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2018.05.09
米朝会談が開催される可能性はまだ高いと思われるが、会談の場所と日程の発表は遅れている。
また、ポンペオ国務長官は9日、北朝鮮を再度訪れている(到着は8日中であった可能性もある)。その目的は、北朝鮮に拘留されている3人の米人の釈放とも言われているが、それが唯一の目的ではないはずだ。
首脳会談の準備過程で最大の問題は北朝鮮に対する制裁の緩和・撤廃だと思われる。単純化して言えば、北朝鮮は、核とミサイルの実験はやめたので、制裁もそれに応じて緩和すべきだとの考えだろう。
これに対し、米国は北朝鮮の非核化が完了して初めて制裁を解くことができると主張している。
さて、どちらに分があるか。これは、実は、簡単な問題でない。日本を含め、米国の主張は当然だという意見が大勢であろうが、国連制裁が厳しくなったのは核・ミサイルの実験がひどく行われるようになったからである。制裁決議でも、非核化の要求と核・ミサイルの実験の非難と中止要求は別の項目で記載されており、その内容な同一でない。要するに、国連制裁の緩和・撤廃は核・ミサイル実験の中止が条件であることは明確だが、それだけでなく「非核化」まで条件になっているか、国連決議の解釈次第なのである。
今後、米朝関係はどのようになるか。3つの可能性が考えられる。
第1に、最近米国では、北朝鮮に対し、「非核化」だけでなく、化学兵器と生物兵器も完全に廃棄するよう北朝鮮に求めるべきであり、これらすべてが実現して初めて制裁を解くべきだという意見が出てきている。米国政府の決定でないようだが、トランプ大統領にそのような意見が上がっている可能性は大いにある。
しかし、このような考えでは北朝鮮に白旗を上げさせることはできないだろう。米朝首脳会談さえ開催困難だと思われる。今回の北朝鮮による方針転換は制裁の効果であると単純に考えるのは危険である。トランプ氏が金氏のことを肯定的、積極的に語ったこと、それも5回以上語ったことが方針転換のもう一つの理由である。
なお、北朝鮮の核開発問題について、これまで北朝鮮を含めて最も内容があった合意は2005年9月の6者協議共同声明であるが、化学兵器及び生物兵器を含めることはこの共同声明もしていなかった。
第2に、米朝首脳会談が開かれない場合どうなるか。北朝鮮は、昨年まで行っていた激しい核・ミサイルの実験を復活させる可能性もないではない。しかし、そうすると制裁の緩和は期待できなくなるので、北朝鮮としては取りにくい選択肢となろう。
この場合、米国による軍事行動の危険が復活するという問題もある。
第3は、同じく、首脳会談が開かれない場合だが、北朝鮮は、核・ミサイルの実験は復活しないで、つまり、静かに保持しつつ制裁の緩和を狙う可能性がある。このような方法が説得力を持つか、前述した国連決議の解釈と関係することであり、交渉の結果を予測することは困難であるが、現状は昨年までと比べ一定程度よくなっており、緊張は緩和している。それはすでに実現している積極的効果である。
また、そのような中で米国としてはなかなか軍事行動に出られないだろう。もしそうすると現状を武力で変更する意味合いが出てくるからである。
最後に一言加えておきたい。米朝サミットで期待される交渉は、6者協議のような専門家や官僚による緻密な交渉ではありえない。また、交渉の対象を増やすと合意を達成することがそれだけ困難になるので、取引関係は可能な限り単純化する必要がある。要は、ともに官僚らしくない指導者にふさわしい合意を何と表現するかである。
金正恩委員長の訪中
金正恩委員長は5月7~8日、大連を訪れ、習近平主席と会談した。金氏はさる3月26日に習氏と北京で会っており、なぜ、このような短い期間のうちに再度訪中したのか。習主席が北朝鮮を訪問することが日程に上りかけていたのに、金委員長はそれが実現する前になぜ自分から再度訪中したのか。金委員長の行動力はますます目立つが、なぜそのように活発に行動しているかについては分からないことが多いが、米朝会談へのインプリケーションは考えておく必要があろう。米朝会談が開催される可能性はまだ高いと思われるが、会談の場所と日程の発表は遅れている。
また、ポンペオ国務長官は9日、北朝鮮を再度訪れている(到着は8日中であった可能性もある)。その目的は、北朝鮮に拘留されている3人の米人の釈放とも言われているが、それが唯一の目的ではないはずだ。
首脳会談の準備過程で最大の問題は北朝鮮に対する制裁の緩和・撤廃だと思われる。単純化して言えば、北朝鮮は、核とミサイルの実験はやめたので、制裁もそれに応じて緩和すべきだとの考えだろう。
これに対し、米国は北朝鮮の非核化が完了して初めて制裁を解くことができると主張している。
さて、どちらに分があるか。これは、実は、簡単な問題でない。日本を含め、米国の主張は当然だという意見が大勢であろうが、国連制裁が厳しくなったのは核・ミサイルの実験がひどく行われるようになったからである。制裁決議でも、非核化の要求と核・ミサイルの実験の非難と中止要求は別の項目で記載されており、その内容な同一でない。要するに、国連制裁の緩和・撤廃は核・ミサイル実験の中止が条件であることは明確だが、それだけでなく「非核化」まで条件になっているか、国連決議の解釈次第なのである。
今後、米朝関係はどのようになるか。3つの可能性が考えられる。
第1に、最近米国では、北朝鮮に対し、「非核化」だけでなく、化学兵器と生物兵器も完全に廃棄するよう北朝鮮に求めるべきであり、これらすべてが実現して初めて制裁を解くべきだという意見が出てきている。米国政府の決定でないようだが、トランプ大統領にそのような意見が上がっている可能性は大いにある。
しかし、このような考えでは北朝鮮に白旗を上げさせることはできないだろう。米朝首脳会談さえ開催困難だと思われる。今回の北朝鮮による方針転換は制裁の効果であると単純に考えるのは危険である。トランプ氏が金氏のことを肯定的、積極的に語ったこと、それも5回以上語ったことが方針転換のもう一つの理由である。
なお、北朝鮮の核開発問題について、これまで北朝鮮を含めて最も内容があった合意は2005年9月の6者協議共同声明であるが、化学兵器及び生物兵器を含めることはこの共同声明もしていなかった。
第2に、米朝首脳会談が開かれない場合どうなるか。北朝鮮は、昨年まで行っていた激しい核・ミサイルの実験を復活させる可能性もないではない。しかし、そうすると制裁の緩和は期待できなくなるので、北朝鮮としては取りにくい選択肢となろう。
この場合、米国による軍事行動の危険が復活するという問題もある。
第3は、同じく、首脳会談が開かれない場合だが、北朝鮮は、核・ミサイルの実験は復活しないで、つまり、静かに保持しつつ制裁の緩和を狙う可能性がある。このような方法が説得力を持つか、前述した国連決議の解釈と関係することであり、交渉の結果を予測することは困難であるが、現状は昨年までと比べ一定程度よくなっており、緊張は緩和している。それはすでに実現している積極的効果である。
また、そのような中で米国としてはなかなか軍事行動に出られないだろう。もしそうすると現状を武力で変更する意味合いが出てくるからである。
最後に一言加えておきたい。米朝サミットで期待される交渉は、6者協議のような専門家や官僚による緻密な交渉ではありえない。また、交渉の対象を増やすと合意を達成することがそれだけ困難になるので、取引関係は可能な限り単純化する必要がある。要は、ともに官僚らしくない指導者にふさわしい合意を何と表現するかである。
2018.05.07
NPT(核兵器不拡散条約)は1970年に発効して以来、5年ごとに「再検討会議」を開催している。NPTにかかわるさまざまな問題、たとえば、核の廃絶は進んでいるかなどを検討するためである。外務省は「再検討会議」でなく、「運用検討会議」と呼んでいる。英語ではreview conferenceである。
5年たつといきなり再検討会議が開かれるのではなく、そのまえに、3回「準備委員会」が開催されている。扱う問題について各国の意見の違いが激しいからである。世界には多くの条約があるが、このように大掛かりで、複雑な会議は他にないと思う。今回開かれたのは2020年再検討会議のための第2回準備委員会であった。
今回の準備委員会でもっとも注目されていたのは2017年に採択された「核兵器禁止条約」の扱いであった。
NPTと「核兵器禁止条約」の違いはなにか。NPTは米国、ロシア、英国、フランスおよび中国が核兵器を保有することは認めつつ、他の国へ「拡散」するのを防止することが主たる目的である。この「拡散防止」とは、これら5カ国以外の国には保有など核兵器に関するすべてのことを禁止するという意味であった。
一方、「核兵器禁止条約」は5カ国を例外扱いしていない。この点が両条約の最大の違いである。
「核兵器禁止条約」は、「核兵器の開発、実験、製造、備蓄、移譲、使用及び威嚇としての使用」をすべて禁止しており、また、現在保有している核兵器は廃絶することを義務付けている。NPTは、5核兵器国にはこれらをほとんどすべて認めている。ただ、核兵器の「使用」や「威嚇」は認めると書いてないが、禁止されているわけではない。
この二つの条約を比較すれば、もちろん「核兵器禁止条約」のほうが徹底している。この条約制定を推進した国々は、NPTでは抜け穴があるため、長年経っても核兵器の廃絶が実現しないのだと主張する。
しかし、核兵器国は、現実の世界で核兵器を禁止してしまうことはできない、また、そうすることはNPTと矛盾することになるとして反対し、条約に参加しないでいる。核の傘に依存している日本や西欧諸国も参加していない。日本は、被爆国であり、率先して核廃絶運動を進めていくべき立場にあるのに核兵器国と同じ立場に立つべきでないとして批判される。この批判は厳しいものである。
核兵器禁止条約とNPTの違い
4月23日から5月4日まで、ジュネーブにおいて核兵器不拡散条約(NPT)再検討会議準備委員会が開催された。107カ国が出席し、日本を含め多くの国は閣僚級を代表として派遣した重要会議であるが、注目度は低かった。専門以外の人にとってはわかりにくいことが一つの問題なので、今回の会議をできるだけわかりやすく、あまり細かい問題に立ち入らないで説明してみたい。NPT(核兵器不拡散条約)は1970年に発効して以来、5年ごとに「再検討会議」を開催している。NPTにかかわるさまざまな問題、たとえば、核の廃絶は進んでいるかなどを検討するためである。外務省は「再検討会議」でなく、「運用検討会議」と呼んでいる。英語ではreview conferenceである。
5年たつといきなり再検討会議が開かれるのではなく、そのまえに、3回「準備委員会」が開催されている。扱う問題について各国の意見の違いが激しいからである。世界には多くの条約があるが、このように大掛かりで、複雑な会議は他にないと思う。今回開かれたのは2020年再検討会議のための第2回準備委員会であった。
今回の準備委員会でもっとも注目されていたのは2017年に採択された「核兵器禁止条約」の扱いであった。
NPTと「核兵器禁止条約」の違いはなにか。NPTは米国、ロシア、英国、フランスおよび中国が核兵器を保有することは認めつつ、他の国へ「拡散」するのを防止することが主たる目的である。この「拡散防止」とは、これら5カ国以外の国には保有など核兵器に関するすべてのことを禁止するという意味であった。
一方、「核兵器禁止条約」は5カ国を例外扱いしていない。この点が両条約の最大の違いである。
「核兵器禁止条約」は、「核兵器の開発、実験、製造、備蓄、移譲、使用及び威嚇としての使用」をすべて禁止しており、また、現在保有している核兵器は廃絶することを義務付けている。NPTは、5核兵器国にはこれらをほとんどすべて認めている。ただ、核兵器の「使用」や「威嚇」は認めると書いてないが、禁止されているわけではない。
この二つの条約を比較すれば、もちろん「核兵器禁止条約」のほうが徹底している。この条約制定を推進した国々は、NPTでは抜け穴があるため、長年経っても核兵器の廃絶が実現しないのだと主張する。
しかし、核兵器国は、現実の世界で核兵器を禁止してしまうことはできない、また、そうすることはNPTと矛盾することになるとして反対し、条約に参加しないでいる。核の傘に依存している日本や西欧諸国も参加していない。日本は、被爆国であり、率先して核廃絶運動を進めていくべき立場にあるのに核兵器国と同じ立場に立つべきでないとして批判される。この批判は厳しいものである。
2018.05.01
中国経済を負の側面だけから見るべきでないが、参考になる。
復旦大学の経済学部長張軍教授は要旨次のように述べた。
「中央の部(日本の「省」に相当)や委員会などの指導機関にはものを動かす力がないし、改革に対する情熱はすでに冷めている。
習近平政権は前代未聞の激しさで反腐敗運動を展開した。人々は政府が改革に本気だと思ったが、その後、経済成長率は下降し、また、国民の満足度は下がった。これは隠れもない事実である。
国民生活に密接な問題を見ても、家賃は高騰し、医療難、入学難はあいかわらずだ。環境、交通、地域格差なども未解決のままである。
中央の高官はこれらを解決しようと、昼夜熱心に努めているが、一般の人たちは様子を見ている。
現在、改革の多くの問題、例えば、環境汚染、利益分配の不合理などはいずれも1980年代、鄧小平の時代から存在してきたことである。それは認めるが、かつては、改革について強い情熱があった。鄧小平は、思想を開放し、事実に基づいて真理を求めることを提唱し、民間に対し大胆に改革を試みるよう呼びかけ、間違ったら直せばよいと説得した。民間に情熱的に改革すること、無限に創造力と想像力を高めよと呼びかけたのだ。当時、中央の改革にかける力は巨大な効果をもたらした。
しかし、現在の中央は、一方で、艱難に負けず改革を継続することを呼びかけるが、他方で、世論を強く統制している。このような統制は改革に伴う「雑音」を聞こえなくし、民間が改革に加わる意欲をなくさせている。
1978年以来40年間の改革開放の結果、中国社会にはすでに多くの「既得権益集団」が形成されている。政府は最大の既得権益者である。習近平総書記の言葉を使うなら、「おいしい肉はすべて食べつくした。残ったところは食べにくい骨ばかり」である。
上海財経大学の金融研究センターの副主任である奚君羊および陳波の両氏は、次のように述べた。
「金融監督機構とその傘下の利益集団は自由貿易特区内での金融改革にとって最大の障害となっている。かつて李克強首相は上海自由貿易特区構想を進める際に、机をたたいて怒った。「金融改革を妨げる鬼が内部におる」と言ったとおりである。」
中国経済の現状に対する一警鐘
在米の中国語新聞『多維新聞』4月30日は、中国経済の問題点を率直に指摘する談話を紹介している。中国経済を負の側面だけから見るべきでないが、参考になる。
復旦大学の経済学部長張軍教授は要旨次のように述べた。
「中央の部(日本の「省」に相当)や委員会などの指導機関にはものを動かす力がないし、改革に対する情熱はすでに冷めている。
習近平政権は前代未聞の激しさで反腐敗運動を展開した。人々は政府が改革に本気だと思ったが、その後、経済成長率は下降し、また、国民の満足度は下がった。これは隠れもない事実である。
国民生活に密接な問題を見ても、家賃は高騰し、医療難、入学難はあいかわらずだ。環境、交通、地域格差なども未解決のままである。
中央の高官はこれらを解決しようと、昼夜熱心に努めているが、一般の人たちは様子を見ている。
現在、改革の多くの問題、例えば、環境汚染、利益分配の不合理などはいずれも1980年代、鄧小平の時代から存在してきたことである。それは認めるが、かつては、改革について強い情熱があった。鄧小平は、思想を開放し、事実に基づいて真理を求めることを提唱し、民間に対し大胆に改革を試みるよう呼びかけ、間違ったら直せばよいと説得した。民間に情熱的に改革すること、無限に創造力と想像力を高めよと呼びかけたのだ。当時、中央の改革にかける力は巨大な効果をもたらした。
しかし、現在の中央は、一方で、艱難に負けず改革を継続することを呼びかけるが、他方で、世論を強く統制している。このような統制は改革に伴う「雑音」を聞こえなくし、民間が改革に加わる意欲をなくさせている。
1978年以来40年間の改革開放の結果、中国社会にはすでに多くの「既得権益集団」が形成されている。政府は最大の既得権益者である。習近平総書記の言葉を使うなら、「おいしい肉はすべて食べつくした。残ったところは食べにくい骨ばかり」である。
上海財経大学の金融研究センターの副主任である奚君羊および陳波の両氏は、次のように述べた。
「金融監督機構とその傘下の利益集団は自由貿易特区内での金融改革にとって最大の障害となっている。かつて李克強首相は上海自由貿易特区構想を進める際に、机をたたいて怒った。「金融改革を妨げる鬼が内部におる」と言ったとおりである。」
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