オピニオン
2021.03.18
そして、国務長官と国防長官が来日し、3月16日、日本側と外務・防衛担当閣僚会合(2+2)を行った。バイデン政権のアジア・太平洋地域に対する外交・安全保障政策は着実に固められつつある。
アジア・太平洋地域において現在生じている大問題は、中国の拡張的、かつ国際法違反の疑いが濃厚な行動であり、また、仲裁裁判所の判断を尊重しようとしない姿勢である。今回の2+2が中国を名指ししてその行動を強く問題視したのも、また茂木外相が「インド太平洋の戦略環境は以前とは全く異なる次元にある」と指摘したのもそのためである。
日本は、中国によるハラスメントが増加している尖閣諸島について、米国から防衛義務の再確認を取り付けた。また、これは中国の問題でないが、北朝鮮による拉致問題について、日米は2+2であらためてその即時解決の必要性を確認した。これらの成果は積極的に評価できる。
しかし、日本としては、尖閣諸島を防衛するだけでなく、より広範な海域、とくに東シナ海や南シナ海についてどのような貢献をし、義務を果たすかが問われる。日本は米国とともにこれらの海域は厳しい状況にあるとの認識を示し、また「緊張を高める行動は断じて受け入れられない」としているが、具体的な行動については明言していない。
とくに、台湾の平和と安全を維持することについては米国と日本の立場は、共通している面があるのはもちろんだが、異なる面がある。なかでも台湾有事の場合であり、米国は中国が軍事力を行使することに反対であり、中国がもしそうすれば米国も軍事介入する姿勢である。これは周知のことであるが、あまりにも重要なので再確認しておきたい。
1972年の上海コミュニケでは「米国は,台湾海峡の両側のすべての中国人が,中国はただ一つであり,台湾は中国の一部分であると主張していることを認識している。米国政府は,この立場に異論をとなえない。米国政府は,中国人自らによる台湾問題の平和的解決についての米国政府の関心を再確認する」と表明した。
ただ、これだけでは台湾有事の場合、米国政府がどうのように行動するか明確でないが、同コミュニケの後、米国で制定された「台湾関係法」では「台湾人民の安全または社会、経済の制度に危害を与えるいかなる武力行使または他の強制的な方式にも対抗しうる合衆国の能力を維持する」とされ(台湾関係法2条B項6)、さらに「大統領は、台湾人民の安全や社会、経済制度に対するいかなる脅威ならびにこれによって米国の利益に対して引き起こされるいかな危険についても、直ちに議会に通告するよう指示される。大統領と議会は、憲法の定める手続きに従い、この種のいかなる危険にも対抗するため、とるべき適切な行動決定しなけれぱならない。」と明記された(同法3条C項)。軍事力の行使を含め対抗することがありうることが明記されているのである。
一方日本の立場については、1972年の国交正常化の際の共同声明3項で、「中華人民共和国政府は、台湾が中華人民共和国の領土の不可分の一部であることを重ねて表明する。日本国政府は、この中華人民共和国政府の立場を十分理解し、尊重し、ポツダム宣言第八項に基づく立場を堅持する」と明記されている。単純化して言えば、「日本は敗戦の結果台湾を放棄したので、台湾がどの国の領土かは言えない。だから、中国の主張を認めることはできないが、かといって反対するのでもない」という立場だったのである。
「インド太平洋の戦略環境は以前とは全く異なる次元にある」現在も、日中共同声明に反することはできないが、台湾の平和と安定の維持はインド太平洋の戦略環境にかかわる要の問題である。中国がエスカレートして軍事行動に出た場合、米国が台湾海域で行動を取ることがありうる。その場合、日本は共同声明に反しない範囲内で後方支援などを求められるのではないか。2+2の共同声明には「日本は日米同盟を更に強化するために能力を向上させることを決意した」という一文が盛り込まれた。これは在日米軍駐留経費負担(思いやり予算)だけの問題でない。インド太平洋地域の安全保障環境の悪化に伴い、米国は日本に役割の拡大を求めてくる可能性がある。
なお、台湾有事と日本の安全保障の関係は古典的な重要問題であるが、本稿では立ち入らない。
台湾の世界保健機構(WHO)へのオブザーバー参加は中国によって妨げられている。これも中国による台湾を屈服させるための方策の一環であり、日本は米国やEUと共同で台湾のオブザーバー参加を支持すべきである。台湾はオブザーバーとなることによって台湾の国際的地位を変更しようというのではない。保健衛生の問題に関して、台湾がWHOの対応や各国の状況をフォローし、可能であれば貢献しようとしているだけであり、それに対して、「台湾は中国の言うとおり控えておればよい」とする中国の態度はあまりにも政治的であり、かつ傲慢である。
またミャンマーで起こっていることに2+2はどのように対応したか。ミャンマーでは軍のクーデタにより民主的な人たちは弾圧され、毎日多数の犠牲者が出ている。ミャンマーは中国の「一帯一路」にとっても要の国である。日米が重視しているアジア・太平洋地域の開かれた国際秩序にも直接関係する国である。
日米外相会談では、ミャンマー情勢について「多数の民間人が死傷している状況を強く懸念する」との認識で一致したという。またブリンケン国務長官は16日、2+2後の共同会見で「民主主義や人権といった価値が脅かされている」と述べ、ミャンマーの軍事クーデターに加え、香港や台湾、中国の新疆ウイグル自治区やチベット自治区の状況を挙げて、中国を名指しで批判した。
ミャンマーで起こっている問題について、日米とも言葉では強く述べているが、それだけで足りるか。米国はミャンマーの国軍に対して制裁を強化している。そのこと自体は結構であるが、ミャンマー問題は、国連の有効性が問われる事態を惹起している。これも国際社会全体にとって深刻な問題である。日米が重視する「インド太平洋の戦略環境」にも直接かかわる。それにしては、日米両国は2+2を含め、あまりにもおとなしい扱いではないか。両国ともこれまでの経緯や考えにとらわれることなくなすべきことを真剣に検討すべきである。
日米2+2(外務・防衛担当閣僚会合)とバイデン政権のアジア・太平洋戦略
バイデン大統領は3月3日、「暫定国家安全保障戦略ガイダンス」を発表し、13日には日米豪印の4カ国(Quad=クアッド)首脳会議を主唱した。「中国は急速に自己主張を強めており、安定し開かれた国際システムに挑戦する能力がある、唯一の競争相手だ」というのがバイデン氏の認識である。そして、国務長官と国防長官が来日し、3月16日、日本側と外務・防衛担当閣僚会合(2+2)を行った。バイデン政権のアジア・太平洋地域に対する外交・安全保障政策は着実に固められつつある。
アジア・太平洋地域において現在生じている大問題は、中国の拡張的、かつ国際法違反の疑いが濃厚な行動であり、また、仲裁裁判所の判断を尊重しようとしない姿勢である。今回の2+2が中国を名指ししてその行動を強く問題視したのも、また茂木外相が「インド太平洋の戦略環境は以前とは全く異なる次元にある」と指摘したのもそのためである。
日本は、中国によるハラスメントが増加している尖閣諸島について、米国から防衛義務の再確認を取り付けた。また、これは中国の問題でないが、北朝鮮による拉致問題について、日米は2+2であらためてその即時解決の必要性を確認した。これらの成果は積極的に評価できる。
しかし、日本としては、尖閣諸島を防衛するだけでなく、より広範な海域、とくに東シナ海や南シナ海についてどのような貢献をし、義務を果たすかが問われる。日本は米国とともにこれらの海域は厳しい状況にあるとの認識を示し、また「緊張を高める行動は断じて受け入れられない」としているが、具体的な行動については明言していない。
とくに、台湾の平和と安全を維持することについては米国と日本の立場は、共通している面があるのはもちろんだが、異なる面がある。なかでも台湾有事の場合であり、米国は中国が軍事力を行使することに反対であり、中国がもしそうすれば米国も軍事介入する姿勢である。これは周知のことであるが、あまりにも重要なので再確認しておきたい。
1972年の上海コミュニケでは「米国は,台湾海峡の両側のすべての中国人が,中国はただ一つであり,台湾は中国の一部分であると主張していることを認識している。米国政府は,この立場に異論をとなえない。米国政府は,中国人自らによる台湾問題の平和的解決についての米国政府の関心を再確認する」と表明した。
ただ、これだけでは台湾有事の場合、米国政府がどうのように行動するか明確でないが、同コミュニケの後、米国で制定された「台湾関係法」では「台湾人民の安全または社会、経済の制度に危害を与えるいかなる武力行使または他の強制的な方式にも対抗しうる合衆国の能力を維持する」とされ(台湾関係法2条B項6)、さらに「大統領は、台湾人民の安全や社会、経済制度に対するいかなる脅威ならびにこれによって米国の利益に対して引き起こされるいかな危険についても、直ちに議会に通告するよう指示される。大統領と議会は、憲法の定める手続きに従い、この種のいかなる危険にも対抗するため、とるべき適切な行動決定しなけれぱならない。」と明記された(同法3条C項)。軍事力の行使を含め対抗することがありうることが明記されているのである。
一方日本の立場については、1972年の国交正常化の際の共同声明3項で、「中華人民共和国政府は、台湾が中華人民共和国の領土の不可分の一部であることを重ねて表明する。日本国政府は、この中華人民共和国政府の立場を十分理解し、尊重し、ポツダム宣言第八項に基づく立場を堅持する」と明記されている。単純化して言えば、「日本は敗戦の結果台湾を放棄したので、台湾がどの国の領土かは言えない。だから、中国の主張を認めることはできないが、かといって反対するのでもない」という立場だったのである。
「インド太平洋の戦略環境は以前とは全く異なる次元にある」現在も、日中共同声明に反することはできないが、台湾の平和と安定の維持はインド太平洋の戦略環境にかかわる要の問題である。中国がエスカレートして軍事行動に出た場合、米国が台湾海域で行動を取ることがありうる。その場合、日本は共同声明に反しない範囲内で後方支援などを求められるのではないか。2+2の共同声明には「日本は日米同盟を更に強化するために能力を向上させることを決意した」という一文が盛り込まれた。これは在日米軍駐留経費負担(思いやり予算)だけの問題でない。インド太平洋地域の安全保障環境の悪化に伴い、米国は日本に役割の拡大を求めてくる可能性がある。
なお、台湾有事と日本の安全保障の関係は古典的な重要問題であるが、本稿では立ち入らない。
台湾の世界保健機構(WHO)へのオブザーバー参加は中国によって妨げられている。これも中国による台湾を屈服させるための方策の一環であり、日本は米国やEUと共同で台湾のオブザーバー参加を支持すべきである。台湾はオブザーバーとなることによって台湾の国際的地位を変更しようというのではない。保健衛生の問題に関して、台湾がWHOの対応や各国の状況をフォローし、可能であれば貢献しようとしているだけであり、それに対して、「台湾は中国の言うとおり控えておればよい」とする中国の態度はあまりにも政治的であり、かつ傲慢である。
またミャンマーで起こっていることに2+2はどのように対応したか。ミャンマーでは軍のクーデタにより民主的な人たちは弾圧され、毎日多数の犠牲者が出ている。ミャンマーは中国の「一帯一路」にとっても要の国である。日米が重視しているアジア・太平洋地域の開かれた国際秩序にも直接関係する国である。
日米外相会談では、ミャンマー情勢について「多数の民間人が死傷している状況を強く懸念する」との認識で一致したという。またブリンケン国務長官は16日、2+2後の共同会見で「民主主義や人権といった価値が脅かされている」と述べ、ミャンマーの軍事クーデターに加え、香港や台湾、中国の新疆ウイグル自治区やチベット自治区の状況を挙げて、中国を名指しで批判した。
ミャンマーで起こっている問題について、日米とも言葉では強く述べているが、それだけで足りるか。米国はミャンマーの国軍に対して制裁を強化している。そのこと自体は結構であるが、ミャンマー問題は、国連の有効性が問われる事態を惹起している。これも国際社会全体にとって深刻な問題である。日米が重視する「インド太平洋の戦略環境」にも直接かかわる。それにしては、日米両国は2+2を含め、あまりにもおとなしい扱いではないか。両国ともこれまでの経緯や考えにとらわれることなくなすべきことを真剣に検討すべきである。
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