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2017.03.01

(短評)朴槿恵大統領の弾劾など

 韓国の大統領府をめぐる汚職などを捜査していた特別検察官は2月28日、任務を終了するに際し、疑惑の中心人物であったチェ・スンシル被告やサムソン電子のイ・ジェヨン副会長(実質的にはナンバーワン)を起訴するとともに、朴槿恵大統領も共謀関係にあったと認定し、収賄罪で立件すると発表した。朴槿恵氏は現在職務を停止されているが大統領の地位にあるので起訴されず、職を離れた時点で起訴されることになるそうだ。
 特別検察官による捜査は大統領弾劾とならんで朴槿恵政権追及の主要手段であり、残る憲法裁判所による弾劾の是非についての判断は3月中にも下されると言われている。

 特別検察官の捜査結果は当然重大であるとみなすのが本来のあり方だろうが、それには躊躇を覚える。朴槿恵大統領はチェ・スンシル被告に演説などについて相談したことは認めつつも、人事に関与させたことも、賄賂を受け取ったことも否認し続けているからだ。つまり、朴槿恵大統領に関しては特別検察官と大統領府の主張は真っ向から食い違ったままなのだ。
 そして、特別検察官の判断が国民の声によって影響されていないかという問題もある。検察官が、事実関係はともかく、厳しい態度を示しておいた方が有利だと考えた可能性があると思う。
 いずれにしても、憲法裁判所による弾劾の是非についての判断が待たれる。そこで弾劾が認められれば、朴槿恵氏は失職し、新大統領を選ぶ手続きが始まる。

 黄教安(ファン・ギョアン)大統領代行は、特別検察官の発表の翌日、恒例の「3・1節」演説を行った。1919年3月1日、日本の統治下で起きた三・一独立運動の記念日の式典でのことだ。
 その中で黄教安氏は、日韓関係について「未来志向的な正しい歴史認識に基づき、断固対応していく」「(日韓)二つの国は互いに信頼し、発展していく」「日本とは経済、文化、人的な交流を拡大していく」などと強調した。これは日本の立場から見ても積極的に評価できる内容である。
 また、慰安婦問題については、「2015年末の日韓合意の趣旨と精神を心から尊重し、実践しなければならない」とし強調した。
 慰安婦問題については先に、外相が同趣旨のことを指摘しており、現政権が困難な状況にありながらも慰安婦問題で両国関係を現在以上悪化させてはならないという気持ちであることが表れている。
 三・一節における韓国首脳の発言はその時の対日観を反映して波があり、朴槿恵大統領自身も就任直後は厳しい口調であったが、その後は比較的穏健になっていた。黄教安(ファン・ギョアン)大統領代行の今次演説は歴代の大統領演説と比べて対日関係への配慮が濃厚に表れており、日本側もこれを積極的に受け止めるべきである。一時帰国させている長嶺大使らは早く帰任させた方がよい。

 なお、黄教安氏は大統領候補として支持者が増えており、野党のムン・ジェイン氏にはまだ及ばないが、両者の差は接近しているという世論調査があるそうだ。
2017.02.27

中国の仕打ちに怒りをあらわにした北朝鮮

 中国は2月18日、本年度の北朝鮮産石炭輸入を暫定的に停止すると発表した。石炭は北朝鮮にとっては貴重な外貨収入源であり、この輸出ができなくなると経済全体に影響が及ぶ。
 北朝鮮は23日、朝鮮中央通信論評という形で激しく反発した。中国の名指しはせず、「『親善的な隣国』だと言っている周辺国」としたものの、内容的には明確な、しかも強い感情がほとばしり出た中国非難であった。

 同論評は、「朝鮮(北朝鮮)が12日に成功させた「北極星2号」型地対地中距離弾道ミサイルについて、国際社会は朝鮮の核打撃能力が高度に達していることを認識したのに、その国は「初級段階の核技術に過ぎない、今回の実験でもっとも損をするのは挑戦だ」などと言った」とも批判した(読みやすくするため直訳しなかった部分がある)。つまり、先日行ったミサイルの発射実験について国際社会は技術力の高さを認めたのに、中国だけは「初級段階だ」とけなしたと言っているのである。この「初級段階云々」のコメントは具体的に中国のだれが言ったのか不明だ。
 また、同論評は、「何かというとすぐに国連の制裁決議は民生活動には影響を与えないと言うが、実際には敵対勢力と結託して朝鮮を打倒しようとしている。対外貿易を完全に遮断するという非人道的な措置をためらいなく講じた」と非難した。経済制裁によって北朝鮮が深刻な影響を受けることを、事実上にせよ、初めて認めたケースだと思われる。

 中国が石炭輸入を停止したのは、北朝鮮が2月12日にミサイルの発射実験を行ったことが直接的なきっかけである。
 その翌日に起こった金正男の暗殺は関係しているか。今まで何回ミサイル実験が行われても中国がこれほどまでに厳しい措置をとることはなかったので、今回はさらなる事情が加わったと見るべきであろう。金正男はマカオを中心に生活しており、中国との関係が深かったのは事実だ。しかし、今回の事件については、明確でないこと、確認できないことがあまりにも多すぎるので、現段階では何とも言えない。
 それより気になるのは、中国は米新政権から北朝鮮への働きかけを強化するよう強い要請を受けていたことである。北朝鮮は今回の論評の表題で中国のことを「卑しい」と非難しているのだが、中国は北朝鮮に厳しい態度を取ることにより米国の歓心を買おうとした、つまり北朝鮮を米国に売り渡そうとしたと見ている可能性がある。

 一方、ミサイルの発射実験以降の北朝鮮の状況をどう見るべきか。北朝鮮のイメージがますます悪化したことは否めないが、イメージ悪化の原因となったことを金正恩委員長がすべて直接指示したかは不明だ。次のような状況があるからだ。
 第1に、金正男を殺害することが北朝鮮にとってどれほどの意味があったのか。同氏は権力の中枢からすでに離れており、金正恩の地位を脅かす存在ではなかったはずだ。事件発生後に、亡命政権を樹立しようとする人たちにかつがれる可能性があったという説が出ているが、それを裏付ける根拠はあまりにも乏しい。
 第2に、久しく待望してきた米国との対話の開始に向けて予備的な接触が始まっていた(始まろうとしていた?)。そのようなときに国際社会から強く非難される人道問題を起こすかという疑問がある。

 北朝鮮は閉鎖的で、状況は不透明だ。乏しい材料を膨らまし、推測に推測を重ねるようなことは差し控えるべきであるが、このようにちぐはぐな状況は金正恩委員長が国政のすべてを牛耳っているのではない可能性を示唆しているのかもしれない。
2017.02.22

東芝の原子力事業と異文化の接触

 「マグマグニュース」2月22日付は東芝の経営困難に関する中島聡氏の評論「特損7000億円の東芝が犯した、致命的な「二度の失敗」」を掲載している。

 中島氏は、東芝が2006年、スリーマイル島での事故以来経営が悪化していたウェスティングハウス(WH)社をShaw Groupと共に54億ドル(約6370億円)で買収したことは、「今になって見ると、高値掴みだったし、「原発ババ抜き」のババを引かされたとも言えますが、その時点では、決して悪い戦略ではなかった」としつつ、「日本の会社は米国の会社と同じ土壌で戦えるのか?」という視点から東芝が犯した過ちを総括している。
 東芝の第1の過ちは、WH社の買収の際に、1社で WH社を買収するのはリスクが高すぎるという理由で、(原発工事を請け負う)Shaw Group に20%の株を買ってもらうことにしたが、プットオプション(保有するWH社の株式を、決まった価格で東芝に売りつける権利)を与えたことであった。2011年の福島原発事故で原発事業が低迷することを悟ったShaw Groupは「間髪を入れずにプットオプションを行使し、(原発事故の影響を考慮すれば二束三文にしかならない)WH 社の株を 1250 億円で東芝に売り抜けた」。
 第2の失敗は、東芝の子会社となったWHが、2015年に米原子力サービス会社のCB&Iストーン・アンド・ウェブスター(S&W)を買収した際、工事の遅れによる賠償金を WH社と S&W社のどちらが支払うかでもめていたにも関わらず、買収後の賠償金の支払いの責任を明確にせずに買収してしまったことである。  
 ちなみに、東芝は2016年末にS&W社の買収に関連して数千億円規模の損失が発生する可能性があると発表している。
 また、東芝によれば、この買収には不正が行われた可能性があると言われているが、これほどまでにリスクの大きい買収に、(親会社である)東芝が関わっていなかったのは大きな問題だと中島氏は指摘している。

 さらに、東芝は、最悪の場合(原発工事がさらに伸びてコストが膨らんだ場合や、工事そのものをキャンセルしなければならなかった場合)には、今回損失として計上した7000億円強以外に、さらに7000億円強の違約金を支払わされる可能性すらある契約になっていると中島氏は指摘している。

 中島氏の指摘に興味を覚えたのは、東芝が過ちを犯したのは日本人的な発想が原因になっているとし、また、「契約社会で鍛えられた米国企業にとっては、それに慣れていない日本企業との間で、自分だけが有利になる契約を結ぶことは、赤子の手を捻るように簡単なことのように私には見えます」と述べ、「開国当時に日米間で交わされた「不平等条約」は、今は日米の企業間で行われているとも言えるのです」と結んでいるからだ。

 東芝が過ちを犯したことについて、東芝自身はどのように原因を分析し、今後の会社経営に生かしていくか、余計なおせっかいだと思われるだろうが、日本のトップ企業だけに気になる。特に、日本人が異文化と接触したり、かかわったりする場合の行動という問題があると思う。
 契約を結ぶにはその内容をよく見ておかないといけない。そんなことは普通の人でも日常的にリマインドさせられる。東芝は契約をよく見ずに署名したのではなく、内容は当然知ったうえで判断したのだろうが、それを個人的に犯した過ちとみなすか、それとも東芝全体が犯しやすい問題と見るか、大きな違いである。つまり、東芝の文化に問題があると見るか、それとも、東芝の文化には問題はなく、ただ個人に、複数であっても、問題があったために発生したと見るかの違いである。
 
 文化論になるが、日本人は異文化と接触して多くのことを学んできた。一方、環境いかんでは、たとえば、強い圧力にさらされた場合には正しい判断、対応が困難となり、過ちを犯すことも事実である。極端な例だが、戦時中日本は「鬼畜米英」と言って敵視した。日本人に限らない。ドイツにおいてはナチスの時代にユダヤ人の言うことはすべて誤っていると教えられ、それを国民は受け入れた。
 今日、そのように極端なことはなくなっているが、圧力を受けると日本人に限らず、正常な対応ができなくなるのは今も変わらない。このことは一般には個人の素養の問題と見られているが、組織においても同様の問題がある。
 企業が経営に専念するのは当たり前だろうが、文化とも関係している。東芝においても、文化としてみるべき側面があるはずだ。そのような視点を持って異文化と接触できるかという問題があると思う。

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