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2013.11.02

中国における人物の再評価

8月に中央政法委員会(共産党の各部と同等で、司法、公安、検察を管理する強大な機関)が冤罪事件の取り扱いについて「意見」を公布して以来、再審査に関する調査が頻繁に行われている。また、過去の誤った裁判を正すのみならず、新たな過審を防止する目的も兼ねており、現在進められていることは行政の性格も帯びている。
日本でも、冤罪であったことが裁判確定後に判明し、再審査になることが時折あるが、それに至る過程は中国と全く違っている。日本では個別のケースについて再審査が行われるが、中国では、再審査は司法院の決定した方針にしたがって行われる。司法院の方針が前提にあるのである。日本のように個別の案件についての判断で再審査が行われる場合もあろうが、2013年夏以降の見直しは司法院の方針にしたがって行われている。
さらに日本と違うのは、中国では司法が共産党の指導下にあり、今回の大規模見直し方針も党の認可を受けていることである。認可どころでなく、そもそも党の方針が先にあったかもしれない。現在の大規模な取り組みは中国の司法史上まれに見る出来事であると多維新聞などが言っているが、再審査が必要な案件が最近多くなったのでなく、党と司法が打ち出した方針だから大規模に行われているのである。
さらに、見直しは刑事事件に限られず、政治犯についても行われており、中国の現代史に登場する人物についても再評価が進められている。こちらの方は、三中全会と言う共産党の重要会議が開かれるので、そこで過去の過ちが正されることを期待しての動きであり、当然政治的な意味合いがある。
歴史的人物の再評価は毛沢東との関係で行なわれる、つまり、毛沢東の考えに異議を唱えたことが正当であったかという形で行われることが多い。40年近く前にこの世を去った毛沢東の扱いが政治的に今なおホットな問題なのである。問題を起こした薄熙来を支持する人たちが少なくないことが話題になったが、彼らの多くは毛沢東路線の信奉者である。
再評価の対象としてここ数ヵ月間に議論の俎上に上った人物は、大臣クラス以上の大物だけでも胡耀邦、趙紫陽、彭徳懐、薄一波、高崗などと多彩であり、高崗などは1950年代前半に失脚した人物である。また、必ずしも復権ではないが、華国鋒や林彪についても部分的には再評価されている。多維新聞が最近、歴史物を連日のように掲載しているのもこのような状況を反映している。
天安門事件で武力行使に反対した第38軍軍長の徐勤先将军は免職処分になっていたが、この人物が今どこにいるかということを題材にした記事が掲載された(多維新聞)ので、名誉回復が近いのではないかとも言われている。

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2013.11.01

「巡視組」の相次ぐ派遣

中国は最近「巡視組」を中央、地方の各機関に派遣している。指導者の不適切なふるまいに関する手紙、電報、訴えなどを受理し、とくに幹部の選抜・任用に関する訴えについて調査し、対応することが主要な任務である。三中全会を控えての事前準備を兼ねていると思われる。
中国は民衆の声を吸い上げ、その不満に対処するため、「信訪」(手紙による直訴)および「上訪」(上京しての直訴)の制度を設けているが、あまり機能していない。訴えようとする人が北京へ行っても、強制的に連れ戻されるなど、悪辣な役人はあの手この手で妨害しており、権力も金もない民衆は結局泣き寝入りさせられることが多いそうである。
一方、巡視組は中央から行政機関や地方政府へ派遣される。「上訪」などとは逆の方法で民衆の不満を和らげる制度である。2003年に創設され、中央規律検査委員会と中央組織部の監督下に置かれている。我が国の金融検査に類似していると言えば分りやすいかもしれない。しかし、いまだに腐敗の根は絶てないことを見れば、この制度もどのくらい効果的であるが疑問の余地はあるが、上海市長の陳良宇を摘発したのも巡視組だったそうである(中国の百科サイト「百度百科」)。
現在行われているのは巡視組派遣の第2陣であり、いくつかの組に分かれている。そのうちの1つは「中国三峡集団」(三峡ダム建設のため設立された公司)に派遣され、また、商務部にも新華社にもそれぞれ別の巡視組が派遣されている。
第2陣の巡視対象は、山西、吉林、安徽、湖南、広東、雲南の各省、新華社、国土資源部、商務部、三峡集団であり、第1陣とほぼ同数である。期間は2ヵ月。
百度百科は「2013年は密に派遣されている」と解説している。つまり、習近平政権はこれを多用しているのである。
第1陣の巡視組が派遣された貴州省では、省共産党委員会常務委員の廖少華が摘発された。その際調査にあたった巡視組組長は、まだ権力とカネを取引する指導者がいる、と語ったそうである。

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2013.10.31

パク・ハンチョル憲法裁判所所長の慰安婦関係発言

パク・ハンチョル韓国憲法裁判所長が10月29日、ハーバード大学ロースクールで講演を行なった。立場上、また、場所柄、法的な議論を期待したいが、パク所長の主張は日韓間の関係条約に照らし説得力があるか疑問である。
1965年の日韓請求権協定について、パク所長は「日韓間の民事債務、債権関係に限ったもので戦争犯罪は含まない」としている。また、パク所長は河野談話が日本政府による強制を認めているかのように言っているが、同談話が認めたことは「業者らがあるいは甘言を弄し、あるいは畏怖させるなどの形で本人たちの意思に反して集めるケースが数多く、さらに、官憲等が直接これに加担するなどのケースもみられた」「慰安婦たちは戦地においては常時軍の管理下において軍とともに行動を共にさせられており、自由もない、痛ましい生活を強いられていたことは明らかである」ということであり、それ以上のことではなかった。
日本として慰安婦をそのような状況においたことについて責任を負うのは当然であるが、法的に戦争犯罪と言えるか、その概念は最近明確化されてきたものであり、よく分からない。法的には、戦争犯罪の構成要件いかんなどは明確にした上で議論していかなければならないのではないか。
また、パク所長は、請求権協定が締結された時慰安婦問題は議論に出ていなかったと言っている。このこと自体は事実であるが、当時、交渉は請求権の問題で行き詰っており、協定締結を以って請求権問題は「完全、かつ最終的に解決された」と規定した(第2条)のは、そうしなければいつまでも解決できなくなることを両国政府が恐れたからである。この規定は、その時に表面化していないことについてもあてはまるというのが日本政府の理解であり、もし韓国側がそうでないと主張するのであれば、やはりその説明が必要である。
「謝罪」については、パク所長は講演のなかで矛盾したことを言っている。もっとも、これは報道に問題がある可能性もあり、実際の発言は、「日本政府はいったん謝罪したが、その後謝罪しないという態度に変わった」ということかもしれない。それなら明らかな矛盾はないが、事実には反している。日本政府は謝罪しており、橋本総理の謝罪書簡を被害者に直接届けている。そのことを無視してはならない。
一方、韓国政府は、憲法裁判所の慰安婦問題に関する「日韓会談では協議されていないので未解決であり、韓国政府が、日本政府と解決のための協議を行なわないでいるのは、政府に国民の人権を守る義務を課している韓国憲法に違反する」との決定(2011年8月30日)を受けて、9月15日、日本政府に日韓請求権協定第3条に基づく協議を求めたが、日本政府は、「日韓請求権協定で解決済み」として協議に応じていない。表面的には、3条で決められた協議に応じるべきだという議論も可能に見えるが、竹島問題はちょうど日韓の立場が逆になっており、日本政府が国際司法裁判所での解決を望んでいるのに対し、韓国政府は応じない。慰安婦と竹島は異なる問題であるが、政治的には関連があるかもしれない。
韓国政府が真に第3条の協議による解決を希望するなら、竹島問題についても同様の態度を取ることが一案である。
また、同じことが日本政府についても言える。日本が竹島問題のICJでの解決を望むならば、慰安婦問題についても請求権協定第3条にしたがっての解決を図るのが一案となろう。

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