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2017.11.25

インド太平洋協力

 トランプ大統領のアジア歴訪、APEC首脳会議などの際に、同大統領と安倍首相が「インド太平洋協力」に言及したことが注目されている。この構想は安倍首相が以前から提起してきたことであるが、内容はまだ固まっていない。大事なことは今後この構想がどのように具体化されるかである。
 この構想は、日米豪印4カ国の協力が核となっている。わが外務省は「日米豪印のインド太平洋に関する協議」として、次の説明を行っている。
①11月12日,フィリピンのマニラにおいて,我が国,オーストラリア,インド及び米国の外交当局は,インド太平洋地域における法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序の確保に向けた取組につき,議論を行いました。
②こうした観点から,この協議の参加者は,インド太平洋地域におけるルールに基づく秩序・国際法の尊重の堅持,圧力を最大化させることが必要な北朝鮮による核・ミサイル問題を含む拡散の脅威への対応,インド太平洋地域における航行の自由及び海洋安全保障の確保,テロ対策等に関する協力の方向性につき,域内各国との協力を含め,議論を行いました。
③また,この協議の参加者は,議論を継続するとともに,共通の価値と原則に基づく協力を深化させていくことを確認しました。

 一方、中国は「インド太平洋協力」に警戒的である。中国としては、「一帯一路」構想を進めるのに「インド太平洋協力」は役に立たない、妨げになる恐れもあると見ているのだろう。
 欧米のメディアなどでは、「インド太平洋協力」は民主主義国家の連帯であると見られている。関係国の政府は言わないが、そのような意味合いがあることは当然承知の上であろう。中国が南シナ海などで国際法違反の行動を続けていることがこの構想の背景にあるのだ。

 「インド太平洋協力」については、日米豪印4カ国の安全保障面での協力が重要な柱となっている。
 米国とインドは2000年代初めからテロ対策などを目的に毎年合同で海上演習が行ってきた。
 2007年9月、ベンガル湾において日米豪印にシンガポールが加わり、5カ国間で海上合同演習、Malabar07-02が行われた。この実現に、安倍首相(第1期政権)は積極的な役割を果たしたと言われている。
 中国はこの演習の時から警戒感を抱き、インドと豪州に対して、中国として懸念があると申し入れを行った。その結果、インドは米国以外の国がMalabar演習に参加するのに消極的になり、オーストラリアと日本は、インドの立場をおもんばかったのだろうが、参加を中止した。
 その後、中国による南シナ海での膨張的行動を前にして状況が再び変化した。また、2014年にナレンドラ・モディ氏がインドの首相に就任したことも大きな要因であった。
 2015年、日印豪3カ国の協議を経て、インドは日本のMalabar演習への参加に同意した。
 オーストラリアもMalabar演習への参加に再び意欲的となったが、まだ実現していない。、インドからの入国ビザについてオーストラリアが制限的な措置を取っていることが問題になっていると言われている。

 11月24日付の環球時報(人民日報系)は22日付のロイター(インド版)に基づき次のように報道している。
 米日豪の間では円滑に合同演習ができるが、インドは弱点となっており、共同訓練は制約を受けている。
 インド海軍の艦艇はロシア製が多い。そのうえ、インド政府と軍は今でも保守的で、他国と軍事情報を共有するのに極度に消極的である。米国がインドに簡便な位置情報利用機器の提供を申し出たがインド側は拒否した。
通信系統も他の3国と異なっている。日本の海上自衛隊がインド海軍と合同演習を行った際、GPSを利用したり、共通の周波数を使うことができなかったので旧式の音声による方法で通信するほかなかったという。
 昨年、米印両国はロジスティクス協定に合意した。一歩前進だが、「通信・情報安全に関する覚書」と「基本交換・協力協定」はまだ合意されていない。
2017.11.21

南シナ海問題についてASEANサミットは融和的であったか

 中国が国際法を無視して権利のない島や岩礁で埋め立て工事を行い、また飛行場を建設するなどしてきた南シナ海について、2017年11月、フィリピンで開催されたASEAN首脳会議の議長声明は「懸念」の表明をしなかった。2014年5月の首脳会議で「深刻な懸念」を表明して以来、「懸念の維持」「懸念を共有」などと表現は多少変えながらも毎回維持してきたキーワードだが、今回はまったく姿を消したのである。もっとも、当然のことながら、このような結論を導くのは容易でなかったのだろう。今回の議長声明は会議が終了してから3日後にようやく発表された。会議が終わってもすぐに議長声明が発表されないのはよくあることだが、3日もの遅れはまれであった。

 昨年7月、国際仲裁裁判所は、フィリピンが申し立てていたスカーボロー礁(中国名「黄岩岛」以下同)やスプラトリー諸島(南沙諸島)などにおける中国との紛争について、ほぼ全面的に中国の主張を退ける判決を下した。
 スカーボロー礁では1990年代の終わりころから両国間で紛争があり、2012年には双方が艦船を派遣してにらみ合う状況に陥り、後にフィリピン側は引き上げたが、中国船は居残った。
 また、スプラトリー諸島では、やはり1990年代から紛争があり、2015年に入ると中国は埋め立てや建設工事を急ピッチで進めたので、フィリピンが国際仲裁裁判所に提訴したのであった。
  
 米国は国際法を無視した中国の行動は認めない、それによって南シナ海における航行の自由がさまたげられてはならないとして、いわゆる「航行の自由」作戦を断続的に行ってきた。
また日本も基本的には米国と同じ立場であり、中国は仲裁判決を受け入れるべきであると表明してきた。

 しかし、中国は強く反発し、東南アジア諸国にこの判決を無視するよう求めた。これにとくに積極的に応じたのはフィリピンであった。新任のドゥテルテ大統領は、国内でテロや犯罪への対応に追われる一方、対外面では中国とできるだけ事を構えず、フィリピン漁民の安全操業、中国のフィリピンに対する経済協力など経済面での関係改善を重視し、仲裁判決など国際法的な立場を前面に出すことを控えてきた。
 今年のASEAN首脳会議が中国に融和的な姿勢をとるのにフィリピンは比較的大きな役割を果たしたものとみられる。

 今次会議については、「懸念」以外にいくつか注目すべき点がある。
 
 第1に、国際仲裁裁判所の判決について、ASEAN諸国が中国にその履行を求めることを控えたのは明らかだ。このことについて、ASEAN諸国と中国は判決を「棚上げ」した、と評される可能性があるが、それは正確でないだろう。「棚上げ」の合意はなかった。中国とASEAN諸国は、基本的にはそれぞれの立場でこの問題を大事にしないほうが得策だと判断したに過ぎない。
 
 第2に、南シナ海問題について、ASEAN諸国が経済的な利害を重視したのは明らかだが、政治的、国際法的に正しい解決を目指すことを放棄したのではなく、いわば休戦状態になっているに過ぎない。仮に中国があらたな埋め立てや建設工事を始めると緊張状態は復活する。また、漁業をめぐって偶発的な衝突が発生する危険もある。

 第3に、南シナ海でかねてから懸案となってきた「行動綱領(COC)」については、中国の恣意的な政治的影響力の行使を制限したいASEAN諸国と、それを嫌う中国という基本的対立があるため作成作業は遅々として進んでいないが、双方とも、その完成に向け努力を継続することにしている。

 第4に、中国は今後、南シナ海より、台湾への攻勢を強める可能性がある。習近平政権はこれまでかくかくたる成果を上げ、さきの第19回共産党大会でその業績が改めて承認され、独裁的とも評される地位を確立したが、台湾問題はあまり進展(中国から見て)しなかった。今後5年間の第2期目においては、南シナ海よりも台湾との関係で現状の打開を図ろうとするのではないか。中国は台湾が外交関係を維持してきた中米諸国に対する働きかけをすでに強めている。
2017.11.16

静かな(?)北朝鮮と米朝非公式対話

 北朝鮮は9月3日の核実験、15日の中距離弾道ミサイルの発射実験以来、核もミサイルも実験していない。その間も言論面では米国や日本を激しく批判しているが、実験はそれまで2週間に1回、あるいはそれ以上のぺ-スで行ってきたことを想起すると、北朝鮮がこのように静かにしているのは昨年来初めてのことである。実験をしないほうがよいのはもちろんであるが、すでに2カ月間実験をしないのはどのような事情によるのか、注意だけは必要だ。

 9月11日に国連安保理で採択された制裁決議が効いているのか。中国も本気になってきたと見られており、そのことは北朝鮮にとっても由々しい事態であろうが、制裁決議が本当に効果を発揮するとしても数カ月後になろうというのが大方の見方である。したがって、制裁決議だけでは説明困難だと思われる。

 この間、水面下で米朝が協議していることが判明している。それも1か所でなく、ニューヨークとモスクワの2か所であった。
 モスクワでは10月20,21日に核不拡散会議が開かれ、北朝鮮から出席する崔善姫(チェソンヒ)北米局長が開催の前夜、シャーマン元米国務次官と接触していた、ロシア紙によって報じられたことである。崔氏とシャーマン氏は、ともに体調悪化を理由に19日夜のレセプションを欠席したという。
 どのような話し合いが行われたか、判明していないが、崔氏は米国との関係を重視する姿勢であったと伝えられている。日本と韓国からの出席者も崔氏に接触したが、話し合いにはならなかったようだ。

 一方、ニューヨークでは、米国のジョセフ・ユン北朝鮮担当特別代表が北朝鮮側と非公式に接触していた。ユン氏は10月末に、北朝鮮が核・ミサイルの実験を60日間凍結すれば、米朝対話に応じる考えを示したと報じられた。ユン氏自身が10月30日に、米外交問題評議会でオフレコで語ったそうだ。
この接触はティラーソン国務長官の発言と平仄があっていた。
 北朝鮮が静かにしている期間はすでに60日になるので、ユン氏のことが頭をよぎるが、ユン氏の提案が北朝鮮の静けさをもたらしたとは言えないと思う。北朝鮮にとって米国との対話はかねてから望んできたことだが、あまりにも複雑化しているため、ユン氏の提案だけで簡単に動くはずはないからである。北朝鮮は米側の本気度をいつも気にしている。
 したがって、モスクワでもニューヨークでも非公式の接触は行われたが、現在関係国の首脳レベルで問題になっている米朝の対話とは区別されるもので、以前から行われてきた事務方による接触と同性質とみるべきだろう。

 ただこの間、トランプ大統領は奇妙な発言をしていた。11月12日の「金正恩氏と友人になる可能性はある」との発言だ。これは将来もトランプ氏の本心が問題になる際に引用されるだろうが、しかし、この発言から対話に進むというわけでもないだろう。

 ともかく、米側の姿勢にはかなり幅がある。公式な発言になると、「北朝鮮がまず非核化の意思を明確に示さないと対話に応じない」と従来からの立場を繰り返すが、それがすべてでなく、米国としては、少なくとも非公式の接触・対話は随時行う考えであると見られる。

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