that effort, we remain committed to engagement with all nations to communicate our values, promote transparency, and reduce the potential for miscalculation. Accordingly, we continue to invest in a substantial military-to-military relationship with China and we remain ready to engage Russia in areas of common interest, while urging both nations to settle their disputes peacefully and in accordance with international law.
このように見てくれば、新華社電の報道が米統合参謀本部の「国家軍事戦略」をかなり歪曲しているのは明らかである。中国の国有通信社である新華社は中国国内向けにそうしたのであろうが、米国が中国に対する批判的姿勢を強めていることをぼやかして何の利益があるのだろうか。
2015.07.02
北戴河は北京の東280キロにある海岸で避暑地として知られているが、ここで夏を過ごす中国の指導者は懸案について協議し、事実上の決定を下すこともある。正式でないのはもちろんであるが、非常に重要な話し合いも行われる。だから、中国に駐在の各国大使館、報道機関などは北戴河でどのような動きがあるか、懸命に情報収集を試みる。
しかし、噂の類は別として、正確な情報を得るのは困難であり、数年たって初めて実情が分かってくることもある。たとえば、1987年早々に失脚した胡耀邦総書記の場合、突然問題が起こったのでなく、そこへ至るまでにさまざまな経緯があり、なかでも前年、北戴河で話し合われたことは大きな節目であった。しかし、当時、そのような事情はよく分からなかった。
今年はどうなるか。中国の指導者が北戴河で何を話し合うかなど外から推測できるわけはないが、話題になりそうなテーマとしては次のようなことが考えられる。
○周永康前政治局常務委員の処分は6月に発表済みであり、今年でなく昨年、北戴河で話が出た可能性が高い。今年は、反腐敗運動は山を越したと見るか、さらに別の大物に対する追及を続けるかが問題となりうる。前者については本HP6月24日の「反腐敗運動は竜頭蛇尾となったか‐何清漣の批判」を参照願いたい。
○政治体制改革は主要な課題として位置付けられているが、進捗した形跡はなさそうだし、今後進捗するとも思えない。要するに、民主化が問題であり、習近平は強く警戒し、種々の手を打っている。報道を強い規制下に置いているのもその一環である。
○内政では、むしろ経済不振、外国からの投資減少が最大の関心事であろう。もっともこれは話題になるとしても、数名で方針が決められるような問題ではなく、北戴河で特に新しい動きが出てくるとは思えない。
○AIIB(アジア・インフラ投資銀行)については6月29日に設立協定の署名式が行なわれたばかりであり、手続き的には成功しているが、うまく機能するか、すべてこれからである。この問題については本HPの5月25日「アジアインフラ投資銀行(AIIB)の正体」などを参照願いたい。
○「一帯一路」については、陸上のシルクロード周辺の開発(一帯)はおおむね順調とみられている。一方、海上のシルクロード(一路)については、スリランカやギリシャの政治状況の変化などのため障害が生じているという認識である。本HP5月13日の「中国の「一帯一路」構想、狙いや背景」を参照願いたい。
○習近平主席は今年の9月、おそらく国連総会への出席の前後に米国を訪問する。南シナ海での埋め立て問題が影響を与えないよう中国は注意しており、6月の23~24日の米中戦略経済対話を成功裏に終えたので一安心しているであろう。
○日本との関係では、経済面での協力を増進させたい考えである一方、日本の安全保障関連法案の審議と南シナ海での日比軍事協力を警戒している。歴史問題については、とくに安倍首相の70周年談話を注目している。
○9月3日の対日戦争勝利記念行事は今年から大々的に行なう予定であり、目下内外で準備を進めている。
(短文)中国の重要課題‐北戴河で指導者は何を考えるか
北戴河は北京の東280キロにある海岸で避暑地として知られているが、ここで夏を過ごす中国の指導者は懸案について協議し、事実上の決定を下すこともある。正式でないのはもちろんであるが、非常に重要な話し合いも行われる。だから、中国に駐在の各国大使館、報道機関などは北戴河でどのような動きがあるか、懸命に情報収集を試みる。
しかし、噂の類は別として、正確な情報を得るのは困難であり、数年たって初めて実情が分かってくることもある。たとえば、1987年早々に失脚した胡耀邦総書記の場合、突然問題が起こったのでなく、そこへ至るまでにさまざまな経緯があり、なかでも前年、北戴河で話し合われたことは大きな節目であった。しかし、当時、そのような事情はよく分からなかった。
今年はどうなるか。中国の指導者が北戴河で何を話し合うかなど外から推測できるわけはないが、話題になりそうなテーマとしては次のようなことが考えられる。
○周永康前政治局常務委員の処分は6月に発表済みであり、今年でなく昨年、北戴河で話が出た可能性が高い。今年は、反腐敗運動は山を越したと見るか、さらに別の大物に対する追及を続けるかが問題となりうる。前者については本HP6月24日の「反腐敗運動は竜頭蛇尾となったか‐何清漣の批判」を参照願いたい。
○政治体制改革は主要な課題として位置付けられているが、進捗した形跡はなさそうだし、今後進捗するとも思えない。要するに、民主化が問題であり、習近平は強く警戒し、種々の手を打っている。報道を強い規制下に置いているのもその一環である。
○内政では、むしろ経済不振、外国からの投資減少が最大の関心事であろう。もっともこれは話題になるとしても、数名で方針が決められるような問題ではなく、北戴河で特に新しい動きが出てくるとは思えない。
○AIIB(アジア・インフラ投資銀行)については6月29日に設立協定の署名式が行なわれたばかりであり、手続き的には成功しているが、うまく機能するか、すべてこれからである。この問題については本HPの5月25日「アジアインフラ投資銀行(AIIB)の正体」などを参照願いたい。
○「一帯一路」については、陸上のシルクロード周辺の開発(一帯)はおおむね順調とみられている。一方、海上のシルクロード(一路)については、スリランカやギリシャの政治状況の変化などのため障害が生じているという認識である。本HP5月13日の「中国の「一帯一路」構想、狙いや背景」を参照願いたい。
○習近平主席は今年の9月、おそらく国連総会への出席の前後に米国を訪問する。南シナ海での埋め立て問題が影響を与えないよう中国は注意しており、6月の23~24日の米中戦略経済対話を成功裏に終えたので一安心しているであろう。
○日本との関係では、経済面での協力を増進させたい考えである一方、日本の安全保障関連法案の審議と南シナ海での日比軍事協力を警戒している。歴史問題については、とくに安倍首相の70周年談話を注目している。
○9月3日の対日戦争勝利記念行事は今年から大々的に行なう予定であり、目下内外で準備を進めている。
最近の投稿
アーカイブ
- 2024年10月
- 2024年8月
- 2024年7月
- 2024年6月
- 2024年5月
- 2024年4月
- 2024年3月
- 2024年2月
- 2024年1月
- 2023年12月
- 2023年11月
- 2023年10月
- 2023年9月
- 2023年8月
- 2023年7月
- 2023年6月
- 2023年5月
- 2023年4月
- 2023年3月
- 2023年2月
- 2022年12月
- 2022年11月
- 2022年10月
- 2022年9月
- 2022年8月
- 2022年7月
- 2022年6月
- 2022年5月
- 2022年4月
- 2022年3月
- 2022年2月
- 2022年1月
- 2021年12月
- 2021年11月
- 2021年10月
- 2021年9月
- 2021年8月
- 2021年7月
- 2021年6月
- 2021年5月
- 2021年4月
- 2021年3月
- 2021年2月
- 2021年1月
- 2020年12月
- 2020年11月
- 2020年10月
- 2020年9月
- 2020年8月
- 2020年7月
- 2020年6月
- 2020年5月
- 2020年4月
- 2020年3月
- 2020年2月
- 2020年1月
- 2019年12月
- 2019年11月
- 2019年10月
- 2019年9月
- 2019年8月
- 2019年7月
- 2019年6月
- 2019年5月
- 2019年4月
- 2019年3月
- 2019年2月
- 2019年1月
- 2018年12月
- 2018年11月
- 2018年10月
- 2018年9月
- 2018年8月
- 2018年7月
- 2018年6月
- 2018年5月
- 2018年4月
- 2018年3月
- 2018年2月
- 2018年1月
- 2017年12月
- 2017年11月
- 2017年10月
- 2017年9月
- 2017年8月
- 2017年7月
- 2017年6月
- 2017年5月
- 2017年4月
- 2017年3月
- 2017年2月
- 2017年1月
- 2016年12月
- 2016年11月
- 2016年10月
- 2016年9月
- 2016年8月
- 2016年7月
- 2016年6月
- 2016年5月
- 2016年4月
- 2016年3月
- 2016年2月
- 2016年1月
- 2015年12月
- 2015年11月
- 2015年10月
- 2015年9月
- 2015年8月
- 2015年7月
- 2015年6月
- 2015年5月
- 2015年4月
- 2015年3月
- 2015年2月
- 2015年1月
- 2014年12月
- 2014年11月
- 2014年10月
- 2014年9月
- 2014年8月
- 2014年7月
- 2014年6月
- 2014年5月
- 2014年4月
- 2014年3月
- 2014年2月
- 2014年1月
- 2013年12月
- 2013年11月
- 2013年10月
- 2013年9月
- 2013年8月
- 2013年7月
- 2013年6月
- 2013年5月
- 2013年4月