平和外交研究所

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2021.01.15

外交におけるビデオ会談

 米国のケリー・クラフト(Kelly Craft)国連大使は1月14日、ビデオ通話で蔡英文総統と会談した。中止された台湾訪問に代え行ったことである。

 ポンペオ国務長官が先にクラフト大使の台湾への派遣を発表した際、中国は反発した。タイミング的にも政権交代のわずか2週間前であり、訪台が中止されたことは妥当な措置であったとみられるが、米中台間の問題はさておくとして、クラフト大使と蔡英文総統とのビデオ会談は今後の外交の在り方としても興味深い。

 ビデオ会談にはメリットがある。まず、費用対効果の点ではるかに効率的である。また、時間の節約となることも大きい。米国と台湾を往復しようとすれば、少なくとも4日はかかるだろうが、ビデオ会話であれば、準備を含めても2~3時間ですむだろう。

 電話会談は以前からよく行われているが、ビデオ会談は電話では期待できないメリットがある。とくに、相手の顔を見ながら実際の会談に近い雰囲気の中で話し合える。とくに、旧知のあいだであれば、面談とほとんど変わらない状況で話し合いが可能であろう。

 会談内容の点では、デリケートな問題、秘密扱いを要する問題などを話すには向いていない。この点はデメリットであるが、そのような取り扱いが難しい問題は会談の一部であり、このデメリットはさほど大きくない。

 米台間では、バイデン新政権の対中方針次第だが、このような形式の通話が多くなるのではないかと思われる。今回のクラフト・蔡ビデオ会談についても、「中国はいかなる形式であれ、米国と台湾の公式交流には断固反対する」と述べた(中国外務省の趙立堅(Zhao Lijian)報道官)が、ビデオ会談は「公式」かいなか、はっきりしない。バイデン政権にとって台湾の首脳とのビデオ通話は便利な面があると思う。

 現在、日本と台湾の関係は米国以上に制約があるが、今後、日米台の間でビデオ会議を活用すれば意思疎通の可能性が広がるであろう。
2021.01.13

北朝鮮の最高幹部人事


 1月13日、朝鮮労働党大会は閉幕した。今次党大会では次の人事が注目された。

 金正恩が朝鮮労働党総書記(以下「総書記」。他の役職も同様)についた。金正恩は金正日の死によって2012年12月末、北朝鮮の最高指導者となって以来、軍の「最高司令官」、「第一書記」、「委員長」などの称号で現れてきたが、朝鮮労働党の最高職である「総書記」と国家の最高職である「国防委員長」は金正日の死後、空席としていた。両職とも「金正日が永久に就くべき地位」であるとして就任しなかったといわれていた。金正日の死後約9年を経て、金正恩は名実ともに完全な後継者になったのである。

 今回の党大会での最高幹部人事は、体制の中枢を固めることに重点があり、対外関係者は重用されなかった。

 注目されていた金与正(キム・ヨジョン、正恩氏の妹)党第1副部長は北朝鮮の権力の中核である党政治局の候補委員から外れ、党部長の名簿にも名前がなくなった。しかし、これは降格と見られていない。金与正は肩書はないが、今後も、金正恩総書記の特別の側近として補佐し続けるのであろう。万一の場合には金正恩の後継者となることが暗黙裡に想定されているのではないかと思われる。正恩は昨年の一時期、与正をナンバー2にした感もあったが、むしろ肩書のない方が動きやすいと考えるに至った可能性がある。

 金与正の扱いは以前と変わらないどころか、12日、与正は「北朝鮮が10日夜に軍事パレードを実施した状況を捉えた」と韓国軍合同参謀本部が発表したことに対し、「敵対的警戒心を表している」、「韓国軍の発表は奇怪で、敵対的見方だ」、「こうしたことも必ず後で清算されなければならない」と強く非難する談話を発表した。

 昨年12月のことであるが、韓国の康京和外相が訪問先の中東で、新型コロナの感染者がゼロだと主張しながら防疫対策を強化する北朝鮮について、「少しおかしい。信じるのは難しい」、「韓国の支援の呼びかけにも反応していない。コロナが北朝鮮をさらに北朝鮮らしくしている」などと述べたと伝えられた。金与正はこれに強い不快感を示し、8日付の談話で、康京和は北朝鮮の新型コロナウイルス対策をめぐって「後先の計算なく妄言を吐いた。我々はいつまでも記憶する」、「凍り付いた北南関係に、さらに冷気をふき込もうとしているようだ。下心がはっきりと見える」と非難した。
 
 一方、従来の対韓担当者は重用されなかった。チャン・グムチョル統一戦線部長は交代させられた。また、対韓問題を総括してきた金英哲(キム・ヨンチョル)党副委員長は、党部長として名前を保持するだけになった。

 このような体制になると、今後は、金正恩総書記は別格として、対韓関係についてはすべて金与正の指図を受けることになるだろう。北朝鮮のこれまでの党官僚による指導体制は金与正という特別の人物が金総書記を補佐するという独自の体制に変わったと推測される。

 米国との関係については、非核化交渉の中心人物であった金英哲は前述したとおりやや降格、崔善姫(チェ・ソンヒ)第1外務次官も党中央委員会の委員から候補委員に降格した。李善権(リ・ソングォン)外相は政治局候補委員のままである。金総書記が北朝鮮の側から対米関係を動かす気持ちを持っていないことは明らかである。

 ただし、崔善姫はこれまで北朝鮮の高官にしては率直すぎるくらい発言してきた人物である。その急速な昇進ぶりから金総書記のお気に入りだとみられてきたが、今回初めて降格となった。その理由は、対米関係のあおりを受けたためか、それとも個人的な事情によることか現在のところ不明である。

 今次党大会では従来の5年ぶりに書記体制が復活された。朝鮮労働党の党業務を取り仕切り、幹部人事を握る組織は「政務局」から「書記局」に戻された。その書記局に対米交渉や南北関係を担う幹部は含まれず、この点にも、金総書記は当面、対米、対韓関係を進める意向はないことが示されている。

 また、政治局常務委員には、金総書記以外に崔竜海(チェ・リョンヘ)、李炳哲(リ・ビョンチョル)、金徳訓(キム・ドクフン)およびに趙勇元(チョ・ヨンウォン)が選ばれ、5人体制となった。

 趙勇元は金総書記の最側近といわれ、また、党中央委員会書記と党中央軍事委員会委員にも任命された。これで北朝鮮の「ナンバー5」に浮上したのであるが、詳しい経歴は不詳である。

2021.01.12

トランプ政権最後の対中措置

 米国のポンペオ国務長官は1月9日、「米国の外交官や他の公務員による台湾との接触を制限してきた国務省の内規を撤廃する」と発表した。「内規は北京の共産党体制をなだめるためのものであり、もうよい」と発言したとも伝えられている。今回の撤廃により、米台間の交流のあり方が根本的に変わる可能性がある。台湾の統一は習近平政権が力を入れても実現していない唯一の問題と言って過言でない。米国による台湾支持の強化について中国がどのように対応するか、また反撃できるか注目される。

 内規撤廃の表明に先立って、ポンペオ長官はケリー・クラフト(Kelly Craft)米国連大使を台湾に派遣し、台湾に対する米国の支持を強化すると発表していた。

 これに対し、中国政府は7日、米国の国連大使の台湾訪問が実現すれば、米国は「重い代償」 を払うことになるだろうと強く警告していた。

 なぜトランプ政権は、約10日後(1月20日)にバイデン新政権が発足するという時点で、米中関係に著しい影響を及ぼす方針転換をおこなったのか。

 トランプ政権としての新しい対中政策はすでに実行が始まっていた。トランプ氏は台湾に米国の閣僚を派遣し、また台湾への武器売却を積極的に進めていた。それどころか、ポンペオ長官は昨年7月、中国共産党が米中関係を悪化させている元凶であるとの趣旨を明言する演説を行い、中国の現体制と対決する姿勢を示した。米国の友好国に対しては、「中国について同じ考えの国々が新しいグループを、新しい民主主義の同盟を形成すべき時が来ているのかもしれない。」と呼びかけていた。

 その背景には、中国が南シナ海で拡張的行動をとり、国際法をあからさまに無視していること、香港に関しても国際約束を一方的に無視し、中国化する措置を取ったこと、国営企業を利用して不当な利益を得ていること、WHOなど各種国際機関において自国の政治的主張を強引に押し通していることなどの事情があった。ドイツも最近、中国と政治面で協力することは困難であると表明したことが想起される。

 トランプ政権は今回の措置により、バイデン新政権があらたに中国との関係を進めていくうえで重い条件を設定した。しかし、この条件を取り外して元の中国政策に戻ることは困難である。中国はあまりにも巨大化し、影響力を増しており、各国との協調を損なっても自国の考えを強引に通そうとしているからであり、米国内ではこのような中国に厳しく当たるべきだという意見が強くなっているからである。

 バイデン新政権としては、現在の中国をめぐる諸情勢を客観的に再評価して、新しい対中戦略を策定する必要がある。新政権は以前の関与政策に戻るだろうという見方も残っているが、事情は単純でない。バイデン氏は台湾に好意的だと伝えられている。昨年8月、大統領選挙への民主党候補になるに際し、それまでの民主党綱領には記載されていた「一つの中国」を削除した。新民主党綱領からこの文言を落としたのであり、これは大きな出来事であり、中国は強く反発した。即断は禁物だが、バイデン氏は案外中国に厳しい見方をしているかも知れない。

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