2017 - 平和外交研究所 - Page 19
2017.07.14
当時と比べ、現在の言論統制ははるかに厳しくなっている。
同憲章は、一言で言えば、中国共産党の一党独裁を終わらせ、三権分立の民主的な国家建設を目指すものである。以下に、同宣言の要約を掲げておく。
(現状認識-憲章の前文の一部)
「中国政府は1997年、1998年の2回にわたって重要な国際人権宣言に署名し、全国人民代表会議で2004年、「人権を尊重し、保障する」という文言を憲法に加える改憲が承認され、今年更に「国家人権行動計画」を制定・推進することが承認された。しかし、これらの政治的な進歩も今のところ大部分は文字上だけのものにとどまっている。法律あって法治無く、憲法あって憲政無く、というのが誰の目にもはっきりとした政治の現実である。為政者集団はなお権威主義的な統治を堅持・継続し、政治変革を拒んでいる。官界は腐敗し、法治が妨げられ、人権が軽視され、道徳が失われ、社会が両極に分化し、経済は奇形的に発展し、自然環境と文化環境が著しく破壊され、公民の自由・財産と幸福を追求する権利が制度化された保障を得られず、各種の社会矛盾が絶えることなく積み重なり、不満が膨らみ続け、特に官民の対立と群衆事件が激増し、破滅的な制御不能の趨勢に陥っている。現行体制の立ち遅れぶりはもはや改めないでは済まない段階に至っている。」
(基本理念―憲章の第二の要点)
自由、人権、平等、共和、民主および憲政を実現する。
共和とは、「みなで共に治め、平和に共生する」ということであり、分権によるパワーバランス、利益のバランスということであり、多様な利益・コスト、異なる社会集団、多元な文化と信仰の追求の集まりである。
民主とは、(1)政権の合法性は人民に由来し、政治権力は人民を源とする。(2)政治・統治は人民の選択を経て行われる。(3)公民は正真正銘の選挙権を有し、各級政府・自治体の主要な官員は定期的な選挙戦を通じて生み出されなければならない。(4)多数派の決定を尊重し、同時に少数派の基本的人権を保護する。などが含まれる。
憲政とは、憲法のもとで法律に従った政治を行うこと。
(具体的主張―憲章の第三から抜粋)
1. 憲法改正:自由、人権、平等、共和、民主、憲政の価値理念に基づいて憲法を改正し、現行憲法にある主権在民の原則と合致しない条文を削除する。
2. 分権とチェック・アンド・バランス:分権とチェック・アンド・バランスの現代的政府を樹立し、立法・司法・行政の三権分立を保障する。法に基づく行政と責任ある政府の原則を確立し、行政権力の過度な膨張を防止する。政府は納税者に対し責任を負う。中央と地方との間に分権とチェック・アンド・バランスの制度を打ち立て、中央は憲法による明確な制限の下で権力を与えられ、地方は存分に自治を実行する。
3. 民主的な立法:各級立法機関は直接選挙によって選出され、公平・正義の原則に則り、民主的な立法を実行する。
4. 司法の独立:司法にはいかなる干渉も禁止される。司法の独立と公正を確保する。憲法裁判所を設け、違憲審査制度を打ち立てる。国家の法治を損なう共産党の政法委員会を早期に廃止し、公共機関の私物化を禁止する。
5. 公共機関の公共性:軍隊の国家化(注 中国の人民解放軍は伝統的に「共産党の軍」として位置付けられている)を実現し、軍人は憲法と国家に忠誠を尽くさなければならない。共産党組織は軍隊から退かなければならない。軍隊の職業化をレベルアップしなければならない。警察も含め、全ての公務員は政治的中立を維持しなければならない。公務員は党派の別なく平等に採用しなければならない。
6. 人権の保障:人権委員会を設立し、政府による公権濫用・人権侵犯を防止し、とりわけ公民の人身の自由を保障する。いかなる人も不法な逮捕、拘禁、召喚、審問、処罰を受けない。「労働教養制度(注 裁判などの手続きを経ることなく最長4年まで拘禁可能な制度)」を廃止する。
7. 公職選挙:民主的な選挙制度を全面的に推し進め、一人一票の平等な選挙権を確立させる。各級行政首長の直接選挙を制度化して一歩一歩推し進める。
8. 都市部と農村部の平等:現行の都市部・農村部の二元戸籍制度を廃止し、公民が一律に平等な制度を確立する。公民の自由移動の権利を保障する。
9. 結社の自由:公民の結社の自由を保障し、現行の社団登記の審査・許可制を届出制に改める。結党の禁止を解除し、憲法と法律によって政党行為の規範を定め、一党による事実上の独裁を解消し、政党活動の自由と公平な競争の原則を確立し、政党政治の正常化と法制化を実現する。
10. 集会の自由:平和的な集会、行進、デモ及び自由の表現は、憲法が規定する公民の基本的自由であり、政権政党や政府から不法な干渉や違憲の制限を受けてはならない。
11. 言論の自由:言論の自由・出版の自由・学問の自由を確立し、公民の情報を知る権利と監督権を保障する。「新聞法」と「出版法」を制定し、報道に対する制限を解除する。現行「刑法」中の”国家政権転覆扇動罪”の条文を削除する。言論を理由に罪を科してはならない。
12. 宗教の自由:宗教の自由と信仰の自由を保障し、政教分離を実行する。宗教・信仰の活動に政府は介入してはならない。宗教の自由を制限若しくは剥奪する行政法規、行政定款、地方条例を審査並びに撤廃する。行政立法によって宗教活動を管理することを禁止する。宗教団体(宗教活動の場を含む)が登記を経て初めて合法的な地位を獲得する従前の許可制度を廃止し、いかなる審査も伴わない届出制に代える。
13. 公民教育:一党独裁に奉仕させる政治教育及び政治試験を廃止し、普遍的価値と公民の権利を基本とする公民教育を推進し、公民意識を確立させ、社会に奉仕する公民の美徳を唱道する。
14. 財産の保護:私有財産の権利を確立・保護し、自由で開放された市場経済制度を実行し、創業の自由を保障し、行政による独占を解消する。国有資産管理委員会を設立し、財産権改革を合法的に順序だてて展開し、財産権の帰属先と責任者を明確にする。新土地運動を展開し、土地の私有化を推進し、公民、とりわけ農民の土地所有権を保護する。
15. 財政・税制改革:民主的な財政を確立し、納税者の権利を保障する。権利と責任が明確な公共財政制度を打ち立て、各級政府・自治体に合理的で有効な財産分権体系を打ち立てる。税率の低減、税制の簡素化、公平な税負担のため租税制度の大改革を行う。行政部門は民意の同意を経ずに随意に課税してはならない。財産権改革を通じて、多元的な市場と競争メカニズムを導入する。金融への参入のハードルを下げ、民間金融の発展のために必要な条件を創造し、金融体系を活性化する。
16. 社会保障:国民全体をカバーする社会保障制度を打ち立て、教育・医療・養老及び就業等において国民に最も基本的な保障を与える。
17. 環境保護:生態環境を保護し、持続可能な発展を提唱する。このため国家及び各級機関の責任を明確化する。民間団体が環境保護に参加・監督することを奨励する。
18. 連邦共和制:香港・マカオの自由制度を維持する。台湾については、自由・民主の前提の下で、平等な立場での交渉と協力的な対話により海峡両岸の和解計画を追求する。各民族の共同繁栄の道筋と制度設計を模索し、民主・憲政のシステムの下、中華連邦共和国を樹立する。
19. 正義の転換:政治運動において迫害を受けた人及びその家族に対し、名誉を回復し、国家賠償を行う。全ての政治犯、「良心の囚人(中国語では良心犯。英语ではPrisoner of conscience, POC。思想上の理由でとらわれた人)」、信仰を理由に罪を着せられた人を釈放する。真相調査委員会を設立し、歴代の事件の真相を明らかにし、責任を整理し、正義を実現し、社会の和解を追求する。
(結びー憲章の「結び」から抜粋)
政治の民主化はこれ以上先延ばしできない。このため、我々は勇敢なる実践という公民精神に基づき、「08憲章」を公布する。我々は、同様の危機感・責任感・使命感を抱いている全ての中国公民が、政府と民間の区別なく、身分を問わず、小異を残して大同に就き、積極的に公民運動に参与して、中国社会の偉大な変革を共に推し進め、一日も早く自由・民主・憲政の国家を打ち立て、国民が100余年の間粘り強く抱き続けてきた夢を実現することを希望する。
劉暁波の死亡と「08憲章」
ノーベル平和賞を受賞した中国の著作家、劉暁波は収監中に病を患い治療を受けていたが、7月13日、死亡した。劉氏は、世界人権宣言60周年の機に、2008年12月10日付でインターネット上でいわゆる「08憲章」を発表した代表者であり、またそのことが原因で投獄された。当時と比べ、現在の言論統制ははるかに厳しくなっている。
同憲章は、一言で言えば、中国共産党の一党独裁を終わらせ、三権分立の民主的な国家建設を目指すものである。以下に、同宣言の要約を掲げておく。
(現状認識-憲章の前文の一部)
「中国政府は1997年、1998年の2回にわたって重要な国際人権宣言に署名し、全国人民代表会議で2004年、「人権を尊重し、保障する」という文言を憲法に加える改憲が承認され、今年更に「国家人権行動計画」を制定・推進することが承認された。しかし、これらの政治的な進歩も今のところ大部分は文字上だけのものにとどまっている。法律あって法治無く、憲法あって憲政無く、というのが誰の目にもはっきりとした政治の現実である。為政者集団はなお権威主義的な統治を堅持・継続し、政治変革を拒んでいる。官界は腐敗し、法治が妨げられ、人権が軽視され、道徳が失われ、社会が両極に分化し、経済は奇形的に発展し、自然環境と文化環境が著しく破壊され、公民の自由・財産と幸福を追求する権利が制度化された保障を得られず、各種の社会矛盾が絶えることなく積み重なり、不満が膨らみ続け、特に官民の対立と群衆事件が激増し、破滅的な制御不能の趨勢に陥っている。現行体制の立ち遅れぶりはもはや改めないでは済まない段階に至っている。」
(基本理念―憲章の第二の要点)
自由、人権、平等、共和、民主および憲政を実現する。
共和とは、「みなで共に治め、平和に共生する」ということであり、分権によるパワーバランス、利益のバランスということであり、多様な利益・コスト、異なる社会集団、多元な文化と信仰の追求の集まりである。
民主とは、(1)政権の合法性は人民に由来し、政治権力は人民を源とする。(2)政治・統治は人民の選択を経て行われる。(3)公民は正真正銘の選挙権を有し、各級政府・自治体の主要な官員は定期的な選挙戦を通じて生み出されなければならない。(4)多数派の決定を尊重し、同時に少数派の基本的人権を保護する。などが含まれる。
憲政とは、憲法のもとで法律に従った政治を行うこと。
(具体的主張―憲章の第三から抜粋)
1. 憲法改正:自由、人権、平等、共和、民主、憲政の価値理念に基づいて憲法を改正し、現行憲法にある主権在民の原則と合致しない条文を削除する。
2. 分権とチェック・アンド・バランス:分権とチェック・アンド・バランスの現代的政府を樹立し、立法・司法・行政の三権分立を保障する。法に基づく行政と責任ある政府の原則を確立し、行政権力の過度な膨張を防止する。政府は納税者に対し責任を負う。中央と地方との間に分権とチェック・アンド・バランスの制度を打ち立て、中央は憲法による明確な制限の下で権力を与えられ、地方は存分に自治を実行する。
3. 民主的な立法:各級立法機関は直接選挙によって選出され、公平・正義の原則に則り、民主的な立法を実行する。
4. 司法の独立:司法にはいかなる干渉も禁止される。司法の独立と公正を確保する。憲法裁判所を設け、違憲審査制度を打ち立てる。国家の法治を損なう共産党の政法委員会を早期に廃止し、公共機関の私物化を禁止する。
5. 公共機関の公共性:軍隊の国家化(注 中国の人民解放軍は伝統的に「共産党の軍」として位置付けられている)を実現し、軍人は憲法と国家に忠誠を尽くさなければならない。共産党組織は軍隊から退かなければならない。軍隊の職業化をレベルアップしなければならない。警察も含め、全ての公務員は政治的中立を維持しなければならない。公務員は党派の別なく平等に採用しなければならない。
6. 人権の保障:人権委員会を設立し、政府による公権濫用・人権侵犯を防止し、とりわけ公民の人身の自由を保障する。いかなる人も不法な逮捕、拘禁、召喚、審問、処罰を受けない。「労働教養制度(注 裁判などの手続きを経ることなく最長4年まで拘禁可能な制度)」を廃止する。
7. 公職選挙:民主的な選挙制度を全面的に推し進め、一人一票の平等な選挙権を確立させる。各級行政首長の直接選挙を制度化して一歩一歩推し進める。
8. 都市部と農村部の平等:現行の都市部・農村部の二元戸籍制度を廃止し、公民が一律に平等な制度を確立する。公民の自由移動の権利を保障する。
9. 結社の自由:公民の結社の自由を保障し、現行の社団登記の審査・許可制を届出制に改める。結党の禁止を解除し、憲法と法律によって政党行為の規範を定め、一党による事実上の独裁を解消し、政党活動の自由と公平な競争の原則を確立し、政党政治の正常化と法制化を実現する。
10. 集会の自由:平和的な集会、行進、デモ及び自由の表現は、憲法が規定する公民の基本的自由であり、政権政党や政府から不法な干渉や違憲の制限を受けてはならない。
11. 言論の自由:言論の自由・出版の自由・学問の自由を確立し、公民の情報を知る権利と監督権を保障する。「新聞法」と「出版法」を制定し、報道に対する制限を解除する。現行「刑法」中の”国家政権転覆扇動罪”の条文を削除する。言論を理由に罪を科してはならない。
12. 宗教の自由:宗教の自由と信仰の自由を保障し、政教分離を実行する。宗教・信仰の活動に政府は介入してはならない。宗教の自由を制限若しくは剥奪する行政法規、行政定款、地方条例を審査並びに撤廃する。行政立法によって宗教活動を管理することを禁止する。宗教団体(宗教活動の場を含む)が登記を経て初めて合法的な地位を獲得する従前の許可制度を廃止し、いかなる審査も伴わない届出制に代える。
13. 公民教育:一党独裁に奉仕させる政治教育及び政治試験を廃止し、普遍的価値と公民の権利を基本とする公民教育を推進し、公民意識を確立させ、社会に奉仕する公民の美徳を唱道する。
14. 財産の保護:私有財産の権利を確立・保護し、自由で開放された市場経済制度を実行し、創業の自由を保障し、行政による独占を解消する。国有資産管理委員会を設立し、財産権改革を合法的に順序だてて展開し、財産権の帰属先と責任者を明確にする。新土地運動を展開し、土地の私有化を推進し、公民、とりわけ農民の土地所有権を保護する。
15. 財政・税制改革:民主的な財政を確立し、納税者の権利を保障する。権利と責任が明確な公共財政制度を打ち立て、各級政府・自治体に合理的で有効な財産分権体系を打ち立てる。税率の低減、税制の簡素化、公平な税負担のため租税制度の大改革を行う。行政部門は民意の同意を経ずに随意に課税してはならない。財産権改革を通じて、多元的な市場と競争メカニズムを導入する。金融への参入のハードルを下げ、民間金融の発展のために必要な条件を創造し、金融体系を活性化する。
16. 社会保障:国民全体をカバーする社会保障制度を打ち立て、教育・医療・養老及び就業等において国民に最も基本的な保障を与える。
17. 環境保護:生態環境を保護し、持続可能な発展を提唱する。このため国家及び各級機関の責任を明確化する。民間団体が環境保護に参加・監督することを奨励する。
18. 連邦共和制:香港・マカオの自由制度を維持する。台湾については、自由・民主の前提の下で、平等な立場での交渉と協力的な対話により海峡両岸の和解計画を追求する。各民族の共同繁栄の道筋と制度設計を模索し、民主・憲政のシステムの下、中華連邦共和国を樹立する。
19. 正義の転換:政治運動において迫害を受けた人及びその家族に対し、名誉を回復し、国家賠償を行う。全ての政治犯、「良心の囚人(中国語では良心犯。英语ではPrisoner of conscience, POC。思想上の理由でとらわれた人)」、信仰を理由に罪を着せられた人を釈放する。真相調査委員会を設立し、歴代の事件の真相を明らかにし、責任を整理し、正義を実現し、社会の和解を追求する。
(結びー憲章の「結び」から抜粋)
政治の民主化はこれ以上先延ばしできない。このため、我々は勇敢なる実践という公民精神に基づき、「08憲章」を公布する。我々は、同様の危機感・責任感・使命感を抱いている全ての中国公民が、政府と民間の区別なく、身分を問わず、小異を残して大同に就き、積極的に公民運動に参与して、中国社会の偉大な変革を共に推し進め、一日も早く自由・民主・憲政の国家を打ち立て、国民が100余年の間粘り強く抱き続けてきた夢を実現することを希望する。
2017.07.11
安保理では、これまで北朝鮮が核やミサイルの実験を行うたびに決議、あるいは報道声明を行ってきた。今回は、これまでのどの実験よりも深刻な問題であるICBMの発射実験であったが、その対応について各国は合意できなかった。
その原因は、第1に、米国作成の決議案について、ロシアがICBMでなく中距離弾道ミサイルであると主張し、また制裁の強化に賛成しなかったことだと報道されている。
第2に、中国も制裁強化に賛成しなかったという。
ロシアは従来北朝鮮の核・ミサイル問題について、自国の見解を強く主張することはなかったが、ここにきて急に強く出るようになった。北朝鮮と中国との関係が円滑さを欠くようになったことも一つの背景であろうが、ロシアはトランプ新政権との関係全体のなかで北朝鮮問題を扱うようになっている可能性がある。単純化して言えば、ロシアは米国の勝手にさせないと思っているのではないか。
今回の安保理では米国大使の対応にも疑問符が付いた。審議の状況は公表されていないので詳しいことは不明だが、米国大使はロシアの修正提案を強く拒否するだけで、合意形成のため粘り強く試みることをしなかったのではないか。いわゆる”Take it or leave it”だったのではないか。
中国も制裁強化に消極的であったという。もともと中国は北朝鮮に対し強い措置をとることに消極的であったが、最近、とくに、さる4月の習近平主席の訪米後、中国はかなり協力的になって北朝鮮への圧力を強めるようになり、トランプ大統領は中国が努力していると評価する発言を行っていた。しかし、6月21日に開催された両国間の外交・安全保障対話から再び立場の相違が目立つようになり、 米政府は同月末、中国企業に対し新たな制裁を行うと発表する一方で、台湾に対する武器売却を決定した。さらに7月2日には、南シナ海のパラセル諸島(中国名西沙諸島)トリトン島から12カイリ内で「航行の自由作戦」を行った。
中国は強く刺激されただろう。怒ったかもしれない。推測だが、米国から見ても中国が不満を抱くことは想像できたので、トランプ大統領は2日(航行の自由作戦後と思われる)習近平主席と電話会談したが、習氏は「両国関係はいくつかのマイナス要因によって影響を受けている」と述べたという。これはかなり率直な不満の表明である。
トランプ大統領は、G20の後も中国が北朝鮮に対する圧力を強化するよう期待していると言っている。北朝鮮問題は中国が解決のカギを握っており、さらなる圧力をかけるべきだという立場は変えていないわけだ。
しかし、中国側では、トランプ氏の独特のアプローチに嫌気がさしている可能紙もある。
北朝鮮問題が前に進まないのは中ロが消極的姿勢を取っていることが原因だが、それだけでなく、米国にも責任があるのではないか。
いわゆる「対話」問題も奇妙な状況になっており、3つの異なる「対話」が区別されないまま使われている。
韓国の文在寅大統領はかねてから「対話」を重視しており、ICBMの発射後も何とか実現したい考えを表明しているが、文氏の「対話」は、米国を排除しているのではないが、自らを北朝鮮の相手として考えており、「南北対話」である。しかし、文氏には失礼だが、「南北対話」で北朝鮮の非核化が実現するとはだれも考えていない。
一方、日本は「対話より圧力」あるいは「北朝鮮には対話をする気持ちはない」という趣旨のことを言い続けている。この場合の対話は「米中対話」か、それとも以前行っていた「六カ国協議」のことか明確でない。日本にはこの協議の再開を目指すべきだという論者がまだいるが、この協議から何も生まれないことは明白だ。
しかるに、米国は、「対話には環境が必要だ」というのが表向きの姿勢だが、非公式の対話は局長レベルで行っている。また、トランプ氏は今でも対話の可能性を考えていることを漏らすこともある。
トランプ氏は安倍首相の圧力強化論に賛成しているが、米国の真意は深いところに隠されている可能性がある。米国はすでに空母、潜水艦、爆撃機などを駆り出して北朝鮮を脅しあげた。しかし、そのような方法で北朝鮮が動くとはもはや思えなくなっているのではないか。米国が今後も北朝鮮への圧力強化論だけで行くと考えるのはあまりにナイーブだ。
北朝鮮問題でカギを握っているのは、実は米国である。米国が本気になり、みずから北朝鮮と向き合い、解決を探る以外朝鮮半島の非核化は実現しない。トランプ政権はオバマ大統領時代の対北朝鮮政策をこき下ろす一方、北朝鮮を「恫喝」し、かつ「中国による圧力強化」をオバマ時代より強く求めてきたが、このような試みは奏功しなかった。トランプ政権の行っていることは結局オバマ政権とあまり変わらないのではないか。
この間、北朝鮮は、トランプ大統領の出方を慎重に観察し、そしてICBMの実験に踏み切った。米中が一致していないことは北朝鮮にとって重要な判断材料になっただろう。今、北朝鮮は、ICBM実験を繰り返しても直ちに問題にならないと思うようになっているのではないか。
北朝鮮をめぐる堂々巡りは一刻も早くやめ、直線的に前進を図るべきである。日本政府は圧力一点張りでなく、米国に対話を進めるべきだと思われる。
北朝鮮に対する各国の対応は憂慮すべき状況にある
北朝鮮は7月4日、ついにICBMの発射実験に踏み切った。5日には安保理の緊急会合が開かれた。さらにその直後の7~8日にドイツ・ハンブルグで開催されたG20首脳会議、またその際に行われた日米、日韓、米韓、米ロなど個別の会談でも取り上げられたので、北朝鮮問題が集中的に議論された形になったが、実質的にはその内容は乏しかった。最大の問題は、国際社会が一致して北朝鮮の核・ミサイル問題に取り組めなくなってきたことである。安保理では、これまで北朝鮮が核やミサイルの実験を行うたびに決議、あるいは報道声明を行ってきた。今回は、これまでのどの実験よりも深刻な問題であるICBMの発射実験であったが、その対応について各国は合意できなかった。
その原因は、第1に、米国作成の決議案について、ロシアがICBMでなく中距離弾道ミサイルであると主張し、また制裁の強化に賛成しなかったことだと報道されている。
第2に、中国も制裁強化に賛成しなかったという。
ロシアは従来北朝鮮の核・ミサイル問題について、自国の見解を強く主張することはなかったが、ここにきて急に強く出るようになった。北朝鮮と中国との関係が円滑さを欠くようになったことも一つの背景であろうが、ロシアはトランプ新政権との関係全体のなかで北朝鮮問題を扱うようになっている可能性がある。単純化して言えば、ロシアは米国の勝手にさせないと思っているのではないか。
今回の安保理では米国大使の対応にも疑問符が付いた。審議の状況は公表されていないので詳しいことは不明だが、米国大使はロシアの修正提案を強く拒否するだけで、合意形成のため粘り強く試みることをしなかったのではないか。いわゆる”Take it or leave it”だったのではないか。
中国も制裁強化に消極的であったという。もともと中国は北朝鮮に対し強い措置をとることに消極的であったが、最近、とくに、さる4月の習近平主席の訪米後、中国はかなり協力的になって北朝鮮への圧力を強めるようになり、トランプ大統領は中国が努力していると評価する発言を行っていた。しかし、6月21日に開催された両国間の外交・安全保障対話から再び立場の相違が目立つようになり、 米政府は同月末、中国企業に対し新たな制裁を行うと発表する一方で、台湾に対する武器売却を決定した。さらに7月2日には、南シナ海のパラセル諸島(中国名西沙諸島)トリトン島から12カイリ内で「航行の自由作戦」を行った。
中国は強く刺激されただろう。怒ったかもしれない。推測だが、米国から見ても中国が不満を抱くことは想像できたので、トランプ大統領は2日(航行の自由作戦後と思われる)習近平主席と電話会談したが、習氏は「両国関係はいくつかのマイナス要因によって影響を受けている」と述べたという。これはかなり率直な不満の表明である。
トランプ大統領は、G20の後も中国が北朝鮮に対する圧力を強化するよう期待していると言っている。北朝鮮問題は中国が解決のカギを握っており、さらなる圧力をかけるべきだという立場は変えていないわけだ。
しかし、中国側では、トランプ氏の独特のアプローチに嫌気がさしている可能紙もある。
北朝鮮問題が前に進まないのは中ロが消極的姿勢を取っていることが原因だが、それだけでなく、米国にも責任があるのではないか。
いわゆる「対話」問題も奇妙な状況になっており、3つの異なる「対話」が区別されないまま使われている。
韓国の文在寅大統領はかねてから「対話」を重視しており、ICBMの発射後も何とか実現したい考えを表明しているが、文氏の「対話」は、米国を排除しているのではないが、自らを北朝鮮の相手として考えており、「南北対話」である。しかし、文氏には失礼だが、「南北対話」で北朝鮮の非核化が実現するとはだれも考えていない。
一方、日本は「対話より圧力」あるいは「北朝鮮には対話をする気持ちはない」という趣旨のことを言い続けている。この場合の対話は「米中対話」か、それとも以前行っていた「六カ国協議」のことか明確でない。日本にはこの協議の再開を目指すべきだという論者がまだいるが、この協議から何も生まれないことは明白だ。
しかるに、米国は、「対話には環境が必要だ」というのが表向きの姿勢だが、非公式の対話は局長レベルで行っている。また、トランプ氏は今でも対話の可能性を考えていることを漏らすこともある。
トランプ氏は安倍首相の圧力強化論に賛成しているが、米国の真意は深いところに隠されている可能性がある。米国はすでに空母、潜水艦、爆撃機などを駆り出して北朝鮮を脅しあげた。しかし、そのような方法で北朝鮮が動くとはもはや思えなくなっているのではないか。米国が今後も北朝鮮への圧力強化論だけで行くと考えるのはあまりにナイーブだ。
北朝鮮問題でカギを握っているのは、実は米国である。米国が本気になり、みずから北朝鮮と向き合い、解決を探る以外朝鮮半島の非核化は実現しない。トランプ政権はオバマ大統領時代の対北朝鮮政策をこき下ろす一方、北朝鮮を「恫喝」し、かつ「中国による圧力強化」をオバマ時代より強く求めてきたが、このような試みは奏功しなかった。トランプ政権の行っていることは結局オバマ政権とあまり変わらないのではないか。
この間、北朝鮮は、トランプ大統領の出方を慎重に観察し、そしてICBMの実験に踏み切った。米中が一致していないことは北朝鮮にとって重要な判断材料になっただろう。今、北朝鮮は、ICBM実験を繰り返しても直ちに問題にならないと思うようになっているのではないか。
北朝鮮をめぐる堂々巡りは一刻も早くやめ、直線的に前進を図るべきである。日本政府は圧力一点張りでなく、米国に対話を進めるべきだと思われる。
2017.07.05
しかし、米国は実力行使をしないだろう。米国が軍事行動に慎重になる理由として挙げられるのは、北朝鮮との戦争が起こると韓国や日本が甚大な被害、壊滅的かもしれない被害を被るということであるが、米軍も耐え難い損失を被るという予測が20年前のシミュレーションで示されていた。今ならはるかに大きな被害となるだろう。
また、北朝鮮の核とミサイルだけを標的にして攻撃することは不可能だと見られている。中東では限定的な範囲の作戦が可能だが、北朝鮮の場合は、国土が完全に消滅するくらいの攻撃でない限り不可能だと見られている。つまり、北朝鮮との間では限定戦争で済まず、全面戦争になるということだ。前述したシミュレーションは戦闘行為を起こしてから90日間の問題であり、全面戦争の場合米軍の損失ははるかに大きくなる。
さらに、これはあまり語られないことだが、米国内には冷静な見方がある。北朝鮮の軍事能力は相次ぐ核・ミサイルの実験を見ても急速に向上しているのは事実だが、それだけに誇張されて伝えられる恐れがあり、冷静に見れば、「北朝鮮の核・ミサイル能力はICBMの実験を成功させた後も、米国にははるかに及ばない」と判断されるはずである。このような考えは北朝鮮に対して軍事行動を行うことを制止する力となるだろう。
米国は冷戦中、ソ連と対峙し、人類が滅亡するかどうかという瀬戸際までいったが、何とか乗り越えてきた。相手の軍事能力や意図についての誇張や過大な恐怖感に左右されるのはいかに危険かを経験しており、戦争を始める前に、危険の大きさ、差し迫っている程度、失うことの大きさなどさまざまな要因を勘案するはずだ。
それにしても、「レッドライン」とは面白い言葉である。本人はレッドラインなど示さない。自分の手を縛ることになるからだ。しかし、周囲の人はレッドラインを問題にする。これは北朝鮮の核・ミサイルに限ったことでなく、交渉においては珍しくない言葉であるが、北朝鮮を相手とする場合、「レッドラインを超えたから○○する」という単純なことにはならない。軍事行動を起こすか否かは、必要となった時点で総合的に判断される。
一方、金正恩委員長としては、いつ、どのような状況の下でICBMの実験に踏み切るか、かなり時間をかけ慎重に見極めていたと思われる。下手をすると米国を怒らせ、北朝鮮は抹殺されてしまうかもしれない大問題だからである。そして今回実験に踏み切ったのは、一つには、トランプ大統領は北朝鮮に対する政策をまだ固めておらず、ICBMの実験をしても米国は軍事行動に出ないと判断したからであろう。トランプ大統領やティラーソン国務長官は、おどろおどろしいことを口にしていたが、足元が見えてきたのではないか。
もう一つの要因は、米国と中国の関係がぎくしゃくし始めたことである。習近平主席は両国間に「否定的要因がある」と言っている。北朝鮮が最も嫌悪するのは、米国と中国が協力して北朝鮮に圧力をかけてくることであり、さる4月のトランプ・習会談以降その悪夢が実際に起こっていたのだが、ここにきて潮目が変わってきたのである。
なお、北朝鮮による核・ミサイル実験のタイミングについては、金正恩などの誕生日とか、国家的記念日などとの関連がよく話題になる。また今回は米国の独立記念日に合わせたとも言われている。これらはいずれも、あると言えばある、ないと言えばない程度のこである。それより、7月2日に中国が人工衛星「長征五号」の発射に失敗したことのほうに注意が向いていたのではないかと思われる。
北朝鮮のICBM発射実験
7月4日、北朝鮮はICBMの実験を行った。今まで北朝鮮について言われてきたことの流れで見ると、「レッドラインを超えたのではないか、そうであれば、米国は軍事行動に出るか」などが問題になる。しかし、米国は実力行使をしないだろう。米国が軍事行動に慎重になる理由として挙げられるのは、北朝鮮との戦争が起こると韓国や日本が甚大な被害、壊滅的かもしれない被害を被るということであるが、米軍も耐え難い損失を被るという予測が20年前のシミュレーションで示されていた。今ならはるかに大きな被害となるだろう。
また、北朝鮮の核とミサイルだけを標的にして攻撃することは不可能だと見られている。中東では限定的な範囲の作戦が可能だが、北朝鮮の場合は、国土が完全に消滅するくらいの攻撃でない限り不可能だと見られている。つまり、北朝鮮との間では限定戦争で済まず、全面戦争になるということだ。前述したシミュレーションは戦闘行為を起こしてから90日間の問題であり、全面戦争の場合米軍の損失ははるかに大きくなる。
さらに、これはあまり語られないことだが、米国内には冷静な見方がある。北朝鮮の軍事能力は相次ぐ核・ミサイルの実験を見ても急速に向上しているのは事実だが、それだけに誇張されて伝えられる恐れがあり、冷静に見れば、「北朝鮮の核・ミサイル能力はICBMの実験を成功させた後も、米国にははるかに及ばない」と判断されるはずである。このような考えは北朝鮮に対して軍事行動を行うことを制止する力となるだろう。
米国は冷戦中、ソ連と対峙し、人類が滅亡するかどうかという瀬戸際までいったが、何とか乗り越えてきた。相手の軍事能力や意図についての誇張や過大な恐怖感に左右されるのはいかに危険かを経験しており、戦争を始める前に、危険の大きさ、差し迫っている程度、失うことの大きさなどさまざまな要因を勘案するはずだ。
それにしても、「レッドライン」とは面白い言葉である。本人はレッドラインなど示さない。自分の手を縛ることになるからだ。しかし、周囲の人はレッドラインを問題にする。これは北朝鮮の核・ミサイルに限ったことでなく、交渉においては珍しくない言葉であるが、北朝鮮を相手とする場合、「レッドラインを超えたから○○する」という単純なことにはならない。軍事行動を起こすか否かは、必要となった時点で総合的に判断される。
一方、金正恩委員長としては、いつ、どのような状況の下でICBMの実験に踏み切るか、かなり時間をかけ慎重に見極めていたと思われる。下手をすると米国を怒らせ、北朝鮮は抹殺されてしまうかもしれない大問題だからである。そして今回実験に踏み切ったのは、一つには、トランプ大統領は北朝鮮に対する政策をまだ固めておらず、ICBMの実験をしても米国は軍事行動に出ないと判断したからであろう。トランプ大統領やティラーソン国務長官は、おどろおどろしいことを口にしていたが、足元が見えてきたのではないか。
もう一つの要因は、米国と中国の関係がぎくしゃくし始めたことである。習近平主席は両国間に「否定的要因がある」と言っている。北朝鮮が最も嫌悪するのは、米国と中国が協力して北朝鮮に圧力をかけてくることであり、さる4月のトランプ・習会談以降その悪夢が実際に起こっていたのだが、ここにきて潮目が変わってきたのである。
なお、北朝鮮による核・ミサイル実験のタイミングについては、金正恩などの誕生日とか、国家的記念日などとの関連がよく話題になる。また今回は米国の独立記念日に合わせたとも言われている。これらはいずれも、あると言えばある、ないと言えばない程度のこである。それより、7月2日に中国が人工衛星「長征五号」の発射に失敗したことのほうに注意が向いていたのではないかと思われる。
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