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2018.12.04

中国の国家資本主義

 中国では最近、「国進民退」、すなわち国有企業が力を増し、民営企業が弱体化する傾向が問題になっており、そのような傾向を批判する意見と是認する意見に分かれている。ただ見解が分かれているだけでなく、その議論は激しくなっており、習近平主席が介入しなければ収まらない事態にまで立ち至っているという(当研究所HP 2018.11.29「中国の、外には見えない緊張感」)。

 国有企業が強くなること自体は何ら問題ないかもしれないが、その結果、あるいはその影響を受け私企業が不利益を被ることになれば、そうは言っておれなくなる。

 また、国際的には、各国の企業は中国の企業と同等の条件で競争できなくなり、自由経済を重視する現在の貿易ルールを見直さなければならなくなる可能性もある。WTOは改革が必要だとの主張が強くなっているのはその一つの表れだ。

 中国政府は、「国進民退」が進むのは問題であり、民営企業の発展が重要だという立場であり、習近平主席もくりかえしそのように表明しているが、実際にはどのように考えているのかよくわからない面がある。

 中国政府は最近、「中国共産党支部工作条例(試行)」を交付した。さる11月25日の新華社が、「最近」公布されたと報道したものだ。これにより、民営企業や外資系企業を含むすべての企業に「党支部」の設置が義務付けられた。
 その意味について、以前から民営企業にも共産党員がいたので特に新しい規則でないとする意見もあるが、それはお決まりの公式見解であろう。この条例が、企業における共産党の統制を強化するものであることは明らかである。11月30日付の『多維新聞』は、もし以前と変わらないのであれば、なぜわざわざ新しい規則を作ったのか、と指摘している。形式的には疑問だが、実際には反論だ。

 中国政府としては、民営企業が力をつけているのは歓迎したいが、中国経済の成長が鈍化する中で民営企業は必ずしも中国の利益になっていない、もっと中国に貢献すべきだという願望があるのであろう。この種の話において女優のファン・ビンビンの脱税事件が言及されるのも、中国政府が経済成長の鈍化と国家収入の減少に神経をとがらせているからだろう。

 さらに、前述の『多維新聞』は、「中国共産党支部工作条例(試行)」とともに、アリババの馬雲会長が共産党員であったことも中国では注目されているとしている。これも不思議な感じがすることである。民営企業と言っても共産党と密接なのは当然だと中国政府は言いたいのだろうか。
 ともかく、民営企業のチャンピオンである同人は、「国進民退」をめぐってもやもやした雰囲気がある中でどのような立場にあるのか、興味をそそられる。
 馬雲氏は、中国の「教師の日」である9月10日、公開書簡の中で、1年後のアリババ創立20周年、すなわち2019年9月10日にグループの会長を辞職し、現職の張勇CEOを後釜に据えると発表した。今後は公益と教育に専念し、中小企業、若者、女性の発展を支援するという。これだけでは「国進民退」と馬雲の会長辞職とは関係なさそうだが、本当にそうなのか、真相はもう少し時間をかけて見ていかなければ分からない。

 やや飛躍気味かもしれないが、中国の国家資本主義と世界の自由主義経済の対立は一歩ずつ深まっていると思われてならない。本当は、G20などの場でこの問題が議論されればよいのだが、今は、米国の保護主義に主たる関心が向いている。残念なことである。
2018.11.29

中国の、外には見えない緊張感

 最近、中国の政治状況は緊張感が増しているという見方がある。危機的状態に陥っているというのではない。かねてから、中国崩壊論と呼ばれる言論が出ては消え、消えては出ていたが、そのようなものではなさそうだ。中国の政治体制は基本的には強固であり、民主化運動の爆発を抑える武装警察は安泰だ。
 問題は中国共産党の官僚主義にある。これまで目覚ましい経済発展を支えてきたのは官僚だが、腐敗で国家に大損害を与えているのも同じ官僚だ。当然、共産党には厳しい目が注がれる。
 民主化運動が爆発することはなさそうだが、官僚や格差に対する不満は内に向かって沈殿していく。中国がかかえる病根は根が深そうだ。

〇11月21日付の『多維新聞』(在米の中国語新聞)の論評。

「2018年以来、中国の内外の環境は不安定化している。経済成長の鈍化、将来への不安など新旧の問題が集中的に噴出した感がある。
 
 中米貿易戦争はさらに激化する傾向にある。経済への影響だけでなく、外交面でも従来の戦略・方針に疑問が生じている。
不安感は臨界点に近づいている。何か小さいことでも、それがきっかけとなって大問題に発展することがある。

「国進民退論」「重慶大学入試政治審査問題」「メディア規制のさらなる強化」などは社会の感情的爆発に発展する危険がある。いずれも習近平主席が介入しないと収まらないのは問題だ。
(注 「国進民退」とは国有企業が強くなり、民間企業が弱くなるという意味である。
   「重慶大学入試政治審査問題」とは、11月初旬、重慶市の大学入試において「政治審査」、つまり政治傾向が審査の参考とされることとなって始まった紛糾である。)

 中国を支え、動かしている実務官僚に問題が発生している。
 第1に、実務官僚は中央の政治を見ながら仕事をし、あるいは手を抜くなどしている。さる7月に起こった「梁家河大学問」の研究がその例である。「梁家河」はかつて習近平が7年間滞在した場所であり、現在全国の注目を浴びている。陝西省の社会科学連合会は最近「梁家河」をキーワードとして、習近平思想との関連を研究することを呼びかけた。そのため官僚たちは中央の政治的雰囲気を探ろうとして躍起になっている。しかし、このような傾向に対し、逆に、個人崇拝に対する激しい批判が起こり、大問題となった。
 
 第2に、官僚は「左寄り」を装う保身傾向を生んでいる。「右寄り」と見られると危険だからだ。

 第3に、「出すぎると批判される恐れがあるので、何もしないほうがよい」という傾向を生んでいる。同じく保身のためだ。

 これらは官僚に限ったことでないが、実務を担う彼らの間でそのような傾向が生じると影響は大きい 中央の政策も正しく実行されなくなる。「官僚は新しい混乱の原因になっている」と指摘する者もいる。」

〇文化革命の再評価
 文革において盛んに使われた大字報(壁新聞)を積極的に評価しなおそうとする動きがある。

 北京ではさる11月17日、数十枚の新しい大字報が現れた。地方でも同様のことが起こっており、たとえば、河南省鄭州の人民広場でも多数の大字報が張り出された。それには「鄭州毛沢東思想宣伝隊」の署名が入っていた(注 文革時にいわゆる紅衛兵などはこのような形で活動した。今でも恐ろしい記憶として残っている)。
 この夏、深圳の工場でも左派系の労働者がいわゆる「維権(権利擁護)」を掲げ、共産党の官僚に反対するデモ行為を行った。鄭州毛沢東思想宣伝隊も参加した。

 文革を再評価すべきだとする運動は歴史教科書にも影響を及ぼし、文革が混乱をもたらし、破壊的行動であったなどの傾向を薄める修正が行われた(場所は鄭州か)。

 文革を再評価する人たちは、腐敗の蔓延を問題視し、汚職官僚の非合法的所得を公にしようなどと呼び掛けている。
 
 中国の一部では「ポスト鄧小平」から毛沢東に回帰する傾向が出てきており、「揚毛抑鄧」とか、「非鄧小平化」などと呼ばれている。ただし、中国の状況は複雑であり、いまのところこのような傾向が全国に満ちているわけではない。

〇北京大学での学生逮捕
 最近(『多維新聞』11月17日による)、警察が北京大学に入り、深圳の「維権」運動に参加した学生を逮捕したので大騒ぎになった。北京大学党委員会書記に新しく就任した邱水平が、学生に不穏な動きがあるとして強くコントロールしはじめた結果である。北京大学の党委員会は「巡査弁公室」と「内部統制管理弁公室」を設け、統制を強化している。インターネット上で学生が発表する記事も監視している。

2018.11.27

台湾の統一地方選挙と第三の勢力

 台湾で11月24日に行われた統一地方選挙で、与党民進党は惨敗した。2014年に行われた前回の選挙と比べ、民進党と国民党の勝敗数がほぼ完全に逆転した。

 2014年選挙で民進党が大勝したのは、同党が台湾人(いわゆる本省人)の多い党である一方、当時の与党であった国民党は、どちらかといえば、第二次大戦後大陸から台湾に来た人たち(いわゆる外省人)が中心で、中国寄りであり、台湾人が民進党に投票したからであった。
 台湾の有権者の選択はわずか4年で完全に逆転したのであるが、今後、国民党色が強まるかといえば、答えはイエス アンド ノーである。

 前回の統一地方選挙はその2年後の総統選挙の前哨戦となり、民進党はこの選挙でも、2年後の総統選でも大勝した。
 このような前例があるため、次期総統選で民進党の蔡英文総統が再選される可能性は低くなったという見方が強くなっており、国民党は勢いづいている。
 また、蔡英文氏は、今回の選挙結果を受け民進党の党首をすでに辞任したので、自ら次回の総統選には出ないこととしたのだろうともいわれている。民進党内では次期総統選の候補選びが始まっているともいう。

 しかし、国民党は台湾人の心をつかめるか。今回の選挙結果だけでは台湾の政治状況は測れない。

 台湾では、日本と比べ民意は短期間で変化する。台湾が民主化してから約30年しか経過していないので、政治傾向はまだ安定していないのだ。

 国民党に対する台湾人のアレルギー(嫌悪感というべきかもしれない)は今なお強い。数年前に台湾人を取り込めなかった国民党は短期間に大きく変化できないとも考えられる。
 今回の選挙で圧倒的多数の選挙民が国民党を選んだことは紛れもない事実だが、国民党がどの程度好かれたのかよくわからない。国民党への投票は、台湾人の民進党支持が以前の勢いを失った結果であり、台湾人の国民党に対する期待が高まったとみることは困難である。

 民進党政権のイメージが悪くなったのは中国との関係にも原因があった。中台関係についての国民党と民進党の立場は違っており、国民党は中国との関係改善を望んでいるが、民進党は現状維持である。このような状況の中で、中国は、現状維持の蔡英文総統を嫌って徹底的にいじめた。また、台湾と外交関係を維持している国が中国になびくよう、カネにものを言わせて攻勢を強め、結果相次いで台湾との関係を切らせることに成功した。このようなことも今回の選挙で国民党が大躍進する背景になっていたのだろう。

 民進党自身にも問題があった。象徴的なのは、今回の地方選挙で柯文哲現市長を応援せず、独自の候補を立てたことだと台湾のメディアはこぞって指摘している。前回の選挙では民進党は独自の候補を立てず、無党派の柯文哲を応援し、当選を助けた。民進党としてはそもそも柯文哲を同党の候補としたかったのだが、同氏は無党派であることにこだわったと言われていた。しかるに、民進党は今回、柯文哲と決別してしまった。民進党がその決定をしたのは今年の5月であったという。
党内事情などもあったのだろう。民進党は、柯文哲氏は2020年の次期総統選に立候補する可能性があるので、早い段階からその芽を摘んでしまおうとしたともいわれている(中国時報11月25日)。もしそうであれば、蔡英文総統は当然承知していただろう。これは民進党として大失敗ではなかったか。

 柯文哲氏は「無党派」であり、「第三勢力」とも呼ばれる。民進党でも国民党でもない第三の勢力というわけだ。これが注目され始めたのは、2014年の地方選挙であった。
 今回、柯文哲氏が民進党と国民党から反対されながら当選を果たしたことの意義は大きい。国民党の候補、丁守中は選挙結果に異議を唱えているくらい僅差であったが、そうであっても、負けたことに変わりはない。民進党に至っては真っ向から戦いを挑んで惨敗した。台湾の2大政党の候補はどちらも柯文哲氏に敗れたのだ。

 第三勢力が勢力を拡大しているのは、民進党に対する台湾人の失望感が増大していることの反映である。民進党が台湾独立を志向していることは周知の事実である。同党の綱領には台湾の独立を求めることが明記されている。最近はそのことを表に出さないよう努めているようにも感じられるが、同党のそのようなイメージは簡単に消えない。

 台湾独立は、中国はもとより米国も望んでいない。そのうえ、台湾人でさえ台湾独立を標榜することは問題だと考え始めたのだろうか。第三勢力の台頭はそのような傾向を示唆しているとも考えられる。
 
 ただし、台湾人が民進党よりも第三勢力を選択するようになったと断言するのは早すぎる。第三勢力の支持基盤は弱い。将来、第三勢力が主要な政治勢力になる保証はない。

 一方、台湾人の若者は、現実の暮らしぶりを重視し、政治的イデオロギーには関心を持たなくなっているともいわれており、第三勢力がそのような台湾人の気持ちに応えたことは注目されるべきであろう。

 長年、民進党の牙城であった高雄市で、今回は国民党の韓國瑜氏が大勝した。このこと自体画期的であり、民進党にとっては手痛い打撃となったが、韓國瑜が勝ったのは国民党候補であったことがどの程度大きな要因であったか。台湾の各紙は、同氏の個人的な魅力が選挙民にアピールしたと指摘している。つまり、国民党の候補であったこともさることながら個人的に魅力的な人物であったことも重要な勝因であったというわけだ。ここにも若い世代の台湾人の動向が関係しているように思われる。

 いずれにせよ、民進党にとっても国民党にとっても、台湾人の心に寄り添い、代弁していけるか、また、第三勢力とその支持勢力を取り込めるかが最大の課題となるだろう。
 

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