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2023.10.16

中国で外国人に対する規制が強くなっている

最近中国への渡航が困難になっているということが頻繁に聞こえてくる。日本人だけでなく、すべての外国人にとっての問題である。コロナ禍の時には防疫の観点からどの国も厳しい入国規制を敷いた。細部については国によって違いはあったが、大筋はどの国も同様であり、さまざまな不便や苦しみを何とか乗り越えてきた。現在、コロナ禍が完全に収まったわけでないが、強い入国規制は必要でなくなり、常態に復しつつある。このような傾向は中国でも認められる。

しかし、それから1年もたたないうちに、コロナ禍とは全く関係ない理由で中国への渡航が困難になってきているという。もちろん、中国政府が外国人の中国への渡航を制限しているのではないだろうが、現実に問題が発生している。

たとえば、外国人が支払いをするのが困難になっている。中国ではいち早くキャッシュレス化が進んでおり、カードがないと日常生活も困難であるが、中国を訪問した外国人はカード支払いができなくなっているという。

たとえば、中国の空港に降り立ったばかりの外国人が買い物をしようにも支払いに困るはずである。しかし、たいがいの人は飛行機に乗る前から用心するだろうから特に大騒ぎすることはないかもしれない。

しかし最近は、中国の事情に通じているビジネスマンも困っている。かれらは中国でも使えるカードを持っているのでキャッシュレス化の恩恵を受けることができるはずであるが、実際には使えなくなっているという。

外国人が支払いできないなどにわかには信じがたいことであるが、実際に起こっていることらしい。例えば、2010年代に上海の現地法人で総経理を務めた経験のある某氏は、「中国はもう外国人が生活できる場所ではありません。現地に信頼できる中国人がいなければ、外国人は“行き倒れ”になるリスクさえあります」と、中国出張を振り返ったそうだ(ダイヤモンド・オンライン 2023年10月14日)。コロナ前まで、この人は中国の決済アプリでキャッシュレス決済を行っていたが、今回の渡航では銀行認証が厳格化されて使えなくなっていたので、中国人の知人に立て替えてもらったそうだ。
 
出張者だけでない。中国で事業を行っている外国人も厳しい規制にさらされている。さる3月、北京で拘束された日本のアステラス製薬の日本人男性社員は10月20日、正式に逮捕された。日本政府は男性の早期解放を求めているが、中国側は応じていない。拘束は長期化するのではないかと懸念されている。

また、レアメタル(希少金属)などを扱っている中国の日系非鉄専門商社や取引先中国企業の中国人社員も今年3月、北京と上海でそれぞれ拘束された。判明したのは最近である。
 
これらを含め、15年以降に拘束された邦人は少なくとも計17人にのぼる。

日本人や日系企業だけでない。台湾の世界的企業である鴻海の中国子会社の一部は税務調査を受けており、河南省や湖北省などにおける系列企業の土地使用について、中国の自然資源省の立ち入り調査を受けている。鴻海は10月22日の声明で「事業展開先の法令を順守することは、当社の基本原則だ」と表明しているが詳細は不明である。

カード利用が困難になっていることと言い、拘束されるケースが増えていることと言い、外国人にとっては大問題である。中国に来る外国人は減少するだろうし、中国で事業を行っている外資系企業は困難に逢着する。

このような規制は中国の本来の方針にもとるのではないか。例えば中国では外国の投資を歓迎しており、奨励策も取っている。にもかかわらず、結果的には外国人が中国に来にくくしているのであり、これは明らかな矛盾である。中国の駐日大使は対中投資を奨励しているが、日本人の投資家が中国を訪れるのを妨げる環境を改めるのが先ではないか。日本人が簡単な支払いさえできなくなるような状況をほっておいて投資を進めようとしてもことは動かない。

なぜこのような極端なことが許容(あるいは放任?)されているのか。その問題を追及するのは本稿の手に余る。我々の想像をはるかに超える複雑な事情があるのかもしれないが、だからと言って外国人の排除につながること、中国への投資奨励という国策を無視する結果になることは即刻改めてもらいたい。


2023.10.09

日韓共同宣言を考える

 25年前に行われた日韓共同宣言は画期的な合意であった。金大中大統領と小渕首相は相互に信頼しつつ、両国の関係を高い次元に発展させ、21世紀に向けた新たな日韓パートナーシップを構築する共通の決意を抱いて臨んだ。両国の国民も賛同し、日韓関係の発展を期待した。
 今や第2の日韓共同宣言を待望する声が双方で出始めている。それが実現すれば、日韓両国にとって友好関係を増進する新たな刺激となるだろう。

 だが、この25年間、宣言で示された未来への期待に沿うことばかりでなく、両国関係は最悪の状態にあるといわれたこともあった。今後の日韓関係については、そんなことにも注意を払っていく必要がある。25年前の共同宣言の知恵を借りつつ、次のように考えた。なかには共同宣言に記載されていなかったことも含めている。

 第1に、紆余曲折のあった両国関係であるが、今後も率直に向き合うことが重要である。日本側では過去の一時期韓国国民に対し植民地支配により多大の損害と苦痛を与えたという歴史的事実を謙虚に受けとめ、これに対し、痛切な反省と心からのお詫びを述べるという姿勢は変わらない。

 第2に、両国は国際法にのっとり関係を発展させることが基本の姿勢である。こうすることにより日韓関係は第三国との関係でも矛盾なく発展できる。

 第3に、日韓関係を発展させるために高邁な理想をうたうこともよいが、今後は積極的な意義のあることを一つ一つ積み重ねていく。お互いに実行により信頼関係を高めていくのである。

 第4に、青年、留学生など両国民の文化・スポーツ交流は近年大いに発展しており、両国関係を常に押し上げる役割を果たしている。今後各種交流を一層増進していく。また在日韓国人は日韓両国民の相互交流・相互理解のための架け橋であり、その地位の向上のため、両国間の協議を継続していく。

 第5に、25年前には、関係発展のため両国の指導者が果たす役割は大きいと認識された。しかし、今後は指導者と一般国民がともに日韓関係を増進していくことが重要である。
2023.10.06

中国は処理水問題についての方針を変えるか

 処理水に関して中国がとった行動は一方的、非科学的、過剰であったとの印象を抱いている人は多数に上るだろう。中国自身処理水を海洋に放出しており、しかも放射線は日本の何倍にもなる量である。中国は、日本が中国に事前に協議せず海洋放出を決定したというが、中国は日本に一度も協議したことがない。国際原子力機関(IAEA)は、日本が放出する処理水に含まれる放射能は微量であり、人体に無害であると発表しているが、中国はそれを受け入れない。

 これらの問題は当初から指摘されていたことであった。その後、中国の対応が合理的であったか考えてみる機会は何回もあったが、多くの人は中国の対応はやはりおかしいと考えてきたし、また調べが進むにつれ、疑念は一層高まった。

 そんな中、中国は対日非難を抑制し始めているとの趣旨の報道が2件目についた。一つは、中国は、短期的には日本産水産物の輸入禁止措置を緩和しないが、処理水問題についての過剰な言動は抑制していると報道した。

 他の一つは、東京電力福島第一原発の処理水海洋放出に猛反発していた中国が「ソフトランディングに向けた方針転換に乗り出した」とする記事を掲載した。

 これら2つの報道は、中国が過剰な言動を抑制するのにとどめているか、それともソフトランディングに向けた方向転換に乗り出したのか、用語の点では相違があるように見えるが、実際にはそれほど違わない。中国は一定の自己抑制をし始めている。

 問題は、なぜ中国政府はそのような対応を取り始めたのかである。いくつかの理由が考えられる。

 中国が日本産水産物の輸入禁止措置を講じたのは、そうすれば日本国内で日本政府(福島原発を含め)批判が高まると考えたからであろう。しかし、実際にはそうならなかった。日本人の多くはいつも通り日本産の水産物を消費しており、処理水放出の影響はみられない。なかには中国の対応があまりに理不尽なので、日本産の水産物購入をかえって増やす家庭もある。

 また、処理水の放出に関し検討が進めば進むほど中国の措置が理不尽であることがはっきりしてきた。中国漁船が日本近海でとった魚は何ら問題にしないで、日本産だけを危険視するのははなはだしい矛盾であることが理解されてきた。

 さらに、日本産水産物の中国への輸入を止めれば日本の関係者に被害が及ぶのは不可避だが、中国の水産業にも、水産市場にも悪影響が及ぶ。ひいては中国経済にも悪影響が及ぶとの認識が強くなったことも考えられる。

 中国には軍事面の懸念もあるのではないか。事の性質上推測が多くなるが、中国の原子力潜水艦がさる8月末、台湾海峡付近で事故を起こした可能性がある。もしこれが本当であれば放射能の調査は不可避となる。特に水産物についての調査が行われると、原潜事故の影響は別だとして調査を拒否することはできなくなる。しかし、中国軍としては原潜の事故に関する調査は絶対認めないだろう。また原潜事故に注意を招きかねない、日本産水産物に関する調査も認めないのではないか。

 中国による日本産水産物輸入禁止措置はまだ撤廃されていないが、処理水問題は遠からず解消されるのではないかと思われる。

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