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2014.11.11

米国の核非人道性会議への参加

米国は、12月にウィーンで開かれる核兵器使用の人道的影響に関する国際会議に参加すると発表した。この会議は、5年に1回の核兵器不拡散条約(NPT)の再検討会議を2015年に開催するために準備を進める過程で、核兵器の非人道性を確立しようとする運動がスイスやノルウェーを中心に起こったのがそもそもの始まりであった。2012年5月NPTの第1回準備委員会でのことであり、その時は核廃絶に熱心な16ヵ国が「核軍縮の人道的側面に関する共同声明」を発表した。それ以来、国連総会の第1委員会(軍縮を審議)や各国がホストする国際会議が開催されるたびに声明に参加する国が増加し、今年の国連総会第1委員会では過去最多の155カ国(昨年は125カ国)が賛成した。
日本は当初参加しなかった。米国の核の傘にありながら、核兵器は非人道的であることを確立する運動には参加できないと考えたからである。しかし、これに対しては、唯一の被爆国としてあまりにも消極的であり、なんとか工夫して声明に参加すべきであるという意見が強まり、政府も改めて検討した結果、2013年10月、第1委員会で初めて参加した。
一方同じ第1委員会で、オーストラリア政府は同じ題名の声明を17カ国連名で発表したが、こちらは「核兵器を禁止するだけでは廃絶できない」「人道の議論と安全保障の議論の両方が重要だ」といったことが強調されており、日本はこの声明にも署名したので両方に署名したこととなり、論議を呼んだ。
これはともかく、米国は今年の第1委員会に至るまで一貫して声明に参加しなかったが、今年末にウィーンで開かれる会議には参加することとしたのである。この新しい決定について米国務省のスポークスマンは11月7日、次の説明を行なっている。
○米国はウィーン会議の議題を注意深く検討し、またホスト国のオーストリアと議論した結果、会議の参加国と建設的な協力(engagement)ができる見通しがあると判断した。
○この会議は核軍縮の交渉、あるいは予備交渉を行なう場ではないと考える。米国はそのような試みには与しない
○ウィーンの会議では米国の考えを説明したい。この会議は米国が達成した重要な進歩と核兵器が2度と使用されないための条件を作り出すのに米国が払った努力に光をあてるよい機会になるであろう。

これまで米国の他ほとんどすべてのNATO諸国は核兵器の非人道性に関する会議に参加しなかった。そのなかにあってノルウェーはこの運動の先頭に立つ異色の存在であった。
一方、フランスはかねてより独自の核戦略理論を持ち、ある意味では米国よりも核兵器の有用性を重視する国であった。米国のウィーン会議参加表明で他のNATO諸国にどのような変化が生じるか、とくにフランスの対応いかんが注目される。

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2014.11.09

日中11・7合意を再度論ず

7日に達成された日中合意について両国内部で批判する声も上がっているが、客観的にどのように評価すべきか。どちらが多く譲歩したか。比べる必要もないし、そうすべきでないが、留意しておくべきことがいくつかある。

○この合意により、約3年ぶりとなる日中首脳会談開催の道をつけた意義は大きい。
○中国はこれまで日本政府による尖閣諸島の国有化を目の敵のように攻撃してきたが、国有化問題に触れない内容で合意した。尖閣諸島を日本政府が所有しているという状態は今後も変わらない。
○尖閣諸島に関し「領有権問題は存在しない」という日本政府の立場について合意は何も言っていない。領有権問題について意見の相違があるとも言っていない。「日中両国は尖閣諸島等東シナ海の海域において近年緊張状態が生じていることについて異なる見解を有していると認識し」と言っているだけである。日本政府は今後も「領有権問題は存在しない」という立場を維持していくであろう。
○8日付の中国共産党機関紙・人民日報は「中日双方は初めて釣魚島問題について、文字として明確な合意に達した」と指摘した。これは事実上中国政府の公式見解である。「釣魚島問題について明確な合意に達した」と言うが、その合意がどのような内容かが問題であり、それについて合意文書は「両国は尖閣諸島等東シナ海の海域において近年緊張状態が生じていることについて異なる見解を有していると認識し、対話と協議を通じて、情勢の悪化を防ぐとともに、危機管理メカニズムを構築し、不測の事態の発生を回避すること」が合意内容だと言っている。それ以上のことではない。
○さらに人民日報は、「文字として合意した」と述べている。「文字として」は特に問題視する必要はない。結局重要なことは合意したことの内容である。
○合意文書は、尖閣諸島等東シナ海での緊張状態について、国際法に従って解決を図るべきであるという日本側のかねてからの主張に何も触れていない。双方は「対話と協議」および「危機管理メカニズム」により情勢の悪化を防ぐと言っているが、これに加えて「国際法に従って」と言う一言を挿入したほうがよかったのではないか。もっとも、中国側がそれに触れたくないのは明らかであり、日本側がこれにこだわると合意達成は困難だったかもしれない。実際に日本側からこの点を主張したかどうか知らないが。
○靖国神社参拝については、合意第2項の「双方は、歴史を直視し、未来に向かうという精神に従い、両国関係に影響する政治的困難を克服することで若干の認識の一致をみた」をどのように解釈するか。合意文書の中で「若干の認識の一致をみた」と言うのはめずらしいどころか、稀有なことである。「若干の認識の一致をみた」とは一致しなかったことがあることを意味している。そうすると、この2項はいわゆるagree to disagreeの一例か。ともかく、靖国神社参拝については、中国は今後も抗議の声を上げ続けるであろう。日本側がそれを完全に無視すると両国関係は再び落ち込むであろう。つまり、歴史問題については明確な合意に至らなかったが、日本側としても一定の配慮が必要である。

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2014.11.08

谷内国家安全保障局長と楊潔篪国務委員との合意

谷内(やち)正太郎国家安全保障局長が6日に訪中し、首脳会談の実現に向けて楊潔篪(ヤンチエチー)国務委員(副首相級)と調整した結果、合意に達し、日中両国はそれぞれ次の合意文書を発表した。

(日本側)
「日中関係の改善に向けた話し合いについて
              2014年11月7日
 日中関係の改善に向け、これまで両国政府間で静かな話し合いを続けてきたが、今般、以下の諸点につき意見の一致をみた。
1.双方は、日中間の四つの基本文書の諸原則と精神を遵守(じゅんしゅ)し、日中の戦略的互恵関係を引き続き発展させていくことを確認した。
2.双方は、歴史を直視し、未来に向かうという精神に従い、両国関係に影響する政治的困難を克服することで若干の認識の一致をみた。
3.双方は、尖閣諸島等東シナ海の海域において近年緊張状態が生じていることについて異なる見解を有していると認識し、対話と協議を通じて、情勢の悪化を防ぐとともに、危機管理メカニズムを構築し、不測の事態の発生を回避することで意見の一致をみた。
4.双方は、様々な多国間・二国間のチャンネルを活用して、政治・外交・安保対話を徐々に再開し、政治的相互信頼関係の構築に努めることにつき意見の一致をみた。」

この合意に関し、日中両国でそれぞれ反応が出始めている。日本では、尖閣諸島に関し日本政府が従来一貫して維持してきた「領土紛争はない」とする立場を変え、譲歩したとする批判や、中国では、この合意では日本側は尖閣諸島について従来からの立場をなんら変えていない、したがって習近平主席が安倍首相に会うのは賢明でないという意見である(7日付の『多維新聞』が紹介している)。

これについてとりあえず気が付く点は次のとおりである。
○この合意により日中首脳会談開催の地ならしが行われたと見てよいが、首脳会談開催を確定したものではなく、予定されている外相会談でもその確定のために協議が行われる。そして実現することが望ましい。
○尖閣諸島に関し「領土問題は存在しない」という日本の立場は変わっていない。そのことは中国側でも明確に認識しているであろう。今後対話と協議が行われるが、「情勢の悪化を防ぐとともに、危機管理メカニズムを構築し、不測の事態の発生を回避する」ためである。領土問題を話し合うためでない。
○日中間で意見が異なることについては国際法に従って解決を図ることを双方で確認できておれば、今回の合意はよりいっそう良いものとなったであろう。
○全体として、中国側は一定程度譲歩しているとみてよい。

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