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2016.01.26

(短文)15年前の1月26日、新大久保駅で

 15年前の今日、JRの新大久保駅で、ホームから転落した男性を助けようとして韓国人留学生の李秀賢(イスヒョン)さん(当時26)とカメラマンの関根史郎さん(当時47)が電車にはねられ亡くなった。
 翌02年から、国際交流基金は韓国の高校生を日本に招待して、日本人との交流を通じて日本に対する理解を深めてもらう事業を実施しており、今年は20名が来日した。今日、現場を訪れ献花するそうだ。
 
 韓国の高校生を招待するのは素晴らしいことだと思う。
 この事業の目的として、「李さんの遺志をついで日韓の懸け橋になってもらう」と説明されている。それもよいが、李さんの行動にはもっと普遍的な意義がある。李さんは、とっさに「助けなければならない」と思って危険を顧みずに線路に飛び降りたのではないか。難しく考えすぎかもしれないが、あえて言えば、「日韓のため」とみるのは、よくないとは言いたくないが、不十分な気がするのだ。

 2011年、『グローバル化・変革主体・NGO』という本を出版した。わたくしはその編者として、「序論」で次のように書いた。
 「NGO活動は伝統的に欧米で盛んであり、我が国のNGOは欧米にならって活動をはじめたのかもしれないが、日本で「他人のために」行動することが軽視されていたのではない。「他人のために集団で行動する」ことと、そもそも「他人のために行動する」ことは別問題であり、後者の問題に関しては、日本は、それに韓国や中国も欧米に決して引けを取らないのではないか。例はいくらもあろう。幕末に日本を訪れた西洋人も日本人は親切であると言っていた。具体的な表現は国民ごとに、あるいは民族ごとに違っている部分があるかもしれないが、「他人のために行動する」ことの大切さは人間として身につけてきた普遍的倫理である。JR大久保駅で韓国人留学生と日本人男性がプラットフォームから線路に落ちた人を助けようとして自らの命を犠牲にしたのはたんに「親切にする」という程度をはるかに超える高邁な人道的精神の発露であり、純粋な「他人のための行動」であった。」

 この本はNGOについての識者が市民社会を論じたものであり、「他人のために集団で行動する」とはNGOの特性として言及したことである。
2016.01.25

台湾の総統選と中国

 台湾の総統と立法院の選挙において民進党が圧勝した結果、中国の台湾政策は変化するか。中国はこれまで民進党を警戒し、国民党を支持してきたが、今後も国民党の復権を期待して支持を続けるのか。そうすると中国の台湾に対する影響力が弱まるのではないか。これらの問題を含め中国としてはこの際台湾に対する政策の見直しを進めているのではないかと思われる。

 総統選から3日後の1月19日、中国の国務院台湾事務弁公室(国台弁)の龔清概副主任が規律検査を受けたことが発表された。規律検査は、習近平主席が持つ2本の鞭の1本である。
 龔清概は習近平が福建省の省長であった2000年から2002年、同省内の晉江市長を務め、習近平に知られるようになり、2013年、国台弁の副主任に抜擢された。習近平に近い人物と見られていた。
 台湾の総統選の直後の発表だったので、同人が台湾情勢を読み誤った責めを問われたのかと思われたが、香港の『明報』紙は、昨年10月の「中央巡視組」が国台弁を調査した時に同人はすでに調査の対象であったという噂が漏れ出ていたと報道している。本当のことは分からない。
 龔清概台湾語を話し、台湾の商人と関係が深かった。2014年にはお忍びで台湾を訪問した。
 晉江市は民営企業が活発であり、政府との関係が密であると言われている。 

 中国に胡舒立という有名なジャーナリストがいる。「財新網」などの主筆であるが、王岐山とならんで習近平の側近の一人であり、汚職追及の報道などで「中国で最も危険な女性」と呼ばれている。米国での活動歴もある。

 次は、「財新網」1月18日に掲載された胡舒立の論文の要約だ。
「今回の選挙は両岸関係を最終的に解決する始まりだ。台湾政策の目標を具体的に明確にする必要がある。
 台湾内部では問題が山積しており、矛盾は大きい。 
 民進党の両岸関係についての態度は以前より慎重になっている。今回の総統選でも国民党の両岸政策の攻撃に重点を置かなかった。
 今回の総統選の結果は中国の指導者にとって読みのうちで、対策があるはずだ。
 中国は台湾の新総統と両岸の往来の政治的基礎を再確認すべきだ。調整期間中、両岸の接触と協力は減少するかもしれない。守るところも攻めていくところもあってよい。
 台湾の青年の心情と主張は今後の台湾の行く方向に関係してくる。」

 この論文で一番注目されるのは、国民党との関係について完全に沈黙していることである。その代わりというわけでもないが、台湾の青年の考えを重視すべきだと示唆している。
2016.01.24

蔡英文の抱負

 台湾の総統選で圧勝した蔡英文のインタビュー記事が聯合晚報1月18日付(
『台湾壹週刊』誌から転載したもの)に掲載されている。蔡英文の考えがよく表れている。中国をいたずらに刺激しないよう細心の注意を払いながら話す一方、中国と台湾はお互いに尊重することが重要だとくぎを刺している。

 聯合報は一般に国民党寄りと見られているが、中立公平な報道もしている。このインタビュー記事にも偏向は見られない(?)。

 すべて蔡英文の言葉という形で書かれており、鍵括弧は直接の引用だろう。

○選挙期間中、中国の善意をよく感じた。今回の選挙では、中国はみずからを抑制していた。「このような行動でわかる理解(體會理解)と善意こそ最善の意思疎通(溝通)だ」。意思疎通はただ座って話し合うだけでなく、何をするかが大事であり、行動を見て本当のことが理解できる。

(注)総統選の際、中国が台湾に干渉してくることがあることを前提にした発言である。1996年の総統選では、中国は、李登輝を当選させないためミサイルを台湾の近海に発射し、これに対し、米国は空母2隻を台湾海峡に派遣するという事態に発展した。
 なお、蔡英文は「意思疎通(溝通)」という言葉をよく愛用している。

○馬英九の連立提案を受け入れることはできない(不会)。

(注)今次選挙で敗北した国民党は蔡英文に対して民進党と国民党の連立政権とすることを提案している。民進党は総統選でも立法院(議会)選挙でも圧勝したので、それでも国民党が連立政権を提案しているのは常識的には異常なことだ。

○5月20日に正式に就任後、まず「両岸協議監督条例」を制定し、両岸の交流を法的基礎に上に置きたい。それまでは両岸に関係することはしないほうがよい。

○大陸を訪問し、習近平主席と会見する可能性は高くない。中国を訪問するには多くの条件が整わなければならない。いっぺんに条件はそろわない。しかし意図的に行かないのではない。無理していくことはしないということだ。就任後、両岸を安定させ、対等の尊厳を追求したい。「インターラクション(互動)」が重要であり、両岸関係に意外なことが起こらないように努めたい。両岸とも最大限努力する責任がある。

○総統選の2日前に発生した「周子瑜事件(注 韓国で活動する台湾のアイドル周子瑜(16歳)が、インターネットで公開された番組で「中華民国」旗を掲げたことについて、中国から「独立派だ」と非難の殺到を浴び、韓国のメディアでも批判的に報道された。そのため周子瑜は「台湾」としていた出身地を「中国台湾」と変更し、さらに総統選の前日に謝罪の動画を発表した)」は中国政府が意図的にしたことではない。しかし、その動画を見て涙が出た。「16歳の女の子がどうしてこのような圧力を受けなければならないのか」と思った。台湾人が自己のアイデンティティのために謝罪するようなことが起こらないようにしたい。

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