平和外交研究所

2017 - 平和外交研究所 - Page 18

2017.07.24

文在寅政権の迷走の始まり?

 韓米間のTHAAD問題は日韓間の慰安婦問題にますます似てきた。表面的に類似点を取り上げるのは控えなければならないが、韓国内の強い反対意見に対して文在寅政権が正しく対処できるか、日本としても注意してフォローしていく必要がある。

 THAADは朴槿恵政権時代の昨年7月、米韓両軍が韓国への配備を決め、2017年3月から装備の搬入が開始され、すでに2基が運用されている。発射台は全6基で運用される予定で、追加の4基の搬入が始まろうとしたときに、就任早々の文在寅大統領はそのことを事前に聞いていなかったと発言して、真相究明を指示したため配備が遅れ現在に至っている。
 文在寅大統領は野党時代からTHAAD配備に反対していた。大統領に就任後はさすがにあからさまな反対は控えつつも、慎重な姿勢を示したのだが、米側としては、両国間の合意に従い配備の手続きを進めてきたのに韓国側から急に待ったがかかったので面白くなかった。

 6月30日に行われた文在寅大統領とトランプ大統領の会談ではこの問題について率直な議論が行われたはずだが、会談後の共同声明では、このTHAAD問題と米韓自由貿易協定(FTA 米国は再交渉を求めていた)の2大難問は直接触れられなかった。文在寅氏はTHAAD問題に焦点を当てたくなかったのと、米側としては、この共同声明は米韓両国の軍事防衛面での協力を両首脳が再確認したことを詳しく述べており、その中でTHAADの配備についても読めるという考えだったと思われる。

 THAADに対する韓国内の反対は、対米従属がさらに深まることと、中国が激しく反対しており、韓国への中国人観光客が激減していたことが原因である。文在寅大統領はトランプ大統領との会談後、CSIS(戦略国際問題研究所)での講演で、「THAAD配備は韓国の主権問題。韓国の主権的決定について、中国が不当に干渉することは正しくない」と述べ、韓国の大統領として胸を張った。
しかし、文大統領がどこまでそのような原則論を貫くことができるか。文在寅氏自身、「THAADの配備を決定する前に、中国と十分な外交的協議をしていないのは事実。韓国政府は、THAAD配備を最終決定するまでの手続き的な正当性を踏まえて進めていくことにしており、その過程で、中国とも十分に協議することができると考えている」と付け加えていた。文在寅氏には原則的立場か、中国への配慮か、どちらに重点があるか分からないところがある。

 韓国内、とくにTHAADが配備されている慶尚北道星州郡ではTHAADに反対する活動家が、THAADの運用に必要な物資の搬入を阻止するため「検問所」を設けており、警察車両も検問を受けないと通れないそうである。韓国軍もやむなくヘリで物資を輸送している。強硬策によるべきだと単純に言いたくないが、それにしてもこのような状況は目に余るものである。韓国の新聞も「無法地帯」と呼んでいる。
 ソウルでも反対デモが在韓米国大使館を取り囲み、これまで何回もレーザービームで「NO THAAD」と照射しているので、米大使館はウィーン条約に基づき抗議し、善処を求めているそうだ。この点でも慰安婦問題と類似の状況になっているのだが、レーザービームのことなどを聞くと、日本大使館よりひどいのかもしれない。
 
 韓国政府は7月21日、さらに一歩後退した。国防部は突如、THAADの追加配備に関する調査の一環である、THAADからのレーダーにより発せられる電磁波の測定を取りやめたのだ。これでは、文在寅氏が米国に対して示している「米国との合意を尊重するが、追加配備の影響については調査する」という方針が貫けなくなるではないか。

 当然米国は韓国が政府間の合意を守るよう求めるだろう。日本が慰安婦問題に関する日韓政府間の合意を尊重するよう求めるのと同じことだ。
 文在寅大統領はこれからどうしていくのか。強い意見を持つ国民を大統領はじめ政府は正しく代表し、また指導できるか。国際社会の常識を尊重しつつ各国と付き合っていけるか。疑問はつきない。
 
 さらに韓国政府は、朝鮮半島の平和を構築・推進するためロードマップの作成を計画しているという。その目的は立派だが、朝鮮戦争の恒久的処理のためにも、朝鮮半島の非核化のためにも米国は決定的な立場にある。韓国が朝鮮半島の統一を最大の国家目標とするのは当然だが、それについても米国との連携は欠かせない。また、東アジアの平和と繁栄に関し日本との連携は不可欠である。文在寅大統領は当面の政治課題の処理をそのようなことと矛盾なく行えるか。今見る限りは、このロードマップも浮ついたポピュリズムになってしまうのではないか。

 韓国人は優秀だ。7月23日、国際数学オリンピックで韓国代表の6人の青年は全員金メダルを獲得し、国別でも1位となった。韓国民に比べ韓国政府には疑問がつくのだが、国民と政府との関係は片方だけの問題でない。双方に責任がある。両方で国際社会における韓国の在り方を考えてもらいたい。

2017.07.21

孫政才重慶市書記の解任

 7月15日、中国共産党は重慶市(北京、上海とならぶ直轄市)のナンバーワン、孫政才書記の解任を発表した。
中国共産党の序列から見れば孫政才よりハイレベルの人物が汚職を理由に逮捕・訴追されている。たとえば、周永康は元政治局常務委員、つまりトップ9の一人であった。孫政才は平の政治局員、つまりトップ25の一人に過ぎない。
 しかし、孫政才はバリバリの現役であり、2022年に習近平主席が退任(その前に今秋開かれる共産党第19回全国代表大会で再任されることが前提であるが、それはほぼ確実視されている)した後に中国共産党のナンバー1か2に昇格する可能性が高いと目されていた。いわゆる「第6世代」のホープだったのだ。

 孫政才は北京で開かれた金融工作会議に出席している間に突然拉致されたという。同人は、党中央が拉致の準備をしていたことを知らずに重慶市の書記としてふるまっていたのだ。
 中国でも法を犯せば、訴追され、裁判にかけられる。一定の手続きがあるが、政治性の強い場合、逮捕されればまず間違いなく有罪となる。おそらく今回もそうなるだろう。裁判が行われても、それは形式的なことに過ぎない。

 おなぜこのように強引な措置が取られるのか。党中央が特定の指導者について排除すると判断せざるをえなかった例は中国共産党の歴史上いくらもあり、決して珍しいことでない。その場合、共産党体制を不安定化させないよう必要な措置が取られる。これは組織防衛の観点からはある意味、当然なのであろう。孫政才のような現役の重要人物の場合は排除の影響がそれだけ大きくなるので、当局としては周到な準備をしたうえで一気呵成に案件の処理を行おうとした。今回、同人の解任と同時に新書記、陳敏爾の就任を発表したのもその一環であり、今回の措置が最終的なものであることを示す狙いがあったと思われる。
 劉暁波の場合も孫政才と共通する面がある。当局は劉暁波が共産党体制を不安定化させる危険があると判断したから投獄したのであり、また、死亡後、一気呵成に遺骨の処理まで進めてしまおうとしたのも、民主化を求める運動に利用されたくないからであった。

 共産党政権は、必要であれば人権の制約も辞さない。とくに習近平主席は国家の安全、すなわち共産党体制の安定を重視し、そのため、言論の統制、反腐敗運動、国家安全関連法の整備など各種の統制措置を最大限強化してきた。孫悟空の緊箍児よろしく、暴れだして共産党体制に危険が及びそうになると締め付けておとなしくさせるわけである。この習近平体制は有効に機能しており、5年に1回の中国共産党全国代表大会は、予定通り今秋に開催されそうだ。
 
 しかし、このような手法が中国のためになるのか。孫政才の場合も劉暁波の場合も反対意見はあまり出ていないように見える。しかし、それは、習近平政権がパワーで反対意見を封じ込んでいるからだ。
 習近平政権は力づくで押さえつけるだけでなく、経済成長にも成功し、それによって人民の不満は緩和されている。膨大な数の中国人が豊かな生活を謳歌しているのは事実である。
 しかし、大多数の人は心の底ではおびえているのではないか。孫政才と劉暁波に対する当局の対応は、共産党体制の闇の深さをあらためてうかがわせる機会になった。
2017.07.18

北朝鮮のICBM実験ーザページへの寄稿

 北朝鮮によるICBM実験に関し、ザページへ2回にわたって寄稿した。

(北朝鮮と米国の関係を主に)
 「北朝鮮は7月4日、ついに大陸間弾道ミサイル(ICBM)の実験に踏み切りました。北朝鮮がICBMを保有するようになると米国は核攻撃の危険にさらされます。そのため、ICBMの実験は米国にとってレッドライン、つまり、忍耐の範囲を超えると見られていました。
 
しかし、米国は北朝鮮に対して当面は実力行使をしないと思います。米国が軍事行動に慎重になる理由として挙げられるのは、北朝鮮との戦争が起こると同盟国である韓国や日本が甚大な被害、壊滅的ともいえる被害を被る可能性があるということです。さらに、米軍自体の犠牲も非常に大きくなるという予測が20年前のシミュレーションで示されていました。今ならもっと大きな被害、これは推測に過ぎませんが、米軍兵士の犠牲は作戦開始から3カ月で数万人に上るでしょう。

このシミュレーションは、北朝鮮の非核化を目指して、核とミサイルだけを標的にして攻撃することはほぼ不可能だという前提に立っています。中東では限定的な範囲の作戦が可能かもしれませんが、北朝鮮の場合は、国土が消滅するくらいの攻撃でない限り、核とミサイルを完全に破壊することは不可能だと見られています。つまり、北朝鮮との間では限定戦争ではとどまらず、全面戦争になることは避けがたいのです。

 今回実験したミサイルは本当にICBMか、疑問なので米国は本気になっていないとする見方もあります。北朝鮮はICBMだと発表しました。米国は当初慎重でしたが後にICBMだと認めました。しかし、ロシアは「中距離弾道ミサイル」だと言っています。

 しかし、遺憾なことに、北朝鮮のミサイル性能は、米国本土への到達が可能なぐらいにいずれ向上するでしょう。そうなるとレッドラインはどこまでか、あらためて問題になりそうですが、レッドラインは事前に示しておくようなことではありません。米国としてはどう対応するか選択の余地を残しておくでしょう。これは米国だけのことでなく、国際間で対立状態にある場合の常識です。トランプ大統領自身、「レッドラインはひかない」と言っています。
 
 米国は今後どう対応するでしょうか。トランプ政権はさる4月中旬、つぎのような北朝鮮政策を決定したと伝えられました。
○新政策の目的は北朝鮮の非核化であり、「政権交替」でない。
○中国に、北朝鮮に影響力を行使することを促す。
○北朝鮮と取引のある中国企業に制裁を加える準備を進める。
○軍事的措置も検討する。

 第4番目の「軍事的措置の検討」は今後も続けられるでしょう。つねに最適の選択肢を求め続けていくわけです。

一方、中国に北朝鮮への影響力を強めるよう促すことについては、黄信号が灯りはじめました。米中間で中国企業への制裁や台湾への武器売却などをめぐって不協和音が出始めたのです。北朝鮮による実験直後に開かれた国連安保理では、中国はロシアとともに制裁の強化に反対しました。トランプ大統領はその後も中国に期待するとの発言を行っていますが、中国はロシアとともに米国に協力しなくなりつつあるのです。

 一方、トランプ大統領は、この4項目政策には含まれていませんが、北朝鮮に対してミサイル実験を控えさせるため強い姿勢を示しました。4月中旬、空母、高性能潜水艦、爆撃機などを朝鮮半島に派遣し、「これは無敵艦隊だ」と述べるなど外交的には異例の行動に出たのです。俗な言葉では、「恫喝」しようとしたと言っても過言でないでしょう。

推測ですが、北朝鮮はトランプ大統領の出方に非常に神経をとがらせたと思います。一つ間違えば北朝鮮は完全に抹殺されてしまう危険があったからです。

しかし、トランプ大統領のこのようなおどろおどろしい発言は効果的でありませんでした。それから3カ月近い時間をかけ、慎重に状況を見極めた結果、北朝鮮はICBMの実験をしても米国が軍事行動に出ることはない、軍事行動は米国や韓国および日本にとってあまりにも大きな犠牲となるので米国は踏み切れないと判断したのでしょう。ICBMの発射強行は、いわば米国の足元を見た形です。

その間、一時期は、米中両国が協力して北朝鮮への圧力を強めるという、北朝鮮がもっとも嫌悪する状況になりました。北朝鮮を擁護してくれる国がなくなるからです。しかしその後、両国の意見はふたたび食い違ってきました。この経緯は北朝鮮の判断にとって重要な補強材料になったと思われます。

国際社会の抗議を無視して核とミサイルの実験を繰り返す北朝鮮を容認することはもちろんできませんが、北朝鮮はある意味、命がけで行っている挑発行為であり、それには緻密に組み立てられた対応が必要です。米国は中国に頼るだけでなく、みずから北朝鮮と向き合い解決の道を探るべきだと思います。」

(米国と中国及びロシアの関係を主に)
 「北朝鮮は7月4日、米国側のレッドラインと目されてきた大陸間弾道ミサイル(ICBM)の発射実験に踏み切りました。これは深刻な問題であり、国際社会が一致して対応しなければならないはずですが、残念ながら、主要関係国の足並みは乱れてきました。

その象徴的な表れが、翌日に国連本部で開催された安全保障理事会の緊急会合でした。安保理では、これまで北朝鮮が核やミサイルの実験を行うたびに決議、あるいは報道声明を行ってきました。今回は、これまでのどの実験よりも大きな問題であるICBMの発射実験でしたが、その対応をめぐり各国は合意できませんでした。

北朝鮮問題は安保理会合の直後にドイツで開催されたG20首脳会議、またその際に行われた日米、日韓、米韓、米ロなど個別の会談でも話し合われました。これらの会議では関係国間の連携を強化するなど意見が一致したと盛んに言われましたが、実質的な内容は乏しく、かえって各国間の立場の相違をさらけ出した印象です。

 安保理が失敗に終わった原因は、第1に、米国作成の決議案について、ロシアがICBMではなく中距離弾道ミサイルであると主張し、制裁の強化に賛成しなかったからであり、 第2に、中国も制裁強化に賛成しなかったからでした。
 
ロシアは従来、北朝鮮の核・ミサイル問題について、自国の見解を強く主張することはありませんでしたが、今回の安保理では急にしゃしゃり出てきて米国作成の決議案の修正を強く求めました。ロシアが積極姿勢に転換した背景には、貨客船万景峰(マンギョンボン)号の定期運航開始にみられるように、北朝鮮とロシアとの関係緊密化があると見られています。

従来、国際的に北朝鮮の立場を擁護するのは事実上中国だけでした。しかし、北朝鮮は金正恩委員長の下で中国に不満を示すことが多く、とくにトランプ政権下で米中が協力して北朝鮮に対する圧力を強化する姿勢を見せるようになったことから、北朝鮮は一層ロシアの方を向くようになったのです。

注意すべきは、ロシアが北朝鮮問題についても中東問題と同様、米国との関係全体を踏まえて行動するようになっていることであり、単純化して言えば、米国の勝手にさせないという気持ちが出てきていることです。
 
一方、中国はさる4月の習近平主席の訪米以降、米国に協力する姿勢をより鮮明にするようになり、トランプ大統領は中国が努力していることを評価する発言を行っていました。

しかし、6月21日に開催された両国間の外交・安全保障対話から再び両国の立場の相違が目立つようになりました。 米政府は同月末、中国企業に対し新たな制裁を行うと発表する一方で、台湾に対する武器売却を決定しました。さらに7月2日には、南シナ海のパラセル諸島(中国名西沙諸島)トリトン島から12カイリ内で「航行の自由作戦」を行いました。

いずれも中国が嫌悪することです。推測ですが、トランプ大統領は、中国が不満を抱くことが想像できたので、習近平主席に電話し、会談しました。しかし、習氏は「両国関係はいくつかのマイナス要因によって影響を受けている」とこぼしたと言われています。事実とすれば、これはかなり強い不満の表明です。

トランプ大統領は、その後も中国が北朝鮮に対する圧力を強化することを期待していると語っています。オバマ大統領時代の対北朝鮮政策「戦略的忍耐」をこき下ろしたうえで、去る4月に打ち出した新しい対北政策方針を維持しているのですが、ここへ来て中国はふたたび米国から距離を置くようになりました。そして、ロシアが強面を見せ始めました。

さらに、トランプ大統領は北朝鮮にミサイルの発射を止めさせるため、空母を派遣するなどの「恫喝」までしました。これは今日の国際社会では常識的にはあり得ないことですが、米国の空母、高性能潜水艦、爆撃機のパワーを誇張して北朝鮮に見せつけたのです。しかし、これも効果は上がりませんでした。そのような強圧的方法で北朝鮮が動くことは今後もないでしょう。このような状況を鑑みるに、北朝鮮問題はオバマ政権の時より改善していないばかりか、一層困難になったと言わざるを得ません。

一方、北朝鮮の核・ミサイルの開発は着実に進んでいます。米国は一刻も早く堂々巡りのチキンレースを終わらせ、北朝鮮問題の本質、つまり朝鮮半島の「非核化」に自ら取り組むべきであり、軍事行動による非核化が困難なのであれば、北朝鮮との直接対話を始めるべきです。今のところトランプ政権は、対話の開始には「環境が整うこと」が必要としていますが、対話の条件はできるだけ少なくすべきです。

日本政府も「圧力強化」の一点張りでなく、トランプ大統領が対話に踏み切るよう後押しすべきでしょう。」

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