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2021.12.22

タン台湾デジタル担当相の講演を韓国側は突然キャンセル

 12月16日、韓国で予定されていたオンライン「グローバル政策会議」において講演を依頼されていた台湾のオードリー・タン・デジタル担当相に対し、韓国側は講演当日の午前7時50分になって突然メールでキャンセルの申し出を行った。理由として「中台関係をめぐる様々な点を考慮した」と挙げていたという。この会議は、韓国の文在寅大統領の指示で設けられた「第四次工業革命委員会」が主催したものであった。

 当然台湾側は反発し、台湾外交部は21日、韓国駐台北代表部(大使館に相当)の代理代表を呼んで抗議した。そして翌日の定例会見で経緯を説明し、会議直前での突然の、一方的なキャンセルは「礼儀を欠いている」とした。
 
 韓国側がこのようなキャンセルを行ったのは、中国からタン氏の講演を中止するよう圧力がかかったためであることはほぼ間違いない。
 
 韓国の現政権が中国を刺激しないように努めていることは今に始まったことでない。文在寅政権は2017年5月の成立早々から、THAAD(高高度防衛ミサイル)配備問題に反発した中国による対韓報復の撤廃が課題であり、文氏の努力でいちおうの調整が行われ、文氏は同年末国賓として中国を訪問した。しかし、文大統領に対する中国側の扱いはあまり友好的でなく、韓国内では不満の声が上がった経緯がある。

 2021年になってからも、韓国が中国から圧力を受けていることを示唆する出来事が起こっている。

 3月にはクアッド(日米豪印戦略対話)の首脳会議がオンラインで開催され、参加4か国は『自由で開かれたインド太平洋』の実現に向け連帯を強化することで合意した。
 その際、韓国内ではクアッドは対中軍事協力でない、この4か国協力の枠組みに韓国が参加しなくてもよいのか、と疑問の声も上がった(尹永寛/元外交部長官・ソウル大学名誉教授、中央日報2021年5月9日)。にもかかわらず韓国はクアッドに背を向けたのだが、そのようになったのは中国から参加しないようくぎを刺されたためであったと思われる。

 9月、英国空母クイーン・エリザベスが米第7艦隊の母港横須賀港に入港した。同艦はそれに先立って釜山に入港予定であったが、これは取り消され、韓英海軍は8月31日、東海南部海上で人道主義支援と災害救助中心の訓練など、縮小した交流活動だけを実施した。クイーン・エリザベスは同時期に横須賀港に入港した米国、オランダ、カナダ、それに日本の海上自衛隊の艦船と共に、7日まで「パシフィッククラウン21-3」という名の多国籍共同訓練を行った。
1週間後、中国の 王毅外相が訪韓し、鄭義溶韓国外相と会談した。この会談で表向きは中韓の協力面が強調されたが、王毅外相は参加しなかった韓国を称賛するとともに今後についてもさらにくぎを押したと推測される。

 さらに文在寅大統領は12月13日、中国の人権問題を理由とした北京冬季五輪への「外交的ボイコット」について、「韓国政府は検討していない」と表明した。

 そしてタン氏に対する講演の一方的なキャンセルとなったのである。その理由として「中台関係をめぐる様々な点を考慮した」と韓国側が挙げたのはかなり露骨な中国重視の表明であった。

 タン氏が講演したからと言って中国の安全保障にはいささかの関係もないだろう。そんな問題についてまで韓国が中国の言いなりになっている、ならざるをえないのは遺憾なことである。韓国では来年3月9日に大統領選挙が行われる。どの候補が有力か、予断を許さないが、新大統領になると中国との関係に変化は起こるのだろうか。日本にも大いに関係してくる問題である。
2021.09.30

岸田首相(予定)は韓国の姜昌一(カン・チャンイル)駐日大使と早期に会うべきである。

 9月29日、自由民主党の新総裁に岸田文雄氏が選出された。10月4日に新しい首相に就任する予定である。内外の難問が新首相を待ち受けているが、早期に韓国の姜昌一(カン・チャンイル)駐日大使と会見すべきである。同大使は今年1月に着任して以来、一度も菅首相にも、茂木外相にも会っていない。
 
 そもそも日本政府は、姜昌一(カンチャンイル)駐日大使を正式に受け入れた(いわゆるアグレマンを与えた)。そして天皇陛下は5月24日、同大使と皇居で面会し、姜氏は文在寅(ムンジェイン)大統領から託された信任状を奉呈した。にもかかわらず、首相も外相も会わないでおり、菅首相は会わないまま辞任することになる。これは異常な事態であり、このような事態を放置しておくと、我が国の沽券にもかかわる。
 
 岸田氏が新首相に就任すれば、各国首脳から祝意が表明され、電話会談なども行われるであろう。韓国の文在寅大統領との間でもそういうことが検討されるだろう。また韓国では来年3月の大統領選挙で新大統領が決まる。しかし、岸田氏はそのような政治日程とは別に、就任後できるだけ早い機会に姜大使と会見すべきである。
2021.09.16

北朝鮮の巡航ミサイル発射など

 北朝鮮は9月11~12日、初の巡航ミサイルを発射し、1500キロ先の標的に命中させたと発表した。15日にはさらに、短距離弾道ミサイルを2発、移動中の列車から発射した。後者のミサイルはロシア製短距離弾道ミサイル「イスカンデル」の北朝鮮版だとみられている。

 いずれも北朝鮮の軍事能力の向上を示すことであるが、本稿では軍事技術の問題はさておいて、政治的な側面を注目しておきたい。

 一つは、北朝鮮は建国記念日の9月9日、首都平壌の金日成広場で軍事パレードを行ったが、ICBMやSLBMなど大型の戦略兵器は登場させなかった。また、正規軍でなく、労働者や農民で組織された「労農赤衛隊」治安部隊など予備選力が中心となって参加した。開催された時間は午前0時からで、これも異例であったという。

 もう一つは、王毅中国外相の韓国訪問と何らかの関係があるかという疑問である。ただし、王毅氏は9月10日から15日まで、ベトナム、カンボジア、シンガポールと韓国の4か国を訪問し、各国の首脳らと相次いで会談したのであり、その目的は、先月のハリス米副大統領およびブリンケン国務長官やオースティン国防長官の東南アジア訪問に対抗することであり、北朝鮮と直接関係するものではなかった。

 しかし、北朝鮮としては王毅外相の韓国訪問を不愉快に思った可能性がないとは言えない。かねてから、北朝鮮は中国の高官が韓国を訪問することを快く思っていなかった。2014年7月、習近平主席の韓国訪問に際しては、北朝鮮はあからさまに不快感を示し、6月から7月にかけてミサイルを相次いで発射した。『労働新聞』(7月24日付)は、「国際の正義に責任を持つ一部の国は自国の利益のため、米国の強権政治に対して沈黙している」と、名指しではないが、明らかに中国と分かる形で激しく批判した。同月11日は中朝同盟条約締結53周年記念日であったが、北朝鮮も中国も記念活動を行なわなかった。27日は朝鮮戦争休戦61周年記念日であったが、記念式典で金正恩は中国にまったく触れなかった。8月1日は中国人民解放軍建軍記念日であり、韓国を含め各国の大使館付武官は出席したが、在中国北朝鮮大使館付武官は誰も参加しなかった(『大公報』8月4日付)。

 その頃、中朝関係はどん底にあり、その後、米朝首脳会談などを契機に金正恩総書記(当時は「委員長」)は中国に頼る姿勢を見せるようになり、中国も北朝鮮との関係を重視する姿勢を示し、両国関係は顕著に改善された。
 
 現在、中朝関係が以前の険悪な状態に戻ったとは思わない。北朝鮮は国連の制裁を受けたままであり、中国への依存度はむしろ高まっているが、両国の関係には依然として脆弱な面がある。北朝鮮としては、王毅外相の韓国訪問など不愉快なことについては一定程度、その気持ちを表に出しても不思議でない。最新のミサイルを王毅外相の韓国訪問に合わせて発射したという可能性は、ちょっとうがちすぎかもしれないが、頭のどこかにしまっておいてよいと思われる。

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