中国
2016.01.09
袁貴仁は、2009年、前教育部長の周済が、あと2年任期が残っていたが突然罷免された後、部長に就任した。周済の罷免の理由についてはさまざまな説があったが、いずれも決定的ではなかった。当時から教育界はスキャンダルと汚職が蔓延しており、ネットへの書き込みも盛んにおこなわれていた。
ニューヨークに本部を置く中国語のテレビ局「新唐人」は「中共の官製メディアは2014年11月から、大学の教師を批判する報道を頻繁に出しています。今回の教育部長の発言は、大学でのある種の政治キャンペーンの始まりかもしれないとの見方も出ています」と報道していた。
一方、人民日報などは1月19日に、党中央弁公庁、国務院弁公室が最近、「各大学の指導部は大胆に管理し処理すべきだ」とする通達を発出していたと報道していた。
2月、中国の深刻な大気汚染問題(PM2.5)を告発するドキュメンタリー映画「穹頂之下(ドームの下)」を国営中国中央テレビ(CCTV)のニュースキャスターだった柴静が100万元(約1,900万円)を投じて自主制作し、インターネット上で公開した。わずか1日で中国本土での再生回数が1億5,500万回を超えるという注目を集めた。
公開後数日で中央の指示により閲覧不能になってしまったが、YouTubeでは全編再生が可能だ。日本語字幕版も公開されている。
2月、中国共産主義青年団(共青団)は「青年インターネット文明志願者」の募集を開始した。彼らには、「社会主義の核心的価値観」をインターネットで伝え、また、問題を発見すれば積極的に報告することが求められている。
この工作は政府によるインターネット妨害である「五毛」と同じだと指摘されている。「青年インターネット文明志願者」は中央によるインターネットの監視・干渉を強化・拡大するものと考えられる。
「志願者」と言っても、共青団の全国の各省市区県単位は、中央からの指示に従い、「志願者数を決める」ことが要求されており、また、志願者数は共青団員総数の20%を下回ってはならないと指示されている。これを見ると、実態は「志願者」ではなく「割り当て」に近いようだ。具体的な目標数は1050万3千人(明報4月7日付)。
7月初め(?)、「中華人民共和国インターネット安全法」の草案が発表された。その目的は「インターネット空間の主権、国家安全、社会の公共の利益を擁護し(維護)、公民、法人およびその他の組織の合法的権益を保護する」ことだ。また、「社会の安全を脅かす突発事件の場合、省級政府は一定地区のインターネット通信を制限できる。違法な情報が流された場合は訂正もできる。違反した者に対しては20万元以下の罰金を科することができる」ことになっている。やはり規制色が強い法案だ。
この法案について意見があれば、8月5日以前に提出することが求められていた。その後の経緯は不明だが、2016年の全人代で採択される可能性がある。
「国家安全法」が採択されたのも7月初めであり、3日に全人代常務委員会で承認された。「新スパイ法」として日本で話題になった法律だ。1993年から施行されていた旧国家安全法は、2014年11月、「反間諜法」が制定されるに伴い廃止されていた。
7月9日以降中国公安当局が、全国で人権派弁護士やその関係者30人以上を拘束したり、連行したりしたことが11日分かった(時事通信7月11日)。
時間は若干さかのぼるが、6月末、創刊から24年、中国改革派の言論のとりでとなってきた雑誌『炎黄春秋』の楊継縄編集長が辞任した。楊継縄が辞任に際し同社幹部らに宛てた手紙では、「当局から海外メディアとの接触を禁じられている。今年掲載した86本の記事のうち、37本は事前検閲を受けるべきだったとする「警告書」を受け取った。また、宣伝部から編集長を辞めるよう圧力を受けた」などと書いたそうだ。この手紙は一部サイトに掲載された。
当面、編集長は杜導正社長が兼務するが、杜導正は90歳を超える高齢であり、実際の仕事は複数の編集者が交代で担う。
9月中旬、『南方都市報』は一面真っ黒の紙面を作った。中央宣伝部の干渉に抗議するためだ。同紙の記者、劉偉は規律検査委員会により調査を受けていた。腐敗など個人的な問題と当局による言論統制とを区別するのは困難だ。
習近平主席の2本の鞭-その2言論統制
2015年1月29日、中国教育部の座談会で袁貴仁教育部長は、「西側社会の価値観を広める教材を大学に入れてはならない。党の指導を誹謗する攻撃は決して許さない。社会主義を黒く塗りつぶす言論を大学に入れてはならない」などと発言した。これには、「そんなことを言えば、中国の大学は全部閉鎖しなければならない」などの反論が起こり、一種の言論戦となった。袁貴仁は、2009年、前教育部長の周済が、あと2年任期が残っていたが突然罷免された後、部長に就任した。周済の罷免の理由についてはさまざまな説があったが、いずれも決定的ではなかった。当時から教育界はスキャンダルと汚職が蔓延しており、ネットへの書き込みも盛んにおこなわれていた。
ニューヨークに本部を置く中国語のテレビ局「新唐人」は「中共の官製メディアは2014年11月から、大学の教師を批判する報道を頻繁に出しています。今回の教育部長の発言は、大学でのある種の政治キャンペーンの始まりかもしれないとの見方も出ています」と報道していた。
一方、人民日報などは1月19日に、党中央弁公庁、国務院弁公室が最近、「各大学の指導部は大胆に管理し処理すべきだ」とする通達を発出していたと報道していた。
2月、中国の深刻な大気汚染問題(PM2.5)を告発するドキュメンタリー映画「穹頂之下(ドームの下)」を国営中国中央テレビ(CCTV)のニュースキャスターだった柴静が100万元(約1,900万円)を投じて自主制作し、インターネット上で公開した。わずか1日で中国本土での再生回数が1億5,500万回を超えるという注目を集めた。
公開後数日で中央の指示により閲覧不能になってしまったが、YouTubeでは全編再生が可能だ。日本語字幕版も公開されている。
2月、中国共産主義青年団(共青団)は「青年インターネット文明志願者」の募集を開始した。彼らには、「社会主義の核心的価値観」をインターネットで伝え、また、問題を発見すれば積極的に報告することが求められている。
この工作は政府によるインターネット妨害である「五毛」と同じだと指摘されている。「青年インターネット文明志願者」は中央によるインターネットの監視・干渉を強化・拡大するものと考えられる。
「志願者」と言っても、共青団の全国の各省市区県単位は、中央からの指示に従い、「志願者数を決める」ことが要求されており、また、志願者数は共青団員総数の20%を下回ってはならないと指示されている。これを見ると、実態は「志願者」ではなく「割り当て」に近いようだ。具体的な目標数は1050万3千人(明報4月7日付)。
7月初め(?)、「中華人民共和国インターネット安全法」の草案が発表された。その目的は「インターネット空間の主権、国家安全、社会の公共の利益を擁護し(維護)、公民、法人およびその他の組織の合法的権益を保護する」ことだ。また、「社会の安全を脅かす突発事件の場合、省級政府は一定地区のインターネット通信を制限できる。違法な情報が流された場合は訂正もできる。違反した者に対しては20万元以下の罰金を科することができる」ことになっている。やはり規制色が強い法案だ。
この法案について意見があれば、8月5日以前に提出することが求められていた。その後の経緯は不明だが、2016年の全人代で採択される可能性がある。
「国家安全法」が採択されたのも7月初めであり、3日に全人代常務委員会で承認された。「新スパイ法」として日本で話題になった法律だ。1993年から施行されていた旧国家安全法は、2014年11月、「反間諜法」が制定されるに伴い廃止されていた。
7月9日以降中国公安当局が、全国で人権派弁護士やその関係者30人以上を拘束したり、連行したりしたことが11日分かった(時事通信7月11日)。
時間は若干さかのぼるが、6月末、創刊から24年、中国改革派の言論のとりでとなってきた雑誌『炎黄春秋』の楊継縄編集長が辞任した。楊継縄が辞任に際し同社幹部らに宛てた手紙では、「当局から海外メディアとの接触を禁じられている。今年掲載した86本の記事のうち、37本は事前検閲を受けるべきだったとする「警告書」を受け取った。また、宣伝部から編集長を辞めるよう圧力を受けた」などと書いたそうだ。この手紙は一部サイトに掲載された。
当面、編集長は杜導正社長が兼務するが、杜導正は90歳を超える高齢であり、実際の仕事は複数の編集者が交代で担う。
9月中旬、『南方都市報』は一面真っ黒の紙面を作った。中央宣伝部の干渉に抗議するためだ。同紙の記者、劉偉は規律検査委員会により調査を受けていた。腐敗など個人的な問題と当局による言論統制とを区別するのは困難だ。
2016.01.06
総統選挙を間近に控えた今、台湾では野党、民進党の蔡英文候補に対する攻撃が南シナ海問題にも及んでいる。
中央社1月5日付は次の趣旨を報道した。
「国民党の立法院国民党議員団の李貴敏、同党総裁候補の朱立倫、選挙対策本部の胡志強らは5日、立法院で記者会見を行い、民進党の蔡英文候補は当選すると南シナ海に対する主権を放棄することを考慮していると言われている、同候補は公の場でその立場を説明すべきだと主張した。
民進党のスポークスマンの邱莉莉(女)はこれに対し、民進党の立場は従来より明確だ、放棄説は国民党が選挙目的で作り出したねつ造に過ぎない、民進党の立場は「南シナ海問題については海洋法と国連海洋法条約の精神に従い、航行の自由を各国が共同で確保し、対話と協議を強化し、緊張を高める行為を控えるべきだ」ということであると反駁した。」
注 国民党は共産党と同様、南シナ海のほぼ全域について領有権を主張し、そのため航行の自由を重視する米国と矛盾が生じ、馬英九総統が太平島を訪問することについて米国からたしなめられた。
民進党にはそのような大国主義的主張がないことを国民党側は逆手に取り、民進党は主権を放棄しようとしていると言って台湾の中国的ナショナリズムに訴えたのであろう。
(短文)台湾民進党の南シナ海に関する立場
台湾の南シナ海に対する政策、と言ってもこれは国民党の政策だが、昨年12月7日の当研究所HPで「(短文)南シナ海に対する台湾の古い政策は見直すべきだ」を掲載した。総統選挙を間近に控えた今、台湾では野党、民進党の蔡英文候補に対する攻撃が南シナ海問題にも及んでいる。
中央社1月5日付は次の趣旨を報道した。
「国民党の立法院国民党議員団の李貴敏、同党総裁候補の朱立倫、選挙対策本部の胡志強らは5日、立法院で記者会見を行い、民進党の蔡英文候補は当選すると南シナ海に対する主権を放棄することを考慮していると言われている、同候補は公の場でその立場を説明すべきだと主張した。
民進党のスポークスマンの邱莉莉(女)はこれに対し、民進党の立場は従来より明確だ、放棄説は国民党が選挙目的で作り出したねつ造に過ぎない、民進党の立場は「南シナ海問題については海洋法と国連海洋法条約の精神に従い、航行の自由を各国が共同で確保し、対話と協議を強化し、緊張を高める行為を控えるべきだ」ということであると反駁した。」
注 国民党は共産党と同様、南シナ海のほぼ全域について領有権を主張し、そのため航行の自由を重視する米国と矛盾が生じ、馬英九総統が太平島を訪問することについて米国からたしなめられた。
民進党にはそのような大国主義的主張がないことを国民党側は逆手に取り、民進党は主権を放棄しようとしていると言って台湾の中国的ナショナリズムに訴えたのであろう。
2016.01.05
まず、腐敗の摘発だが、中央規律検査委員会は相変わらず恐れられている。検査委員が来て面談することは「約談」と言われており、そのリクエストがあるとふるえあがるそうだ。
この委員会の力があまりにも強大になったため、党の指導との関係が不鮮明になり、最近「中国共産党自律準則」と「中国共産党紀律処分条例」なるものが制定された。前者の「自律」とは自ら紀律を正すことである。
さっそく新しく制定された規則の学習が始まった。学習の目的は「高圧線」、すなわち、何が触れてはいけないことかを学習することだと言われている。絶対に危ないことと適当に対応しておけばよいことがあるらしい。この辺りは「法治」にほど遠い。
学習しても、不心得者は後を絶たない。問題を起こして摘発され、自殺に追い込まれる者が続出している。自殺の方法はいろいろであり、高層階からの飛び降り、服毒、列車への投身、水中への身投げなどである。
自殺と言われても、実際には「自殺させられる」こともある。湖北荊州公安県規律検査委員の「謝業新」はわいろを受け取ったことが上級機関によって暴かれ自殺したが、11カ所の刺し傷があったそうだ。それでも警察は自殺と認定した。
全国の統計も時々発表されている。7月7日付の人民網によれば、2015年の1~5月、検察機関が摘発した犯罪数は18512件、24187人であった。課長級(県処級)以上で摘発された者は1891人で昨年の同時期比18・6%増であった。具体的な数字はともかく、昨年より2割近くも多くなっていることが注目される。
習近平政権は過去3年余り、反腐敗運動に力を注いできたが、今でも検挙数は多い。その量は驚くばかりだ。本稿の末尾に具体的な事例を掲げておく。
摘発・訴追された大物、いわゆる「虎」としては、周永康前政治局常務委員、徐才厚および郭伯雄前中央軍事委員会副主席、令計画前党中央弁公庁主任、それに胡錦濤主席時代の末期に逮捕された薄熙来の5名が「副総理級」として挙げられている。
これらの大物の処分はすべて2015年の前半に決定されており、何清漣((元ジャーナリスト。2001年から米国に在住しており、現在はVoice of America の評論員として活発な言論活動を展開している。日本でも中国研究家の間ではよく知られており、同人の『中国の闇: マフィア化する政治』『中国現代化の落とし穴: 噴火口上の中国』などの著書が翻訳出版されている。)は、反腐敗運動は実質的に終了したという趣旨の評論をしていたが(2015年6月14日の当研究所HP「反腐敗運動は竜頭蛇尾となったか‐何清漣の批判」)、大物に関する限り同人の指摘は正しかった。
しかし、反腐敗運動は終了したのではない。とくに注目されるのは、国有企業での汚職摘発と軍内での反腐敗運動である。
年末の12月28日と29日、政治局は「民主生活会」を開催した。これは名称とは裏腹に、批判や自己批判がなされる恐ろしい会議であり、1980年代の半ば、胡耀邦総書記の失脚が確定したのも「民主生活会」であった。
今回の民主生活会ではこの大物5名について、名指しで反面教師だと批判された。この人たちはいずれ裁判で罪状が確定されるだろうが、判決結果がどの程度信頼できるか。中国のこれまでの権力闘争の歴史にかんがみるとどうしても疑問を覚える。負け犬については言いたい放題のようなことがあるからだ。
それはともかく、習近平は「親族や身辺の人たちをよく教育し、厳格に管理・監督し、問題が見つかれば即刻注意し、果断に是正させなければならない」と言っている。5人の大物についてもこのような指摘が当てはまるらしい。米国に拠点がある多維新聞はこれを肯定し、周永康は子、薄熙来は妻、徐才厚は家族がそれぞれ問題を起こしたとし、郭伯雄と令計画については子が有名な「親の威を借りて正業に就かない遊び人(纨绔子弟)」だと指摘している。
このような親族の問題は極端な例なので摘発されたのだろう。国有企業に広くはびこっている腐敗はもっと目立たないよう、尻尾をつかまれないようにしているので始末が悪く、習近平としても手を出せないようだ。鄧小平と陳毅(元老の一人。外相を務めた)の親族が関係していた安邦保険の例(当研究所HP2015年2月3日「反腐敗運動と「紅色家族」」)を参照願いたい。
外国企業もいわゆる「紅二代(革命の功労者の子)」を取り込んで事業を拡大しているが、JPMorgan Chase & Co.の香港法人はそのため当局からにらまれた。
軍内の腐敗もひどいようだ。中央軍事委員会の機関紙『解放軍報』が嘆いている(?)。これについては当研究所2015年12月28日の「(短文)中国軍の規律は低いのではないか‐『解放軍報』などの指摘」」を参照願いたい。
反腐敗運動は軍の改革の一環だが、改革の推進には抵抗があり、目標達成にはまだかなり時間がかかると言われている。今から1年前には軍内の反腐敗運動が本格化していたが、それ以降の進展は不十分であったことがうかがわれる。軍内の反腐敗運動が進まない原因の一つは生活が懸かっているからだと言うが、軍という巨大な組織においては本来の軍務以外の生活があり、それを奪われることに抵抗があるのだろう。
一方、国有企業には多数の指導者やその親族がさまざまな形で関与し、その地位や人的関係(コネ)を使って不当な利益を得ている。こちらも軍に負けず劣らず問題だが、国有企業における腐敗は、違法すれすれのことが多く、対処が困難だ。習近平としても5人の大物以外手が付けられないかもしれない。
以下は、2015年中に摘発された腐敗案件である。報道され、気が付いたものだけであり、漏れている案件もあると思われる。これで国家がやっていけるのか。
(政府関係)
国家発展改革員会社会発展司の司長王威、副司長任偉
国家体育総局副局長肖天
外交部元部長助理劉建超
民用航空管局局長助理劉德華
国家旅游局元副局长
環境保護部元副部長、党组組員張力軍
中国人民大学元校長紀宝成
国家行政管理学院的常務副院長何家成
元全国政治協商会議副主席蘇栄
(国有企業関係)
安邦保险
中国電信集団党書記兼会長常小兵
農業銀行頭取張雲
全国工商連合会副主席・元中国民生銀行会長董文標
首都飛行場株式会社総経理史博利
中国証券監督管理委員会主席助理張育軍
中信証券(CITIC)会長王東明
華潤集団前会長宋林
中国第一汽車集団公司元党書記・会長徐建一
騰訊前執行委員(高管)・現阿里巴巴副総裁劉春寧
東方演芸集団会長兼総経理顧欣戴
シーメンス公司
中国石油化工集団公司(SINOPEC)総経理王天普
中国石油天然気集団(CNPC)総経理廖永遠
大智慧股份有限公司・大連萬達集團会長王健林(中国一の長者)
宝鋼集团有限公司副総経理崔健
広厦集团名誉会長楼忠福
中国電力国際主席李小琳
京西賓館総経理劉存水
(地方 省名と問題視されている人物の名前だけ。肩書は省市のトップかナンバー2くらいであった者が多い)
河北省 周本顺(周永康の部下であった)
河北省 景春華
福建省 蘇樹林 徐鋼
広州軍区 王玉発
江蘇省 趙少麟 程维高
甘粛省 陸武成
雲南昆明市 高勁松
天津市 武長順 戴相龍
南京市 王德宝
内蒙古自治区 趙黎平
山西省 劉向东
安徽省 倪発科
浙江省 斯鑫良
山东省枣庄市 陳偉
陕西 閻慶文
以上のほか、最高人民法院元副院長・党组成员の奚暁明など司法関係者も摘発された。
習近平主席の2本の鞭-その1反腐敗運動
腐敗の摘発と言論統制の2本の鞭は2015年中も容赦なく振るわれた。まず、腐敗の摘発だが、中央規律検査委員会は相変わらず恐れられている。検査委員が来て面談することは「約談」と言われており、そのリクエストがあるとふるえあがるそうだ。
この委員会の力があまりにも強大になったため、党の指導との関係が不鮮明になり、最近「中国共産党自律準則」と「中国共産党紀律処分条例」なるものが制定された。前者の「自律」とは自ら紀律を正すことである。
さっそく新しく制定された規則の学習が始まった。学習の目的は「高圧線」、すなわち、何が触れてはいけないことかを学習することだと言われている。絶対に危ないことと適当に対応しておけばよいことがあるらしい。この辺りは「法治」にほど遠い。
学習しても、不心得者は後を絶たない。問題を起こして摘発され、自殺に追い込まれる者が続出している。自殺の方法はいろいろであり、高層階からの飛び降り、服毒、列車への投身、水中への身投げなどである。
自殺と言われても、実際には「自殺させられる」こともある。湖北荊州公安県規律検査委員の「謝業新」はわいろを受け取ったことが上級機関によって暴かれ自殺したが、11カ所の刺し傷があったそうだ。それでも警察は自殺と認定した。
全国の統計も時々発表されている。7月7日付の人民網によれば、2015年の1~5月、検察機関が摘発した犯罪数は18512件、24187人であった。課長級(県処級)以上で摘発された者は1891人で昨年の同時期比18・6%増であった。具体的な数字はともかく、昨年より2割近くも多くなっていることが注目される。
習近平政権は過去3年余り、反腐敗運動に力を注いできたが、今でも検挙数は多い。その量は驚くばかりだ。本稿の末尾に具体的な事例を掲げておく。
摘発・訴追された大物、いわゆる「虎」としては、周永康前政治局常務委員、徐才厚および郭伯雄前中央軍事委員会副主席、令計画前党中央弁公庁主任、それに胡錦濤主席時代の末期に逮捕された薄熙来の5名が「副総理級」として挙げられている。
これらの大物の処分はすべて2015年の前半に決定されており、何清漣((元ジャーナリスト。2001年から米国に在住しており、現在はVoice of America の評論員として活発な言論活動を展開している。日本でも中国研究家の間ではよく知られており、同人の『中国の闇: マフィア化する政治』『中国現代化の落とし穴: 噴火口上の中国』などの著書が翻訳出版されている。)は、反腐敗運動は実質的に終了したという趣旨の評論をしていたが(2015年6月14日の当研究所HP「反腐敗運動は竜頭蛇尾となったか‐何清漣の批判」)、大物に関する限り同人の指摘は正しかった。
しかし、反腐敗運動は終了したのではない。とくに注目されるのは、国有企業での汚職摘発と軍内での反腐敗運動である。
年末の12月28日と29日、政治局は「民主生活会」を開催した。これは名称とは裏腹に、批判や自己批判がなされる恐ろしい会議であり、1980年代の半ば、胡耀邦総書記の失脚が確定したのも「民主生活会」であった。
今回の民主生活会ではこの大物5名について、名指しで反面教師だと批判された。この人たちはいずれ裁判で罪状が確定されるだろうが、判決結果がどの程度信頼できるか。中国のこれまでの権力闘争の歴史にかんがみるとどうしても疑問を覚える。負け犬については言いたい放題のようなことがあるからだ。
それはともかく、習近平は「親族や身辺の人たちをよく教育し、厳格に管理・監督し、問題が見つかれば即刻注意し、果断に是正させなければならない」と言っている。5人の大物についてもこのような指摘が当てはまるらしい。米国に拠点がある多維新聞はこれを肯定し、周永康は子、薄熙来は妻、徐才厚は家族がそれぞれ問題を起こしたとし、郭伯雄と令計画については子が有名な「親の威を借りて正業に就かない遊び人(纨绔子弟)」だと指摘している。
このような親族の問題は極端な例なので摘発されたのだろう。国有企業に広くはびこっている腐敗はもっと目立たないよう、尻尾をつかまれないようにしているので始末が悪く、習近平としても手を出せないようだ。鄧小平と陳毅(元老の一人。外相を務めた)の親族が関係していた安邦保険の例(当研究所HP2015年2月3日「反腐敗運動と「紅色家族」」)を参照願いたい。
外国企業もいわゆる「紅二代(革命の功労者の子)」を取り込んで事業を拡大しているが、JPMorgan Chase & Co.の香港法人はそのため当局からにらまれた。
軍内の腐敗もひどいようだ。中央軍事委員会の機関紙『解放軍報』が嘆いている(?)。これについては当研究所2015年12月28日の「(短文)中国軍の規律は低いのではないか‐『解放軍報』などの指摘」」を参照願いたい。
反腐敗運動は軍の改革の一環だが、改革の推進には抵抗があり、目標達成にはまだかなり時間がかかると言われている。今から1年前には軍内の反腐敗運動が本格化していたが、それ以降の進展は不十分であったことがうかがわれる。軍内の反腐敗運動が進まない原因の一つは生活が懸かっているからだと言うが、軍という巨大な組織においては本来の軍務以外の生活があり、それを奪われることに抵抗があるのだろう。
一方、国有企業には多数の指導者やその親族がさまざまな形で関与し、その地位や人的関係(コネ)を使って不当な利益を得ている。こちらも軍に負けず劣らず問題だが、国有企業における腐敗は、違法すれすれのことが多く、対処が困難だ。習近平としても5人の大物以外手が付けられないかもしれない。
以下は、2015年中に摘発された腐敗案件である。報道され、気が付いたものだけであり、漏れている案件もあると思われる。これで国家がやっていけるのか。
(政府関係)
国家発展改革員会社会発展司の司長王威、副司長任偉
国家体育総局副局長肖天
外交部元部長助理劉建超
民用航空管局局長助理劉德華
国家旅游局元副局长
環境保護部元副部長、党组組員張力軍
中国人民大学元校長紀宝成
国家行政管理学院的常務副院長何家成
元全国政治協商会議副主席蘇栄
(国有企業関係)
安邦保险
中国電信集団党書記兼会長常小兵
農業銀行頭取張雲
全国工商連合会副主席・元中国民生銀行会長董文標
首都飛行場株式会社総経理史博利
中国証券監督管理委員会主席助理張育軍
中信証券(CITIC)会長王東明
華潤集団前会長宋林
中国第一汽車集団公司元党書記・会長徐建一
騰訊前執行委員(高管)・現阿里巴巴副総裁劉春寧
東方演芸集団会長兼総経理顧欣戴
シーメンス公司
中国石油化工集団公司(SINOPEC)総経理王天普
中国石油天然気集団(CNPC)総経理廖永遠
大智慧股份有限公司・大連萬達集團会長王健林(中国一の長者)
宝鋼集团有限公司副総経理崔健
広厦集团名誉会長楼忠福
中国電力国際主席李小琳
京西賓館総経理劉存水
(地方 省名と問題視されている人物の名前だけ。肩書は省市のトップかナンバー2くらいであった者が多い)
河北省 周本顺(周永康の部下であった)
河北省 景春華
福建省 蘇樹林 徐鋼
広州軍区 王玉発
江蘇省 趙少麟 程维高
甘粛省 陸武成
雲南昆明市 高勁松
天津市 武長順 戴相龍
南京市 王德宝
内蒙古自治区 趙黎平
山西省 劉向东
安徽省 倪発科
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以上のほか、最高人民法院元副院長・党组成员の奚暁明など司法関係者も摘発された。
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