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2021.05.05

宋学中国海軍副参謀長の罷免

 中国人代網(全人代のサイト)は4月29日、宋学中国海軍副参謀長が重大な規律違反の廉で全人代代表を罷免されたと発表した。実質的には、4月9日開催された軍人代表大会で処分が決定していた模様である。

 全人代と軍人代表大会の中間の4月23日に、宋学副参謀長は、中国が2隻目の空母を建造すること、初の空母「遼寧」よりも大型化することなどを明らかにしたという。処分が決定した後で、このような説明を行うことは異例である。

 宋学副参謀長は、空母と関係が深く、その関連でメディアに説明することがよくあった。空母「遼寧」は海軍の3艦隊のいずれにも属さず、海軍直属となっており、このことにも関与していたらしい。また同副参謀長は装備の担当であり、その地位を利用して賄賂を受け取ったと、4月30日付の米系華字紙『多維新聞』は示唆していた。

 習近平主席は2014年10月に開催された政治工作会議の席で、海軍における腐敗問題を解決しなければならないと述べていた。宋学副参謀長以外にも、海南省軍区元政治委員葉青、江蘇省軍区元政治委員の孟中康、解放軍戦略支援部隊元副司令員兼参謀長の饒開勛、西部戦区陸軍元副司令員の徐向華など5人の高官が全人代代表の資格をはく奪された。
 
 なお、2012年、「遼寧」が就役する際に作られた艦内規則の中に、男女が二人だけになってはならないという趣旨の規定が置かれた。外国人記者がそのことに関して質問をしたところ、米国海軍の空母の内部規則を倣ったのだという説明であった。中国海軍のイメージに合わない出来事が時折出てくる。
2021.05.02

バイデン政権の新北朝鮮政策

 バイデン政権が進めてきた対北朝鮮政策の見直しが完了した。これを発表したサキ米大統領報道官は、「バイデン政権の政策はトランプ政権のような『グランドバーゲン』を重視したり、オバマ政権のような『戦略的忍耐』に頼ったりすることはない」と説明したので「中間政策」と呼べるかもしれない。だが、内容については新味はない印象である。

 バイデン大統領は、中国については日本政府がアップアップするほど力強く対決姿勢を打ち出したが、これに比べ北朝鮮に対する政策の見直しがローキーになることは事前に予想された。バイデン氏にはトランプ氏のような金正恩総書記に対する個人的興味はない。バイデン氏にとって北朝鮮は中国のような危険な相手ではない。北朝鮮にはバイデン氏が重視する人権問題があるが、基本的には北朝鮮国内にとどまっており、またウイグルのようにイスラムを介した外の世界とのつながりはないので、実情を把握しにくく、追及困難だからである。

 バイデン政権は北朝鮮との関係改善をあきらめたわけではなく、今後も進めようとするだろうが、その手法は常識的、官僚的であろう。そうであれば、北朝鮮に対する制裁が解除あるいは緩和される可能性はそれだけ低くなる。

 一方、北朝鮮はバイデン政権の政策見直しの結果を注視してきたが、膠着状態はすぐには打開されないとなると、不満を募らせ、以前の核とミサイルによる挑発的姿勢に戻る危険性がある。これはバイデン政権にとっても看過できない問題になるので、今後の対北朝鮮政策においては、そのような状況にまで北朝鮮を追い込まないことが重要な目標となるだろうが、それだけでは北朝鮮と米国の関係も、東アジアの安全保障環境も大して変わらない。米朝交渉はかつての6者協議のようになって、会議は重ねるが進まないという結果になりかねない。

 米国のこのような対北朝鮮政策で一番困るのは、韓国の文在寅大統領であろう。文氏は今でも北との関係改善に熱意を抱き続けているようだが、客観情勢は韓国が一定に役割を果たした2018年とすでに大きく違っている。金総書記は、文大統領に米朝関係改善に関して役割を与えることに極めて消極的になっている。

 また東京オリンピックを、平昌オリンピックのように南北関係と米朝関係を進めるきっかけにすることは、今やだれが考えても無理である。文大統領の支持率低下の傾向に米朝関係が歯止めになることは考えられない状況になっているのである。

 日本にとってバイデン政権の「中間政策」はとくに都合が悪いわけでない。バイデン氏は、日本や韓国との協働を重視する考えであり、すでに実行し始めている。また拉致問題の解決にも協力を惜しまない姿勢である。

 しかし、そういうことだけで満足すべきでない。北朝鮮を含む東アジアの安全保障環境を改善する努力は常に求められており、北朝鮮が以前の挑発的な姿勢に戻ることは日本としても避けなければならない。日本は、米国が「中間政策」を実行していくのに積極的に協力すべきであり、連絡事務所の設置なども検討対象になるのではないか。
2021.04.30

中国における言論統制はますます強まる

 中国における言論の統制はますます強化されている。4月25日に米国で開催されたアカデミー賞の授賞式で、中国出身のクロエ・ジャオ監督が、非白人女性としてもアジア系女性としても初となる監督賞を受賞し、彼女の映画「ノマドランド(Nomadland)」が作品賞を獲得した。
 ところが、中国の主要メディアは26日、このことを報道せず、また「ノマドランド」は上映中止になった。ジャオ氏が2013年の米国でのインタビューで、10代に過ごした「中国には至る所にうそがある。逃げられないと思った。家族や自分の出自について反抗的になり、突然、英国に行って学んで自分を見つめ直した」と発言したことが今年の3月問題になったからであるとみられている。

 ジャオ氏が2月末、アカデミー賞の前哨戦である米ゴールデングローブ賞の作品賞と監督賞を受賞した際は、中国共産党の機関紙、人民日報は「女性監督として歴史上2人目」と速報し、中国版ツイッターの微博では「素晴らしい作品」「自由こそ優秀な創作の源泉だ」などと大絶賛だった。1か月そこそこの間にジャオ氏の評価が180度変わったのである。この結果、微博で数千万回のアクセスがあったノマドランドの中国語名「無依之地」にハッシュタグがついたページは開けなくなったという。中国の党・政府は、ジャオ氏に関して好意的に報道することを(事実上)禁止したとみられている。

 中国人の映画監督がアカデミー賞を受賞したことを中国人は誇りに思うはずである。にもかかわらず、その監督がかつて中国を批判したという理由で関連報道を禁止すると、中国のイメージは悪化するのではないか。

 世界保健機関(WHO)は3月30日、新型コロナウイルスの発生源などの解明に向けた調査チームの報告書を公表した。「ウイルスが中国、武漢の研究所から流出した可能性は極めて低い」と結論づけており、中国は「科学的な精神を称賛する」と高く評価した。
 一方、日本やアメリカなど14か国の政府は共同声明を出し、「国際的な専門家による調査が大幅に遅れ、完全なデータやサンプルにアクセスできなかったことに懸念を表明する」とした。
 また、ホワイトハウスのサキ報道官はさらに、「全体像の一部しか捉えておらず不完全だ」としたうえで、中国について「透明性がなく、十分なデータを提供しておらず、協力的だとは言えない」と批判した。

 これら14か国の政府が懸念を表明したのは、声明中に言及されている問題があったからだが、その背景には、WHOに中国政府が影響を及ぼしているというイメージがあったのではないか。
 感染が発生した直後に警報を発した武漢の医師が当局から厳しく処分され、結局死亡した(ただしその前に中国政府は同医師を評価するように転じていた)ことや、有名な女流作家が感染の実情を描こうとして当局からにらまれ、中国での出版をあきらめたことなどは周知の事実である。

 さらに時間をさかのぼるが、1月2日、河北省石家荘市でコロナ患者が発生し、6日から全市で対コロナ対策が実施された。結果は早く出て、2月5日には大型ショッピングセンターも通常の営業に戻ったと中国では報道されたが、国外では、ほんとうにそんな短期間で効果が上がるか疑問視する声も上がった。我々外部には何が真実か、中国当局の発表や中国メディアによる報道しかないが、それに頼ることには躊躇がある。

 この他、新疆ウイグル自治区や香港での人権問題においても、中国は、事実無根であるとか、主権国家として当然の措置だとか強い言葉で反発し、世界の声など聞く耳を持たないと言わんばかりの姿勢であるが、中国以外ではそのとおりだと思う人はほとんどいないだろう。

 中国の党・政府として言論統制を必要とする事情は分からないではないが、強圧的な取り締まりを行って言論を封殺すれば中国人の間で不満がたまり、また諸外国の中国についてのイメージが悪化するなど、その悪影響はブーメランのように跳ね返ってくるのではないか。

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