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2019.04.03

イタリアの「一帯一路」への参加と中国・EU関係の深化

 イタリアは、一方で欧州委から厳しい財政政策の実行を求められながら、中国の「一帯一路」に参加することにより、巨額の公共投資を国債の追加発行をしないで実施できることになった。
 中国が「一帯一路」戦略でギリシャに進出し、また中東欧諸国への投資を始めた結果、EU内では足並みの乱れが生じつつある。今回の、イタリアによる「一帯一路」に参加は一段と強いインパクトとなり、「中国は欧州を分断している」との懸念が高まった。
 マクロン大統領とメルケル首相はEU統合の2大プロモーター兼守護神である独仏両国の指導者としての矜持を示した。しかし、両国とも経済的な利益を確保することは怠らなかった。
 中国の進出によりEUはこれまでにない経験をしつつある。EUはむき出しのパワーが出がちの米国とは一味も二味も違った存在であり、日本が中国との関係を深めていくうえでも重要なパートナーとなるであろう。

(説明)
 習近平中国主席は3月末、イタリアとフランスを訪問した。イタリアは3月23日、中国が提唱する「一帯一路」に関する覚書に署名した。これによって両国は約30の分野で経済協力を行うことになった。実質的には中国による投資に関する合意であり、イタリアは約70億ユーロ(約8700億円)に上る資金を得たのに均しい。
 習近平主席はその後フランスを訪問し、25日、マクロン大統領との間で総額400億ユーロ(約5兆円)超の契約に合意し、中国が欧州エアバスから航空機300機を購入することなどが決まった。これは「一帯一路」とは関係のない契約とされている。

 イタリアでは2018年6月、EUに懐疑的な連立政権が発足した。この政権は長年続いている財政赤字にもかかわらず、失業者などに一定額を支給する「最低所得保障」など巨額の財源が必要な政策を掲げている。しかし、イタリアの政府債務は国内総生産(GDP)比約130%に達しており、ユーロ圏では財政危機に見舞われたギリシャに次いで高くなっている。イタリアの財政はさらに悪くなるとの懸念から国債は売られ、10年物国債の流通利回りは上昇(価格は下落)している。

E Uの欧州委員会はイタリアの財政政策に批判的であり、イタリア政府がEUに提出した2019年予算案では財政赤字が2・4%となっていたのに対し引き下げを求めた。
これに対しコンテ伊首相は、欧州委はイタリア経済の力を過小評価していると抵抗していたが、年末には、2019年の歳出を約40億ユーロ(約5100億円)圧縮し、財政赤字目標を当初の国内総生産(GDP)比2.04%に引き下げる修正をしたので、欧州委による制裁は回避できた。

 そんななか、イタリアは巨額の投資を中国から受けることになった。多くはインフラ建設に向けられ、西バルカン地域との窓口にあるトリエステ港、地中海の重要拠点であるジェノバ港などが含まれている。
 中国はさらにシチリアでの協力事業も考慮していると言われている。中国はギリシャですでにピレウス港の管理権を獲得し、またスペインではバレンシア港に参入している。これらに加えてイタリアの重要港湾にも参入することになった意義は大きい。

 イタリアとしては、一方で欧州委から厳しい財政政策の実行を求められながら、中国の「一帯一路」に参加することにより、巨額の公共投資を国債の追加発行をしないで実施できることになったわけであるが、EU内では、そのような方策は健全か、さらなる疑念が起こっている。

 イタリアは主要7カ国(G7)のメンバーとしては、「一帯一路」への支持を表明した初めての国となったのであり、ギリシャとは重みが違う。欧州委がEU内への波及を警戒するのはもっともである。

 これまでEUは、世界貿易機関(WTO)に加盟し、市場経済化を始めた中国との関係促進を重視してきた。低成長の欧州経済にとって高成長を続ける中国経済は大きなメリットがあり、中国との貿易額は顕著に増加した。一方、中国の市場経済化が進んでいないことや人権問題についてEUは批判的であった。

 ドイツのメルケル首相は中国との関係強化を先頭に立って進めてきた。2005年末に首相に就任して以来2018年5月に訪中するまでの約12年間に11回訪中している(中新網5月24日)。ほぼ毎年の訪中である。

 ドイツの経済界は中国が改革開放に転じてからいち早く強い関心をしめし、自動車関係ではフォルクスワーゲンが世界で初めて上海で合弁企業を立ち上げた。現在、中国には5千を超える数のドイツ企業が進出しており、ドイツにとって中国は2016年から第1の貿易相手国となっている。
 
 メルケル首相は人権問題にも強い関心を示している。2018年の訪中の際には、ノーベル平和賞を受賞した中国の民主活動家、故劉暁波(りゅう・ぎょうは)の妻で長年軟禁されていた劉霞(りゅう・か)のドイツへの出国を認めるよう李克強首相に働きかけ、了承を取り付けたという。その後、劉霞は実際にドイツに向けて中国を出国している。異例の頻度で中国を訪問しながら、中国がもっとも嫌う人権問題については話題に取り上げ圧力を加えることを辞さないメルケル首相はしたたかである。

 中国と欧州諸国との経済関係が深化するに伴い、双方の利益が調和しない問題も発生した。一つのきっかけは、2016年5月に公表されたドイツのロボット・メーカー、クーカ(KUKA)の中国による買収計画であり、ドイツ政府は経済安全保障上の理由から阻止しようとしたが、ドイツ企業が両国間の経済関係への悪影響を恐れたこともあり、買収を阻止することはできなかった。

 この件はEUの中国に対する警戒心を呼び起こしたと言われている。そして、中国が「一帯一路」戦略で、ギリシャに進出し、また中東欧諸国への投資が向かうようになると、EUでは中国に対する足並みの乱れに懸念が生じた。今回の、イタリアによる「一帯一路」に参加は一段と強いインパクトとなり、「中国は欧州を分断している」と公言するようになったのである。

 イタリアの財政赤字と中国の「一帯一路」による巨額投資については前述したが、欧州委にとってイタリアの行動はEUの一体性の観点からも問題である。英国がEUを離脱することとなり、またオランダなどでもEUからの離脱を求める声がジワリと増えている。欧州全体を見れば、EU離脱の動きが強まっているとはまだ言えないだろうが、中国との関係で意見を異にする国が出てきているのは紛れもない事実である。ハンガリーなどは、EUが中国の嫌がることを表明することに反対している。東南アジアの一部で起こっていることと同様の問題が進行しているのである。

 マクロン大統領は習近平主席との会談にメルケル首相とユンカー欧州委員会委員長を同席させた。EUとしての一体性を強調するためである。会談の席でメルケル首相は「我々ヨーロッパは「一帯一路」に積極的に役割を果たしたいと考えている。そのためには相互に努力しなければならない。我々はその点でまだすこし議論している」と発言した。ある程度外交用語で包まれた発言だが、明らかに警鐘である。

 マクロン大統領はメルケル首相以上に率直な発言をした。習主席との二者会談で、「WTO改革を急ぎ、透明性、供給過剰、国家補助、紛争処理などの諸問題を解決しなければならない」と注文を付けている。供給過剰は、たとえば鉄鋼については、価格面で有利な中国企業が市場を席巻し、日本を含む欧米企業の製品が売れなくなっていることである。国家補助は中国の国有企業による国家資本主義の問題である。紛争処理は、WTOの規則では中国問題に対応できず改革が必要と認識されている問題である。いずれについてもEU企業は日米などと同様の立場にあり、不満を募らせている。

 さらにマクロン大統領は、中国の人権問題を取り上げ、フランスは今後も関心を持ち続けると述べ、最近中国政府の姿勢が問われている新疆自治区のウイグル人の扱いにも言及した(THE DIPLOMAT, March 27, 2019)。

 マクロン大統領とメルケル首相は習近平主席に対して注文を付け、EU統合の2大プロモーター兼守護神である独仏両国の指導者としての矜持を示した。しかし、両国とも経済的な利益を確保することは怠らなかった。フランスは今回、中国と総額約400億ユーロ(約5兆円)の商談をまとめた。イタリアと違って、フランスは「一帯一路」に参加しなかったが、イタリアの得たよりも16倍もの巨額の契約を結んだのである。この中にはフランスだけでなく、EU4カ国が参加するエアバスからの航空機購入分が含まれており、それを差し引いても、フランスはイタリアの4倍に相当する100ユーロの契約を得たのである。

 これには欧州のメディアのなかにも「不可解」と評する向きが出てきている。マクロン大統領とメルケル首相が中国に対しずけずけと注文を付けながら、他方では経済的利益をちゃっかりと確保しているのは、ヨーロッパの観点からしても腑に落ちないところがあるらしい。

 ともかく、中国は小うるさいEUに対して、札束を大量に用意して乗り込んできたのであり、その結果、EUにとってはこれまで経験したことのない影響が生じている。今後、EUはメルケル首相が言うように議論を重ね、EUとしての一体性を確保しつつ、中国と向き合っていくのだろう。EUはむき出しのパワーが出がちの米国とは一味も二味も違った存在であり、日本が中国との関係を深めていくうえでも重要なパートナーとなるであろう。

2019.03.29

ゴラン高原の主権問題に関し日本は国連決議の尊重を主張すべきである

 トランプ米大統領は3月25日、イスラエルが占領しているゴラン高原に対するイスラエルの主権を承認する文書に署名した。
 
 菅義偉官房長官は26日午前の記者会見で「我が国はイスラエルによるゴラン高原の併合を認めない立場であり、また変更もない」と述べた。日本だけの立場に限った表明にしたのであるが、それだけでは国際社会の重要な一員としては不十分であり、日本は国連で決定されたことを尊重すべきであると表明すべきであった。

(説明)
 ゴラン高原は、1967年の第三次中東戦争においてイスラエルが占領した時点から説明されることが多い。長く複雑な中東戦争の歴史を最初から説明するわけにはいかないからだ。しかし、ゴラン高原の主権については1967年以前の経緯が関係している。

 シリアとイスラエルが独立する以前、ゴラン高原はフランスの殖民地の一部となっていた。シリアは第二次大戦後の1946年、フランスより独立し、フランスの殖民地をそのまま領土とした。

 1948年、イスラエルが独立し、周辺のアラブ諸国との戦争が起こった。第1次中東戦争である。この時ゴラン高原の地位は変化がなく、シリアが引き続き統治した。

 1967年の第3次中東戦争からイスラエルによるゴラン高原の占領が始まった。

 1973年の第四次中東戦争でシリアが一時的に奪還したが、その後すぐにイスラエルに再占領され、今日までその状態が続いている。

 国連安保理は、1967年のイスラエルによるゴラン高原の占領を認めず、撤退を求めた(決議242)。同決議はシリアの主権を明言せず、「すべての国の主権と領土保全の尊重」を謳っただけであったが、イスラエルに撤退を求めたので、アラブ諸国はシリアの主権が認められたのと同然とみなしたのであろう。決議は全会一致で採択された。この決議は中東問題に関するもっとも基本的な決議の一つとしてその後の決議で引用されている。

 米国もこの決議に賛成したが、1975年、「米国はゴラン高原の領土問題について最終的立場を決定していないが、イスラエルの主張を重視する(give great weight to Israel’s position)との立場を表明した。
 一方、国連は、1974年にシリアとイスラエルが兵力引き離し協定に合意したのを受け、停戦監視と両軍の兵力引き離し状況を監視する国連兵力引き離し監視隊(UNDOF)を設立した。ゴラン高原の大部分はイスラエルが引き続き占領し、シリアとの間の北から南に延びる地帯は両軍とも兵力を置かないことになり、その状況をUNDOFが監視することとなった。これは国連平和維持活動の一環となっており、日本も1996年から2013年まで参加し自衛隊の部隊を派遣した。

 イスラエルは国連でのこのような動きを無視して1981年、ゴラン高原を併合する法律を制定した。安保理はこれについて「無効で国際的な法的効力を持たない」と指摘した(決議497)。

 日本は同年12月15日、外務大臣談話として、次の表明を行った。
1. イスラエル議会は,14日ゴラン高原を併合する法案を可決したが,1980年7月の東ジェルサレム併合に引続き,占領地の法的地位の一方的変更を行うこのような行為は,国際法及び国連安保理決議242及び338に違反するものであり,我が国としては容認することができない。
2. 日本国政府は,このような措置が話し合いによる中東和平問題解決の雰囲気を悪化させ,域内の緊張を更に高めることを深く憂慮する。
3. この際日本国政府は,イスラエルが一日も早く,67年戦争の全占領地から撤退することを改めて強く要請する。

 今回、河野太郎外相は、米国によるイスラエルのゴラン高原に対する主権の承認は1981年の国連安全保障理事会決議に反するかどうか会見で問われ、「日本が説明するべきものでない」と明言を避けた。トランプ政権の一方的な行動に国際社会から批判が相次ぐ中、米国に配慮を示したのだが、国連の決議は尊重すべきであるということも言えず、米国を刺激しないよう汲々としているだけでは日本の責務を果たしたことにならない。

 なお、米国はかねてから第三国間の領土紛争に関与しないとの立場を取ってきたが、その点でもトランプ政権のイスラエル寄りの姿勢は問題である。日本についても将来影響がありうる。
2019.03.26

日朝首脳会談の可能性

 安倍晋三首相は4月末に訪米し、トランプ大統領と首脳会談を行う方向で調整中である。トランプ大統領は5月末(おそらく26日)新天皇即位後初の国賓として来日する。そして6月に大阪で開催される20カ国・地域(G20)首脳会議に出席のため再度来日する可能性が高い。トランプ大統領が立て続けに来日するのに先立って、安倍首相が米国を訪問することとしたのはどういう理由からか。対米配慮の気持ちが強いことはうかがわれるが、それだけであってはならない。このような姿勢で外交はうまくいくのか、危うさを覚える。

 2回目の米朝首脳会談が失敗に終わり日朝関係の動向に関心が集まる中で行われる安倍首相の訪米では日米両国の北朝鮮との関係が主要な議題の一つとなるだろう。

 あらためて過去1年間の安倍首相の北朝鮮に対する姿勢と金正恩委員長の対日関係発言を振り返りつつ、日朝首脳会談が実現する可能性を検討してみたい。

〇安倍首相はかねてから、主要国の中で北朝鮮に対する「圧力」の継続を最も強硬に主張してきたが、初の米朝首脳会談が実現する公算が高くなるにつれ、「相互不信の殻を破り、金正恩氏と直接向き合う用意がある」と積極的な姿勢を見せるようになった。

 一方、金正恩委員長も、トランプ大統領とのシンガポール会談で「安倍晋三首相と会う可能性がある。オープンだ」と述べた。

 安倍首相は、米朝首脳会談直後の6月18日、参院決算委員会で「金委員長には米朝首脳会談を実践した指導力がある。日朝でも新たなスタートを切り、拉致問題について互いの相互不信という殻を破って一歩踏み出したい。そして解決したい。最後は私自身が金委員長と向き合い、日朝首脳会談を行わなければならない」と強調した。

 さらに安倍首相は9月25日の国連総会演説で、あらためて「拉致問題を解決するため、私も北朝鮮との相互不信の殻を破り、新たなスタートを切って金正恩委員長と直接向き合う用意があります」と述べた。世界に向かって金委員長との会談に前向きな姿勢を示したのであった。

 しかし、日朝関係は期待通り前進しなかった。10月には日本の情報当局のトップ格である北村滋内閣情報官がウランバートルで北朝鮮の金聖恵(キム・ソンヘ)統一戦線部室長と接触しようとした。この試みについては、金室長は現れず接触は不発となったとの報道(中央日報11月15日)と、後に実現したとの報道があり真相は不明であるが、いずれであってもこの試みから日朝関係が前進した形跡はなかった。

 この出来事と前後して、日本側は北朝鮮による制裁違反行為を問題視し、在韓米軍の縮小・撤退に反対する姿勢を表明した。また米朝会談後も拉致問題の解決を重視しているとの発言を行った。さらに、米朝交渉が進展しても拉致問題が未解決である限り北朝鮮支援に参加しない姿勢を示したと報道された。一部は未確認であったが、北朝鮮側には伝わっただろう。

 北朝鮮側はいら立ちを示した。たとえば、3月8日付の『労働新聞』は、安倍首相がトランプ大統領に拉致問題解決に協力を求めたことに不満を示しつつ、「日本を相手にして少しも得るものがない」と書き立てた。

 時間的には前後するが、昨年10月、「北朝鮮の金正恩委員長は、日本との直接交渉を促すトランプ米大統領や韓国の文在寅大統領らに対し、拉致被害者の横田めぐみさんの家族同士の面会を認めたことなども挙げ、日本には「多くの譲歩」をしていると主張し、交渉停滞の責任は日本側にあると反論した」という情報もあった。これはほんとうであれば、意味深長である。後でなぜかを説明する。

〇米朝第2回首脳会談が失敗に終わった後、安倍首相と金正恩委員長の会談が実現する可能性は大きくなったか。米朝関係が進まなくなると北朝鮮は韓国や日本との関係改善に積極的になるという見方があるが、かつてそういうことがあったというだけでは大した根拠にならない。

 日本政府は昨年来の安倍首相の積極的発言に加えて追加メッセージを北朝鮮に送った。これまで毎年、国連人権理事会に北朝鮮の人権侵害に対する非難決議案をEUと共同で提出していたが、2019年は共同提案国にならないこととしたのである。
しかし、この決定は、率直に言って分かりにくいし、パンチ力がなかった。そもそも北朝鮮における人権状況には変化がなく、拉致問題は進展していないのに、日本が人権理事会での姿勢を変更するのは理解困難だからである。

 しかも日本政府は、この決議案の共同提案国にならないこととする一方で、北朝鮮に対する日本独自の制裁は維持している。そのことも勘案すると日本政府の考えはますますわからなくなる。日朝首脳会談を実現するための布石として人権理事会での姿勢を変えたのであれば、あまりにも中途半端であったと言わざるを得ない。

 そもそも北朝鮮は安倍首相に対し、「北朝鮮の脅威をことさらに強調しつつ、国際社会が圧力を維持すべきだと主張している」という認識である。
トランプ大統領に対しては、「米国が北朝鮮にとって最大の脅威であることに変わりはないが、トランプ大統領は金正恩委員長を有能な人物とみなし、また、好感を抱いている」という認識であろう。
 安倍首相も「金委員長には米朝首脳会談を実践した指導力がある」と積極的な評価をしたことは前述したが、トランプ氏独特の、金委員長に対するベタベタの甘言とは比較にならないほど冷静である。トランプ氏は、ごく最近、米国政府が発表した北朝鮮に関する追加制裁措置についても、「撤回するよう命じ」るなど再び金委員長にエールを送っている。

 そして日本にとっては何よりも大きな拉致問題がある。この問題はもちろん北朝鮮が起こしたことであり、責任がある。しかし、この問題の解決に向けて前進できない原因は日本側にあると北朝鮮は見ており、それに日本政府は反論できない。

 金正恩委員長の「日本には多くの譲歩をした」という情報の真偽は未確認であるが、2014年にストックホルムで拉致問題などの特別調査に応じたのはほかならぬ金委員長の指示であった。つまり、金委員長は拉致問題の解決に努力した可能性があるのだ。
 
 北朝鮮で、再調査するということは金正日総書記が行ったことにチャレンジすることになる。金正恩委員長はそれでもあらためて調査を行った。同委員長の不満は、このような努力に対して日本側は何ら報いていないという点にあるのではないか。これが金委員長の誤解なら、安倍首相はそれを解く必要がある。日朝首脳会談を実現するにはこの問題は避けて通れない。

 また、安倍首相は日本国民に対しても、2014年に行った特別調査の結果報告で北朝鮮側は何と説明したか、また、金委員長がこの問題についてトランプ大統領に対して何と説明したか(安倍氏はトランプ氏から聞いて)説明する義務がある。拉致問題を進めるためにはこれらを伏せたままにしておくことはできないはずである。
 

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