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2014.06.03

シャングリラー中国の反撃

今次会議に出席の中国軍人でトップの王冠中副総参謀長(シビリアンでは傅瑩元外交部副部長)は6月1日の演説で原稿の読み上げを途中で中止し、安倍首相とヘーゲル長官の発言に反発し、「両氏は事前に打ち合わせの上演説した」「中国に対して根拠のない非難をした」「強引な主張をしているのは中国でない」「中国が安定を阻害しているなどと言うのは建設的でない」「覇権を求めているのは米国だ」「安倍首相は中国を名指ししなかったが、ヘーゲル長官のほうが好ましい」などと反論した。しかし、これらの言葉は大して強くない。王副総参謀長が使ったもっとも強い言葉は、安倍首相とヘーゲル長官が「中国を挑発した」ということであり、しかも何回も「挑発」と言ったが、これもさほど強くないと思う。中国からの参加者は傅瑩を含め、会議の外で口々に安倍・ヘーゲル両氏の演説に文句を唱えており、そのような状況からすると王副総参謀長はもっと激烈な言葉を使う可能性があったが、実際には、どちらかと言えば抑制された発言であった。
中国を批判したのは安倍・ヘーゲル両氏に限らず出席者の大多数であり中国は非常に孤立していたので、さすがに中国としても攻撃的になるとさらに違いを目立たせるという考慮があったので、反発はしつつも抑制気味にしたのかもしれない。かつて、中国の代表が国際会議の場で「中国はフランスなど必要としていない」と粗野な言葉を使用したことがある。
一方、中国からの参加者のなかには議長の再三の制止を無視して強引に発言を続けたり、各国の国防大臣にリザーブされている席を勝手に占め、主宰者側の抗議など意に介さないで占拠し続けることがあった。中国は口では中国から問題を起こしたことなどないと言うが、実際の行動はまったく違う場合がある。とくに中国軍人が主張を始めると冷静な議論など吹き飛んでしまう。

今次会議では、南シナ海がしばしば話題に上ったため、王副総参謀長が最後に、中国がかねてから領有権を主張している「九段線」(「牛の舌」とも言われる。英語訳はnine dotted line 事実上南シナ海の全域のこと)について次の通り説明した。
「南シナ海は二千年以上も前から中国の主権下にあった。南沙、西沙諸島などを含め、中国政府はこの海域を一貫して管轄下に置いてきた。日本に侵略されていた時だけ例外であったが、戦争が終わった後の1946年に回復し、48年に中国は主権の宣言をした。これに対しどの国も異議を唱えなかった。各国が領有権を主張し始めたのは石油資源の埋蔵が指摘されて以降である。
中国は海洋法条約を批准し、遵守している。しかし、海洋法ができたのは1990年代の初頭であり、中国の歴史は2千年以上である。
海洋法条約は領土主権を決定するものではない。
米国は海洋法条約を批准していないにもかかわらず、攻撃するために都合のよい時だけ持ち出してくる。
仲裁については、中国は留保しており、主権の問題について仲裁に行くことは受け入れられない。中国は引き続き話し合いを続けていく。」

以上のような状況を総括して、各国がいくら正しいことを主張しても中国を変えられないだろうとコメントした米国の新聞がある。たしかに、このような対話だけで中国軍を動かすことは期待できないであろう。しかし、シャングリラ対話は、日本を含め中国を除く各国が中国に対してとっている方針が正しいことを示す結果になっている。中国だけが特異な主張をして、孤立しているのは中国にとって不利益であり、損をしているのは中国である。
あまり中国を怒らせると、対話に出てこなくなる、そうなっては元もなくなると心配する向きがあるが、旧知のIISS研究員は、中国は、中国のいないところで論じられることを我慢できないだろうから、来なくなる心配はないと言っていた。ただし、中国からどのレベルが来るかはIISSにとっていつも問題だそうだ。これまで中国の国防大臣が来たのは1回きりである。

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2014.06.02

第13回シャングリラ対話

シンガポールで開催されるアジア安全保障会議はアジアのみならず米欧諸国も参加し、その議題は特定の問題に偏ることなく、アジアの主要な安全保障に関する諸問題を取り上げるが、中国の軍と率直な対話ができる唯一の場であり、また、各議題の下での議論に中国が関係することが多いので、実感としては中国との対話が会議全体の半分くらいを占めている。
しかし5月30日から6月1日まで開催された今年の会議(第13回)は、日本の安倍首相が基調演説で名指しこそしなかったが、中国の行動を非難し、国際法に従った行動を求める強い内容の演説(5月31日本ブログ)を行い、また、米国のヘーゲル国防長官も次のような、安倍首相の演説よりもさらに直接的に中国を非難する発言を行なったので、今回の会議は日米両国が他の諸国とともに中国に物申す場となった。

「アジア・太平洋地域は深刻な脅威に見舞われている。南シナ海および東シナ海での領土・海洋紛争、それに北朝鮮の挑発的行動、核兵器及びミサイルの開発などである」
「オバマ大統領が言ったように、米国は世界をリードしていく。もしそうしなければどの国もしないだろう」
「4つの重要点がある。第1に、紛争の平和的解決を促すことであり、航海の自由を含む諸原則を守り、強制、脅し(intimidation)、侵略に立ち向かう。第2に、国際的なルールと規範に従った地域的な協力のメカニズムを作り上げる。第3に、我々の同盟諸国が自力で安全を確保できるように、その能力を向上させる。第4に、我々自身の地域防衛能力を向上させる」
「最近、中国は南シナ海に対する権利を主張してこの地域を不安定化させ、一方的な行動を取っている。中国はスカーボロー礁へのアクセスを制限し、セカンド・トーマス礁におけるフィリピンのプレゼンスに圧力を加え、また、複数の島嶼に対する主権を主張し始め、移動式石油掘削設備を西沙諸島付近に移動した。」
「米国は多国間の領土紛争に介入しないが、どの国であれ、主張を実現するために脅したり、強制したり、武力を行使するのに断固反対する。また、どの国であれ、軍用船あるいは民間船による飛行や航行の自由を制限することに反対する。米国は、国際間の秩序に関する基本的な原則が挑戦を受ければ立ち向かう。我々はそのような諸原則を重要なものと考える。昨年11月、中国が一方的に設定した、尖閣諸島の上空を含む東シナ海の防空識別圏を従わないと声明した。また、尖閣諸島はオバマ大統領が先月明確に述べたように、日米安保条約が適用される」
「中国はWTOで第三者による紛争解決に同意し、ベトナムとの海上での国境紛争を平和的に解決し、ASEANとの友好協力協定に署名したではないか。」
「米国はオバマ大統領と習近平主席が合意した、協力を進め、競争を管理し、ライバルになることを避ける国家関係の新しいモデルを今後も追求する。」
「米国は、サイバー攻撃に関する中国との持続的、実質的な意見交換を支持していく。中国は米中両国の作業部会を停止すると発表したが、我々は今後もサイバー攻撃問題を中国側に提起していく」

これに対する中国代表の発言は『朝日新聞』(6月2日付)が報道しているが、私の感想は次回のブログで。

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2014.05.31

シャングリラ対話での安倍首相演説

シンガポールで5月31日~6月1日開催されたアジア安全保障会議(シャングリラ対話)において、安倍首相は名指しこそしなかったが、誰が聞いても中国を批判しているとわかる内容の、「法の支配」を何回も強調する演説を行った。主要点は次の通りであった。
海洋における法の支配のために、国家は法に基づいて行動すべきこと、力や威圧を加えてはならないこと、および紛争は平和的に解決しなければならないことの3つの原則を守るべきである。フィリピン、べトナムはこれらの原則を守っており、日本は強く支持する。
数年前温家宝首相との間で海や空での不測の事態を避けるため連絡しあうメカニズムを作ることに合意したが、その後実行されていない、話し合ってこの合意を実行しようではないか。
軍備に関して情報を開示し、透明性を高めることが重要である。軍備拡張はこの地域の安定を妨げる。
今や1か国だけでは平和は守れない。多数の国が協力することが必要であり、日本はこれまでの憲法の解釈を見直している。
日本では新しい日本人を育成するよう努めている。

これに対し、中国の代表の一人から、歴史に向き合う姿勢が重要であり、安倍首相は靖国神社に参拝した、中国や韓国では多数の人が殺された、これをどのように考えるか、という質問があった。
これに対する安倍首相の答えは、「国のために戦った人を祈るため手を合わせた。同時に、20世紀には多くの人が戦争で苦しんだ。日本は2度としないという不戦の誓いをした。先の大戦での痛切な反省に立つとともに、自由と民主主義を尊重する日本を目指すこととした。これからも日本は平和国家を目指していく」であった。
この回答の直後拍手が起こり、日本の一部新聞は、安倍首相の靖国神社参拝についての賛同であったように報道しているが、決して靖国神社に参拝することに対する賛同ではなかった。

また、尖閣諸島に関する争いを解決するために、仲裁など第三者的機関による解決を求める考えはないかという質問に対し、安倍首相は「日本は国際司法裁判所の強制管轄を受諾しているが、中国は受諾していない。ICJに訴えるのは要求している中国であろう。日本は実効支配しているので、日本から提訴する考えはない」と答えた。これは、玄葉外相がニューヨーク・タイムズに寄稿したものと全く同じ内容である。安倍首相が外務省の事務方の振り付けに忠実に説明したのには驚いた。
しかし、ICJでの解決についてそこまで考えているならば、このように一般人にはわかりにくい説明でなく、日本はICJでの解決を望んでいることを明言した方がよかった。外務省の用意している説明は、法的には正確かもしれないが、日本のICJでの解決について希望しているということは伝わらない。このような説明でとどまっていると、日本はかたくなだという印象を払しょくできないだろう。

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