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2023.09.05

習近平主席は3選されてから1年になる

 来月で習近平氏が中国共産党の総書記に再選(3選)されてから1年となる。習近平総書記はゆるぎない地位を築いたかに見えたが、それだけでは割り切れないこともいくつかあった。
 
 中国では定年に関し、「七上八下」という了解が作られている。「党大会時の年齢が67歳以下であれば引き続き現役として活動する(留任する)が、68歳以上であれば退任する」という意味である。この了解は党規約に記載されていないが、党の新陳代謝のために必要であると考えられ、受け入れられてきた。
 江沢民氏と胡錦涛氏はこの了解に従った。習近平氏も第20回共産党大会開催の時点ですでに69歳になっており、後継者にバトンを渡すものと思われてきたが、総書記の地位にとどまることとなった。

 10月22日、同大会の閉幕式で奇妙なことが起こった。習近平総書記の隣に座っていた胡錦濤・前総書記(79)が改正党規約の採択に入る直前、関係者に促され、途中退席した。その理由については胡錦涛氏を外すためであったといわれた。

 時間的に順序が逆になるが、大会開催前の13日、北京市内の高架橋に「独裁の国賊、習近平(国家主席)を罷免せよ」と書かれた巨大な横断幕が掲げられるという異例の事態が起こった。それには「封鎖は要らない、自由が欲しい」「領袖(りょうしゅう)は要らない、投票が欲しい」などとも書かれていた。封鎖はゼロコロナのことである。この横断幕はすぐ撤去されたが、SNSで拡大した。

 2022年11月26日から12月頃まで、中国各地で共産党のゼロコロナ政策を批判する一連の抗議運動が起こった。ゼロコロナ政策とは都市封鎖など強権的な手法によって市中感染を徹底的に抑え込もうとする政策である。しかし、このため困窮する人が続出し、抗議運動が起こった。参加者は白い紙などを持って集まったので「白紙革命」、「白紙運動」、「白紙デモ」などと呼ばれた。

 中国経済はコロナ禍以前から下降線をたどっており、2019年は 5.95%、22年は3・0%と、目標の「5・5%前後」に届かず、世界平均(3・4%)をも40年超ぶりに下回った。2022年12月、中国政府は「ゼロコロナ」政策を突然打ち切ったが、経済は思ったほど回復しなかった。勢いがないことを示すデータが次々に公表され、「予想外の息切れ」ともいわれた。その原因として、消費、生産の落ち込み、雇用の悪化に加え、不動産業界が抱える構造問題と、それが招いた投資の減少が指摘された。日本が20数年前に経験したよりひどいバブル崩壊が起こるといわれている。もっとも中国政府はなんとしても、強権的手法を使ってでも混乱に陥るのを防ぐだろうから直ちに数字になって表れることはないだろうが、中国経済の矛盾は今後増大するだろう。
 
さらに統計が正確でないことや人口が減少トレンドに入っていることなどの大問題もある。

 このような経済問題に習近平主席はどのようにかかわっているか。習氏が経済問題で采配を振るうことはあまり報道されないが、節目節目で自ら大方針を打ち出しており、2021年には、「貧困脱却の闘いに全面的に勝利した」と宣言しつつ、すべての人が豊かになるという「共同富裕」の目標を打ち出した。習主席は2012年の就任以来、「適度に豊かな社会」を目指していたのでそれ以来長足の進歩を遂げたのであった。
 8月22~24日、南アフリカで開かれたBRICS首脳会議に際しては、中国の国営通信社の新華社が現地で「習近平主席の経済思想」の学習会を開催した。
 ところがそれと並行する形で中国不動産業界の低迷が表面化し、トップ企業のデフォルト危機が世界に不安を与え始めた。GDPの約11%を占める不動産業が深刻な不振に落ちったためGDPは5~10%マイナスの影響を受けるともいわれている。不動産業の立て直しは急務であり、習氏としても対応に苦慮しているのではないか。

 この間、習近平主席自らが外相に登用したといわれていた秦剛外相が突如解任(7月25日)されるという事態が起こった。同外相は6月26日以降、一切の動静が伝えられていなかった。秦氏はまさに共産党が必要としていた、現代的で洗練された官吏のようだったとも評されていた。だが、秦氏の命運はまったく分からなくなっている。

 7月末から8月初めにかけ北京市、天津市、河北省、福建省が集中豪雨に見舞われ大洪水が発生した。北京では過去140年間で最大の降水量であった。習主席は指示を出したが、現地へ赴くことはなかった。

 9月5~7日に開催されるASEAN首脳会議と直後にニューデリーで開かれるG20首脳会議に習主席は出席せず、代わりに李強首相が出席することとなった。習近平主席にふさわしい華々しい出番はないと考えられたのか。

 関係があるかわからないが、中国政府は8月28日に新版の地図を発表した。南シナ海など中国の周辺の海域を中国領としており、関係の諸国(もちろんASEANの国)は強く反発した。

 8月24日に始まった福島第一原子力発電所の放射能処理水の海洋放出について、中国は激烈に反発し、一方的かつ誤りに満ちた非難を行うとともに、日本からの水産物輸入を完全に停止してしまった。日本人の中には日本政府の決めたことについて疑問を抱いたり、決める過程に瑕疵があったと考えている人もいるが、そういう人も含め、中国の反応は理解困難である。しかも、中国政府は日本の処理水だけが危険なのではないことを知っているはずである。

 中国の対日非難は台湾向けである可能性もある。来年1月の台湾における総統選挙において中国の立場に近い国民党候補を当選させるため、日本に親近感が強い野党に日本非難を吹き込んでいる。中国の対日非難の多くは中国語で書かれており、日本人には翻訳しないとわからないが台湾人にとっては母国語である。
2023.08.28

BRICS首脳会議

 南アフリカ・ヨハネスブルグで開催されたBRICS首脳会議が8月24日、閉幕した。ウクライナ侵攻をめぐって国際刑事裁判所(ICC)から逮捕状が出ているロシアのプーチン大統領はオンライン参加した。

 BRICSの加盟国はこれまでブラジル、ロシア、インド、中国、南アであったが、アルゼンチン、エジプト、イラン、エチオピア、サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)の6か国の加盟が認められ、BRICSは2024年1月1日から11か国体制となる。今回加盟が決まった6か国以外にも約40か国が公式に、あるいは非公式に加盟を希望しているという。

 6か国の加盟後、BRICSは世界人口の46%、国内総生産(GDP)の28%を占めることとなる。たしかに大きなフォーラムとなるが、これらは各国の統計を合算した結果であり、世界における影響力を示すわけではない。

 BRICSは国際機関でなく、その都度加盟国間の協議で首脳会議の開催地と開催時期が決定されるが、最近はG7主要国首脳会議のように順番の開催になっていたようだ。今年の南アからさかのぼると、中国、インド、ロシア、ブラジルであった。昨年までコロナ禍の影響でオンライン会議であったが、今年は4年ぶりに加盟国が一堂に会した。 

 問題は11か国の経済規模も政治体制も様々なことである。文化や宗教も大きく異なる。イランのライシ大統領は米国に対抗する姿勢を鮮明にする一方、ブラジルのルラ大統領は米国に対抗するものではないと強調したという。サウジのファイサル外相はBRICSの性格や構成など詳細が判明してから加盟の招待を受けるかどうか判断すると表明している。

 ロシアによるウクライナ侵攻については、大多数の加盟国はロシア非難を控えているが、ブラジルは2022年3月3日の国連総会決議において、他のBRICS諸国が棄権するのと違って賛成に回った。

 インドの動きは複雑である。ロシア非難は避け、国連総会でも決議には棄権し、ロシア寄りだとみられていた。しかし2022年9月16日、ウズベキスタンのサマルカンドで上海協力機構の首脳会議が開かれた際、インドのモディ首相はプーチン大統領と会談し、「今は戦争の時ではない」と述べ、ウクライナ侵攻について公に批判した。モディ首相の発言はそれまでのインドの姿勢とはかなり趣が異なっていたが、インドとロシアとの軍事関係は歴史的に深く、その後もインドはロシア批判になるのを控えている。

 一方、インドと中国は安全保障面で利害が一致しておらず、インドは中国軍の艦艇がインド洋へ進出するのを警戒している。また、両国軍はカシミール問題をめぐって武力衝突を繰り返している。さらにインドは日米豪印によるQUAD(日米豪印戦略対話)の一員になっている。

 このように加盟国の利益が一致しないことがあるが、それでもBRICSとして連携するのは、利害の違いを上回る利益があるとみているからであろう。それは自由や民主主義といった価値観を重視する米欧への対抗軸とも、また、米欧中心の国際秩序からの脱却ともいわれる。いずれもそれなりに正しい指摘であるが、中心の狙いはやはり米欧、特に米国との関係においてBRICS諸国の立場を強くすることにある。つまり、BRICS諸国はそれぞれ米国との関係を自国に有利に運ぶためにBRICSとしての連帯が有利に働くと考えているのである。BRICSが拡大するのは明らかだが、新しい国際秩序というより、BRICS加盟国の利益を優先させるための緩やかな連携が広がることとなったとみるべきではないか。

 中でも際立っているのは中国の積極姿勢であり、加盟国拡大の旗を振ったのも中国であった。最終日の記者会見で習近平国家主席は「今回の拡大は歴史的だ」と強調し、また「BRICSは国際情勢を形成する重要な力となっている。新興市場・途上国の共通の利益にも合致する。互いに助け合う大家族だ」と胸を張る一方、主要7か国(G7)などの枠組みを「排他的な小グループ」と嘲笑した。
 
 中国の動きについては2つの点が注目される。その1つは、BRICSは中国の戦略重視と実行力を象徴する場であったことであるが、米欧に対抗するという政治目標に向かって進むことができるか、現段階では何とも言えない感じである。

 他の1つは、中国経済が過去30数年間と違って下降傾向に入り、一昔前の日本のようにバブルがはじける危険に直面していることである。中国が大ぶろしきを広げて世界を驚かせた「一帯一路」についても問題は増大しており、イタリアなどは脱退する意向である。中国内の経済はさらに危険が大きいかもしれない。

 前述した上海協力機構(SCO)は冷戦終了後、特に中央アジアの安全保障の立て直しを図って2001年に中国、ロシア、カザフスタン、キルギス、タジキスタンおよびウズベキスタンの6カ国によって設立された。BRICS4か国が首脳会議を開催したのは2009年であり、ざっと比較してSCOが数年早かったが、最近は非国連・非欧米の地域協力として併存してきた。しかし、ウクライナ侵攻が始まるとSCO内の協力にはほころびが生じ、プーチン大統領の中央アジア諸国に対する姿勢も顕著に変わってきたといわれる。

 BRICSは前述したように、初めから加盟国間の利害の不一致を内包しており、今後のBRICSがどうなるか。予定通りに拡大を続けるか、共通通貨の議論は進むかなど見通すのは困難であるが、首脳会議以外にもいくつもの会議があり、BRICSは「実体化」してきた面もある。BRICSには明るい将来がないと決めつけるのは危険であり、長い目で、幅広く、柔軟に見ていくことが必要であろう。
2023.08.21

日米韓首脳会談2023年8月(その2)

 8月18日、米国のキャンプデービッドで日米韓首脳会談が行われた。この会談については17日、当研究所HPに一文を掲載したので、今回は箇条書き的に要点を記しておきたい。

 自衛隊と米韓両軍による3か国共同訓練の毎年実施は我が国にとって重要な意味がある。日本の自衛隊と韓国の軍隊はこれまであまり友好的な関係でなかった。どちらに非があるか本稿では論じないが、韓国での観艦式に自衛隊の護衛艦が参加できなかったり、レーダー照射があったり、GSOMIA(軍事情報に関する包括的保全協定)の継続ができなくなったりした。この度これらの問題は解消され、これからは米を交えて3か国で共同訓練を行うこととなった。

 日本の憲法体制として問題ないか。また近隣諸国との関係で問題とならないか。かりに問題となってもそれを上回る利益があるか。日本としては今まで以上に考え方を明確にしておかなければならない。岸田首相は「日米韓3カ国の安全保障協力を新たな高みに引き上げる」と述べたが、日本国民はこのような大きな変化が起ころうとしていることの意味合いを明確にかつ具体的に認識しておくべきだし、日本政府にはそれを助けてもらいたい。

 韓国の安全保障面での変化は大きく、「大変化」とでも言えるものである。文在寅前大統領に限らないが、韓国の歴代大統領は米国との同盟か中国との伝統的関係か、いずれが重要かどっちつかずの姿勢であったので、米国は強い不満を募らせてきた。

 尹錫悦大統領は登場するとともにそのようなあいまいさを解消する第一歩を踏み出し、今回のキャンプデービッド会談では民主主義陣営間の協力と米韓同盟が重要だと第二歩を踏み出した。今回の3者会談は米国の呼びかけで実現したものであり、韓国との長年にわたる安全保障上の問題を解決に導いたバイデン政権の外交は見事であった。

 しかし、未確定要因は残っており、一部の問題は今後悪化する危険もある。今回の日米韓3首脳会談は中国と北朝鮮、さらにはロシアにとっては外交的後退であった。これらの諸国がどのような反応を見せるか、韓国の経済面での中国依存は依然として大きい。また、文在寅政権下で起こったことを見れば、中国は安全保障面でも韓国にとって危険な国になりうる。

 未確定問題は韓国と日米両国との関係でも存在している。日本とは徴用工や慰安婦などいくつかの問題については解決の方向に向かいつつあるが、一向に解消されていない問題もある。

 日米両国にとってなによりも頭の痛い問題は、韓国の将来がどうなるかである。韓国大統領の任期は5年であり、4年後には新大統領となる。その交代後も日米韓の3国関係が現在のような良好な状態にあり続ける保証はない。また、韓国民の中には、日本について同じ民主主義の国だと急にいわれても戸惑いを覚える人が少なくない。さらに、世論は昔から政府支持とは限らない。

 だからこそ米国は今回の首脳会談で、日米韓3か国間の協力が後戻りしない仕組みの構築を重視した。情報の共有やホットラインなどは重要でないとは言わないが、3か国間の後戻りできない協力体制の構築が最重要だったのである。ブリンケン米国務長官は「3か国の協力関係を制度化する」と説明している。

 日本にとっても日米韓3か国間の安全保障面での協力強化は望ましいが、日本の憲法体制下では米韓と同様の同盟関係を作ることはできない。何が可能か、また必要か、国民的合意を形成していく必要がある。

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