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2019.04.11
EU・中国首脳会議は毎年開催されているが、今年は、中国の進出により欧州が分断されつつあるとEU側が神経をとがらせる中で行われただけに注目されていた。
EUと中国との間のイシューは日本と中国との間でもほぼ同じであり、今次首脳会議の結果は日本にとっても参考となる。日中間では政治状況によって首脳会議が開かれたり、取り消されたりするが、EUは28カ国からなるので中国との関係はさほど変動しない。日本はEUを通じて中国に働きかけることが可能であり、したがって、日本とEUの定期首脳会議は日中関係の観点からも有益である。
なお、EUは今回の首脳会議に臨むにあたって3月12日付で、今後の対中政策の基本となる”EU-China – A strategic outlook”という戦略文書を採択しており、EUとしてはこの文書に基づいて今次首脳会議を行った。
以下は同日付のEURACTIVの報道である。
〇EU側は首脳会議前日になっても共同声明案に合意していなかった。ほとんどすべてのEU加盟国が反対しており、EUとしては共同声明が出せなく打ても仕方がないと考えていた。
しかし、中国側は共同声明の発出にこだわり、その日の夕刻に修正案を提示してきたのでようやく合意が成立した。
〇2大イシューの一つである、中国が外資企業に対し技術移転を義務付けていることについては、中国側をはじめてそのようなことがあることを公式に認めた。合意された文言は、「技術移転を強制してはならないことに合意した“both sides agree that there should not be forced transfer of technology”」であった。中国側は一定程度譲歩したが、EU側には、合意だけでは不十分であり、担保するメカニズムがないという者もいる。
〇もう一つの大問題である市場アクセスについては、「中国市場における障壁を除去するため、2020年の首脳会議までに、より透明性のあるプロセスにすべきである」とされた。
〇投資についても来年の首脳会議までに包括的な投資協定を締結することが合意された。この問題は長年議論されてきたことであり、中国は今回の首脳会議に臨むにあたって期限を設定することに難色を示していた。
〇補助金については、李克強首相は「競争的分野(補助金のない分野?)では公正な競争を支持する。また、補助金が問題になる分野では、レイオフ状態の労働者および農業を含め、EUとWTOの枠内で協力する」と述べた。最後に、「産業補助金(industrial subsidies)についてはWTOの改革に関するEU・中国作業部会での検討を踏まえ国際的なルールを強化するために議論を加速する」ことが合意された。
〇ルールに従った国際的システム(rules-based international system 南シナ海での国際法順守問題など)については、中国側とEU側の立場の乖離は完全には解消されなかったが、「国連を中心に、国際関係に関する国際法と基本的な規範を尊重する」ことで合意が成立した。
(注 前述の戦略文書(EU-China – A strategic outlook)では、
China’s maritime claims in the South China Sea and the refusal to accept the binding arbitration rulings issued under the United Nations Convention on the Law of the Sea affect the international legal order and make it harder to resolve tensions affecting sea.
と直接的に中国の国際法違反、国際仲裁判決の無視を批判していた。)
〇5G、Huawei問題を含むサイバー犯罪については、首脳会議に先立ってEU各国が懸念を表明していたが、実際にはあまり議論されなかったようだ。ユンカー委員長はこの問題について、「詳しい議論は行われなかった」とコメントした。李克強首相は、「推定無罪の原則が守られるべきである。5Gに関係している中国企業でスパイ行為を問われているところはない」と述べた。
〇人権擁護については、普遍的、不可分で、相互依存的であることが確認され、今後、2国間あるいは国連において議論を継続していくという一般的な合意に終わった。
EU・中国首脳会議
4月9日、ブラッセルでEU-中国首脳会議が開催され、EUからユンカー欧州委員会委員長およびトゥスク欧州理事会議長、中国から李克強首相等が出席し、会議後に共同声明が発表された。EU・中国首脳会議は毎年開催されているが、今年は、中国の進出により欧州が分断されつつあるとEU側が神経をとがらせる中で行われただけに注目されていた。
EUと中国との間のイシューは日本と中国との間でもほぼ同じであり、今次首脳会議の結果は日本にとっても参考となる。日中間では政治状況によって首脳会議が開かれたり、取り消されたりするが、EUは28カ国からなるので中国との関係はさほど変動しない。日本はEUを通じて中国に働きかけることが可能であり、したがって、日本とEUの定期首脳会議は日中関係の観点からも有益である。
なお、EUは今回の首脳会議に臨むにあたって3月12日付で、今後の対中政策の基本となる”EU-China – A strategic outlook”という戦略文書を採択しており、EUとしてはこの文書に基づいて今次首脳会議を行った。
以下は同日付のEURACTIVの報道である。
〇EU側は首脳会議前日になっても共同声明案に合意していなかった。ほとんどすべてのEU加盟国が反対しており、EUとしては共同声明が出せなく打ても仕方がないと考えていた。
しかし、中国側は共同声明の発出にこだわり、その日の夕刻に修正案を提示してきたのでようやく合意が成立した。
〇2大イシューの一つである、中国が外資企業に対し技術移転を義務付けていることについては、中国側をはじめてそのようなことがあることを公式に認めた。合意された文言は、「技術移転を強制してはならないことに合意した“both sides agree that there should not be forced transfer of technology”」であった。中国側は一定程度譲歩したが、EU側には、合意だけでは不十分であり、担保するメカニズムがないという者もいる。
〇もう一つの大問題である市場アクセスについては、「中国市場における障壁を除去するため、2020年の首脳会議までに、より透明性のあるプロセスにすべきである」とされた。
〇投資についても来年の首脳会議までに包括的な投資協定を締結することが合意された。この問題は長年議論されてきたことであり、中国は今回の首脳会議に臨むにあたって期限を設定することに難色を示していた。
〇補助金については、李克強首相は「競争的分野(補助金のない分野?)では公正な競争を支持する。また、補助金が問題になる分野では、レイオフ状態の労働者および農業を含め、EUとWTOの枠内で協力する」と述べた。最後に、「産業補助金(industrial subsidies)についてはWTOの改革に関するEU・中国作業部会での検討を踏まえ国際的なルールを強化するために議論を加速する」ことが合意された。
〇ルールに従った国際的システム(rules-based international system 南シナ海での国際法順守問題など)については、中国側とEU側の立場の乖離は完全には解消されなかったが、「国連を中心に、国際関係に関する国際法と基本的な規範を尊重する」ことで合意が成立した。
(注 前述の戦略文書(EU-China – A strategic outlook)では、
China’s maritime claims in the South China Sea and the refusal to accept the binding arbitration rulings issued under the United Nations Convention on the Law of the Sea affect the international legal order and make it harder to resolve tensions affecting sea.
と直接的に中国の国際法違反、国際仲裁判決の無視を批判していた。)
〇5G、Huawei問題を含むサイバー犯罪については、首脳会議に先立ってEU各国が懸念を表明していたが、実際にはあまり議論されなかったようだ。ユンカー委員長はこの問題について、「詳しい議論は行われなかった」とコメントした。李克強首相は、「推定無罪の原則が守られるべきである。5Gに関係している中国企業でスパイ行為を問われているところはない」と述べた。
〇人権擁護については、普遍的、不可分で、相互依存的であることが確認され、今後、2国間あるいは国連において議論を継続していくという一般的な合意に終わった。
2019.04.09
「中南米の諸国は相次いで中国からの投資を歓迎し、「一帯一路」への参加希望を表明している。
パナマのバレーラ大統領は先般香港訪問した際、パナマ運河によりアジアと米国を結びつける構想について発言した。中国は現在すでにパナマ運河の第2の利用国である。
パナマは昨年台湾と断交した。習近平主席が同国を訪問した際、「一帯一路」への支持を表明した。パナマは米国との摩擦は避けたいが、中国との投資・貿易関係の強化は進めたい考えである。
ポンペオ米国務長官は昨年10月、パナマを訪問し、バレーラ大統領にあって米国の考えを伝えた。
なお、メキシコも「一帯一路」への参加を検討中である。
トリニダードトバゴは昨年5月、「一帯一路」への参加を表明した。すでに中国企業が同国で港湾改修契約を結んでいる。
中国は1990年代から中南米諸国と石油など開発のための借款・投資について合意しており、「一帯一路」によりさらに拡大したい考えである。
ベネズエラに対しては620億ドル、ブラジルには420億ドル、アルゼンチンには180億ドル、エクアドルには170億ドルの借款供与に合意している。
中国の「一帯一路」による中南米への進出
VOAの中国語版である「美国之音」は4月7日、中国の「一帯一路」による中南米への進出を米国が警戒しているとして次の諸点を報道している。「中南米の諸国は相次いで中国からの投資を歓迎し、「一帯一路」への参加希望を表明している。
パナマのバレーラ大統領は先般香港訪問した際、パナマ運河によりアジアと米国を結びつける構想について発言した。中国は現在すでにパナマ運河の第2の利用国である。
パナマは昨年台湾と断交した。習近平主席が同国を訪問した際、「一帯一路」への支持を表明した。パナマは米国との摩擦は避けたいが、中国との投資・貿易関係の強化は進めたい考えである。
ポンペオ米国務長官は昨年10月、パナマを訪問し、バレーラ大統領にあって米国の考えを伝えた。
なお、メキシコも「一帯一路」への参加を検討中である。
トリニダードトバゴは昨年5月、「一帯一路」への参加を表明した。すでに中国企業が同国で港湾改修契約を結んでいる。
中国は1990年代から中南米諸国と石油など開発のための借款・投資について合意しており、「一帯一路」によりさらに拡大したい考えである。
ベネズエラに対しては620億ドル、ブラジルには420億ドル、アルゼンチンには180億ドル、エクアドルには170億ドルの借款供与に合意している。
2019.04.04
「多国籍軍」への自衛隊派遣については日本国憲法違反の疑いが濃厚である。政府は、派遣されるのは司令部であり、また、安全な地域だから日本のPKO原則に照らして問題ないとの趣旨の説明をしているが、「平和維持活動(PKO)」と「多国籍軍」は異なる性質の活動であり、PKOは紛争が終結した後の活動として国連で承認されているが、「多国籍軍」についてはそのような承認はなく、紛争の状態について意見が分かれる。この区別は極めて重要である。
安全か否かは極めて微妙な問題であり、安定的に安全であればPKOになる。シナイ半島ではPKOでなく、多国籍軍であるということは安定的に安全でないことを意味している。また、情勢は比較的短期間に変化しうる。
イラク戦争の際、日本は戦争が行われている地域の付近にまで自衛隊の部隊を派遣し、米軍への物資輸送など後方活動に従事させたが、戦争に参加はしなかったと説明した。この説明は国際的には通らない恐れが大きい。
日本国民は「多国籍軍」へ関与する覚悟があるのか、あらためて問われる。
以上は要点だけである。詳しい説明は当研究所HPの「2019.02.11 自衛隊の多国籍軍への派遣」、「2018.09.19 多国籍軍への自衛隊派遣」、「2014.06.21 集団安全保障へ参加する?」、「2014.06.05 PKOと多国籍軍への参加」などを参照されたい。
シナイ半島多国籍軍への自衛隊員派遣
日本政府は4月2日の閣議でシナイ半島で活動する多国籍軍への自衛官2名の派遣を決定した。これは改正安保法により可能となった「国際連携平和安全活動」として初めてのケースである。「多国籍軍」への自衛隊派遣については日本国憲法違反の疑いが濃厚である。政府は、派遣されるのは司令部であり、また、安全な地域だから日本のPKO原則に照らして問題ないとの趣旨の説明をしているが、「平和維持活動(PKO)」と「多国籍軍」は異なる性質の活動であり、PKOは紛争が終結した後の活動として国連で承認されているが、「多国籍軍」についてはそのような承認はなく、紛争の状態について意見が分かれる。この区別は極めて重要である。
安全か否かは極めて微妙な問題であり、安定的に安全であればPKOになる。シナイ半島ではPKOでなく、多国籍軍であるということは安定的に安全でないことを意味している。また、情勢は比較的短期間に変化しうる。
イラク戦争の際、日本は戦争が行われている地域の付近にまで自衛隊の部隊を派遣し、米軍への物資輸送など後方活動に従事させたが、戦争に参加はしなかったと説明した。この説明は国際的には通らない恐れが大きい。
日本国民は「多国籍軍」へ関与する覚悟があるのか、あらためて問われる。
以上は要点だけである。詳しい説明は当研究所HPの「2019.02.11 自衛隊の多国籍軍への派遣」、「2018.09.19 多国籍軍への自衛隊派遣」、「2014.06.21 集団安全保障へ参加する?」、「2014.06.05 PKOと多国籍軍への参加」などを参照されたい。
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