平和外交研究所

2019 - 平和外交研究所 - Page 35

2019.01.03

習近平主席の台湾演説

 習近平国家主席は1月2日、「台湾同胞に告げる書」の発表から40周年の記念式典で包括的な台湾政策について演説を行った。

 習政権は第1期目に台湾の統一を達成できなかった。第2期目にはなんとかして実現しようとしており、そのためには、武力行使以外はすべての手段をいとわない考えのようだ。WHOでは台湾がオブザーバーとして総会へ出席することも阻止している。また、これまで台湾と国交を保ってきた諸国を相ついで断交させている。

 習主席の今回の演説はできるだけソフトタッチにしたのであろうが、中国の一方的な主張に満ちている。

 第1に、台湾人に対し、同じ中国人であることを強調しつつ、協力し合って統一を実現しようと呼びかけた。
この場合の「中国人」とは民族的な概念であり、国籍による違いは問題でない。大陸の中国人も台湾人も「中国人」である。したがって、中国がこのような呼びかけをすることについては事実関係を捻じ曲げているといった問題はない。
 しかし、台湾人の多くは中国と統一したくない考えであり、台湾人の方から、中国大陸に向かって、「同じ中国人だから協力し合って統一しよう」とは言わない。

 第2に、台湾の法的地位について、「台湾は中国の一部」だとし、また、「一つの中国」原則を堅持すると述べた。台湾は、以前は中国と同じ考えであったが、もはやこのような見解は受け入れなくなっている。
実は、「台湾は中国の一部」というのは便利な表現である。この「中国」が、「中華人民共和国」だとすれば、「台湾は中国の一部」というのは事実として成り立たない。「中華人民共和国」が統治したことはないからである。
「中国」はほんとうはそう言いたいのだが、それはできないので、代わりに「台湾は中国の一部」と主張している。各国に対してもそのことを認めるよう働きかけている。
 この「中国」は定義されていないので、都合のよいように解釈できる。「台湾は中国の一部である」というのは意味不明であるとも解釈できるので、中国と外交関係がある国は、それを直接的あるいは間接的に認めている。日本は「(中国の主張を)十分理解し、尊重する」としている。日本はポツダム宣言で台湾は日本の領土でなくなったので、どこの国になったとか、どこの国に編入されたか言えない立場だという考えである。
 
 第3に、「一国二制度」の台湾モデルを模索すると述べた。
「一国二制度」については、中国は、口ではそれを尊重すると言うが、実際には尊重していないと批判されている。とくに、香港の民主派の人たちからであるが、そのことは台湾でもよく知られており、台湾人としては「一国二制度」にとても乗れないのである。
 習主席としては、この制度によって台湾人の権利は守られるから心配しないでほしいと言いたいのであろうが、台湾の人たちからは信用されないだろう。

 第4に、台湾独立は「歴史の逆流」と断じ、もし必要なら武力使用もありうるとすごんだ。
中国としてはくぎを刺しておく感覚で武力使用の可能性を指摘したのであろうが、台湾の人たちが習主席のこのセリフをどのように受け止めたか容易に想像できる。中国としてもそれだけでは印象が悪いだろうと考えたのであろう。「中国人は中国人をたたかない」と付け加えたが、それで台湾人が受ける嫌な気持ちが晴れるとは到底考えられない。

 第5に、中台間で貿易やインフラ、資源分野での協力や基準の共通化など経済面での協力、さらには中台間の交流などにも言及している。

 習主席の演説について、台湾の蔡英文総統は、「一つの中国」原則も「一国二制度」も絶対に受け入れないと反発した。また、中台交流推進の条件として「台湾2300万人の人民が、自由と民主主義を堅持していることを尊重すべきだ」と強調した。
 蔡英文総統の支持母体である民進党は昨年11月の地方選挙で大敗を喫し、同氏は民進党総裁を辞した。民進党内では蔡英文総統の立場は弱くなっているが、中国との関係についての台湾人の気持ちは歯切れよく語っている。

 中国は今後台湾に対してどのように臨もうとしているのか。習主席の言うようなことであれば、台湾人の心をつかむのは容易でないだろう。

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