平和外交研究所

2017 - 平和外交研究所 - Page 32

2017.04.10

トランプ・習会談と貿易合意

 米中首脳会談についての感想である。
 
 まず、トランプ大統領の「初めての直接会談で米中関係は大きく前進した」という評価を額面通り受け取る気持ちにはなれない。
 北朝鮮問題は、基本的にはこれまで何十回と繰り返してきたやり取りの繰り返しだったようだ。
 「すべての選択肢がテーブルの上にある」「中国がしないなら米国だけで行動する」などの発言は軍事行動を示唆しているとして注目されているが、20数年前に米国が検討した軍事行動の是非と今は何が違うか。20年前、北朝鮮は核を持っていなかった。今、軍事行動はその時よりももっと困難ではないか。
 ともかく、片言隻句をとらえて想像をたくましくするようなことでは実態は分からないし、いたずらに混乱するだけだ。
発言する方も問題だ。ほんとうに確信があってのことか。トランプ政権に見られがちなレトリック/口先だけに過ぎないのではないか。
 
 政治・安全保障面での最大の問題である東シナ海・南シナ海問題については、トランプ氏は中国が国際規範を守ること、南シナ海を軍事拠点化しないとの習近平主席の発言を守ることを求め、また、米国は「自由の航行作戦」を強化する方針であることを伝えた。
 これに対する中国側の発言は公表されていない。この問題について前進があったとは思えないが、オバマ・習会談の時のように公の場で双方がまったく違う見解を主張しあうことを避けたのは特に中国として賢明な対処であった。
 
 一方、中国側の発表としては新華社通信の報道があるが、「両首脳は深く、友好的に、長時間会談し、新たなスタート地点から中米関係を発展させることに合意した」と言っているだけで、この報道も今次会談の政治・安全保障面の成果を伝えているとは思えない。もっとも、中国は今回の会談が決定される前からトランプ大統領の出方を強く警戒しており、いかにして会談を失敗させないかを目標としていた。新華社報道は中国側としてその目標は達成されたと認識していることを示している。

 今次会談の成果は貿易不均衡を是正するために「100日計画(100-day plan)」を作成する合意である。その内容はこれから詰めることとなるが、米国に拠点がある『多維新聞』は、中国は金融と牛肉の輸入に関し国内市場を開放する案を考慮していると報道している。また、トランプ大統領は米国の鉄鋼輸入に関する行政命令を発出する考えであり、その内容はとくに中国に厳しいものとなるとの観測を米政府への取材結果に基づき報道してい
2017.04.07

バノン米大統領上級顧問・首席戦略官がNSCから外された

 4月4日、スティーブ・バノン大統領上級顧問・首席戦略官がNSC(国家安全保障会議)から外されることが発表された。
 同氏は、よく言えば舌鋒鋭い論客であるが、極論を吐くことでも知られている。トランプ大統領が就任早々の1月27日に発出した、中近東の特定7カ国からの入国を制限する大統領令はバノン氏が起案したと言われていた。
 バノン氏は大統領選中、その過激な主張がトランプ候補に気に入られ、政権成立後国家安全保障会議(NSC)の常任メンバーに入れられるなど異例の待遇を受けたが、新政権が矛盾に満ちた状況の中で現実的な姿勢を取り始めるに伴い、大統領の側近にも人事異動が生じた。バノン氏がNSCから外れたことは国家安全保障問題担当大統領補佐官であったマイケル・フリン氏が辞任したことと並んでトランプ大統領側近の入れ替えを象徴する出来事だ。
 
 バノン氏がNSCから外れたことによりマクマスター安全保障担当大統領補佐官としては仕事がしやすくなっただろう。マクマスター氏は任命前、バノン氏らと衝突するのではないかと懸念されていた人物であり、NSCは、大きく見れば極端な人物が去って、実務的な人が入ってきたわけである。

 バノン氏は「あと5年から10年のうちに、我々は南シナ海で戦争をする」と言っていた。この発言も当面問題にされなくなるだろうが、南シナ海が米中間で最大の矛盾であることに変わりはない。トランプ大統領は習近平主席との会談で南シナ海の問題をどのように扱うか、現在進行中の米中首脳会談の結果が待たれる。

2017.04.05

米国の北朝鮮政策

 4月5日、北朝鮮は「弾道ミサイル」の発射実験を行った。あいかわらずの示威行動であり、それに対する各国の反応は、これまた相変わらずの過剰反応だ。北朝鮮は6~7日の米中首脳会談で北朝鮮問題が取り上げられることを不快視しているのだろう。
 米新政権の北朝鮮政策について、「ザ・ページ」に以下の一文を寄稿した。

「核や大陸間弾道ミサイル(ICBM)の開発を進める北朝鮮は最近もミサイルの発射実験や新しい大型エンジンの噴射実験など挑発的な行動を続けています。
 一方、米国のトランプ新政権は北朝鮮に対する政策を見直しています。ティラーソン国務長官は3月16日、東京で岸田外相と会談した後の記者会見でそのことに言及し、また、「北朝鮮に対して非核化を求めた過去20年間の政策は失敗だった」とも言いました。
 北朝鮮が核開発に進む恐れが出てきたのは、1993年に核兵器不拡散条約(NPT)から脱退すると宣言してからです。これに対し米国は日本や韓国などとともに朝鮮半島エネルギー開発機構 (KEDO)を設立して北朝鮮の核開発を放棄させようと試みました。
 2003年からは北朝鮮、韓国、中国、ロシア、米国および日本による6者協議を行いました。しかし、北朝鮮は開発を継続し、2006年に初の核実験を行い、2016年には水爆実験もしました。たしかに北朝鮮に非核化を求める努力は失敗続きでした。
 
 では、米国は今後、北朝鮮に対してどのような新政策を打ち出せるでしょうか。
 一つの選択肢は、中国がその影響力を強化して北朝鮮の核開発を止めさせる方法です。中国は北朝鮮のエネルギー需要の約半分を供給しているとも言われており、本当にそうであれば、中国の影響力は絶大のはずです。
 しかし、中国が供給しているのは主として石油であり、北朝鮮の石油需要は多くありません。石炭に依存する度合いが高いからであり、約8割だとも言われています。石炭は北朝鮮国内で豊富に生産されており、石油とは逆に中国へ輸出もしています。
また、これまでの経緯を見ても、米国は中国に対して北朝鮮への働きかける強くするよう何回も求めました。しかし、今日に至るまで北朝鮮の核・ミサイルの開発を止めさせることはできませんでした。
 したがって、中国に北朝鮮への働きかけを強めるよう求める方法が有効か、疑問と言わざるをえないのですが、ティラーソン国務長官は米上院における就任前の審査で、中国が北朝鮮に対する働きかけを強くすることが重要であると述べており、また、岸田外相との会談後の記者会見でも「中国の役割が極めて重要だ」と発言しています。これではブッシュ・オバマ時代と基本的には同じ考えであり、トランプ政権としても新味を出せないでしょう。
 しかし、米中首脳会談を前に、英紙FTとのインタビューでトランプ氏は「中国が北朝鮮問題を解決しようとしなければ、米国が解決する」と語ったとされます。トランプ政権の考えはまだ固まっていないのでしょう。

 第2の選択肢は、物騒なことですが、北朝鮮に対する武力攻撃により核やミサイルの開発を止めさせることです。実は、このような方策は94年に検討されたことがあり、クリントン大統領はペリー国防長官から「朝鮮半島で戦争が勃発すれば、最初の90日間で米軍兵士の死傷者は5万2千人に上る」という見通しを聞き、軍事力を行使することは採用されなかったと言われています(ドン・オーバードーファー(菱木一美訳)『二つのコリア 国際政治の中の朝鮮半島』)。

 現在でも武力攻撃、核の先制攻撃は選択肢になりうるか、トランプ政権は検討対象としている可能性がありますが、はたして現実的か疑問です。核兵器を使って大規模に攻撃すれば米国兵の犠牲を少なくできるでしょうが、北朝鮮の民間人の犠牲は膨大な数に上ります。また、韓国も戦争状態になり、甚大な被害が発生します。そうなれば、米国は国際的にも米国内でも強い批判にさらされるでしょう。それを考えると武力攻撃は選択肢になりえないと思います。

 第3に、平和的に解決する選択肢として、米国が北朝鮮と話し合い、交渉して核開発を中止させる方法がありえます。交渉のポイントは、「米国は北朝鮮の存在を認める。北朝鮮は核開発を中止し、既存の核兵器をすべて放棄する」であり、これが北朝鮮問題の本質です。
 この交渉は米国しかできません。なぜなら、北朝鮮の存在を脅かす可能性があるのは米国だけであり、また、中国が米国に代わって北朝鮮の承認することなどありえないからです。中国自身による北朝鮮の承認は数十年も前に実現しています。
 もちろん、米朝間の交渉は困難なものであり、成功する保証はありません。しかし、北朝鮮の非核化は承認と引き換えでないかぎり実現しないと思います。残された唯一の方法を試みることもしないであきらめるべきでありません。

 トランプ氏は大統領になる前、北朝鮮と対話してもよいという、興味ある発言を複数回しました。しかし、北朝鮮のイメージは以前にもまして悪化しており、米国として対話に踏み切りにくくなっているかもしれません。
 しかし、危険はますます増大しており一刻の猶予もありません。米国は迂遠な方法に頼るのでなく、みずから北朝鮮の核・ミサイル問題の解決を急ぐべきだと思います。
米朝間の話し合いにより朝鮮半島の非核化が実現することは日本にとっても極めて重要な意義があり、日本政府も話し合いを後押しすべきです。米朝関係の進展は我が国の拉致問題の解決にも資すると思います。

アーカイブ

検索

このページのトップへ

Copyright©平和外交研究所 All Rights Reserved.