2017 - 平和外交研究所 - Page 34
2017.03.29
今回始まった交渉への参加/不参加状況はほぼこの決定の時と同じであるが、中国も不参加となった。つまり、米英仏中ロなど全核保有国が欠席した。核の非保有国では、米国の同盟国の大半は不参加であったので日本だけが特異な姿勢ではなかったようだ。
さらに、条約交渉開始と同時刻に、交渉場所の外側で、ヘイリー米国連大使が約20カ国の国連大使らと共に条約に反対する声明を読み上げたが、日本の高見澤軍縮大使は同席しなかった。
日本は核禁止条約交渉に反対しているが、交渉の場には出向き、日本の考えを主張すべきであったと思う。今回、交渉を始めるに先立って国連総会議場で各国が意見を述べる機会があり、高見澤大使は日本の立場を説明した。その限りでは改めて日本として主張したが、交渉の中でも日本は我が国の考えを主張すべきであった。
交渉は2段階になっており、31日まで行われる第1段階では各国が基本的な考えを述べることになっている。そして、交渉はいったん休会となったのち、6月から第2段階が始まり、条約案の審議が開始される予定だ。そういうことであれば、この第1段階は日本として反対の立場を説明・主張するのに適した場ではないか。
要するに、日本は、核兵器の禁止に現時点でどうしても賛成できないとしても、それを条約にしてしまおうという試みには最後まで説得を続けるべきであったと思う。
以上もさることながら、日本が交渉への不参加を決定したのは、米トランプ政権と異なる態度を取るべきでないと日本政府(その一部?)が考えた結果であると言われていることに深刻な懸念を覚える。
日本は米国の核の傘の下にあるが、核政策について個性があってよいし、むしろ個性的であるのは当然だ。被爆国だからだ。核の禁止には反対しても核保有国と違う個性があって当然だ。しかるに、米国と異なる態度を取るべきでないとすると、この個性を放棄することにならないか。
しかも、トランプ政権は軍事予算を法定限度額を超えて増額する方針であり、かつ、核兵器の近代化も重視している。このような方向性の米国と、核について同じ方針を取れるか、非常に疑問だ。
さらに、この問題はトランプ政権とどのように協力していくかという一般的なこととも関連している。日本としてできること、できないことは米国とおのずと異なっている。それを無視すると、たとえば、朝鮮半島で米国が軍事行動を始めた場合、日本は米国から求められると「第三国による攻撃を排除するために必要な武力の行使、部隊の展開などを自衛隊にさせる」ことになる。その前提として「日本の存立が脅かされる明白な危険がある」などいわゆる新3要件を満たすことが必要であるが、トランプ政権と違う態度を取らないという方針に従えば、それは比較的容易に認定されるだろう。
しかし、そのようなことは、無謀な戦争をしたことを反省し、再出発したときの考えである現憲法とあまりにも違ってくるのではないか。
心配しすぎかもしれないが、トランプ政権と歩調を合わせるというのが日本政府の方針だとすると、国民が認識していない危険にまでつながっていくように思えてならない。
核禁止条約交渉に日本は参加しないでよいか
3月27日、国連本部で「核兵器禁止条約」の制定を目指す会議が始まったが、日本は参加しなかった。昨年12月、国連総会でこの条約交渉の開始が決定された際、賛成した国は113カ国、反対は35カ国。核保有国の米英仏露は反対し、中国は棄権した。日本は反対票を投じた。今回始まった交渉への参加/不参加状況はほぼこの決定の時と同じであるが、中国も不参加となった。つまり、米英仏中ロなど全核保有国が欠席した。核の非保有国では、米国の同盟国の大半は不参加であったので日本だけが特異な姿勢ではなかったようだ。
さらに、条約交渉開始と同時刻に、交渉場所の外側で、ヘイリー米国連大使が約20カ国の国連大使らと共に条約に反対する声明を読み上げたが、日本の高見澤軍縮大使は同席しなかった。
日本は核禁止条約交渉に反対しているが、交渉の場には出向き、日本の考えを主張すべきであったと思う。今回、交渉を始めるに先立って国連総会議場で各国が意見を述べる機会があり、高見澤大使は日本の立場を説明した。その限りでは改めて日本として主張したが、交渉の中でも日本は我が国の考えを主張すべきであった。
交渉は2段階になっており、31日まで行われる第1段階では各国が基本的な考えを述べることになっている。そして、交渉はいったん休会となったのち、6月から第2段階が始まり、条約案の審議が開始される予定だ。そういうことであれば、この第1段階は日本として反対の立場を説明・主張するのに適した場ではないか。
要するに、日本は、核兵器の禁止に現時点でどうしても賛成できないとしても、それを条約にしてしまおうという試みには最後まで説得を続けるべきであったと思う。
以上もさることながら、日本が交渉への不参加を決定したのは、米トランプ政権と異なる態度を取るべきでないと日本政府(その一部?)が考えた結果であると言われていることに深刻な懸念を覚える。
日本は米国の核の傘の下にあるが、核政策について個性があってよいし、むしろ個性的であるのは当然だ。被爆国だからだ。核の禁止には反対しても核保有国と違う個性があって当然だ。しかるに、米国と異なる態度を取るべきでないとすると、この個性を放棄することにならないか。
しかも、トランプ政権は軍事予算を法定限度額を超えて増額する方針であり、かつ、核兵器の近代化も重視している。このような方向性の米国と、核について同じ方針を取れるか、非常に疑問だ。
さらに、この問題はトランプ政権とどのように協力していくかという一般的なこととも関連している。日本としてできること、できないことは米国とおのずと異なっている。それを無視すると、たとえば、朝鮮半島で米国が軍事行動を始めた場合、日本は米国から求められると「第三国による攻撃を排除するために必要な武力の行使、部隊の展開などを自衛隊にさせる」ことになる。その前提として「日本の存立が脅かされる明白な危険がある」などいわゆる新3要件を満たすことが必要であるが、トランプ政権と違う態度を取らないという方針に従えば、それは比較的容易に認定されるだろう。
しかし、そのようなことは、無謀な戦争をしたことを反省し、再出発したときの考えである現憲法とあまりにも違ってくるのではないか。
心配しすぎかもしれないが、トランプ政権と歩調を合わせるというのが日本政府の方針だとすると、国民が認識していない危険にまでつながっていくように思えてならない。
2017.03.27
林鄭氏の得票数は777票で、当選に必要な選挙委員(定員1200)の過半数(601)を1回目の投票で上回った。
世論調査で56%の支持率があった前財政官、曽俊華(ジョン・ツァン)氏は365票、元裁判官の胡国興氏は21票だった。
林鄭氏は梁振英(C・Y・リョン)現長官のもとで選挙制度改革を担当。若者が「真の普通選挙の実現」を訴えた2014年の大規模デモ「雨傘運動」で、香港政府代表として若者と対話し、要求を退けたことが習指導部に評価されたが、若者の支持は得られず、世論調査の支持率は曽氏の約半分まで低下していた。
(経緯と問題点)
行政長官の選挙方法については香港の中国への返還(1997年)以来問題があった。
1984年の中国と英国との返還合意では、「香港特別行政区においてはその成立後も社会主義の制度と政策を実施せず、香港の既存の資本主義制度と生活様式を保持し、50年間変えない」という有名な基本原則が謳われた(第1付属文書)。
英国統治時代の「総督」に代えて新たに「行政長官」が中国政府により任命されることになり、その選出については「現地で選挙または協議を通じて選出され、中央人民政府が任命する」とだけ記載されていた(中英合意第3項4)。普通選挙、つまり、香港住民による選挙とは記載されていなかったが、香港の住民の間では民主的な政治は維持・推進したいという願望が強かった。経緯の冒頭で引用した原則はそのことを示していた。
中英合意に従い1990年に制定された香港基本法(中国の法律)では、「行政長官は地元で選挙または協議を通じて選出され、中央人民政府が任命する。行政長官の選出方法は、香港特別行政区の実情および順を追って漸進するという原則に基づいて規定し、最終的目標は広範な代表性をもつ指名委員会が民主的手続きを踏んで指名したのち普通選挙で選出されることである」と記された(第45条)。つまり、基本法は、前半では中英合意をそのまま記載しつつ、後半では「指名委員会」による指名の後「普通選挙による」としたのだった。
そのように2段階の選出方法にしたのは、住民による「普通選挙」を導入せざるを得ないとしても、ただそれを認めると「香港の中国化」は困難になるし、中国本土へ民主化の影響が及ぶ危険があるので、一定の統制は必要と考え、中国政府がコントロールする「指名委員会」での指名を条件にしたのであった。形式だけは普通選挙にしても、実質は完全なコントロールを維持することとしたと言えるだろう。
2014年、全人代に提出された行政長官選出案は、形式的には普通選挙を導入しているが、事実上親中国派しか立候補できない仕組みになっており、これには反対が強く成立しなかった。そのため今回の選挙も、1200人の選挙委員だけが投票権を持つ旧来の制度で実施された。選挙委の構成には民意はほとんど反映されず、中国とビジネス面で関係の深い業界団体の代表ら親中国派が8割以上を占めると言われる。民主派にとっては、立候補はできるが、当選できない仕組みが少なくとも5年続くわけだ。
林鄭氏は中国政府の任命を経て、7月1日に就任する予定だが、その日に香港返還20周年式典が開催される。民主派はこの機会に政府との対決姿勢を強めているとも言われる。林鄭氏は記者会見で、「分断を修復し、市民を団結させることが最重要の仕事になる」と語ったが、その実現は容易でない。
香港の行政長官選挙
香港政府のトップである行政長官の選挙が3月26日に行われ、中国政府の支持を受けた前政務長官の林鄭月娥(キャリー・ラム)氏が当選した。林鄭氏の得票数は777票で、当選に必要な選挙委員(定員1200)の過半数(601)を1回目の投票で上回った。
世論調査で56%の支持率があった前財政官、曽俊華(ジョン・ツァン)氏は365票、元裁判官の胡国興氏は21票だった。
林鄭氏は梁振英(C・Y・リョン)現長官のもとで選挙制度改革を担当。若者が「真の普通選挙の実現」を訴えた2014年の大規模デモ「雨傘運動」で、香港政府代表として若者と対話し、要求を退けたことが習指導部に評価されたが、若者の支持は得られず、世論調査の支持率は曽氏の約半分まで低下していた。
(経緯と問題点)
行政長官の選挙方法については香港の中国への返還(1997年)以来問題があった。
1984年の中国と英国との返還合意では、「香港特別行政区においてはその成立後も社会主義の制度と政策を実施せず、香港の既存の資本主義制度と生活様式を保持し、50年間変えない」という有名な基本原則が謳われた(第1付属文書)。
英国統治時代の「総督」に代えて新たに「行政長官」が中国政府により任命されることになり、その選出については「現地で選挙または協議を通じて選出され、中央人民政府が任命する」とだけ記載されていた(中英合意第3項4)。普通選挙、つまり、香港住民による選挙とは記載されていなかったが、香港の住民の間では民主的な政治は維持・推進したいという願望が強かった。経緯の冒頭で引用した原則はそのことを示していた。
中英合意に従い1990年に制定された香港基本法(中国の法律)では、「行政長官は地元で選挙または協議を通じて選出され、中央人民政府が任命する。行政長官の選出方法は、香港特別行政区の実情および順を追って漸進するという原則に基づいて規定し、最終的目標は広範な代表性をもつ指名委員会が民主的手続きを踏んで指名したのち普通選挙で選出されることである」と記された(第45条)。つまり、基本法は、前半では中英合意をそのまま記載しつつ、後半では「指名委員会」による指名の後「普通選挙による」としたのだった。
そのように2段階の選出方法にしたのは、住民による「普通選挙」を導入せざるを得ないとしても、ただそれを認めると「香港の中国化」は困難になるし、中国本土へ民主化の影響が及ぶ危険があるので、一定の統制は必要と考え、中国政府がコントロールする「指名委員会」での指名を条件にしたのであった。形式だけは普通選挙にしても、実質は完全なコントロールを維持することとしたと言えるだろう。
2014年、全人代に提出された行政長官選出案は、形式的には普通選挙を導入しているが、事実上親中国派しか立候補できない仕組みになっており、これには反対が強く成立しなかった。そのため今回の選挙も、1200人の選挙委員だけが投票権を持つ旧来の制度で実施された。選挙委の構成には民意はほとんど反映されず、中国とビジネス面で関係の深い業界団体の代表ら親中国派が8割以上を占めると言われる。民主派にとっては、立候補はできるが、当選できない仕組みが少なくとも5年続くわけだ。
林鄭氏は中国政府の任命を経て、7月1日に就任する予定だが、その日に香港返還20周年式典が開催される。民主派はこの機会に政府との対決姿勢を強めているとも言われる。林鄭氏は記者会見で、「分断を修復し、市民を団結させることが最重要の仕事になる」と語ったが、その実現は容易でない。
2017.03.24
「核兵器禁止条約は世界をいっそう危険で不安定にする。核禁止条約ができても一発の核兵器の減少にもならず、加盟しない核保有国には新しい法的義務を課すことにならない。禁止条約は米国と欧州やアジア太平洋地域の同盟国との拡大抑止を意図的に弱めようとしているようだ。国際平和を長く下支えしてきた戦略的な安定を損なう。禁止論は非現実的な期待に根ざしている。
核兵器なき世界という目標が今の安全保障環境に照らして現実的か再検討中だ。」
日本の立場は難しい。政府は、核保有国が参加しない交渉には実効性がないとの考えであり、条約交渉に参加するかどうか、3月22日の時点でも「検討中」だと別所国連大使が説明している。
日本はどの国よりも核兵器の廃絶を望んでいる。しかし、核の抑止力に依存せざるを得ないのも事実であり、核を禁止すればこの矛盾が解けるのではない。また、条約で禁止してもすべての国が順守する保証はないし、条約に参加しない国には禁止の効果は及ばないという問題もある。
ただ、条約交渉には参加すべきだと思う。条約名は「核兵器禁止条約」と言っても、具体的な内容はこれから交渉して決めていくのであり、日本の立場を害さないで条約ができる可能性はあるかもしれない。すくなくとも、この重要な問題については条約内容が明確になるまで日本として最大限の努力をすべきだと思う。
核兵器禁止条約交渉に日本は参加すべきだ
国連では3月27日から核兵器を法的に禁止する核兵器禁止条約の制定をめざす交渉が始まる。報道によれば、米国のNSC(国家安全保障会議)のフォード上級部長は、3月21日、同条約について要旨次のように発言した。「核兵器禁止条約は世界をいっそう危険で不安定にする。核禁止条約ができても一発の核兵器の減少にもならず、加盟しない核保有国には新しい法的義務を課すことにならない。禁止条約は米国と欧州やアジア太平洋地域の同盟国との拡大抑止を意図的に弱めようとしているようだ。国際平和を長く下支えしてきた戦略的な安定を損なう。禁止論は非現実的な期待に根ざしている。
核兵器なき世界という目標が今の安全保障環境に照らして現実的か再検討中だ。」
日本の立場は難しい。政府は、核保有国が参加しない交渉には実効性がないとの考えであり、条約交渉に参加するかどうか、3月22日の時点でも「検討中」だと別所国連大使が説明している。
日本はどの国よりも核兵器の廃絶を望んでいる。しかし、核の抑止力に依存せざるを得ないのも事実であり、核を禁止すればこの矛盾が解けるのではない。また、条約で禁止してもすべての国が順守する保証はないし、条約に参加しない国には禁止の効果は及ばないという問題もある。
ただ、条約交渉には参加すべきだと思う。条約名は「核兵器禁止条約」と言っても、具体的な内容はこれから交渉して決めていくのであり、日本の立場を害さないで条約ができる可能性はあるかもしれない。すくなくとも、この重要な問題については条約内容が明確になるまで日本として最大限の努力をすべきだと思う。
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