平和外交研究所

2016 - 平和外交研究所 - Page 47

2016.03.30

(短文)習近平に対する第2の辞任要求

 香港紙『明報』3月30日付は、習近平主席に対する辞任要求問題に関し、2つの記事を掲載している。

 その1つは、3月29日、海外に拠点がある『明鏡網』サイトが掲載した、習近平主席に対し辞任を要求する第2の公開状だ。同サイトからすぐに消去された。
 第2の公開状は、「習近平同志のその共産党内外の一切の職務を直ちに罷免することについて全党、全軍、全国人民に告げる書」と題するもので、「党政軍の各機関に所属する171人の中国共産党の忠実な党員」が発出したとし、習近平の犯した問題として、次のことを挙げている。
① 習近平は党規約に違反し、個人崇拝を許し、また支持し、人が習近平を「大大(非常に大きいという意味か)」とみなすのを放置した。インターネット上で習近平に対するおべっかの歌を流させ、今年は中央テレビ局で彭麗媛夫人の妹である彭麗娟に番組の制作を担当させた。
② 自ら法治に背き、個人独裁を敷いた。中央に各種の指導小組を設置し、自らその主任となった。李国強国務院総理を含む同志の合法的職権に影響と制約を与えた。
③ 国内を顧みず外国を大々的に援助した。
④ 軍にも災いを及ぼし、みずから長城(注 これまでの秩序という意味か)を壊した。みだりに軍の改革を行い、軍(人)の心を弱め、軍内の同志にいくつもの矛盾を惹起させた。
⑤ 習近平の生活は香港の書店が出版した『習近平と6人の女』が示す通り糜爛している。しかも習近平は公安を使って書店主と店員を拉致し、国際世論に火をつけた。

 公開状は以上を指摘した上で、「明年の第19回党大会で8千万余の党員全員に総書記(注 現在習近平)、党中央、党代表を選出させることを要求する。直接選挙によらない党中央は認めない」と宣言している。

 明報の第2の記事は概要次のとおりである。
 第1の公開状に関与したと疑われた長平(本名「張平」)は、同業者の賈葭(注 当研究所HP3月28日「習近平主席に対して辞職を求める公開状の調査」参照)に対する扱いが公平さを欠いていると評する記事を書いたため、長平の父と2人の弟は四川省の公安当局の調査を受けた。公安は、3月26日、彼らが先祖を供養する際に失火で山火事を起こしたことを責めているが、長平は、それはお門違いだ、としてフェースブックで公安当局に対して次の通り述べている。

「もしそれを本当に疑っているのなら、失火について調査すればよい。なぜあなた方は、わたくしの家族にわたくしと連絡を取るよう要求するのか。なぜ、わたくしが書いた文章を取り消すよう要求するのか。失火の1週間前から調査を開始するとは何事か。わたくしが評論を書いたことと家族は関係がない。取引にならない。」




2016.03.28

(短文)習近平主席に対して辞職を求める公開状の調査

 習近平主席に対して辞職を求める公開状(本研究所HP3月7日「習近平主席への公開状(抜粋)」に関し中国当局は引き続き調査を行っている。

 いわゆる「維権(権利擁護)」活動家の溫雲超(インターネットでは「北風」)は現在海外(米国らしい)に逃れているが、公開状の件で父母と弟が公安当局によって連行された。場所は溫雲超の故郷である廣東省揭陽。公安は3人に対し、溫雲超が公開状に関与していることを認めるよう迫っているそうだ。溫雲超は、自分はまったく関係ない、ただツイッターでこの公開状のことに触れただけだと言っていた(香港紙『明報』3月26日)。

 別のサイト「世界之声」は、「当局はすでに公開状の関係で20人余りを連行している。溫雲超に連絡してきたのは弟の妻であり、再度溫雲超から連絡を取ろうとしても通じなくなっている。また、溫雲超は、当局は溫雲超が公開状を書いたのでないことを知っているが、インターネットで広めたと思っている。だから作者を知っていると見て家族に圧力を加えている。認めさせて上司に報告したいのだ。今回の事件と中共が直面している二つの危機は関連がある。その一つは、習近平が権力を固める上での危機であり、もう一つは統治の上での危機と恐怖であり、だから当局は法を無視して非人道的なことも辞さないのだ」と溫雲超が述べたと報道している。

 この他、ジャーナリストの賈葭も取り調べを受けたとBBCが報道した。同放送の記者に対して、賈葭は、「無事であるが、どこにいるかは言えない。取り調べの状況についても今言えない」と答えたそうだ。
2016.03.26

(短評)馬英九の南シナ海工作

 3月23日、馬英九総統は内外の記者を南沙諸島の太平島に招待した。その際南沙諸島に関し仲裁裁判を申し立てているフィリピンと仲裁裁判所に対しても参加を求めたそうだ。記者たちは実際に太平島を訪問したが、フィリピンも仲裁裁判所もいかなかったはずだ。
 馬英九自身は1月28日に太平島に上陸した。米国にいったん諭されたのでいったん延期し、日を変えて実行したものだ。台湾では馬英九の積極的な行動が注目されている。

 馬英九の狙いは、一義的には、仲裁裁判で太平島を含め南沙諸島が島でなく、岩礁に過ぎないと認定されるのを防ぐことにある。太平島は南沙諸島の中で最大であるが、それでも岩礁とみなされる危険がないとは言えない。そのため、内外の記者に太平島は島であることを宣伝してもらいたいのだろう。
 なお、仲裁裁判の判断が出るのは5月とも、6月とも言われている。
 太平島は、特に台湾の領土問題に関心を持つ人でなければ知らないのが普通であるが、最近は中国の埋め立て工事、フィリピンの仲裁裁判申し立て、それに馬英九の行動が加わり、台湾、香港、米国などに本拠地がある中国語の新聞でしばしば報道されている。

 馬英九にはもう一つの狙いがあると思う。太平島に注意を向けさせることにより、来る5月に新総統に就任する蔡英文にその島の重要性を示し、その扱いを誤ると中国との関係が悪化することを印象づけようとしているのではないか。馬英九でなくてもフィリピンの仲裁裁判が台湾の新政権にとって扱いが困難な問題であることは知られるようになっている。民進党は本来中国や国民党のように膨張主義的でない。だから、太平島の領有権はさほど重要な問題でないが、台湾にもナショナリズムがあり、太平島などどうでもよいという態度はとれない。つまり、太平島は民進党政権を南シナ海と、ひいては国民党による統治からあまり離れさせないためのリードになっている。そのことを考えれば、馬英九としては、太平島の問題が大騒ぎになり、台湾のナショナリズムの注意がそちらに向かえば好都合なのだ。

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