オピニオン
2015.11.26
このことが実際に問題となったのがイラク戦争であり、フランスやドイツなどはイラクに対する攻撃を認める決議は存在しないという立場であったが、米英は湾岸戦争以来の諸決議で認められていると主張し、決着がつかないままに米英は攻撃に踏み切った。米英としては安保理で長々と議論している暇はないという気持ちだったのだろう。それは分からないでもなかったが、公にそう主張すると国連軽視になって問題が大きくなりすぎる。だから米英は決議はあると強弁し、行動を開始した。
昨年8月8日にイラクで、また9月23日にシリアで開始されたISに対する米国主導の空爆の場合はイラク戦争とかなり様相が違っていた。空爆について安保理決議はなかったが、サウジアラビアなど中東諸国数カ国を含め多数の国が支持を表明した。日本も支持した。そうなったのは、ISの蛮行により少数民族やジャ―ナリスを含む多数の民間人がむごたらしく殺害されていることは由々しき人道問題であり、迅速な対応が必要と各国が考えたからであった。つまり、すさまじい人道問題を起こしている原因を除去することが緊急に必要だったので、各国は安保理決議がなくても賛同し、支持したのだ。
(当研究所HP2014年9月29日付「シリア空爆と集団的自衛権」、同年10月23日付「「イスラム国」空爆と「保護する責任」」を参照されたい。)
前置きが長くなったが、さる11月20日、安保理は決議第2249号を採択した。これは、ISによるテロ攻撃を強く非難し、ISが国際社会にとって前例のない脅威となっていることを指摘した上で、国連加盟国にtake all necessary measures(中略) to redouble and coordinate their efforts to prevent and suppress terrorist acts committed specifically by ISIL(注 ISのことを国連ではこう表記している)(中略) to eradicate the safe haven they have established over significant parts of Iraq and Syria(中略)to intensify their efforts to stem the flow of foreign terrorist fighters to Iraq and Syria and to prevent and suppress the financing of terrorism, and urges all Members states to continue to fully implement the above-mentioned resolutions.
‘take all necessary measures’は重要なキーワードであり、当然軍事行動も含まれる。このような決議が全会一致で成立したのはISによるシナイ半島でのロシア旅客機爆破(10月31日)、パリ市内での同時テロ襲撃(11月13日)などのため、平素は西側と異なる態度をとり勝ちなロシアや中国も賛成したからだった。中国人1人もISに殺害されている。
かくしてISに対する空爆については明確な法的裏付けがなされたが、本決議の場合のように安保理が一致して賛成することを例外的であり、一般論としては国連決議の有無は今後も問題になりうる。
米国は国連決議を無視するわけではないが、明確な決議の成立を待たずに行動せざるをえないことがありうる。イラク戦争の場合のように安保理決議があるかないかはっきりしないこともありうる。そのような場合に我が国としてどう対応すべきか。改正安保法によれば従来以上に米国を支持することになりそうだが、それだけに、どういう条件であれば自衛隊が行動できるか、またできないか、明確な考えが必要だ。
重要な条件の一つが安保理決議の有無であり、イラク戦争の例について徹底した検討が加えなければならない。
(短評)ISに関する国連安保理決議
外国に対し攻撃、あるいはその他の軍事行動を起こす場合、一般には、そのような行動を認める国連決議が必要である。それがなければ、行動の正当性を主張してもなかなか理解してもらえない。このことが実際に問題となったのがイラク戦争であり、フランスやドイツなどはイラクに対する攻撃を認める決議は存在しないという立場であったが、米英は湾岸戦争以来の諸決議で認められていると主張し、決着がつかないままに米英は攻撃に踏み切った。米英としては安保理で長々と議論している暇はないという気持ちだったのだろう。それは分からないでもなかったが、公にそう主張すると国連軽視になって問題が大きくなりすぎる。だから米英は決議はあると強弁し、行動を開始した。
昨年8月8日にイラクで、また9月23日にシリアで開始されたISに対する米国主導の空爆の場合はイラク戦争とかなり様相が違っていた。空爆について安保理決議はなかったが、サウジアラビアなど中東諸国数カ国を含め多数の国が支持を表明した。日本も支持した。そうなったのは、ISの蛮行により少数民族やジャ―ナリスを含む多数の民間人がむごたらしく殺害されていることは由々しき人道問題であり、迅速な対応が必要と各国が考えたからであった。つまり、すさまじい人道問題を起こしている原因を除去することが緊急に必要だったので、各国は安保理決議がなくても賛同し、支持したのだ。
(当研究所HP2014年9月29日付「シリア空爆と集団的自衛権」、同年10月23日付「「イスラム国」空爆と「保護する責任」」を参照されたい。)
前置きが長くなったが、さる11月20日、安保理は決議第2249号を採択した。これは、ISによるテロ攻撃を強く非難し、ISが国際社会にとって前例のない脅威となっていることを指摘した上で、国連加盟国にtake all necessary measures(中略) to redouble and coordinate their efforts to prevent and suppress terrorist acts committed specifically by ISIL(注 ISのことを国連ではこう表記している)(中略) to eradicate the safe haven they have established over significant parts of Iraq and Syria(中略)to intensify their efforts to stem the flow of foreign terrorist fighters to Iraq and Syria and to prevent and suppress the financing of terrorism, and urges all Members states to continue to fully implement the above-mentioned resolutions.
‘take all necessary measures’は重要なキーワードであり、当然軍事行動も含まれる。このような決議が全会一致で成立したのはISによるシナイ半島でのロシア旅客機爆破(10月31日)、パリ市内での同時テロ襲撃(11月13日)などのため、平素は西側と異なる態度をとり勝ちなロシアや中国も賛成したからだった。中国人1人もISに殺害されている。
かくしてISに対する空爆については明確な法的裏付けがなされたが、本決議の場合のように安保理が一致して賛成することを例外的であり、一般論としては国連決議の有無は今後も問題になりうる。
米国は国連決議を無視するわけではないが、明確な決議の成立を待たずに行動せざるをえないことがありうる。イラク戦争の場合のように安保理決議があるかないかはっきりしないこともありうる。そのような場合に我が国としてどう対応すべきか。改正安保法によれば従来以上に米国を支持することになりそうだが、それだけに、どういう条件であれば自衛隊が行動できるか、またできないか、明確な考えが必要だ。
重要な条件の一つが安保理決議の有無であり、イラク戦争の例について徹底した検討が加えなければならない。
2015.11.25
当研究所HP23日付の一文に次の2点が加わっている。
第1に、米国の各国に対する働きかけを「国際的な連帯の形成」としてとらえた。日米などの今後の課題は、すべてのASEAN諸国と韓国をこの連帯に参加させることである。この連帯は中国による違法な行動に対し各国が協力・共同して対抗することを目指しており、軍事的な包囲網の形成ではない。
第2に、ASEAN首脳会議(東アジアサミットなど域外国との会議を含む)は東アジアで最も重要な政治協議の場になりつつある。
(短文)ASEAN首脳会議と南シナ海問題2
11月25日、東洋経済オンラインに「中国の南沙支配は、もはや身動きが取れない ASEANサミットでは”中国批判”が多数派に」を寄稿した。当研究所HP23日付の一文に次の2点が加わっている。
第1に、米国の各国に対する働きかけを「国際的な連帯の形成」としてとらえた。日米などの今後の課題は、すべてのASEAN諸国と韓国をこの連帯に参加させることである。この連帯は中国による違法な行動に対し各国が協力・共同して対抗することを目指しており、軍事的な包囲網の形成ではない。
第2に、ASEAN首脳会議(東アジアサミットなど域外国との会議を含む)は東アジアで最も重要な政治協議の場になりつつある。
2015.11.23
なかでも米中の対立である。米国は、中国による岩礁埋め立て工事強行を国際法違反、ないしその疑いが濃厚と判断し、中国にそのような行為を中止するよう求めてきた。しかし、中国は聞き入れようとしないので米国は艦船を12カイリ以内へ立ち入り、航行させる一方、関係各国にも中国が国際法違反の行為を控えるよう説得することを求めてきた。今般のASEAN会議やその直前のAPEC会議は、米国にとって関係国へのさらなる働きかけのために格好の場となり、逆に中国としてはそれにいかに反撃するかが問われていた。
たしかに米中の対立は注目されたが、それだけでなくより広い視野から見ておく必要がある。
中国による埋め立て工事など一連の行動を問題視し、国際法を尊重するよう求めたのは米国だけでなかった。各国も続々と同様の見解を表明したと言われている。東南アジア諸国は中国との関係において一枚岩でない。今次会議でも、カンボジアなど一部の国は中国との関係に配慮する発言を行った。また、積極的に態度を表明はしなかった国もあったが、その他の国、大多数の国は中国の行動に批判的な見解を表明した。
この事実は、南シナ海における中国の行動が地域の安定にとって問題を起こしており、また、国際法に違反しているという点で各国のコンセンサス形成に一歩近づいたことを示している。領土問題は多くの場合複雑で簡単には黒白がつけられないが、これほど多数の国の見解が一致することはまれである。
ASEAN以外では韓国と台湾の態度が問題だ。台湾については、本HP11月15日付で問題点を指摘した。
韓国については、朴槿恵大統領がさる10月中旬、オバマ大統領から、「中国に国際法違反の行為があれば声を上げてほしい」と要請されたのに対し、朴槿恵大統領は明確に返答しなかった。今次ASEAN会議でも朴槿恵大統領の発言は注目されなかった。韓国は中国の行動に批判的な表明をしなかった国の一つだったようだ。
一方中国は比較的穏健だった。ASEANと中国との間でかねてから制定が望まれていたが、実現していなかった「行動規範」、つまり、南シナ海においての各国の行動の準則について、中国の李克強首相は早期締結への協議を加速すべきだと発言した。中国は「協調的だった」と評する報道もあり、中国は状況が厳しいことを客観的に見はじめている可能性もある。
もっとも、中国は埋め立て工事は何ら問題ないとする態度を変えたのではない。南シナ海の問題は域内国同士の話し合いで解決すべきだという主張、すなわち米国などを締め出す主張もやめていない。
ASEANの内部資料によると、中国は航行・通信の安全や救難救助などのため「協力メカニズム」を構築する提案をしているそうだ。しかし、この構想を認めると、中国が埋め立て工事で作った人工島が協力の拠点になる恐れがあるとASEAN側は警戒している。
安倍首相は、会議後の記者会見で「海の平和と安全を守り、航行の自由を確保するため、各国が国際法に基づいて責任を持って行動し、緊張関係を生み出す行動を厳に慎むことで、強いコンセンサスが得られた。共通のルールの上に関係国が対話を重ねることによって、相互の信頼を培っていくことができると考える」と説明した。会議では当然このように発言したのだろう。極めて適切な発言だったと思われる。
今後、日本は米国、豪、NZなどと協力して、国際法の尊重とルールに基づいた紛争の解決に関するコンセンサスが東南アジア諸国でも形成されるよう努めていくべきだ。また、その関係で韓国に対する働きかけも必要だ。可能であれば、来る日韓中の首脳会談でもそのことを話し合うべきである。
中国は今後も協調的であり続けるか、即断はできないが、日本も各国も、国際的に争われている岩礁の埋め立て工事や力で現状を変更することなど国際法に違反する行為を認めないことを明確に表明し続けることが肝要だ。今次ASEANの首脳会議はこのようなアプローチが有効であることを示唆しているように思われる。
ASEAN首脳会議と南シナ海問題
11月21~22日、マレーシアで開催された今年のASEAN首脳会議(東アジア・サミットなど域外国との会議を含む。)では、エネルギー・環境、教育、財政などASEANの伝統的域内協力についても協議されたが、とくに南シナ海問題に注目が集まった。なかでも米中の対立である。米国は、中国による岩礁埋め立て工事強行を国際法違反、ないしその疑いが濃厚と判断し、中国にそのような行為を中止するよう求めてきた。しかし、中国は聞き入れようとしないので米国は艦船を12カイリ以内へ立ち入り、航行させる一方、関係各国にも中国が国際法違反の行為を控えるよう説得することを求めてきた。今般のASEAN会議やその直前のAPEC会議は、米国にとって関係国へのさらなる働きかけのために格好の場となり、逆に中国としてはそれにいかに反撃するかが問われていた。
たしかに米中の対立は注目されたが、それだけでなくより広い視野から見ておく必要がある。
中国による埋め立て工事など一連の行動を問題視し、国際法を尊重するよう求めたのは米国だけでなかった。各国も続々と同様の見解を表明したと言われている。東南アジア諸国は中国との関係において一枚岩でない。今次会議でも、カンボジアなど一部の国は中国との関係に配慮する発言を行った。また、積極的に態度を表明はしなかった国もあったが、その他の国、大多数の国は中国の行動に批判的な見解を表明した。
この事実は、南シナ海における中国の行動が地域の安定にとって問題を起こしており、また、国際法に違反しているという点で各国のコンセンサス形成に一歩近づいたことを示している。領土問題は多くの場合複雑で簡単には黒白がつけられないが、これほど多数の国の見解が一致することはまれである。
ASEAN以外では韓国と台湾の態度が問題だ。台湾については、本HP11月15日付で問題点を指摘した。
韓国については、朴槿恵大統領がさる10月中旬、オバマ大統領から、「中国に国際法違反の行為があれば声を上げてほしい」と要請されたのに対し、朴槿恵大統領は明確に返答しなかった。今次ASEAN会議でも朴槿恵大統領の発言は注目されなかった。韓国は中国の行動に批判的な表明をしなかった国の一つだったようだ。
一方中国は比較的穏健だった。ASEANと中国との間でかねてから制定が望まれていたが、実現していなかった「行動規範」、つまり、南シナ海においての各国の行動の準則について、中国の李克強首相は早期締結への協議を加速すべきだと発言した。中国は「協調的だった」と評する報道もあり、中国は状況が厳しいことを客観的に見はじめている可能性もある。
もっとも、中国は埋め立て工事は何ら問題ないとする態度を変えたのではない。南シナ海の問題は域内国同士の話し合いで解決すべきだという主張、すなわち米国などを締め出す主張もやめていない。
ASEANの内部資料によると、中国は航行・通信の安全や救難救助などのため「協力メカニズム」を構築する提案をしているそうだ。しかし、この構想を認めると、中国が埋め立て工事で作った人工島が協力の拠点になる恐れがあるとASEAN側は警戒している。
安倍首相は、会議後の記者会見で「海の平和と安全を守り、航行の自由を確保するため、各国が国際法に基づいて責任を持って行動し、緊張関係を生み出す行動を厳に慎むことで、強いコンセンサスが得られた。共通のルールの上に関係国が対話を重ねることによって、相互の信頼を培っていくことができると考える」と説明した。会議では当然このように発言したのだろう。極めて適切な発言だったと思われる。
今後、日本は米国、豪、NZなどと協力して、国際法の尊重とルールに基づいた紛争の解決に関するコンセンサスが東南アジア諸国でも形成されるよう努めていくべきだ。また、その関係で韓国に対する働きかけも必要だ。可能であれば、来る日韓中の首脳会談でもそのことを話し合うべきである。
中国は今後も協調的であり続けるか、即断はできないが、日本も各国も、国際的に争われている岩礁の埋め立て工事や力で現状を変更することなど国際法に違反する行為を認めないことを明確に表明し続けることが肝要だ。今次ASEANの首脳会議はこのようなアプローチが有効であることを示唆しているように思われる。
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