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2022.12.03

日本とクロアチアのサッカー試合

 サッカーワールドカップ・カタール大会の決勝トーナメントに進んだ日本はクロアチアと戦うことになった。クロアチアは前回のロシア大会で準優勝となり世界中から注目され、エースのモドリッチはロシア大会の最優秀選手に選ばれるなどした強豪である。

 しかし、今回、クロアチアは1勝(カナダ)2引き分け(モロッコとベルギー)であり、モロッコに次いで一次リーグを2位通過した。ロシア大会の時より戦力は落ちているともいわれている。スペインとドイツという両優勝候補を破った日本の方が勢いがよさそうであり、日本がクロアチアにも勝つ公算は十分にあると思う。

 クロアチアは日本人にあまり知られていない。1990年代の末まで、バルカン半島の西半分は「ユーゴスラビア」であった。歴史的にはこの国の正式名称は何回も変わったので「ユーゴスラビア」というのは通称にすぎないが、細かいことには立ち入らないでおこう。1991年から「ユーゴスラビア」を構成していた諸国が独立し始め、10数年を経てセルビア、クロアチア、ボスニア(第一次世界大戦はボスニアの首都サラエボから起こった)、スロベニア(ウィンタースポーツで有名)、北マケドニア(ギリシャとのあいだで国名に関して紛争があった)、コソボ(アルバニア系が多数になっている)などに分かれた。

 民族的には、西バルカンの諸民族はすべてスラブ民族である。その使用言語は方言程度の違いはあるが、基本的には同じである。各国とも独自の言語を使用しているように言っており、たとえばクロアチアでは「クロアチア語」を話すと説明しているが、それはナショナリズムのせいであり、実際にはセルビア語とクロアチア語は日本の関東弁と関西弁ほどの違いもない。

 最近では、電気自動車とイーロン・マスクで有名になったテスラ社の名はクロアチア生まれのニコラ・テスラからとったものである。テスラは世界で初めて交流電流を実用化した人物であった。エジソンと同時代であり、エジソンはマルチ発明王として有名だが、テスラは知られていない。しかし、電流の実用化の面ではエジソンは直流であり、後の工業化に貢献した度合いではテスラのほうがはるかに上であった。

 バルカンの人たちはスポーツに達者である。サッカーではモドリッチのほか、ストイコビッチ(セルビア)、オシム(ボスニア)、ハリルホジッチ(ボスニア)が有名である。テニスでは、ジョコビッチ(セルビア)が男子テニス界で君臨しているが、以前にも世界的なトップクラスの選手が何人もいた。オシムはかつてのユーゴスラビアチームの最後の監督であり、日本代表の監督にもなったが、去る5月に他界した。

 残念なことに、西バルカンの諸国は歴史的、宗教的、民族的理由から対立することが多い。その影は今回のカタール大会にも落ちている。

 セルビアは今回一次リーグ突破をできなかった。グループでの最後の試合はスイスが相手であったが、皮肉なことに、セルビアとスイスはロシア大会でも一次リーグでぶつかり、激しく対立した。スイスにはアルバニア系の移住者がおり、決勝点を挙げたスイスのMFシャキリはその一人であるが、アルバニア国旗に描かれる双頭のワシを両手で模すパフォーマンスをしたため、セルビアのサポーターは激しく反発し、差別的な行動を行い、スイスとセルビアはともにFIFAから罰金を科された。

 今回もシャキリはスイス・チームで活躍し、得点も上げた。セルビアのサポーターは収まらず、怒号を飛ばし、ラフプレーが増えたという。セルビアとスイスはどちらも勝てば16強に入る可能性があったが、結局スイスだけが二次戦へ進んだ。両国間のわだかまりは解けないままになったのは残念なことである。政治と民族問題が絡んでいるので簡単でないが、次回の大会までに関係が改善することを望みたい。

2022.11.30

中国共産党大会

 中国共産党第20回大会が2022年10月16日~22日開催された。今次党大会の最大の特徴は、過去10年間中国を率いてきた習近平総書記の独裁体制がこれまでより一段と強化されたことである。

 中国ではいわゆる「改革開放」を進め中国の経済大発展の基礎を築いた鄧小平の後、江沢民、胡錦涛、習近平が相次いで最高指導者となったが、この過程が進むのと並行して「七上八下」という了解が作られた。「党大会時の年齢が67歳以下であれば引き続き現役として活動する(留任する)が、68歳以上であれば退任する」という意味である。この了解は党規約に記載されていないが、党の新陳代謝のために必要であると考えられ、受け入れられてきた。

 江沢民と胡錦涛がこの了解に従ったのはもちろん、習近平も今次党大会開催の時点ですでに69歳になっており、後継者にバトンを渡すものと思われてきた。しかし、習氏は総書記の地位にとどまることとなった。また習以外の人物についても「七上八下」に制約されることなく、自分の思いにあった人事を断行したのでこの了解は大きく崩れた。

 政治局員25名のうち、党内序列3位の栗戦書全国人民代表大会常務委員長、7位の韓正副首相、劉鶴副首相、外交部門トップの楊潔篪中央外事工作委員会弁公室主任は引退することとなった。いずれも68歳以上である。

 2位の李克強(リーコーチアン)首相と4位の汪洋全国政治協商会議主席は67歳であるが引退することになった。習近平氏の最有力候補とみられたこともある胡春華副首相は59歳と若いが、政治局から外れた。政治局員の数は1名減って24名となった。
 
 李克強は北京大学卒のエリートである。経済に明るい実務家で、過剰な景気刺激策に頼らない経済政策を提言し、「リーコノミクス」ともてはやされたこともあった。
 しかし、習近平とは肌合いが合わないと噂されることもあった。李氏が力を入れた産業政策「中国製造2025」も次第に空文化した。李氏が災害被災地へ駆けつても報道は抑えられるようになった。
 新型コロナが広がった際、政権批判を懸念した習氏は「感動的なストーリーを積極的に報じよ」と命じたのに対し、李氏は「正確な数字、真実を報告せよ」と指示したという。2022年に入ってからも、「ゼロコロナ」の徹底を指示する習氏に対し、李氏は失業率低下への対応を全国オンライン会議で呼びかけた。
  
 そして、習氏が今次党大会で最高指導者の地位を固め、国家主席として3期目続投を確実にする一方で、李氏は引退することとなった。李克強、汪洋、胡春華はいずれも共青団出身である。習近平は共青団に強く批判的だというのがもっぱらの噂である、。

 李克強や胡春華の冷遇にもまして注目されたのは今次党大会の閉幕式で、共青団の大御所的存在であった胡錦濤前総書記が党規約改正案が採決される直前に突然会場から退席したことであった。胡氏は習氏の隣に着席しており、シンガポールメディアの映像では、目の前に置かれた書類を見せないように習近平国家主席に近い幹部が書類を押さえたように見えた。そして会場のスタッフが胡錦涛を扶ける(?)形で連れ出した。この間の出来事は中国の主要な国営メディアは報じなかったが、各国メディアの映像で世界に伝えられた。胡氏は強制的に退席させられたのであり、その理由は習氏への権力集中に対し不満を表明する恐れがあったからだとも言われた。

 一方、今次党大会で重用されたのは習氏とかつて部下として仕えるなど人的つながりがある者か、過去10年間に習氏への忠誠を示した者がほとんどであった。政治局常務委員(トップセブン)に選ばれたのは習近平総書記(69)、李強・上海市党委書記(63)、趙楽際・中央規律検査委員会書記(65)、王滬寧・中央書記局書記(67)、蔡奇・北京市党委書記(66)、丁薛祥・中央弁公庁主任(60)、李希・広東省党委書記(66)の7人で、王滬寧以外はかつて習氏に仕え、信頼を得た人物である。
 王毅外相は69歳であるが留任した。同人は元来穏健・合理的な人物であるが、最近は外相として各国外相などと渡り合い、カナダでの記者会見では遠慮のない質問をした記者を面罵するなど、習近平総書記の忠実なしもべを演じていた。

 人事を見る限り習近平の独裁体制が確立されたことは明らかであったが、他方であまりに行き過ぎないよう抑制した面もあった。今次大会では習近平の「党中央・全党の核心」としての地位と思想の指導的地位を確立する「二つの確立」が党規約に盛り込まれるとの見方があったが、結局それは見送られ、「中国式現代化によって、中華民族の偉大な復興を全面的に推進する」といった文言が新たに盛り込まれた。「党主席」の復活や習氏に対する「領袖(りょうしゅう)」の肩書も明記されなかった。

 大会開催前の13日、北京市内の高架橋に「独裁の国賊、習近平(国家主席)を罷免せよ」と書かれた巨大な横断幕が掲げられるという異例の事態が起こった。それには「封鎖は要らない、自由が欲しい」「領袖(りょうしゅう)は要らない、投票が欲しい」などとも書かれていた。封鎖はゼロコロナのことである。この横断幕はすぐ撤去されたが、SNSで拡大した。

 大会開催中の18日に予定されていた、7~9月期国内総生産(GDP)など経済統計の発表が前日の夕方突如延期されたことも注目された。中国経済の数字は日本などと比べればずっと良い状態のようだが、コロナの影響もあり、年間目標の5.5%前後の達成は困難になっており、今後の見通しは明るくない。
 
 習近平の独裁体制は台湾進攻につながると見るのは早計であろう。同氏は政治活動報告において、台湾問題について平和的統一に最大限努力すると述べる一方、「武力行使の放棄は決して約束しない」と強調した。多くのメディアは、これは強気の発言であり、武力行使に近づいたとの趣旨をコメントしたが、はたしてそう取るべきか。「武力行使の放棄を約束しない」には不自然さも感じられる。強気の姿勢を求める中国軍と武力行使を認めないとする米国の間を取ったのではないか。習近平は、前回の党大会(2017年)では「一つの中国」に関する「92年合意」に4回言及したが、今回はわずか1回だけであり、しかも、この部分を読み飛ばした。習近平政権にとって台湾の統一は今後も最重要課題だが、具体的な政策をどう展開するつもりか、まだ見えてこない。
2022.11.28

台湾の地方選と中台関係

 台湾で統一地方選が11月26日、投開票された。蔡英文総統の与党・民進党は台北市長選などで敗れたほか、首長ポストの獲得が全土の4分の1以下にとどまった。惨敗であったとみられている。蔡英文氏は民進党主席を辞任した。

 今回の地方選挙は2024年に行われる次期総統選の前哨戦であり、総統選でも民進党が敗北し、最大野党の国民党が政権を奪取する公算が高くなったとみるのは単純すぎる。

 台湾の政治は、変化が速い面と岩盤のように変わらない面がある。変化が速いのは民進党か国民党かという問題である。2018年に今回とよく似た状況があった。蔡英文は2016年に総統になり、18年の地方選で大敗して主席を辞任したが、20年に再任された。その原因の一つは、19年の香港の抗議デモを中国が厳しく弾圧したことであったが、それにしてもその時の変化は大きく、かつ早かった。

 岩盤は台湾人がますます台湾化していることである。台湾人の圧倒的多数は現状維持を望んでおり、中国との統一を支持するのは10数パーセントにすぎない。この傾向は民進党であろうと、国民党であろうと無視できなくなっている。国民党はもともと同党の下での、つまり共産党の下でない「統一」を標榜していたが、今や「現状維持」を支持する姿勢を強めている。

 今回の地方選でもこの潮流は変わらなかった。大勝した国民党の朱立倫(チューリールン)主席は「国民党ではなく、台湾の民主主義の勝利だ」と述べていた。この言葉は意味深長である。民主主義は中国にはないという認識が強い台湾人に対して、「国民党は中国寄りでない。台湾人の味方だ」という印象を与えようとしているのである。

 一方、蔡英文総統は、「中国共産党大会のあとに行われる初めての選挙に全世界が注目している」と、対中関係を争点化しようとしたが、有権者には受け入れられなかったという。蔡氏は「国民党政権では対中接近が復活する。そうなれば、台湾の自由と民主主義は失われる」と示唆しようとしたのであろう。だが、台湾人はそれには乗らなかった。

 民進党は台湾独立を志向する傾向が強く、国民党は中国に近いという構図は崩れつつある。
 台湾人が望んでいるのは、長引くコロナ禍や物価高など身近な問題への対応であり、また新鮮な政治である。7年目に入った蔡政権への若年層の後押しは弱かったという。
 彼らは、民進党と国民党の両立には満足しなくなっている。「台湾民意基金会」の10月の世論調査によると、蔡政権の支持率は51・2%。政党支持率は民進党が33・5%、国民党が18・6%、第三勢力の民衆党が15・8%、支持政党無しが25・1%に上っていた。
 「民衆党」とは2019年8月、台北市の柯文哲市長より結成された政党である。民進党にも国民党にも満足できない第三の勢力であり、中道政治を目指している。本稿で民衆党の将来性を論じる気持ちはないが、民衆党の支持率は国民党に追いつく構えを見せている。政党としての組織力などはまだ国民党に遠く及ばないが、台湾の政治バランスとしては無視できなくなっている。
 今回の選挙で台北市長に当選した蒋万安は蒋介石のひ孫として紹介されているが、その看板だけでなく、3つの政党と若者の政治志向の中から生まれた面も見過ごせない。

 台湾の政治情勢が複雑化の傾向を強めていることは中国にとっても大問題である。中国はこれまで「民進党は台湾独立だ」として警戒・攻撃する傍ら、国民党との関係を強化して台湾の統一を実現するという方針であった。しかし、馬英九政権時代の失敗経験にかんがみ台湾の今回の地方選をどのように受け止めるか、非常に微妙な問題になっているはずである。

 中国国営の新華社通信は26日夜、中国政府で台湾政策を担当する国務院台湾事務弁公室の朱鳳蓮報道官のコメントを伝えた。この中で朱報道官は「結果は『平和と安定を求め、よい生活を送りたい』という主流の民意を反映したものだ」と評価し、そのうえで「われわれは引き続き多くの台湾の同胞と団結し、両岸関係の平和で融合した発展をともに推し進め『台湾独立』の分裂勢力と外部勢力の干渉に断固として反対する」と強調した。これだけで中国の台湾に対する今後の政策を見通すことは困難であるが、中国の反応は控えめである。
 
 先般の中国共産党全国大会の際、一部には、習近平独裁体制の確立とともに中国は台湾に対し強く出てくることを懸念する声が上がったが、これも単純すぎる見方である。中国の対台湾政策は、内外の情勢を考慮して実行されている。中国内には軍などに強硬派がいるが、中国が危険を冒した結果、元も子もなくしてしまってはならないとする慎重な考えも強いとみるべきであろう。

 中国にとって米国との関係は、口には出さないが壁となっている。米国は台湾の現状維持を望んでいることを闡明している。台湾と中国が話し合いで統一問題に結論を出すのは何ら問題ないが、武力行使には絶対反対するという姿勢をバイデン大統領は明言している。中国をそれに反発しているが、下手に手を出すと、これまで築き上げてきたことを危険にさらす恐れがある。ウクライナ侵攻問題で米国と西側の諸国が団結して当たっていることは中国にとっても大きな問題であろう。

それに、中国は今後経済を立て直すのに注力する必要があり、そのためにも米国や西側諸国との関係をこれまで以上悪化させないよう努めなければならない。そのような諸事情を考慮すると台湾に対して強硬な姿勢は取りにくいと思われる。

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