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2017.10.22

安倍政権5年の安保関連体制強化ーその1

 安倍政権下での安保関連体制整備について、2回に分けて寄稿しました。以下は、「自衛」の強化などに関するものです。

「《安倍政権5年》安保関連法で自衛と国際貢献強化 憲法解釈変更に批判も

安倍首相は2012年の第2次内閣発足以来、安全保障体制の強化に積極的に取り組み、2015年に安全保障関連法を改正したほか、いくつかの措置を講じました。その内容は、大きく2つに分けることができます。
 
 第1に、「自衛」を強化しました。具体的には、日本に対する脅威が増大し、日本の平和及び安全に重要な影響を与える事態(重要影響事態)において、自衛隊の行動範囲にかかっていた地理的限定などを取り払い、世界中のどこでも行動できるようにしました。ただし、行動は米軍の後方支援、捜索・救難などに限られています。

 この法改正に基づき、2016年3月の施行以来、海上自衛隊の補給艦は日本海などで北朝鮮の弾道ミサイル発射を警戒する米イージス艦に燃料を補給しています。
 
 また、平時においても 警護や武力行使に至らないグレーゾーン事態での対応、例えば、弾道ミサイルの警戒を含む情報収集・警戒監視について米軍などとの協力が強化されました。この関係でも自衛隊は2017年5月、実際に房総半島沖で任務を開始しました。
 これらの行動について、政府は秘密を要するという理由で公表する場合を非常に限定していますが、それでは政府・自衛隊の裁量範囲が広がりすぎるとして批判する声が上がっています。

 さらに、「自衛」として武力行使(通常「武器使用」と言っています)できるのは、日本が武力攻撃を受けた場合に限られていましたが、法改正により「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態(存立危機事態)」にも行動が可能にしました。これが集団的自衛権の行使になる場合であり、憲法違反の疑いが起こりました。
 しかも、「存立危機事態」であれば、自衛隊は他国に対する武力攻撃を排除するために、その国の領域へ行く可能性が出てきました。しかし、安倍首相はじめ政府関係者は自衛隊が他国の領域に出ていくことはないと答弁しましたので、改正法の記載と国会説明は整合性がとれているか疑問が生まれました。

 第2に、国際貢献の場合です。いわゆる「平和維持活動(PKO)」に参加している自衛隊の行動範囲は厳しく限定されており、同じ場所で活動する他国の部隊や、また日本人であっても自衛隊員でないNGOの人たちが危険な状況に陥った場合でも救助できませんでしたが、この制限を取り除きました。いわゆる「駆けつけ警護」を認めたのです。
 法律の改正後、日本政府は南スーダンに派遣していた自衛隊に「駆けつけ警護」の権限を付与しましたが、実際にそのような活動を行うに至らないまま、部隊は撤収されました。

 もう一つの国際貢献は、いわゆる「多国籍軍」に参加する場合です。PKOとちがって、和平や停戦が前提となっていない場合です。以前は必要に応じて特別法(たとえば「イラク特措法」)を制定して対応していましたが、あらためて恒久法である「国際平和支援法」を制定しました。

 以上のように安保関連法が整備されたのは、東シナ海や南シナ海で国際法に違反して現状を変更しようとする中国や、核兵器やミサイルの開発を進める北朝鮮の脅威が背景になっていました。

 中国は過去20年以上国防費を毎年二けたで増加させ、軍の近代化を進めてきました。また、2013年秋には防空識別圏を尖閣諸島の上空を含める形で一方的に設置しました。2014年の春には中国軍の戦闘機が自衛隊機に異常接近する事態が続発しました。
 中国は第二次大戦後何段階にもわたって南シナ海への進出を強めてきており、そのため周辺の東南アジア職と紛争を起こしました。2016年には国際仲裁裁判所の判決で中国の一方的な行動が否定されましたが、中国政府はそれを無視しました。

 北朝鮮では金正恩委員長の「経済建設と核開発の並進路線」の下、2013年に第3回目の核実験を行い、特に2016年からは核実験(しかも水爆実験とされる大型のものを含む)を3回、ミサイルについては中長距離弾道ミサイルを含め実験を頻繁に繰り返しています。すべてが成功したわけではなさそうですが、その性能は着実に向上していると見られます。金正恩委員長は米国のトランプ大統領と激しく口合戦を行っており、偶発的に衝突が起こる危険があります。

 このように緊迫する東アジアの情勢下で、自衛隊が必要に応じて行動できる範囲を拡大し、国際貢献も各国並みに行えるようにするなど日本の安全保障体制を強化したのは必要であり、また、適切であったと思われます。

 しかしながら、各種法案について十分な審議が行われなかったという批判もありました。前述した「存立危機事態」に関して、法律案に明記されていることと異なる内容の答弁が行われたのもその一例でした。また、審議が途中で打ち切られ、「強行採決」と言われる事態に陥ったこともありました。

 特に憲法との関係では慎重な対応が必要です。日本政府が長らく維持してきた、日本は集団的自衛権は行使できないという解釈を変えたことは多数の憲法学者や行政官(退職者を含む)から批判されました。集団的自衛権の行使は法改正後、現実に起こりえる問題になっています。「存立危機事態」の要件は厳格ですが、朝鮮半島有事の場合要件を満たすことがありえるからです。そうすると、自衛隊は、たとえば米国から要請され出動することとなるでしょう。

 また、安倍首相は憲法改正論議を主導していますが、自衛隊は現憲法で認められていると解釈されているのに、なぜ憲法を改正して自衛隊を明記する必要があるのか国民の多くは理解できていないのではないでしょうか。
 自衛隊を憲法に明記することにより、自衛隊員は立派で崇高な任務についていることを国家として明確に示すことがメリットとして言われているようです。
一方、それは憲法を改正しなくても可能である、「自衛隊」は法律で「防衛軍」と名称を変更することは可能だとも言われています。また、憲法改正の第1号として第9条を取り上げるのは不適切だという意見もあります。環境対策など憲法を改正するなら真っ先に取り上げるべきことがあるからです。

 さらに、南スーダンへの自衛隊の派遣に関し、いわゆる「文民統制」は適切に行われていたか、憲法の「内閣総理大臣その他の国務大臣は、文民でなければならない。」(第66条2項)という規定で足りるか、疑問が生じました。これも今後検討されるべきことと思います。
 安倍首相は7日、ネット討論会で、「シビリアンコントロール(文民統制)をしっかり明記する」と述べました。今後その内容が明確化されることが期待されます。」
2017.10.19

憲法9条は改正すべきか

 憲法9条を改正することについて、検討すべき問題があると思う。

①「自衛」、したがってまた「自衛隊」が憲法に違反しないことはすでに60年以上も前に憲法の解釈として認められたことであり、今や、大多数の国民にその解釈は受け入れられている。憲法を改正する必要性はないのではないか。

②「自衛隊」という名称が不適切であれば、適切な名称に変更すればよい。たとえば、「国防軍」でも「防衛軍」でもよい。それには「自衛隊法」を改正すればできる。9条2項の「陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない」は、このような名称変更にとって絶対的な障壁ではない。
「自衛隊は軍隊でない」ということは国会で政府が繰り返し述べてきたことであり、だから「自衛隊」という名称は変更できないという考えになりがちだが、この国会答弁を修正するのは絶対的にできないとみなす必要はないのではないか。自民党案のように9条を改正して「自衛隊」を書き込んでも過去の国会答弁は自動的に修正されるのではない。

③9条は、日本が先の大戦にどう向きあうかにかかわっている。現在の9条は、日本語としてもほめられるものでない。論理についても問題があるが、それらは技術的な問題である。
9条は、日本が戦争を起こしたこと、かつ、その結果に基づいて再出発したという歴史的事実と密接な関係がある。
 戦争については、日本は努力して反省をしてきたが、戦争のすべての局面が整理されているわけではない。一部には、日本は悪くなかったと主張する向き、戦争指導者を靖国神社に祀ることをあきらめられない考えも存在している。
 そんな状況の中で、9条は日本国と日本国民が戦争について忘れたり軽んじたりしないための重要な記念塔であり、安易に手を付けてはならないのではないか。

④「自衛隊」であれ、「防衛軍」であれ、日本にとってかけがえのないパワーであるが、かつての旧軍のように日本を誤らせないためのカギとなるのは「文民統制」である。しかるに、現憲法には、「内閣総理大臣その他の国務大臣は、文民でなければならない」(66条2項)と定められており、政府はこれで問題ないと答弁してきたが、南スーダンへの自衛隊の派遣をめぐってこの規律だけでは不十分なことが露呈された。
 文民統制は複雑かつ困難な問題であり、自衛隊について9条の改正問題に飛ぶのではなく、まずこの問題の徹底的な検討をすべきでないか。
 

2017.10.18

中国共産党第19回大会(展望)

 本18日から中国共産党の第19回大会が開催される。その見どころに関する一文をザページに寄稿した。

 「中国共産党の全国代表大会が10月18日から開催されます。1921年に初の代表大会が開催されてから第19回目になります。この党大会(「全人代」は議会に相当する「全国人民代表大会」のことで党の会議ではありません)は5年に1回開催されており、毎回重要な決定が行われます。2012年に開催された第18回大会(実際にはその直後の中央委員会総会)では、習近平氏が総書記に選ばれるとともに、6名の新政治局常務委員が決定されました。中国を率いるトップ7です。2012年以前、常務委員は9人でした。政治局常務委員は集団で指導するというのが建前ですが、実際には総書記の指導が優先し、その下で、6人の常務委員は宣伝、経済などそれぞれ担当があります。

 第19回大会では、習近平総書記および李克強首相以外の常務委員は定年(68歳)で退職することになっており、あらたに5名が選ばれます。その中には、将来、習近平総書記が引退した後の指導者が含まれます。総書記は常務委員の中から選ばれると党規約で定められているのです。したがって、今回の党大会は、習近平政権の第2期の始まりであると同時に、次期体制への橋渡しとなるものです。

 具体的な総書記候補は新常務委員の発表の序列から推測可能です。さらに党大会の約5ヶ月後に習近平氏は国家主席兼中央軍事委員会主席に再選されます。その際副主席となる人物が、5年後に習近平氏の後継者として国家主席、党総書記および中央軍事委員会主席に選ばれる最有力候補となります。習近平氏自身もそのような経緯を経て現在の3ポストにつきました。
 なお、習近平氏の任期を2022年後にも延長しようとする動きがあると一部に伝えられていますが、どこまで確実なことか不明です。

 具体的には、さる7月、重慶市の書記(ナンバーワン)に就任した陳敏爾氏が習近平氏の有力後継者だと言われています。
 一方、5年前に最有力候補と目されていた胡春華氏(現在は広東省書記)は、習近平氏が批判している共産主義青年団(共青団)の出身であるため不利な状況にあり、余計な問題を起こさないよう言動に注意しているとも伝えられています。共青団は本来「社会主義と共産主義について学習する学校であり、党の助手および予備軍である」とされ、実質的には党のエリート養成機関です。

 習近平氏は総書記に就任して以降、対外面では、世界第2の規模に成長した経済を背景に、いわゆるG20の主要メンバーとして国際社会における存在感を高めるとともに、一帯一路構想を打ち出し、アジアインフラ投資銀行を立ち上げるなど中国主導の国際的事業を積極的に進めました。中国は、習近平氏の持論である「世界の大国」に一歩近づいたと言えるでしょう。

 一方、国内では、習近平氏は国政の全般にわたって改革を行い、また、そのために立ち上げた「小組(作業部会的なもの)」の長となって積極的に指導しました。そうすることを通じて、習氏は共産党による指導を強化し、また、言論を強く統制して「民主化」要求を徹底的に封じ込めました。また、中国社会に広く蔓延している腐敗と戦い、中央軍事委員会の前副主席2名を有罪とするなど顕著な実績を上げました。

 習近平氏の周辺では、同氏を「核心」と呼ぶ運動が起こりました。中国共産党の総書記であり、かつ、中国の国家主席なのでそれ以上の権威は他にいないはずですが、「核心」となると、さらに習近平氏個人の権威が高まると見られています。なお、「核心」は毛沢東、鄧小平、江沢民にも使われましたが、毛沢東と鄧小平は革命戦争以来の指導者で、そのような名称があってもなくても変わらないくらい傑出した指導者でした。江沢民は総書記となったので自動的に使われましたが、胡錦濤の時代には集団指導を強調すべきだという考えで使用されなくなりました。今回習近平についてその呼称を復活させるのは、意図的に権威を高めようとすることだと思われます。

 「習近平思想」を確立しようとする動きもあると伝えられています。これは、習近平氏がこれまで、政治体制改革、軍事体制改革、通信・インターネット改革などに関する重要会議で行った講話をまとめたものです。「思想」としては中国革命の基礎文献となっている「毛沢東思想」がもっとも有名ですが、これにならって習近平氏の講話も今後の中国政治の指針として活用していこうという考えです。「毛沢東思想は中国の社会主義建設において、マルクス・レーニン主義と並ぶ基本文献であり、それに並ぶ位置づけを「習近平思想」にも与えようということです。
 ただし、習近平氏をあまりに高く持ち上げると、共産主義国家で否定的に見られている「個人崇拝」になる危険もあります。今回の党大会では「核心」や「習近平思想」などがどのように扱われるか注目されます。

 一方、対外面では、米国との関係では北朝鮮、台湾、南シナ海などの諸問題、さらには貿易・通貨問題に関し立場や意見が違っています。中国がこれらの問題について強硬な姿勢を取る背景には軍の影響もあり、習近平政権にとって今後も困難な課題になるでしょう。
共産党体制の維持には、民主化を求める勢力や不満分子を抑え込まなければならず、そのためには軍の力が不可欠であり、その意見を無視することはできません。

 日本としては、中国が政治的に安定し、経済的に順調に成長することが望まれます。両国間の経済面での相互依存関係は着実に深まっており、日本からの輸出は中国が第2位、輸入は第1位を占めています(2016年の統計)。国連では北朝鮮問題や日本が安全保障理事会の常任理事国になることなどについて中国の立場は日本と調和しない点がありますが、ねばりづよく解決を求めていくべきです。
 また、尖閣諸島については、南シナ海問題と同様中国は国際法を無視して行動をする傾向があり、南シナ海に関する国際仲裁裁判の判決を受け入れようとしません。日本としては、中国による一方的な現状変更にはあくまで毅然として対応していく必要があります。」

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