平和外交研究所

2016 - 平和外交研究所 - Page 46

2016.04.04

(短文)核セキュリティ・サミットと原発へのテロ攻撃

 3月31日~4月1日、米国で開催された核セキュリティ・サミットは分かりにくいと思っている人が多いだろう。
 その理由の一つは、核のセキュリティは専門的・技術的な問題だからだ。
 もう一つの理由は、ワシントンに集まった世界の指導者は、サミットの機会に2国間、3国間の首脳会談を行うのでサミットの議題以外のことについても話し合うからだ。今回は、特に注目されたトピックだけでも、パリやブラッセルでのテロ攻撃、北朝鮮、トランプ候補の核問題発言、弾道ミサイル、南シナ海など多岐にわたっていた。

 核セキュリティ・サミットの主要議題は「核をテロから守る」ことにある。現実的には、テロ攻撃の対象となるのは、放射性物質(核物質)であり、通常の核弾頭は数百キロと重すぎてテロリストが簡単に運べるようなものでない。
 しかし、このことについても修正が必要になりつつある。核兵器の小型化が進んでいるからであり、米軍の「デービー・クロケット」という通称の小型弾頭は30キロ以下であり、これであれば運搬できる。
 もう一つの問題は、過激派組織ISのように、一つの国家にも比肩しうる規模の組織体が核兵器を狙うことがありうることだ。
 AFP、USA Today、CBSなど欧米メディアは、ブラッセル空港でのテロ事件後、ベルギー政府は原発の警備を強化し、一時従業員の退避まで命じた、と報道した。
 また、ベルギー政府が2009年行った身元調査では、パリやブラッセルでの事件に関係していた人物が、ブラッセルから約1時間の距離にあるDoea原発に潜入していたことが判明しており、関係者はISが原発を攻撃してくるのではないかと恐れているそうだ。

2016.04.01

(短文)米国は蔡英文次期総統に対し南シナ海関係資料の公開を要求

 台湾の『旺報』4月1日付によれば、米国は蔡英文次期総統に対し、総統就任(5月20日)後、中華民国のいわゆる「十一段線(中国の「九段線」」に関する中華民国所有の歴史資料と証拠を公開するよう求めている。
 興味深い報道だ。新政権にとって、南シナ海にたいする国民党の「十一段線」主張は避けて通れない問題になりつつあり、処理を誤ると中国との関係を悪化する恐れがあるが、重要なことは主張に根拠があるか否かである。それを示さないで、ただ主張するのは認められない。そこで米国は関係資料の公表を求めたのだろう。これは当たり前のことのようだが、今まで行われていない。賢明な対処方法と思われる。
 ちなみに、米国の南シナ海に対する見解は、当研究所HP 2014.12.14 付「南シナ海に対する中国の主張に対する米国政府の法的的見解」に詳しく説明したが、一言でいえば、「九段線」であれ、「十一段線」であれ、主張に根拠はないというものだ。
2016.03.31

(短評)北朝鮮で第4回目の「苦難の行軍」?

 北朝鮮で、また「苦難の行軍」という言葉が聞かれるようになった。北朝鮮労働党の機関紙『労働新聞』3月28日付の社説が「革命の道は遠く険しい。草の根を食(は)まねばならない苦難の行軍を再び行うこともありうる」と言ったのだ。そして、北朝鮮政府は平壌市民から毎月1キロずつ食料を徴収する「食料節約運動」を始めたという。
 「苦難の行軍」は過去3回あった。第1回目は1938年から39年にかけパルチザンとして日本軍と戦った抗争、いわゆる抗日遊撃戦のことであり、第2回目は、ソ連でスターリンの死後路線変更が起こった影響を受けて北朝鮮でも56年から57年にかけ内部闘争が発生し、スターリンに近かったソ連派、個人崇拝を批判する延安派および金日成らの満州派がみつどもえになって戦い、金日成が勝利を収めたときのことである。
 第3回目は、冷戦の終了からまだ日も浅い94年に金日成が急死し、翌年大洪水が発生し未曾有の経済困難に陥ったときのことだ。最も困難な時期は約3年続き、97年末には「峠を越した」という表現が現れるようになったが、「苦難の行軍」が終了したと宣言されたのは、2000年の秋であった。つまり、約5年にわたる「苦難の行軍」だった。

 北朝鮮が「苦難の行軍」をまた言い始めたのは、国連で決定された制裁措置に備えるためだろう。今回の強化された制裁措置は重くのしかかってくると北朝鮮自身も思っていることがうかがわれる。
 しかし、それに対応するために核やミサイルの開発を止めることはしないというのが北朝鮮を見る大方の見方であり、韓国最大の『朝鮮日報』3月30日付は、「たとえ多くの住民を苦難の行軍当時と同じく餓死させるようなことがあったとしても、核兵器開発だけは絶対に放棄しないことをあらかじめ宣言したようなものだ。」と指摘している。この見方は正しいと思う。
 朝鮮日報はさらに今後のことを詳しく分析して、「ただ現時点ではまだ市場なども開かれており、食料や日用品は流通しているようだが、今後5月以降になると制裁に伴う経済難が本格化する可能性が高い。さらに春窮期(前年秋に収穫された食料が尽きる晩春の時期)の食糧不足に加え、食料の買い占めや物価の高騰といった社会を混乱させる要因が立て続けに発生することも考えられる」と言っている。
 しかし、北朝鮮の経済事情は、20年前の1990年代中葉に起こった「苦難の行軍」当時とは比較にならないくらい改善しており、そう簡単に社会の混乱が発生するとは思えない。今回の食料節約措置は混乱を未然に防止するためであろう。

 現在、南北ともに軍事訓練に躍起になっている。もとはと言えば、北朝鮮による核実験が原因であり、北朝鮮に責任があるのは明らかだが、今後はどうするのがよいか。
 まず、南北双方が軍事的な突っ張りあいを早期に収め、話し合いによる緊張緩和に努めるべきである。
 北朝鮮は民生を犠牲にして軍事行動にリソースを投入すべきでない。国民が弱まれば、とりもなおさず国力が落ちる。
 韓国側でも軍事力を誇示することが賢明か、振り返ってみるべきである。そもそも軍事力を誇示することは国連決議で想定されていないのではないか。

アーカイブ

検索

このページのトップへ

Copyright©平和外交研究所 All Rights Reserved.