平和外交研究所

2017 - 平和外交研究所 - Page 39

2017.02.22

東芝の原子力事業と異文化の接触

 「マグマグニュース」2月22日付は東芝の経営困難に関する中島聡氏の評論「特損7000億円の東芝が犯した、致命的な「二度の失敗」」を掲載している。

 中島氏は、東芝が2006年、スリーマイル島での事故以来経営が悪化していたウェスティングハウス(WH)社をShaw Groupと共に54億ドル(約6370億円)で買収したことは、「今になって見ると、高値掴みだったし、「原発ババ抜き」のババを引かされたとも言えますが、その時点では、決して悪い戦略ではなかった」としつつ、「日本の会社は米国の会社と同じ土壌で戦えるのか?」という視点から東芝が犯した過ちを総括している。
 東芝の第1の過ちは、WH社の買収の際に、1社で WH社を買収するのはリスクが高すぎるという理由で、(原発工事を請け負う)Shaw Group に20%の株を買ってもらうことにしたが、プットオプション(保有するWH社の株式を、決まった価格で東芝に売りつける権利)を与えたことであった。2011年の福島原発事故で原発事業が低迷することを悟ったShaw Groupは「間髪を入れずにプットオプションを行使し、(原発事故の影響を考慮すれば二束三文にしかならない)WH 社の株を 1250 億円で東芝に売り抜けた」。
 第2の失敗は、東芝の子会社となったWHが、2015年に米原子力サービス会社のCB&Iストーン・アンド・ウェブスター(S&W)を買収した際、工事の遅れによる賠償金を WH社と S&W社のどちらが支払うかでもめていたにも関わらず、買収後の賠償金の支払いの責任を明確にせずに買収してしまったことである。  
 ちなみに、東芝は2016年末にS&W社の買収に関連して数千億円規模の損失が発生する可能性があると発表している。
 また、東芝によれば、この買収には不正が行われた可能性があると言われているが、これほどまでにリスクの大きい買収に、(親会社である)東芝が関わっていなかったのは大きな問題だと中島氏は指摘している。

 さらに、東芝は、最悪の場合(原発工事がさらに伸びてコストが膨らんだ場合や、工事そのものをキャンセルしなければならなかった場合)には、今回損失として計上した7000億円強以外に、さらに7000億円強の違約金を支払わされる可能性すらある契約になっていると中島氏は指摘している。

 中島氏の指摘に興味を覚えたのは、東芝が過ちを犯したのは日本人的な発想が原因になっているとし、また、「契約社会で鍛えられた米国企業にとっては、それに慣れていない日本企業との間で、自分だけが有利になる契約を結ぶことは、赤子の手を捻るように簡単なことのように私には見えます」と述べ、「開国当時に日米間で交わされた「不平等条約」は、今は日米の企業間で行われているとも言えるのです」と結んでいるからだ。

 東芝が過ちを犯したことについて、東芝自身はどのように原因を分析し、今後の会社経営に生かしていくか、余計なおせっかいだと思われるだろうが、日本のトップ企業だけに気になる。特に、日本人が異文化と接触したり、かかわったりする場合の行動という問題があると思う。
 契約を結ぶにはその内容をよく見ておかないといけない。そんなことは普通の人でも日常的にリマインドさせられる。東芝は契約をよく見ずに署名したのではなく、内容は当然知ったうえで判断したのだろうが、それを個人的に犯した過ちとみなすか、それとも東芝全体が犯しやすい問題と見るか、大きな違いである。つまり、東芝の文化に問題があると見るか、それとも、東芝の文化には問題はなく、ただ個人に、複数であっても、問題があったために発生したと見るかの違いである。
 
 文化論になるが、日本人は異文化と接触して多くのことを学んできた。一方、環境いかんでは、たとえば、強い圧力にさらされた場合には正しい判断、対応が困難となり、過ちを犯すことも事実である。極端な例だが、戦時中日本は「鬼畜米英」と言って敵視した。日本人に限らない。ドイツにおいてはナチスの時代にユダヤ人の言うことはすべて誤っていると教えられ、それを国民は受け入れた。
 今日、そのように極端なことはなくなっているが、圧力を受けると日本人に限らず、正常な対応ができなくなるのは今も変わらない。このことは一般には個人の素養の問題と見られているが、組織においても同様の問題がある。
 企業が経営に専念するのは当たり前だろうが、文化とも関係している。東芝においても、文化としてみるべき側面があるはずだ。そのような視点を持って異文化と接触できるかという問題があると思う。

2017.02.21

「駐韓大使の一時帰国」へのご意見

「駐韓大使の一時帰国」に対しつぎのご意見が寄せられました。

○倉田ちひろ氏より

「駐韓大使の一時帰国
THE PAGEに寄稿した一文

を拝読しましたが、あまりにも世論とのずれを感じました。
今や韓国に対する国民感情は低下、断交しろと言う大袈裟な意見に対しても、全否定する人は少数です。
失礼ですが、日本は終戦後、ずっと「へたれ外交」を続けて、この国は「米国の犬」のみならず、「媚中」「媚韓」と言われ続けてます。
半日活動を国を挙げて行っている中国と韓国に対して、強い態度にも出れない考えには、本当にうんざりしています。

この記事が、元外務相の方が書かれていると言うことで、未だに外務省のへたれっぷりが健在なのかと、残念な気持ちになりました。

日本を貶める国に対して、こんな媚びた態度でどうするんですか。
戦後70年を超え、そろそろ考え直していただきたいです。

断交しろとまでは言いませんが、そうなってもやむない、と思っています。
そう言う世論が、芽生えています。」


○匿名希望の某氏より

「駐韓日本大使の「一時帰国」が続くとどんな影響が出る?
の記事について。

今現在大使を一時帰国させているのは、韓国に対して誠意をもって国がした約束を守れという事を促している。
国の下約束を守れないのであれば、どうのような条約、合意、協議も無駄である。
つまりだ、大使が居たって無駄って事だ。

これを理解させるために一時帰国させているのに、事態が全く進捗していないのに大使を返してどうする?
今大使を帰任させたところで、日韓の国交にとって百害一利無しだ。」
2017.02.21

駐韓大使の一時帰国

THE PAGEに寄稿した一文

「慰安婦少女像をめぐって日本政府が長嶺駐韓大使と森本在釜山総領事を一時帰国させて1か月がたちます。ソウルの日本大使館前に像が設置されたのが5年前の2011年、日韓両政府が慰安婦問題の最終的解決に合意し、韓国政府が慰安婦少女像について「適切に解決されるよう努力する」と明言したのが2015年、そして釜山の日本総領事館前に新しい像が設置されたのが昨年。5年以上もこの問題は未解決となっており、しかも状況はさらに悪化しています。
長嶺大使らを一時帰国させたことについては賛否両論がありましたが、日本政府は長く我慢を強いられてきたことであり、韓国政府に強く抗議し、また迅速な対応を促すためにやむを得ないことだったと思います。

大使の一時帰国について国際的なルールはありません。日本は2010年にロシア・メドベージェフ大統領(当時)が北方領土を訪問した際や、2012年に韓国・李明博大統領(同)が竹島を訪問した際に大使を一時帰国させたことがありましたが、1週間前後で帰任させました。
なお、大使を「召喚」することもあります。これは一時的な措置という意味合いはなく、外交関係断絶に発展してもやむを得ないという覚悟で呼び戻す場合に使われることが多いです。これに比べれば、「一時帰国」は単に事務的な理由からも行われることなので深刻な事態とは限りません。

 しかしながら、長嶺大使らをこれ以上日本にとどめておくのがよいか、疑問です。
 大使は少女像問題の解決だけが任務なのではありません。長嶺大使らは日本国を代表し、韓国において日本に対する理解の増進を図り、また、日本が韓国を正しく理解するよう努めることが任務です。さらに、日本と韓国の間の経済・文化交流の状況をしっかりとフォローし、必要に応じて対応しなければなりません。たとえば、日本側が不利になることがあれば韓国政府と協議して正さなければなりません。そのため、大使や総領事は大統領以下の韓国政府要人と常に意思疎通をよくしておくことが必要です。
長嶺大使が一時帰国している間、ソウルの日本大使館では公使が大使の代理となっていますが、それはあくまで臨時の措置であり、どんなに頑張っても大使のようなわけにはいきません。大使は一言でいえば日本を代表していますが、公使は大使を補佐するのが役割であり、その違いは非常に大きいです。北朝鮮によるミサイル発射のような挑発的行動への対処の面で日韓両政府は常に連携、協力し合っていますが、大使が不在であると韓国政府のハイレベル要人との協議などにも困難が生じるでしょう。会える人も格下になる恐れがあります。要するに、困難な問題であるほど大使が外相など韓国政府の責任者と直接交渉して解決策を探る必要があるのです。
また、長嶺大使らが長期間任地を離れていることに韓国民の間でも不満の声が上がっています。少女像の問題を別にすれば、韓国民がそのように思うのはもっともな面があります。
一方、韓国においては、昨年秋以来の朴槿恵大統領の側近をめぐるスキャンダルから発して朴大統領が議会において弾劾され、その職務が停止されました。黄教安首相が大統領代行を務めていますが、大きな政策を打ち出すことはできません。代行が大統領の職務を代わって行えないのは大使の臨時代理以上でしょう。
韓国がこのような状況に立ち至っているときに日韓両国間で厄介な問題が生じたことは不幸なことですが、慰安婦少女像問題も野党の主張などから再燃した面があり、韓国の政情と絡み合っているようです。
しかしながら、慰安婦像問題はあくまで他の問題と区別し、切り離して早期の解決を図るべきです。日本と韓国の間には、慰安婦少女像以外に、金融・通貨に関するスワップ(交換)、盗難文化財の返還など解決を要する問題があります。
政情困難の中ではありますが、長嶺大使らには早期に帰任して諸問題の解決に取り組んでもらいたいと思います。」

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