平和外交研究所

中国

2014.12.03

中国での安全保障対話

中国軍が門戸を開いて外国と安全保障について対話する数少ない機会であった「香山フォーラム」が今年から様相を一変させ、シンガポールで開催されている英戦略研究所主催の「アジア安全保障会議(いわゆるシャングリラ対話)」そっくりの安全保障対話の場となった。これまではシャングリラ対話が中国のハイレベル軍人と対話する唯一の機会であったが、香山フォーラムは今後その強力なライバルとなるどころか、さらに上回る格式の会議に成長することさえあるのかもしれない。
今年の香山フォーラムは11月20日から3日間、北京西郊の香山近くの施設で開かれた。ホストはこれまで通り中国軍事科学学会であり、形式的には民間の団体であるが実質的には中国軍の管理下にある。このフォーラムは2006年から2年ごとに開催され、今回は第5回目である。この会議には47カ国が政府代表団を派遣した。
中国からは初めて常万全国防相が出席した。シャングリラ対話では毎回中国の出席者のレベルが主催者を悩ます問題であり、過去には国防相が出たこともあったが、最近は副総参謀長の出席が続いていた。香山フォーラムに今後も中国の国防相が出席することになればシャングリラ対話の方はやや見劣りする恐れもある。もっとも、シャングリラ対話では2014年に安倍首相が、2013年にはベトナムの首相が基調演説をするなど、出席する軍人のレベルだけでは会議の重要性は測れないが、中国のハイレベル軍人を対話に引き出すのがシャングリラ対話の特別の意義であるので、具体的にだれが出てくるか、とくに国防相が出席するかどうかはやはり重要な問題である。
国防相が出席したのは中国の他マレーシア、キルギス、セルビア、シンガポール、タジキスタン、モルディブであり、ミャンマーとカタールからは総参謀長が出席した。その他、ラッド・前豪首相なども顔を見せ、中国側の出席者を合わせると300人を超える大会議となった。
日本には防衛相と統合幕僚長に招待状を送ったが、日本側は結局防衛省防衛研究所の幹部と防衛大教授を出席させた。韓国も同様に国防相は出さず、同省の幹部が出席。米国は駐在武官を派遣した。日本が政府から当局者を1人も出さなかったことは中国メディアの間でも話題になったそうである。
中国軍が対外的に開放的姿勢を取り、このような対話をすることは非常に有意義である。しかも、対話は率直で、突っ込んだ内容にも踏み込んだ。フィリピンの軍高官と中国軍高官がやり合う場面もあった。また、会議場外で日本の記者が、中国が昨年11月に東シナ海上空に一方的に設定した防空識別圏や異常接近事案について尋ねたのに対しても、かなり率直な説明をした。これなどもちょっと考えられないことである。また、今回の会議の主催者は、会議運営で気が付いたことは何でも指摘してほしいと御用聞きをするほどサービス精神が旺盛であった。各国代表団には、その国の言語を話せる中国軍の世話係がぴったりと寄り添い、会場を案内したり、質問に答えたりしていた。食事やお茶も用意され、英語、ロシア語、中国語の同時通訳も完備していたそうである。
今後もこのような会議が開放的、対外協調的に開催され、そのなかで、中国がみずからに批判的なことにも耳を傾け、忍耐強く対応することが望まれる。このような香山対話は、今回中国がモデルとしたシンガポールのシャングリラ対話にも積極的な刺激を与え、両方の対話が刺激し合ってさらに重要性を増すこととなる可能性もある。
日本としてはこのような諸側面の問題に考慮しつつ、米国や韓国などとも足並みをそろえて対応することが必要である。

2014.11.25

「海上のシルクロード」とフィリピン、ベトナムへの影響

11月23日付の旺報(旺旺グループの台湾紙 大陸関係の報道が比較的多い)は、「先のAPEC会議の際、中国は南シナ海で反中的姿勢を見せているフィリピンを「海上のシルクロード(海上絲綢之路)」構想から外す噂を流し、フィリピンを緊張させた。そのためフィリピンは南シナ海での反中的傾向を緩和するのではないかと見られている。また、フィリピンと同じく反中的傾向が強いベトナムも同様の圧力を受けている」と報道した。
「海上のシルクロード」構想は2013年10月、習近平主席がASEANを訪問した際建設を提案したものであり、これとこのルートにつながる経済地域は「一帯一路」と呼ばれている。この建設により中国は海運面でのヨーロッパ依存を軽減し、中国の貨物が米国海軍の支配するルートにさらされるのを少なくする目的もあると見られている(例、BBC中国語サイト)。
中国は「海上シルクロード銀行」を設立し、400億ドル出資する考えであり、現在、この設立準備が中国政府の関係部局で進められている。この銀行は政府出資だけでなく、民間の資本も受け入れ公的色彩を薄めることが予定されている。

2014.11.15

米中間新信頼醸成措置

オバマ大統領の訪中に際し合意された両国軍の間の信頼醸成措置に関する米国の諸報道から要点を抽出した。

米中両国は艦船や航空機による衝突を回避するための協定(MMCA Military Maritime Consultative Agreement)を1998年に締結した。2014年、APEC首脳会議終了後のオバマ大統領訪中の際には、信頼醸成のために新たに2つの合意が達成された。1つは重要な軍事活動を一方が行なう場合、他方に通報することである、もう1つは、艦船あるいは航空機が接近した場合の行動規範についての合意である。これらの合意によって、米中両国は今後誤解を少なくし、予測可能性を高め、危機に陥る危険を少なくできる
両方の合意とも2013年に習近平主席が訪米した際、オバマ大統領に提案したものである。
主要が軍事活動には、防衛報告と軍事演習が含まれる。米国はDefense Strategic Guidance、Quadrennial Defense Reviewおよび毎年の議会に対する報告などを中国に通報する。一方、中国は防衛白書などを発表する場合に米国に通報する。両国とも防衛政策を変更する場合通報する。
両国の軍はアジア太平洋で軍事演習をする場合通報するが、そのタイミングはそれぞれの国が決定する。将来は事前の通報に進むことが期待されている。
米側はまた、弾道ミサイルや宇宙へのロケット打ち上げについても通報するようにしたいが、中国側はそれに応じていない。中国とロシアは互いに相手国の方向へ向かって戦略ミサイルを発射する場合通報することに2012年12月合意している。
海上での行動規範には、両国の艦船が接近した場合の行動のガイドラインが含まれている。このガイドラインは1972 Convention on the International Regulations for Preventing Collisions at Sea (COLREGS)および Code of Unplanned Encounters at Sea (CUES)に基づいている。今後の米中間交渉では航空機同士、および航空機と艦船が接近した場合の行動規範についても合意することが期待されている。
中国はこのような行動規範について合意することを長年拒んできた。2001年に米国の偵察機と中国の戦闘機が衝突する事件が起こった後も、中国は、そのような合意を結ぶと中国の近辺で活動する米国機の行動を認めることになるという理由で拒んできた。しかし、習近平の下で中国は事故を回避すること、米軍とより協力的な関係を築くことが「新しい大国関係」のために望ましいと考えているという姿勢を見せるようになった。習近平は人民解放軍に米軍と協力するよう説得したのであろう。
今回米中間で合意された信頼醸成措置は積極的な意義があるが、実行されることが重要である。また、現在の合意は履行が任意的となっているが、将来義務的にするべきである。また、履行状況を検討するために定期的に会合を開くことが望まれる。

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