中国
2014.12.09
王教授は、『環球時報』紙(人民日報傘下の通俗紙)の年次会議で、「雨傘革命はジャスミン革命(チュニジアから始まった民主化革命)と言われるが、たいしたことはない。本当に怖いのは周永康や徐才厚のように銃をもった腐敗分子である」と発言した(注 周永康は軍人でないが、公安の元締めであるのでこのように表現されてもおかしくないのであろう)。
これに対して出席していた3人の解放軍将官から激しい反論がなされ、昼食時にも王教授は彼らに取り囲まれた。王教授によると、議論の冒頭に「ジャスミン革命はわれわれからどのくらい遠いか」という短編の映画(ビデオ?)が放映されており、香港の雨傘革命はジャスミン革命の例とみなされていた。
王教授の発言に最初に反論したのは中国国家安全論壇副秘書長の彭光謙であり、「西側の敵対勢力は中国の内部に彼らの意見を代弁する「第五縦隊」を育成しており、ある程度の組織と社会的基礎を形成している。ジャスミン革命は、中国では爆発のきっかけ(引爆点和時機)がないだけである」と言った。また、中国国際戦略学会の高級顧問である王海運少将もそれに同意し、「ジャスミン革命の社会土壌は基本的に出来上がっている。ことが起こっても、政府や共産党を擁護する人は少なく、中国共産党を批判するだろう。このような動きは現在大手を振って前進している。
王教授はまた、「腐敗が共産党を劣化させる(変成「黒党」)。しかし、中国は大きな国なので北アフリカや中東のように簡単には倒れない、西側諸国が逆に自信をなくしている。知識分子を警戒する必要はない。かれらは秀才であり、国家にたいした影響を与えることはない。鍵は、銃をもった腐敗分子であり、それが一番怖い。周永康や徐才厚は「黒色革命」、つまり共産党を赤い党から黒い党に変質させる危険がある」と述べた。
国防大学の前研究所長の楊毅海軍少将は、これに反論して「王教授は党の傘下にある学校の教授でありながら共産党を信用していない。社会主義学院は社会主義を擁護しないか」と批判した。彭光謙は「腐敗に反対することも、ジャスミン革命に反対することもともに必要だ。腐敗に反対するとジャスミン革命を批判したり、それを止めたりすることはできないということではない」とも言った。
王占陽教授と人民解放軍の高級軍人との論争は以上である。議論としては粗い論理であり、説得力はあまりないが、彼らの関心事項が何かを示していることは明らかであろう。この論争にも中国の指導者が体制維持について強い懸念を抱いていることが示されている。
周永康の処分か雨傘革命か
「最近処分された前政治局常務委員の周永康や前中央軍事委員会副主席の徐才厚らによる不正行為と香港の雨傘革命とかけて何と解く」「心は、ともに中国の指導者を恐れさせている」とでも言いたくなるほどこれらの人の処分と雨傘革命は結びつかないが、中央社会主義学院(共産党のみならずいわゆる民主諸党派が参加する趣旨で設立されたので「統一戦線」の学院とみなされている)の王占陽教授と人民解放軍の高級軍人とがこの二つの問題をめぐって激しく論争した。12月8日の香港紙『明報』の報道を以下に紹介する。王教授は、『環球時報』紙(人民日報傘下の通俗紙)の年次会議で、「雨傘革命はジャスミン革命(チュニジアから始まった民主化革命)と言われるが、たいしたことはない。本当に怖いのは周永康や徐才厚のように銃をもった腐敗分子である」と発言した(注 周永康は軍人でないが、公安の元締めであるのでこのように表現されてもおかしくないのであろう)。
これに対して出席していた3人の解放軍将官から激しい反論がなされ、昼食時にも王教授は彼らに取り囲まれた。王教授によると、議論の冒頭に「ジャスミン革命はわれわれからどのくらい遠いか」という短編の映画(ビデオ?)が放映されており、香港の雨傘革命はジャスミン革命の例とみなされていた。
王教授の発言に最初に反論したのは中国国家安全論壇副秘書長の彭光謙であり、「西側の敵対勢力は中国の内部に彼らの意見を代弁する「第五縦隊」を育成しており、ある程度の組織と社会的基礎を形成している。ジャスミン革命は、中国では爆発のきっかけ(引爆点和時機)がないだけである」と言った。また、中国国際戦略学会の高級顧問である王海運少将もそれに同意し、「ジャスミン革命の社会土壌は基本的に出来上がっている。ことが起こっても、政府や共産党を擁護する人は少なく、中国共産党を批判するだろう。このような動きは現在大手を振って前進している。
王教授はまた、「腐敗が共産党を劣化させる(変成「黒党」)。しかし、中国は大きな国なので北アフリカや中東のように簡単には倒れない、西側諸国が逆に自信をなくしている。知識分子を警戒する必要はない。かれらは秀才であり、国家にたいした影響を与えることはない。鍵は、銃をもった腐敗分子であり、それが一番怖い。周永康や徐才厚は「黒色革命」、つまり共産党を赤い党から黒い党に変質させる危険がある」と述べた。
国防大学の前研究所長の楊毅海軍少将は、これに反論して「王教授は党の傘下にある学校の教授でありながら共産党を信用していない。社会主義学院は社会主義を擁護しないか」と批判した。彭光謙は「腐敗に反対することも、ジャスミン革命に反対することもともに必要だ。腐敗に反対するとジャスミン革命を批判したり、それを止めたりすることはできないということではない」とも言った。
王占陽教授と人民解放軍の高級軍人との論争は以上である。議論としては粗い論理であり、説得力はあまりないが、彼らの関心事項が何かを示していることは明らかであろう。この論争にも中国の指導者が体制維持について強い懸念を抱いていることが示されている。
2014.12.08
中国政府は今次決定の前日である12月4日を憲法の日と定めていた。これにタイミングを合わせて処分を決定、発表したのは、現政権が「法治」を重視していることをアピールするのに利用したためであるという見方がある。ただし、「法治」はさる10月の四中全会の中心議題であったので、それをアピールするためであればその時に発表したほうがよかったとも思われるが、その時点では発表の用意ができていなかったのかもしれない。タイミングの点についてはどうも状況がはっきりしない。
それより深刻な問題は、周永康らが厳しく処分されたのは、彼らが問題を起こしたこともさることながら権力闘争の結果であることだ。よく指摘されているのは、周永康が、第18回党大会の開催が間近な時点で失脚した前重慶市長の薄熙来と関係が深かったことであるが、さらに周永康は江沢民の庇護下にあり、同人に対する摘発、処分に江沢民がブレーキをかけていたとも言われていた。そうかもしれない。現時点で客観的に言えることは限られているが、いずれ関連の事実が公になるものと思われる。
周永康に対する処分決定により、反腐敗運動に力を入れてきた習近平政権としてさらに大きな成果を上げたことになる。しかし、「法治」については、中共は四中全会の目玉であるかの如く扱ったが、本当にそれが貫徹されると思うチャイナ・ウォッチャーはまずいないだろう。習近平政権が「憲法の日」を制定して憲法を重視していることをアピールしようとしたとしてもその面で成果があったとは思えない。中国は、司法も含め今後も中国共産党の指導下にある。昨年の春、「七不講」として政府が公式に指示したタブーの一つが、司法の独立について論じることであった。司法についても共産党の指導が優位であることは何も変わっていないのである。
周永康の処分
前政治局常務委員の周永康に対する処分が12月5日の政治局会議で決定され、周永康は党籍を剥奪された。その子分格である国務院国有資産監督管理委員会の蒋潔敏主任(閣僚級)と前中央軍事委員会副主席の徐才厚がやはり党籍剥奪の処分を受けたのは今年の6月30日であったが、その時周永康の処分は発表されず、また10月の四中全会(共産党中央委員会第4回全体会議)でも発表がなかったので、その処分に政治的な圧力がかかっているのではないかと噂されていた経緯がある。中国政府は今次決定の前日である12月4日を憲法の日と定めていた。これにタイミングを合わせて処分を決定、発表したのは、現政権が「法治」を重視していることをアピールするのに利用したためであるという見方がある。ただし、「法治」はさる10月の四中全会の中心議題であったので、それをアピールするためであればその時に発表したほうがよかったとも思われるが、その時点では発表の用意ができていなかったのかもしれない。タイミングの点についてはどうも状況がはっきりしない。
それより深刻な問題は、周永康らが厳しく処分されたのは、彼らが問題を起こしたこともさることながら権力闘争の結果であることだ。よく指摘されているのは、周永康が、第18回党大会の開催が間近な時点で失脚した前重慶市長の薄熙来と関係が深かったことであるが、さらに周永康は江沢民の庇護下にあり、同人に対する摘発、処分に江沢民がブレーキをかけていたとも言われていた。そうかもしれない。現時点で客観的に言えることは限られているが、いずれ関連の事実が公になるものと思われる。
周永康に対する処分決定により、反腐敗運動に力を入れてきた習近平政権としてさらに大きな成果を上げたことになる。しかし、「法治」については、中共は四中全会の目玉であるかの如く扱ったが、本当にそれが貫徹されると思うチャイナ・ウォッチャーはまずいないだろう。習近平政権が「憲法の日」を制定して憲法を重視していることをアピールしようとしたとしてもその面で成果があったとは思えない。中国は、司法も含め今後も中国共産党の指導下にある。昨年の春、「七不講」として政府が公式に指示したタブーの一つが、司法の独立について論じることであった。司法についても共産党の指導が優位であることは何も変わっていないのである。
2014.12.03
今年の香山フォーラムは11月20日から3日間、北京西郊の香山近くの施設で開かれた。ホストはこれまで通り中国軍事科学学会であり、形式的には民間の団体であるが実質的には中国軍の管理下にある。このフォーラムは2006年から2年ごとに開催され、今回は第5回目である。この会議には47カ国が政府代表団を派遣した。
中国からは初めて常万全国防相が出席した。シャングリラ対話では毎回中国の出席者のレベルが主催者を悩ます問題であり、過去には国防相が出たこともあったが、最近は副総参謀長の出席が続いていた。香山フォーラムに今後も中国の国防相が出席することになればシャングリラ対話の方はやや見劣りする恐れもある。もっとも、シャングリラ対話では2014年に安倍首相が、2013年にはベトナムの首相が基調演説をするなど、出席する軍人のレベルだけでは会議の重要性は測れないが、中国のハイレベル軍人を対話に引き出すのがシャングリラ対話の特別の意義であるので、具体的にだれが出てくるか、とくに国防相が出席するかどうかはやはり重要な問題である。
国防相が出席したのは中国の他マレーシア、キルギス、セルビア、シンガポール、タジキスタン、モルディブであり、ミャンマーとカタールからは総参謀長が出席した。その他、ラッド・前豪首相なども顔を見せ、中国側の出席者を合わせると300人を超える大会議となった。
日本には防衛相と統合幕僚長に招待状を送ったが、日本側は結局防衛省防衛研究所の幹部と防衛大教授を出席させた。韓国も同様に国防相は出さず、同省の幹部が出席。米国は駐在武官を派遣した。日本が政府から当局者を1人も出さなかったことは中国メディアの間でも話題になったそうである。
中国軍が対外的に開放的姿勢を取り、このような対話をすることは非常に有意義である。しかも、対話は率直で、突っ込んだ内容にも踏み込んだ。フィリピンの軍高官と中国軍高官がやり合う場面もあった。また、会議場外で日本の記者が、中国が昨年11月に東シナ海上空に一方的に設定した防空識別圏や異常接近事案について尋ねたのに対しても、かなり率直な説明をした。これなどもちょっと考えられないことである。また、今回の会議の主催者は、会議運営で気が付いたことは何でも指摘してほしいと御用聞きをするほどサービス精神が旺盛であった。各国代表団には、その国の言語を話せる中国軍の世話係がぴったりと寄り添い、会場を案内したり、質問に答えたりしていた。食事やお茶も用意され、英語、ロシア語、中国語の同時通訳も完備していたそうである。
今後もこのような会議が開放的、対外協調的に開催され、そのなかで、中国がみずからに批判的なことにも耳を傾け、忍耐強く対応することが望まれる。このような香山対話は、今回中国がモデルとしたシンガポールのシャングリラ対話にも積極的な刺激を与え、両方の対話が刺激し合ってさらに重要性を増すこととなる可能性もある。
日本としてはこのような諸側面の問題に考慮しつつ、米国や韓国などとも足並みをそろえて対応することが必要である。
中国での安全保障対話
中国軍が門戸を開いて外国と安全保障について対話する数少ない機会であった「香山フォーラム」が今年から様相を一変させ、シンガポールで開催されている英戦略研究所主催の「アジア安全保障会議(いわゆるシャングリラ対話)」そっくりの安全保障対話の場となった。これまではシャングリラ対話が中国のハイレベル軍人と対話する唯一の機会であったが、香山フォーラムは今後その強力なライバルとなるどころか、さらに上回る格式の会議に成長することさえあるのかもしれない。今年の香山フォーラムは11月20日から3日間、北京西郊の香山近くの施設で開かれた。ホストはこれまで通り中国軍事科学学会であり、形式的には民間の団体であるが実質的には中国軍の管理下にある。このフォーラムは2006年から2年ごとに開催され、今回は第5回目である。この会議には47カ国が政府代表団を派遣した。
中国からは初めて常万全国防相が出席した。シャングリラ対話では毎回中国の出席者のレベルが主催者を悩ます問題であり、過去には国防相が出たこともあったが、最近は副総参謀長の出席が続いていた。香山フォーラムに今後も中国の国防相が出席することになればシャングリラ対話の方はやや見劣りする恐れもある。もっとも、シャングリラ対話では2014年に安倍首相が、2013年にはベトナムの首相が基調演説をするなど、出席する軍人のレベルだけでは会議の重要性は測れないが、中国のハイレベル軍人を対話に引き出すのがシャングリラ対話の特別の意義であるので、具体的にだれが出てくるか、とくに国防相が出席するかどうかはやはり重要な問題である。
国防相が出席したのは中国の他マレーシア、キルギス、セルビア、シンガポール、タジキスタン、モルディブであり、ミャンマーとカタールからは総参謀長が出席した。その他、ラッド・前豪首相なども顔を見せ、中国側の出席者を合わせると300人を超える大会議となった。
日本には防衛相と統合幕僚長に招待状を送ったが、日本側は結局防衛省防衛研究所の幹部と防衛大教授を出席させた。韓国も同様に国防相は出さず、同省の幹部が出席。米国は駐在武官を派遣した。日本が政府から当局者を1人も出さなかったことは中国メディアの間でも話題になったそうである。
中国軍が対外的に開放的姿勢を取り、このような対話をすることは非常に有意義である。しかも、対話は率直で、突っ込んだ内容にも踏み込んだ。フィリピンの軍高官と中国軍高官がやり合う場面もあった。また、会議場外で日本の記者が、中国が昨年11月に東シナ海上空に一方的に設定した防空識別圏や異常接近事案について尋ねたのに対しても、かなり率直な説明をした。これなどもちょっと考えられないことである。また、今回の会議の主催者は、会議運営で気が付いたことは何でも指摘してほしいと御用聞きをするほどサービス精神が旺盛であった。各国代表団には、その国の言語を話せる中国軍の世話係がぴったりと寄り添い、会場を案内したり、質問に答えたりしていた。食事やお茶も用意され、英語、ロシア語、中国語の同時通訳も完備していたそうである。
今後もこのような会議が開放的、対外協調的に開催され、そのなかで、中国がみずからに批判的なことにも耳を傾け、忍耐強く対応することが望まれる。このような香山対話は、今回中国がモデルとしたシンガポールのシャングリラ対話にも積極的な刺激を与え、両方の対話が刺激し合ってさらに重要性を増すこととなる可能性もある。
日本としてはこのような諸側面の問題に考慮しつつ、米国や韓国などとも足並みをそろえて対応することが必要である。
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