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2014.06.28

張志軍国務院台湾事務弁公室主任の台湾訪問

中国の張志軍国務院台湾事務弁公室主任(閣僚)が6月25日から4日間、台湾を訪問し、台湾側のカウンターパート王郁琦行政院大陸委員会主任と会談した。ハードなスケジュールであったが、2009年の台風で大打撃を受けた高雄市の小林村を訪問し、被災者を慰問するなど両岸の友好関係増進に努めた。なかでも高雄市の陳菊市長(民進党)との会談は注目された。
しかし、台湾では民衆から敵意も見せつけられた。27日の聯合報は、26日夜、張志軍が2時間半にわたって10人の学者から意見を聞いたことを報道している。
淡江大学の王高成教授は、中国は中華民国が存在している事実を直視すべきである、もし中国が相変わらず「一つの中国」にこだわり、中華民国の身分(注 地位という意味か)問題に対応しなければ、また、「一つの中国」の原則からさらに進んで「両岸は一つの国に属する」というならば、台湾人民の「疑慮(原文通り)」を引き起こすだろうと発言した。
ある学者(氏名は表示せず)は台湾の国際組織への加盟問題に言及し、「私の娘は、台湾はなぜ国連に入れないのと言い、中国共産党を嫌悪している」と発言した。
これに対し張志軍は次のように答えたそうである。
「国家の地位(定位)、両岸の地位(身分)、国際空間などの問題は直ちに回答できず、大陸に持ち帰って検討したい」「台湾が、中華民国の地位(定位)、国際空間問題、軍事脅威問題などを含め中国との政治的協議を拒否しているために問題が未解決になっている。」

学者の娘の発言がどの程度台湾人全体の気持ちを表しているか、一般論としては取り上げることすらはばかられるが、中国が台湾の国際機関への加入を妨げていることはかねてから台湾人の間に広く共有されている認識であり(当然のことであるが)、張志軍は今回の訪問中にこれ以外にも同様のことを聞いた可能性がある。

2003年、中国で発生したSARSは台湾にも波及し、数十名(73人とも言われている)の死者を出した。その際、台湾が世界保健機関(WHO)に加盟していなかったために情報の伝達や対応が遅れたことが指摘され、台湾のWHO加盟運動が燃え上がり、6年後の2009年、ようやく台湾はWHOの会議にオブザーバーとして出席することとなった経緯がある。その際の台湾の表記は「Chinese Taipei(中華台北)」とすることで妥協が図られた。
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2014.06.26

ブレアー提督の中国観

米国の前アジア太平洋軍司令官、デニス・ブレアー氏は、「中国はcontaining itself」と評している(加藤洋一名の記事『朝日新聞』6月26日付)。これを日本語に訳せば「自ら孤立を招いている」に近いが、ちょっと違う。containには「各国が中国を包囲して封じ込める」という意味合いがあるが、「自ら孤立を招く」には「封じ込める」という感じはないからである。ブレアー氏は、少し解説すれば、「中国は、各国が中国を封じ込めるように自らしている」ということである。中国封じ込めは第二次大戦後の米戦略の要点であった。少なくとも1970年代初頭の中国との和解までは米国の基本方針であった。これに中国は強く反発していたのは当然である。中国にとっては、「米国が日本や各国をけしかけて中国の封じ込めを図っている」からであった。
ブレアー氏はこの経緯を踏まえつつ、今は中国が米国に代わって「中国を封じ込めている」というわけである。その説明としてブレアー氏は、中国がアグレッシブであること、そのため中国以外の各国が連帯を強める結果となっていること、また、中国はただ自国だけの利益の確保に専念していることをあげている。現在の中国、海洋大国になることをひたすら求めている中国、東シナ海および南シナ海で「相手のものは自分のもの、自分のものは自分のもの」的な態度を取っている中国の特徴をよくとらえている。
また、ブレアー氏は「中国の拡張主義には限界upper limitがある」とも述べている。これも面白い評である。とくに中国は、軍事衝突を起こせば経済面で受ける損失が大きすぎて堪えられないからであるという指摘も正しい。
しかるに、そうであるならば、中国はなぜそこまで各国を刺激し、連帯を強めさせる前に自己抑制をしないのかという問いを発せずにはおられないが、そうなると中国軍の横暴、さらには現体制維持という共産党にとっての究極の問題にまで議論しなければならないかもしれない。

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2014.06.25

中国のジブチ進出

紅海からインド洋に出る要衝の地にある小国ジブチに米中両国が積極的に働きかけていることを紹介する記事が6月24日付『朝日新聞』に出ている。人口90万人、GDPは15億ドルくらいであるが、中国は港湾施設運営会社への投資、新港や港湾鉄道の建設などでジブチのGDPをはるかに超える額の金をつぎ込んでいる。それと同時に中国軍も積極的な姿勢を示しており、将来基地を置くことになるとも噂されているそうだ。
米国はすでに基地を置いており、定員3千人だが4500人が駐留している。ジブチ政府は1977年の独立以来親米的で、1990年の湾岸戦争、2001年の米国での同時多発テロ攻撃後の対策にも協力し、2002年には米軍基地を受け入れた。かつてのフランス外国人部隊の基地Camp Lemonnierである。
ジブチの隣国ソマリアはエチオピアとならぶ大国であり、米国はかつてソマリアで苦い経験をしたことがあった。最近は、2012年に成立したソマリア連邦共和国との関係改善が進み、外交関係も回復したが、米ソマリア関係においてこのような変遷があった間、ジブチの米軍基地は米国にとってきわめて重要な役割を果たした。米国のアフリカに対する経済、人道援助はかなりの部分ジブチ経由で行なわれている。なかでもテロ対策にとってこの基地の存在は重要である。
そこへ中国が乗り込んできたが、米国はジブチとの友好関係を固め、2014年には基地の使用延長(30年)について合意を取り付けた。しかし、賃料は年間71千万ドル、ジブチのGDPの約20分の1だそうだ。

中国のジブチへの進出の意味・インパクトを考えてみたい。
○ここでも超巨大国家とミニ国家という基本的図式がある。中国が太平洋の島嶼国家に進出するのと同様のアンバランスがある。中国がジブチのインフラなどの建設のため投入している資金はジブチのGDPを超える規模である。そのインパクトの大きさははかりしれない。
○ジブチの人口は九十万人であり中国が一定の戦略目標を立てて進出してきた場合、現地労働者では需要増を賄いきれない。だから中国人労働者が増加する。
○何人の中国人労働者がシブチに入国しているかよく分からない。中国が興味を持つアフリカの国では万の台の中国人が働いている。日本が百の台であるのに比べ、百倍~数百倍であり、比較にならない。リビアの政変で外国人が避難した時も日本人と中国人の数はそのくらい違っていた。
○米国のジブチにおけるプレゼンスに中国人の数が影響するとは思われない。中国人は専用の宿舎からあまり外出しないだろう。しかし、政府間では中国人労働者の関係でさまざまな措置が必要になる。この影響が米国にもおよんでくるかもしれない。
○中国が軍事的にもジブチに興味を持つのはその近海で行なわれている海賊対策の関係が主であろう。この面では米中、また、日本も共通の利害関係にある。日本は、哨戒機(P3-C)などの活動拠点をジブチの空港に置き、また、海賊対策のための諸活動を調整するための現地事務所を設置している。

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