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2013.11.12

集団的自衛権に解釈を変えるべきか

2013年10月19日付の朝日新聞オピニオン欄に掲載された寄稿
「集団的自衛権の行使を巡る論議が再開されている。日本は国際貢献を強化し、他の国と同様の義務を果たすためには自衛隊が必要最小限の武器を携帯すべきだ。必要ならば憲法を改正すべきだと思うが、集団的自衛権の解釈変更によって対応しようとすることには、三つの疑問がある。
 懸念している具体的な事態は、2001年のアフガニスタン戦争のような場合である。9.11の同時多発テロを受け、米国は自衛権の発動として国際治安支援部隊(ISAF)の行動とは別に「不朽の自由作戦」を展開した。
 自衛権発動には、急迫不正の侵害があることなど三つの要件を満たす必要があるが、国際社会ではあまり厳格に判断されない。アフガニスタンが米国を直接攻撃したわけではないのに、国連安全保障理事会は米国の自衛権発動を認めた。日本が集団的自衛権を認めることになれば、このケースでも米国に同調して米国の作戦に参加することになるのであろうか。それは日本も自衛権発動の要件を緩やかに解することにならないか。
 第二に、日本はそもそも米国と肩を並べて戦争することが望ましいのか。米国は巨象のように、少々の手続きや規則違反など構わず、正しいと信ずる道を突き進むような傾向がある。他の国はどこかおかしいと感じながらも、明確に反対を唱えにくいのが現実だ。米国が世界の平和と安全の維持において、特別の役割を事実上担っているからであろう。米国が特別であるという現実を無視して、日本があやふやな解釈に基づき、米国と同じことをしようものなら大やけどを負う恐れがある。
 第三に、集団的自衛権の行使を認めると、日米安保条約で定められている以上の義務を日本に負わせることにならないか。
 公海上の米国船舶が第三国から攻撃された場合に、日本が能力的に応戦できるにもかかわらず「集団的自衛権を行使できない」という理由で米船舶を助けないのは問題だと言われる。
 しかし公海上の米船舶を防衛しないのは、集団的自衛権の行使ができないことが理由ではなく、日米安保条約の規定する防衛範囲ではないからだ。もし日本が公海上の米船舶を防衛することが必要だと判断するならば、集団的自衛権の行使の解釈変更ではなく、安保条約を改正すべきなのだ。
 尖閣諸島に対する第三国からの侵略に米国が防衛の義務を負うのは、安保条約に定められているためで、集団的自衛権によるものではない。国家として同盟国との関係でどのような義務を負うかは、条約で明確に定めるのが基本だ。」

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2013.11.11

イランの核問題に対する日本の協力」

イランの核協議は、イランの核開発の縮小と引き換えに同国への制裁を緩和するという第一段階は合意に近いと思われていたが、9日と10日の協議で合意は成立しなかった。しかし、交渉は決裂したのではなく、イラン側も米国やEUの代表も今回の協議で重要な進展があったと述べるなど積極的な意義があったことを認めており、20日には協議が再開されるそうである。
このように第一段階は進展しているが、イランの核協議が最終的な合意に到達できるか、この点についてはまだ不透明、というより、明らかな違いがある。米欧は、兵器に使われる高濃縮ウランの製造はもちろん、医療用などに利用される低濃縮度のものもすべて禁止されるべきだという考えであるのに対し、イラン側は低濃度のウラン製造を禁止される理由はない、原子力の平和利用は主権国家が有する権利であり誰にも奪われないと主張している。
ジュネーブでの協議と同時期に岸田外相がイランを訪問し、ロハニ大統領と会談した。日本はイランの核協議に参加していないが、イランの核開発には強い関心を抱いている。また、イランは日本の原子力平和利用、とくに国際的に核サイクルを認められていることに関心を持ち、イランは日本のようになりたいとさえ言っている。そのような事情があるので、日本としてイランの核開発問題の解決に協力する用意があるとの姿勢を示すことは重要なことである。
注目すべき点は2つある。岸田外相がロハニ大統領に対し、包括的核実験禁止条約(CTBT)の早期批准を促したのは、イランは核兵器の開発はしないことを関係国に理解させるために一つの有効な手段となりうるとの考えからである。この条約は平和利用の問題は全く扱っておないので、低濃縮ウランに関するイランの主張の是非を問題にすることなく、核兵器は開発しないというイランの主張を国際社会に理解させるのに役立つわけである。
もうh1つのポイントは、国際原子力機関(IAEA)による査察に対しどのように対応するのがよいか、国際社会に理解してもらうにはどうすればよいかについて日本には経験とノウハウがあることである。これは核兵器国には分からないことであり、現在イランと核協議している国のなかではわずかにドイツでけが日本と同様の状況にあるが、ドイツはEUの一員であるため、日本のようにイランとの協力関係には立てない事情があり、したがって査察に対しどのように応じるかという肝心の問題について日本は独特の立場にある。
イランは今後長期にわたってIAEAの査察を受けることになるだろうが、日本の経験とノウハウが役立つのであり、イランが日本の例に見習うことが望ましい。また、日本としても岸田外相が述べたように、イランとIAEAとの交渉でイランを支援する用意があることを示すことも重要である。
イランの核協議が次の段階にまで進むには、査察について明確な合意が作られ、実行していくことが鍵となるだけに、日本が協力する余地は増大していくのではないかと思われる。

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2013.11.10

モンゴルにおける核汚染

モンゴルで深刻な核汚染問題が発生しているが、日本では一般にはまだよく知られていない。この問題を最初に報道したのは2011年5月9日付の毎日新聞だそうで、その後、日本以外も含めいくつかの報道が続いている。研究者や活動家は現地からのルポにより被害状況を伝えている。
モンゴルでのウラン鉱開発はソ連の手で行われていた。その鉱山はすでに閉山されているが、最近フランスのアレバ社が新しい鉱脈の発見に成功している。また、モンゴルは日本の核廃棄物の処理場として候補に挙がっており、日本政府はモンゴル政府と話し合いを行なっているようである。
問題の放射能汚染は、しかし、深刻であり、ソ連が引き上げた後も建物などは放射線で汚染され危険な状態のまま残っており、生活用水が放射能で汚染されているらしい。また、フランス系の企業による試掘からもすでに被害が出ていると言われている。
とくにひどいのは家畜の被害であり、双頭のヒツジや目が見えないラクダが生まれ、内臓にただれや血腫を持つものもあるそうである。
ウラン資源の利用については経済的なメリットがありうることからモンゴル政府は積極的であり、また、日本との間で廃棄物処理場を提供することについても前向きなようだが、放射能汚染の悲惨な状況については正確な情報の提供が求められる。
11月9日の朝日新聞は、ある日本人女性が中古のカメラ付き携帯を集めて、現地の遊牧民に送っていることを報道した。写真を集め、核汚染の広がりや現状を明らかにしたい、という思いからだそうである。その人は大学でモンゴル語を学び、20年前から毎年ゴビ砂漠に通い、遊牧民の暮らしぶりの変化を追ってきた。「急速な市場化が進み、公害が深刻化している。当地は家畜を血の一滴まで食べる文化。人間に影響が出ないわけがない」として、今夏、研究会誌で核問題特集を組み、論文を掲載した。子どもの被曝(ひばく)を防ぐ冊子のモンゴル語訳にも取り組むそうである。非常に貴重な努力である。

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