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2013.07.05

朴槿恵大統領の訪中(2)

キヤノングローバル戦略研究所のホームページに7月4日掲載された一文です。
http://www.canon-igs.org/column/security/20130704_1993.html

「朴槿恵大統領が6月27日から30日まで訪中した。中国の歴史、古典に並々ならぬ関心と知識を有し、中国語も得意の朴槿恵大統領は、習近平主席との会談、清華大学での講演などを通じて、中韓両国の友好関係増進に朴槿恵大統領ならではの役割を果たしたようである。中国の各紙がきわめて好意的に報道したのも当然である。
日本のメディアもかなり大きく報道したが、これまで韓国の新任大統領は米国の次に日本を訪問していたのに今回は中国だったこと、清華大学では、「現在、北東アジア情勢は非常に不安定だ」「域内国家間の経済的な相互依存は拡大しているが、歴史や安保問題をめぐる葛藤と不信により、政治・安保協力はそれに及んでいない」などと日本を念頭に置いたと見られる厳しい発言を行なったこと、約百年前、日本が朝鮮への干渉を強めることに反発して伊藤博文をハルピン駅頭で暗殺した安重根の記念碑建設を中国に求めたことなどがあったため、今回の訪中は日本側に複雑な波紋を投じ、朴槿恵大統領は度を越して「親中反日」に傾いたと思った人もあるだろう。一部には「日本はずし」などと感情的な反発を口にする人もいる。
しかし、日本としては、歓迎できないことがあった場合こそ、冷静さを失わないで客観的に事態を観察するよう努めなければならない。中韓両首脳は会談後の共同声明で、「地域協力と国際協力では、中韓日3カ国の協力がそれぞれの発展と北東アジアの平和、共同繁栄にとって極めて重要である。そのため中韓双方は、3カ国首脳をはじめとする3カ国協力体制を安定的かつ前向きに促すべきであり、今年の第6回中日韓首脳会議の円満な開催のために共同で努力する」と述べている。これは経済面での協力に限っての発言でなく、政治面においても日本との協力が重要であることを謳ったものであり、中韓両国が歴史問題を強調して共同戦線を張っただけでないことが窺われる。
第三者の角度から見ることも参考となる。以下に紹介するのは、6月29日付の「旺報」に掲載された短い論評である。これは台湾の新聞であるが、中国でビジネスを行なっている「旺旺グループ(かつて日本の製菓企業の協力を受け成長した)」が経営しており、中国にも一定の理解があることで知られている。

「(見出し)韓国の一石二鳥 台湾と北朝鮮に対処する」
「朴槿恵大統領の今次訪中は韓国にとって重要な出来事であった。片方は経済戦略、もう一方は政治、安全保障と分野は異なるが、韓国は「一石二鳥」式に台湾と北朝鮮の問題に同時に対処した。
朴大統領は北京滞在中、「中韓商務協力論壇」における演説で、中韓自由貿易協定締結の重要性を強調した。27日の首脳会談では、両国ともその締結の必要性を認めあい、署名へ向けて努力すべきことで意見が一致した。
かねてから、韓国の産品は台湾の産品と競争関係にあり、台湾が大陸と中台経済協力枠組み協定を締結した(自由貿易協定のこと。2010年締結)ことは、韓国の経済界を緊張させていた。さらに、それから3年も経ずして中台双方は「両岸サービス貿易協定」を成立させた(2013年6月)ので、中国へ進出している韓国企業は居ても立っても居られない状況に陥っていた。このようなことから、朴槿恵大統領は、今次訪中により中韓自由貿易協定の締結交渉を早め、韓国の大陸における利益の拡大を図ったのである。
安全保障の面では、李明博政権が北朝鮮に強硬姿勢で臨んだのと異なり、新政権は北朝鮮に対して前政権より柔軟であることを示し、中国の立場に接近する姿勢を見せた。朴槿恵大統領が強調した「半島における信頼醸成」は、北朝鮮の核問題を話し合いで解決しようとする方針を述べたものである。
このような態度をとることにより、中国に対して、韓国は物分かりがよいが、北朝鮮は「トラブルメーカー」であるという印象をきわだたせ、北朝鮮が中国との関係でも受け身にならざるをえないように仕向けたのである。」

朴槿恵大統領の訪中が台湾に対していかなる意味合いを持つか、この論評から明らかであろう。
一方、北朝鮮については若干補足的な説明が必要である。すなわち北朝鮮は、昨年末に「人工衛星」と称するロケットを発射し、今年の2月には核実験を行ない、3月には休戦協定を破棄するなどあまりに好戦的な姿勢を取ったので、中国にとっても頭の痛い問題となっていたところ、朴槿恵大統領としては、中国の立場に理解を示し、中国と歩調をそろえることにより、結果的に、北朝鮮に対して強面で対するよりも強い立場に立とうとしたという意味なのであろう。
朴槿恵大統領の訪中後、北朝鮮は、「朴大統領はわれわれの尊厳や体制を侮辱した」などと名指しで批判し、また、核開発を進める北朝鮮を朴大統領が「自ら孤立を招く」などと発言したことを「容認できない重大挑発だ」と非難し、「核は正義と平和の盾であり、民族の財宝だ。どんな場合も駆け引きの対象にならない」など、例によって強硬な発言を続けているが、これがすべてではないであろう。朴政権に対して北朝鮮がどのような方針で臨むのか、いましばらく様子を見ていく必要がある。」

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2013.07.03

シリア難民に関するシンポジウム

国連難民高等弁務事務所(UNHCR)とジャパン・プラットフォーム(JPF)から次の案内を頂きました。ご検討願います。次のサイトにも情報があります。
http://www.unhcr.or.jp/html/2013/07/syriasympo-130703.html


「平素よりお世話になっています。UNHCR駐日事務所です。
シリア難民・避難民や受け入れコミュニティに対して人道支援を実施している国連難民高等弁務事務所(UNHCR)とジャパン・プラットフォーム(JPF)は、この緊急事態を受けて、シリア難民に関するシンポジウムを共催致します。

日時: 2013年8月3日(土)、14:00-16:30
場所: 国連大学、ウ・タント国際会議場
主催: 国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)駐日事務所 / (特活)ジャパン・プラットフォーム(JPF)
言語: 日本語、英語 (同時通訳あり)

2011年3月に勃発した内戦を契機に、現在170万人以上のシリア難民が周辺国に避難を余儀なくされています。2013年末までにシリア難民の345万人、シリア国内の680万人と約50万人のパレスチナ難民が人道支援を必要とすることが予想され、この数はシリア全人口の半分に相当します。

この人道危機と日本政府と市民社会団体による積極的な貢献を受けて、UNHCRとジャパン・プラットフォームは以下の三点を目的としてシンポジウムを開催します。第一に、現在進行中の人道危機をより多くの人に知っていただく機会を設けること。第二に、シリア危機の複雑な背景を理解すること。そして第三に、人道支援と解決に向けた日本と市民社会の役割に関して議論することです。

ご多忙とは存じますが、難民問題にご関心の高い皆様方に是非ともご出席いただきたく、謹んでご案内申し上げます。同封の本シンポジウムの概要をご参照いただけますと幸いです。また7月31日(水)までに、登録用紙をUNHCR駐日事務所の関口(FAX:
03-3499-2272 / Email: jpntosym@unhcr.org)までご返信頂けますよう宜しくお願い申し上げます。

UNHCR駐日事務所」

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2013.07.02

中韓両国の軍隊に関する悩み

朝日新聞の報道によれば、中国の軍隊にも韓国の軍隊にも共通する厄介な問題があり、またそれはさらに深刻化する傾向にあるそうである。一つは、軍が手薄になることである。韓国の場合は、現在も義務的な兵役制であるが、韓国社会も少子化が進行しており、そのため兵役に就く若者は絶対的に少なくなっている。しかも、親は子供を兵隊に送りたくないので種々画策して兵役を逃れようとする。朴槿恵新大統領によって首相に擬せられた金容俊元憲法裁判所長が指名を辞退したのも2人の息子の兵役逃れ疑惑が原因であった。裕福な有力政治家や資産家の子供、有名俳優、スポーツ選手などが偽の診断書などで兵役逃れを図ったという疑惑はしばしば発生している。
韓国社会に広がりつつあるこのような兵役回避傾向に対処するため、韓国政府は兵役期間を現在の約2年(軍種によって異なる)から数年短縮する方針を打ち出しているが、北朝鮮の挑発に対応しなければならないなどの事情から兵役期間短縮を実行するのは容易でない。
兵力が全体として薄くなる結果はいろいろな面に現れており、北朝鮮との兵力分離地帯に置かれている哨戒所も無人のところが増えている。昨年、北朝鮮の兵士が厳しいはずの警戒を潜り抜けて突然韓国側の哨戒所に現れ、一大問題となったこともある。
中国の場合は、徴兵制と志願制が併用されており、かつては志願兵だけで十分まかなえたが、「一人っ子政策」の影響は確実に及んでおり、志願兵は激減する傾向にあるのは韓国とよく似ている。
もう一つの問題は、韓国でも中国でも士気の高くない兵士が増えていることである。その原因は、豊かな生活を謳歌するようになった若者は苦しい訓練を嫌がり、本来ストイックな生活を要求される軍隊内でも何とか楽をしようとすることにある。演習の訓練中に携帯音楽プレーヤーを聞いている若者もいるそうである。このような不心得者は一部であり、あまり過大に見るべきでないだろうが、傾向としてははっきりあるらしい。
ベトナム戦争に参加した各国軍のなかで、ベトコンや北ベトナム軍に最も恐れられたのは韓国軍であったが、そのような強い韓国兵はもはや昔話になっているようである。
どちらの国でも、軍隊としては深刻な問題であろうが、顕著な経済成長を遂げ、豊かな社会になった結果であり、その意味では自然な現象なのであろう。
現在の時点であまり一般化することはできないが、いずれは、国家への忠誠もさることながら、個人の幸福により関心が向くようになっていくのではないかと期待される。

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