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2015.12.29

(短評)慰安婦問題の解決に関する日韓合意

 慰安婦問題の解決に関し、岸田・尹両外相が合意に達し、記者会見でその内容を公表した。この合意は画期的だと思う。最大の成果を順に3つ挙げてみる。

 第1に、とうぜんだが、慰安婦問題が最終的に解決されることだ。ただし、これは政府間の合意であり、すべての当事者、関係者が満足したわけではない。政府の外では今後も不満の声が上がるかもしれないが、そのことを勘案しても両政府が合意したことの意義は大きい。

 第2に、韓国政府は、慰安婦問題の解決について、これまでは日本政府に注文を付けるだけであり、いわば評論家的な態度であったが、これからは当事者としてこの問題の解決に努めることとなる。これは大きな態度変更である。
 韓国人元慰安婦に関し韓国政府が日本政府と初めて合意したこともその表れだ。
 新たに設置される基金が、アジア女性基金と異なり韓国政府によって設置されることはまさにそのような韓国政府の姿勢を表している。
 国際場裏で再び韓国人元慰安婦の問題が取り上げられると、今後は両政府が協力して対応することとなる。表向き協力していないように見えても、両政府は今回の合意にしたがって対応するので結局は協力するのと同じことであろう。

 第3に、国家補償、あるいは国家賠償の問題は、今回の合意は日韓双方の立場を損なわない、賢明な解決方式になっている。玉虫色の解決策だが、法的にどのような説明をするかは両国の法律の専門家に任せておけばよい(任せておくしかない?)。ともかく、双方が受け入れ可能な解決方式になっていることが重要であり、それ以上の詮索は無用だ。
2015.12.28

(短文)中国軍の規律は低いのではないか‐『解放軍報』などの指摘

 中国軍の改革、とくに制度面の改革については12月15日に「(短文)中国軍の改革」で紹介した。
 軍の改革は難航しているようだ。以下は中国語新聞の記事の要点(海外と香港に本拠地があるものが主)だが、その中には中央軍事委員会の機関紙『解放日報』が含まれている。信ぴょう性は高い。

 習近平は11月24~26日、中央軍事委員会改革工作会議で軍の構造改革を打ち出すとともに、腐敗、お山の大将主義、地方の割拠、冗官、戦闘力の欠如などを指摘し、克服を呼びかけた。

 中国軍は現状では期待に応えられないからだ。軍の改革には抵抗する勢力がいる。解放軍は生活の場であり、30万人の削減が実行されると彼らの全生活が奪われるので抵抗する。
 軍の規律は低下している。緊張感がなく、軍におれば降格はない、昇進の速度が違うだけと安心しきっている者がいる。
 指導者の中に、「上に政策あれば、下に対策あり」を決め込む者がいる。(注 これは専制君主の圧政に人民が抵抗することを意味する、昔から言い古された言葉である)

 『解放軍報』は次のように指摘している(タイトルは「改革を直視し、最低限の紀律に違反してはならない」 中国共産党新聞網12月18日が転載)。
「すべての党幹部は自問すべきである。政治規律を守っているか。妄りに中央を批判(妄議中央)していないか。軽率な批判をしていないか。政治の噂をまき散らしていないか。みだりに幹部を抜擢したり、兵を動かしたりしていないか。自分の周囲だけを見ていないか。公私の区別をしているか。軍の財産を横流し(変売軍産)していないか。単位の物品を隠匿していないか。やたらと金を使って(突撃花銭)いないか。部下の問題に対して知らぬ顔を決め込んでいないか。改革の秘密を漏らしていないか。
 もしそのようなことがあれば、直ちに停止し、是正しなければならない。さもないと、規律違反から法律違反に進み、やめようと思った時には手遅れになる。」

 軍の改革に対する抵抗があまりに激しいので、范長龍中央軍事委員会副主席は習近平に対し、改革の実行を2カ月遅らせることを提案した。

 軍の改革は戦争があれば進む。米国もロシアもそうであった。中国軍は過去数十年戦争をしなかったために堕落している。鄧小平が軍の改革に成功したのは中越戦争があったからだ。

 軍の改革は2020年に完成するのが目標だが、習近平が実現できるのは一部分だけだろう。
2015.12.26

慰安婦問題に関する韓国との交渉

 慰安婦問題について岸田外相は週明けに訪韓する。日韓間の交渉は大詰めを迎えている印象がある。
 両国を悩ませてきたこの難問が最終的に解決されることを望みたいが、注目点を挙げておこう。

 第1に、日韓両国が合意に達するとして、その合意は文書に記載されなければならない。文書にならない合意は、残念ながら、慰安婦問題を解決したことにはならない。なぜならば、文書に明記されない合意は将来両政府間で異なる解釈を生むからだ。つまり、日本政府が「A」と合意したと言っても、韓国政府は「B」に合意したのだということになる危険が大きいのだ。

 第2に、合意文書には、慰安婦問題は将来二度と問題にしないことを韓国政府が明確に約束しなければならない。しかし、韓国における政府と裁判所の関係にかんがみてこれが果たして可能か、非常に疑問だ。李明博前大統領が慰安婦問題について日本側に善処を求めるようになったのは、韓国の憲法裁判所がそうすべきだと促したからではなかったか。

 第3に、元慰安婦が強くこだわり、日本政府に求めてきた「日本政府による公的補償」については、どのような解決になるのか見えてこない。「新しい基金」を作って償いをするそうだが、日本側はこれと、安倍首相のわび状をもって公的な補償だと主張するのかもしれない。
 元慰安婦は従来からそのようなものでは解決にならないと強く主張してきたが、「新しい基金」は日本で設置されるものであり、その法的性格を韓国側で決定するわけにはいかない。つまり、それが公的な補償か否か、また、それにどこまで近いかなどは、結局は、日本側の説明を受け入れざるを得ない。
 もし、あくまで受け入れないのであれば、かつての「アジア女性基金」による償いの場合と同様の結果になる。

 第4に、韓国政府が日本政府による公的補償についての考えを受け入れる、つまり、公的補償をしないということを受け入れることにしたのであれば、韓国政府の英断であり、交渉をそのように導いた日本政府は称賛に値する。
 しかし、韓国政府は、慰安婦問題は1965年の請求権協定で解決されていないとの立場であり、その立場を変更することになるが、そんなことは本当にできるのか。
 しかも、韓国政府は、将来国際的にこの問題が取り上げられた場合、日本政府だけでなく韓国政府も非難を浴びる可能性がある。むしろ、日本政府に同調した韓国政府が主に責められることも考えられる。韓国政府はそれに耐えられるか。

 今回の交渉ではこれらの諸問題をクリアした上で合意されることを望みたいが、カギとなるのは日本側が取る措置が公的補償か否かであり、それを迂回しては真の解決は実現しないだろう。

 しかし、今回の合意が無意味だというのではない。日韓両政府が慰安婦問題の解決について正式に合意したことはかつてなかったことである。今回の合意は限定的な効果しかないとしても、それなりに政治的な意義はあろう。
 慰安婦問題が両国以外で、国際的に取り上げられる可能性は残るが、その場合でも日本政府だけでなく、日韓両政府が共同して対処できる。これも大きな効果だ。
 今回の解決の積極的意義を生かすためにも、合意を文書で明確に示すことは絶対的に必要だ。それがないとせっかくの合意も一時的な政治ショーになってしまう危険がある。
 産経前ソウル支局長に対する裁判で無罪判決が出たこと、徴用工の問題で韓国政府は自国内で解決を図る方針としていることなど韓国側は態度を軟化させている兆候があるようにも見える。また、水面下ではそのような結果を生み出すのに交渉があったかもしれない。だからといって慰安婦問題の解決が容易になっていると考えるのは危険だ。最終的な解決と、現状で可能な現実的解決とをはっきりと区別した上で合意が達成されることが肝要である。

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