2019 - 平和外交研究所 - Page 27
2019.03.13
李克強首相は恒例の「政府工作報告」を行った。その中で人民の日常生活に関係の深い減税などにも触れていたが、人々の関心は、李首相が「今年は中米貿易摩擦のために企業の生産、経営、市場に不利な影響が出ることが危惧される。環境はますます複雑で厳しい」などと読み上げたことや大汗をかいていたことに向けられていた。
李克強首相は以前から改革を実行しようとして妨げられることが多く、非常に不満で、怒りを爆発させることもあったところ、中国政府に近い『多維新聞』は、今回の報告を読み上げる際にその不満をぶつけ、はけ口を求めたのではないと評論している。
李克強首相の健康状態は以前ほどよくないそうである。それも影響しているかもしれないが、必死に読み上げたのは、どこかで読み間違いでもすると習近平主席に厳しくとがめられるからだという見方もある。
今年の全人代が緊張しているのは、いくつかの原因があるが、すべて習近平主席につながる。習氏は「七つの危険」を感じているためか、他人には絶対的に服従を求めるのである。「七つの危険」とは、政治、意識形態、経済、科学技術、社会、外部環境および党の建設に関する危険である。
最高法院の周強院長が全人代で取材している記者を避けているのも雰囲気を悪くしている。同院長は、陝西省で起こった大規模開発事件に関する訴訟資料の大量逸失について記者から追及されるのを避けているのである。逸失事件の直接の責任者は王林清であるが、王氏の説明に国民は納得していない。資料の中には周強院長の責任を示す証拠があると言われている。
周強院長の「明りの下は真っ黒だ」発言も奇妙である。司法に不正があるわけだが、周氏が言っているのは最高法院のことであり、そうであれば自己の責任が問われるはずである。
周院長の全人代での報告では、去年はあった「人権」への言及がなくなっていたのも問題である。
全人代への新疆自治区代表団が3月12日、記者会見を開いた。これには外国の記者も出席を許された。新疆はかねてから、ムスリムに再教育を強制しているという疑いをもたれており、強制収容所だとも言われていた。
この記者会見は内外の記者の誤解を解く絶好の機会であったはずであるが、各国から問題人物として注目されていた新疆のナンバーワン、陳全国党書記は壇上におりながら一言も発せず、すべての説明をウイグル族のショハラト・ザキル自治区主席にさせていた。
また、壇上の新疆自治区代表に名札が一切置かれていなかったのも問題であった。名札がないと、だれが話しているか、質問に答えているかよく分からない。新疆は四六時中テロの危険におびえているが、それだけでなく、中央から統制されることも恐れているのである。
ラジオ・フランス・アンテルナショナルの記事は以上であるが、今回の全人代で関心が集まっているのは、外商投資法の改正である。米国は貿易交渉において外国企業に対する中国企業への技術移転の義務付けを撤廃するよう求めている。中国がこれに応じるには、外商投資法の改正が必要なのである。
昨年の全人代では永久国家主席への道が開かれるなど習近平主席への権力集中が最高に達した。しかし、それ以来習近平主席には批判的な意見も続出していた。そんな中で開催された全人代で習主席がどのように乗り切るか、また、今後も絶対的な権力者であり続けるか注目されていたのである。
中国の全人代(国会)-雰囲気は悪い
現在、中国で開催中の全国人民代表大会(全人代 日本の国会に相当する)は昨年と異なり、陰鬱な雰囲気であるとラジオ・フランス・アンテルナショナル(3月13日付)が伝えている。要点は次のとおりである。李克強首相は恒例の「政府工作報告」を行った。その中で人民の日常生活に関係の深い減税などにも触れていたが、人々の関心は、李首相が「今年は中米貿易摩擦のために企業の生産、経営、市場に不利な影響が出ることが危惧される。環境はますます複雑で厳しい」などと読み上げたことや大汗をかいていたことに向けられていた。
李克強首相は以前から改革を実行しようとして妨げられることが多く、非常に不満で、怒りを爆発させることもあったところ、中国政府に近い『多維新聞』は、今回の報告を読み上げる際にその不満をぶつけ、はけ口を求めたのではないと評論している。
李克強首相の健康状態は以前ほどよくないそうである。それも影響しているかもしれないが、必死に読み上げたのは、どこかで読み間違いでもすると習近平主席に厳しくとがめられるからだという見方もある。
今年の全人代が緊張しているのは、いくつかの原因があるが、すべて習近平主席につながる。習氏は「七つの危険」を感じているためか、他人には絶対的に服従を求めるのである。「七つの危険」とは、政治、意識形態、経済、科学技術、社会、外部環境および党の建設に関する危険である。
最高法院の周強院長が全人代で取材している記者を避けているのも雰囲気を悪くしている。同院長は、陝西省で起こった大規模開発事件に関する訴訟資料の大量逸失について記者から追及されるのを避けているのである。逸失事件の直接の責任者は王林清であるが、王氏の説明に国民は納得していない。資料の中には周強院長の責任を示す証拠があると言われている。
周強院長の「明りの下は真っ黒だ」発言も奇妙である。司法に不正があるわけだが、周氏が言っているのは最高法院のことであり、そうであれば自己の責任が問われるはずである。
周院長の全人代での報告では、去年はあった「人権」への言及がなくなっていたのも問題である。
全人代への新疆自治区代表団が3月12日、記者会見を開いた。これには外国の記者も出席を許された。新疆はかねてから、ムスリムに再教育を強制しているという疑いをもたれており、強制収容所だとも言われていた。
この記者会見は内外の記者の誤解を解く絶好の機会であったはずであるが、各国から問題人物として注目されていた新疆のナンバーワン、陳全国党書記は壇上におりながら一言も発せず、すべての説明をウイグル族のショハラト・ザキル自治区主席にさせていた。
また、壇上の新疆自治区代表に名札が一切置かれていなかったのも問題であった。名札がないと、だれが話しているか、質問に答えているかよく分からない。新疆は四六時中テロの危険におびえているが、それだけでなく、中央から統制されることも恐れているのである。
ラジオ・フランス・アンテルナショナルの記事は以上であるが、今回の全人代で関心が集まっているのは、外商投資法の改正である。米国は貿易交渉において外国企業に対する中国企業への技術移転の義務付けを撤廃するよう求めている。中国がこれに応じるには、外商投資法の改正が必要なのである。
昨年の全人代では永久国家主席への道が開かれるなど習近平主席への権力集中が最高に達した。しかし、それ以来習近平主席には批判的な意見も続出していた。そんな中で開催された全人代で習主席がどのように乗り切るか、また、今後も絶対的な権力者であり続けるか注目されていたのである。
2019.03.07
文大統領は演説の中で、「歴史を鏡とし」と訴え、日本が独立運動を鎮圧した際に多数の死傷者が出たことを、「蛮行」や「虐殺」といった言葉で表現した。また、「親日残滓の清算はあまりに長く先送りされた宿題だ。左右の陣営の敵対は、日帝が民族を分裂させるために使った。我々が一日も早く清算すべき代表的な親日残滓だ。われわれは日本と外交で葛藤要因を作ろうということではない。親日残滓の清算も外交も未来志向で進むべきだ」と、かねてから文政権が重視してきた「積弊清算」政策をあらためて強調した。
一方、徴用工問題、慰安婦問題、レーダー照射問題、竹島などには直接言及しなかったが、「力を合わせ、被害者の苦痛を実質的に癒やすとき、韓国と日本は心を通じた本当の友達になるだろう」とも語った。文氏は日本との関係をこれ以上悪化させたくないという気持ちを表明しつつ、持論を語ったのである。
なお、文在寅大統領は5日、南部の慶尚南道・昌原の海軍士官学校で開かれた海軍士官候補生の卒業・任官式に出席する前に、同校練兵場沖に待機していた揚陸艦「独島(竹島の韓国名)」に搭乗していた。三一演説では竹島に言及しないこととバランスを取ったのであろう。
総じて文在寅大統領の三一演説は日韓関係のさらなる悪化は防ぎたいという気持ちが現れていたと評価できる。
ただし、文氏の呼びかけには、植民地時代の影響の除去について韓国自身が判断してきたことも一部含まれている。
韓国における左右両陣営の対立は日本が植民地統治のために作り出したことであっても、その後70年以上もその流れが続いてきたのは韓国がそうしたからではないか。同じ論法を日本に当てはめてみると、日本にはGHQが指示した改革の影響は今もいくつも残っているが、それをGHQの責任にすることはできない。
時間的には三・一記念日よりさかのぼるが、文大統領は2月15日、国家情報機関(国情院)・検察・警察改革戦略会議で演説し、「今年、我々は日帝時代を経てゆがめられた権力機関の影から完全に脱する元年にしないといけない」と、ここでも「積弊清算」政策を述べ、「日本の植民地時代の検察と警察は、日本の強圧的な植民地統治を支える機関だった」「独立運動を弾圧し(韓国)国民の生殺与奪権を握っていた恐怖の対象だった」と述べている。
しかし、韓国の現在の権力機関が抱える問題点は日本統治時代に起因するとしても、その改革をしないできたのは韓国政府ではないか。さらに言えば、歴代の韓国政府は改革しないほうが都合がよかったのではないか。その問題を植民地統治のせいにするのはいかがなものかと思われる。
日本側では植民地支配は70年以上も前に終わったことであるという認識が強く、そのため日韓関係を改善するのに植民地支配の影響を軽視する傾向があることは忘れてはならないが、文大統領には反植民地主義が強すぎるのではないかという問題も考察してもらいたいものである。
韓国における三・一大統領演説
3月1日、韓国の独立運動記念日に文在寅大統領は恒例の演説をおこなった。同大統領は以前から反植民地主義傾向が強く、しかも日韓関係が近年最悪と言われる状況の中で行われる演説であっただけに特に注目されていた演説である。文大統領は演説の中で、「歴史を鏡とし」と訴え、日本が独立運動を鎮圧した際に多数の死傷者が出たことを、「蛮行」や「虐殺」といった言葉で表現した。また、「親日残滓の清算はあまりに長く先送りされた宿題だ。左右の陣営の敵対は、日帝が民族を分裂させるために使った。我々が一日も早く清算すべき代表的な親日残滓だ。われわれは日本と外交で葛藤要因を作ろうということではない。親日残滓の清算も外交も未来志向で進むべきだ」と、かねてから文政権が重視してきた「積弊清算」政策をあらためて強調した。
一方、徴用工問題、慰安婦問題、レーダー照射問題、竹島などには直接言及しなかったが、「力を合わせ、被害者の苦痛を実質的に癒やすとき、韓国と日本は心を通じた本当の友達になるだろう」とも語った。文氏は日本との関係をこれ以上悪化させたくないという気持ちを表明しつつ、持論を語ったのである。
なお、文在寅大統領は5日、南部の慶尚南道・昌原の海軍士官学校で開かれた海軍士官候補生の卒業・任官式に出席する前に、同校練兵場沖に待機していた揚陸艦「独島(竹島の韓国名)」に搭乗していた。三一演説では竹島に言及しないこととバランスを取ったのであろう。
総じて文在寅大統領の三一演説は日韓関係のさらなる悪化は防ぎたいという気持ちが現れていたと評価できる。
ただし、文氏の呼びかけには、植民地時代の影響の除去について韓国自身が判断してきたことも一部含まれている。
韓国における左右両陣営の対立は日本が植民地統治のために作り出したことであっても、その後70年以上もその流れが続いてきたのは韓国がそうしたからではないか。同じ論法を日本に当てはめてみると、日本にはGHQが指示した改革の影響は今もいくつも残っているが、それをGHQの責任にすることはできない。
時間的には三・一記念日よりさかのぼるが、文大統領は2月15日、国家情報機関(国情院)・検察・警察改革戦略会議で演説し、「今年、我々は日帝時代を経てゆがめられた権力機関の影から完全に脱する元年にしないといけない」と、ここでも「積弊清算」政策を述べ、「日本の植民地時代の検察と警察は、日本の強圧的な植民地統治を支える機関だった」「独立運動を弾圧し(韓国)国民の生殺与奪権を握っていた恐怖の対象だった」と述べている。
しかし、韓国の現在の権力機関が抱える問題点は日本統治時代に起因するとしても、その改革をしないできたのは韓国政府ではないか。さらに言えば、歴代の韓国政府は改革しないほうが都合がよかったのではないか。その問題を植民地統治のせいにするのはいかがなものかと思われる。
日本側では植民地支配は70年以上も前に終わったことであるという認識が強く、そのため日韓関係を改善するのに植民地支配の影響を軽視する傾向があることは忘れてはならないが、文大統領には反植民地主義が強すぎるのではないかという問題も考察してもらいたいものである。
2019.03.04
合同軍事演習を終了させた理由について、トランプ大統領は、コストがかかりすぎることを上げてきた。金正恩委員長との第1回首脳会談後の記者会見で言及して以来、韓国との合同演習を少なくとも9つ中止してきた。
ハノイでの第2回会談後の記者会見でも「軍事演習はしばらく前にやめた」と述べていた。この発言と今回の決定は、矛盾しているようにも聞こえるが、トランプ大統領は会談以前から終了させる気持ちを持っていたことをこのような形で表現した可能性がある。演習の終了を金委員長との会談で伝えたかについては、米国だけで決定できないので明言はしなかったはずだが、大筋の考えは伝えたものと思われる。
ともかく、米韓合同演習を終了する正式の決定は、今回の会談で成果を上げられなかった金委員長に対して大きなギフトとなり、また、今後の交渉継続に米国として本気であることを示す意味もあるるだろう。今回の会談の結果、金委員長の立場が弱くなったという趣旨の観測が現れている。北朝鮮の特殊事情にかんがみるとそのような観測が的を得ているか疑問の余地があるが、いずれにしても演習終了の意義は大きい。
米朝間交渉にとってのみならず、長年続いてきた朝鮮半島の緊張を緩和する意義もある。画期的な決定である。
米国と南北朝鮮の間では朝鮮戦争の終了宣言が話題になっている。それは政治的には意味はあるが、実質的には合同演習の終了のほうが重いことである。
米韓合同軍事演習の終了
3月2日、米韓両国は毎年春に実施してきた合同軍事演習を終了することを決定した。野外演習の「フォール・イーグル」も指揮所演習の「キー・リゾルブ」も終了するが、指揮所演習についてはこれまでより小規模の合同演習「同盟」が3月4日から12日まで行われる。合同軍事演習を終了させた理由について、トランプ大統領は、コストがかかりすぎることを上げてきた。金正恩委員長との第1回首脳会談後の記者会見で言及して以来、韓国との合同演習を少なくとも9つ中止してきた。
ハノイでの第2回会談後の記者会見でも「軍事演習はしばらく前にやめた」と述べていた。この発言と今回の決定は、矛盾しているようにも聞こえるが、トランプ大統領は会談以前から終了させる気持ちを持っていたことをこのような形で表現した可能性がある。演習の終了を金委員長との会談で伝えたかについては、米国だけで決定できないので明言はしなかったはずだが、大筋の考えは伝えたものと思われる。
ともかく、米韓合同演習を終了する正式の決定は、今回の会談で成果を上げられなかった金委員長に対して大きなギフトとなり、また、今後の交渉継続に米国として本気であることを示す意味もあるるだろう。今回の会談の結果、金委員長の立場が弱くなったという趣旨の観測が現れている。北朝鮮の特殊事情にかんがみるとそのような観測が的を得ているか疑問の余地があるが、いずれにしても演習終了の意義は大きい。
米朝間交渉にとってのみならず、長年続いてきた朝鮮半島の緊張を緩和する意義もある。画期的な決定である。
米国と南北朝鮮の間では朝鮮戦争の終了宣言が話題になっている。それは政治的には意味はあるが、実質的には合同演習の終了のほうが重いことである。
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