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2018.12.19
茅于軾はその後も批判を繰り返している。日本で報道されることは少ないが、巨大で複雑な中国を理解するのに参考になるので、本HPで今回の発言をあらためて紹介する。
なお、さる7月末、中国の最高学府の一つである清華大学の許章潤教授も、習近平政権の「指導者を個人崇拝する動き」や「国家主席の任期の撤廃」を痛烈に批判する論文、「我々の現在の恐怖と期待」を発表して話題になった。
中国では12月18日、改革開放が始まって40周年の記念式典が開かれ、習近平主席はその成果を誇り、今後も中国の特色ある社会主義を推進していく方針を強調した。表舞台を無視するわけではないが、茅于軾や許章潤の発言や論文はきわめて重要である。当研究所はかねてから中国内の「緊張感」に注目しており、両人の言論はまさにそれを示している。
茅于軾の発言では、まず、習近平批判が注目される。茅于軾は、「習近平は今日に至るまで国家を指導する理念を作っておらず、国をどの方向に導いていくか、どのような道筋で、何を目標に、どのような人を用いて治めていくか明確にしていない。アドバイザーに助けられて指導者らしくしているのか。あるいは表面は立派だとほめられながら実際には批判されているのか。それとも本人が馬鹿なのか。終身的に地位を確保するには憲法を改正する必要などない」と述べている(なおこの引用は読みやすくしたが、キーワードは発言のままである)。
「国家を指導する理念を示していない」とは、習近平主席が「政治体制改革」を謳い、多くの横断的「小組(WG)」を作り、その主任になっているが、具体的な改革は打ち出すに至っていないことを言っているのだろう。とくに、民主化の課題については改革案を示さないどころか、逆に強権的に統制していることを問題視しての発言と推測される。
また、茅于軾は、習近平が毛沢東に倣っていると指摘している。この点は我々にはわかりにくいが、茅于軾は以前から毛沢東についても意見を発表しており、2011年には「毛沢東を一般人に戻そう」で毛沢東の神格化を批判している。茅于軾が考えていた習近平と毛沢東の類似点は「神格化」だと思われる。
一方、茅于軾は中国の将来を楽観視しており、「世界は、好むと好まざるにかかわらず変わっていく。そう遠くない将来変化は現実になると信じている。ただし私はすでに90歳、この目で変化を確かめられるか、保証の限りでないが」と語っている。この「世界」とは中国のことであり、「中国の指導者と中産階級の者はみな子供を米国に出している。このことは時代が変化しつつあることを示している」と述べている。
妻子を欧米に出すことはかねてから問題になっていた。中国では汚職の追及を逃れるためとして批判されているが、茅于軾は将来起こる変化の予兆ととらえているのである。中国人は結局現体制を信用していないという考えに立てば、茅于軾の発言は理解しやすい。
茅于軾は、経済が発展したのはよいことだと言いながら、「政治は清く明るくなければならない。言論の自由、司法の独立を確保できなければ経済発展は阻害される。80年代は言論の自由があったが今は失われている。実際、経済は権力の介入により制約されている」と指摘しており、いわゆる「国進民退」の傾向を批判している。
茅于軾は、中国共産党による党員に対する統制についても批判的であり、「現在多くの知識人が中国共産党から脱退したいと考えているが、それは阻止されている。(自分を含め)一部の党員は党から脱退するため党費を払わないでいる。党の規定では6ヶ月以上党費を滞納すると、党員資格が停止されるからだ」と述べている。
また、先般、民営企業を含むすべての企業に党支部の設置を義務付けたことも強く批判し、「全く無意味だ。できることではない」としている。
さらに茅于軾は、「国家が転覆されると言うが、これはあり得ないことである。国家を転覆することは不可能だ。転覆できるのは政府であり、政治である。政府も政治も本来変えられるものだ」と断言している。
この発言も意味深長である。中国では日本などでは想像もつかない体制維持への不安がある。国外へも1年に数回、そのような懸念表明が伝わってくるが、茅于軾はそのことをもっと聞いているのだろう。
要するに、茅于軾は、共産党の一党独裁は長続きしないと思っているのである。
このように大胆な発言をする茅于軾とはどんな人物か。茅于軾は1929年に南京で生まれた。祖父も父親も中国で有名な橋梁と鉄道の専門家であった。茅于軾も上海交通大学を卒業後、機関車の運転手、エンジニアなどを経験した。文化大革命中に一念発起し、工場で働きながら独学で経済学を学んで学者となり、中国社会科学院米国研究所で勤務した。この間、多くの実績を上げた。「最適配分の理論」などという論文も発表した。
1993年に退職後、「天則経済研究所」の設立に尽力した。現在同研究所の名誉理事長である。
しかし、この研究所は閉鎖の危機に見舞われている。前述の許章潤の論文を発表したのも同研究所のウェブサイトであった。中国当局は研究所や、問題発言を繰り返す茅于軾と許章潤に対して指導をしようとしたのだろうが、応じなかったらしい。当局は同サイトをブロックし、中国国内では閲覧できなくなった。日本では12月17日の時点でアクセスが可能であったが、翌18日にはできなくなっていた。
なお、許章潤の論文が掲載されたのは7月24日であり、その時同人は日本に滞在中であった。現在も日本にいるとも言われているが状況は不明である。第三国に亡命を申請するのではないかという憶測も流れている。
当局は「天則経済研究所」を閉鎖しようとしたらしい。今年春、事務所の契約期間はまだ2年以上も残っていたが、不動産会社から退去を求められた。研究所が争う構えを見せると、鉄格子が設置され出入りが封じられてしまった。同研究所ではその後もホテルなどで学術交流会を開こうとしたが、当局の関係者とみられる集団に妨害されたという。
このような状況の中で、茅于軾がなおも意気軒昂に習近平と現体制批判を行っているのは驚異的と言うほかない。中国には茅于軾の他にも、共産党が強権で従えさせるのが困難な「長老」が健在である。かれらの言動が現実の体制と政治にどのくらいインパクトがあるか、定かではないが、影響力がないのであればほっておけばよいはずだ。そうはいかないのが現実であるようだ。
また、比較的若い世代には民主化を望む人たちが大勢おり、だからこそ、「国家転覆」だの「体制に対する脅威」が問題になるのである。茅于軾らの戦いは世界中が注目すべきである。
中国人研究者による習近平主席批判
本稿で紹介する習近平主席と中国政治の批判は、中国の著名な改革派経済学者である茅于軾(ぼううしょく)氏が最近Voice of Americaのインタビューで語ったものである。その内容は現在の中国ではめったに聞かれないくらい激しい。2014年2月、茅于軾は来日してある研究所で講演を行ったが、あまりの激しさ、率直さに、聴衆から「こんな研究者が中国にいるのかと驚いた」という感想がその場で出たこともあった。茅于軾はその後も批判を繰り返している。日本で報道されることは少ないが、巨大で複雑な中国を理解するのに参考になるので、本HPで今回の発言をあらためて紹介する。
なお、さる7月末、中国の最高学府の一つである清華大学の許章潤教授も、習近平政権の「指導者を個人崇拝する動き」や「国家主席の任期の撤廃」を痛烈に批判する論文、「我々の現在の恐怖と期待」を発表して話題になった。
中国では12月18日、改革開放が始まって40周年の記念式典が開かれ、習近平主席はその成果を誇り、今後も中国の特色ある社会主義を推進していく方針を強調した。表舞台を無視するわけではないが、茅于軾や許章潤の発言や論文はきわめて重要である。当研究所はかねてから中国内の「緊張感」に注目しており、両人の言論はまさにそれを示している。
茅于軾の発言では、まず、習近平批判が注目される。茅于軾は、「習近平は今日に至るまで国家を指導する理念を作っておらず、国をどの方向に導いていくか、どのような道筋で、何を目標に、どのような人を用いて治めていくか明確にしていない。アドバイザーに助けられて指導者らしくしているのか。あるいは表面は立派だとほめられながら実際には批判されているのか。それとも本人が馬鹿なのか。終身的に地位を確保するには憲法を改正する必要などない」と述べている(なおこの引用は読みやすくしたが、キーワードは発言のままである)。
「国家を指導する理念を示していない」とは、習近平主席が「政治体制改革」を謳い、多くの横断的「小組(WG)」を作り、その主任になっているが、具体的な改革は打ち出すに至っていないことを言っているのだろう。とくに、民主化の課題については改革案を示さないどころか、逆に強権的に統制していることを問題視しての発言と推測される。
また、茅于軾は、習近平が毛沢東に倣っていると指摘している。この点は我々にはわかりにくいが、茅于軾は以前から毛沢東についても意見を発表しており、2011年には「毛沢東を一般人に戻そう」で毛沢東の神格化を批判している。茅于軾が考えていた習近平と毛沢東の類似点は「神格化」だと思われる。
一方、茅于軾は中国の将来を楽観視しており、「世界は、好むと好まざるにかかわらず変わっていく。そう遠くない将来変化は現実になると信じている。ただし私はすでに90歳、この目で変化を確かめられるか、保証の限りでないが」と語っている。この「世界」とは中国のことであり、「中国の指導者と中産階級の者はみな子供を米国に出している。このことは時代が変化しつつあることを示している」と述べている。
妻子を欧米に出すことはかねてから問題になっていた。中国では汚職の追及を逃れるためとして批判されているが、茅于軾は将来起こる変化の予兆ととらえているのである。中国人は結局現体制を信用していないという考えに立てば、茅于軾の発言は理解しやすい。
茅于軾は、経済が発展したのはよいことだと言いながら、「政治は清く明るくなければならない。言論の自由、司法の独立を確保できなければ経済発展は阻害される。80年代は言論の自由があったが今は失われている。実際、経済は権力の介入により制約されている」と指摘しており、いわゆる「国進民退」の傾向を批判している。
茅于軾は、中国共産党による党員に対する統制についても批判的であり、「現在多くの知識人が中国共産党から脱退したいと考えているが、それは阻止されている。(自分を含め)一部の党員は党から脱退するため党費を払わないでいる。党の規定では6ヶ月以上党費を滞納すると、党員資格が停止されるからだ」と述べている。
また、先般、民営企業を含むすべての企業に党支部の設置を義務付けたことも強く批判し、「全く無意味だ。できることではない」としている。
さらに茅于軾は、「国家が転覆されると言うが、これはあり得ないことである。国家を転覆することは不可能だ。転覆できるのは政府であり、政治である。政府も政治も本来変えられるものだ」と断言している。
この発言も意味深長である。中国では日本などでは想像もつかない体制維持への不安がある。国外へも1年に数回、そのような懸念表明が伝わってくるが、茅于軾はそのことをもっと聞いているのだろう。
要するに、茅于軾は、共産党の一党独裁は長続きしないと思っているのである。
このように大胆な発言をする茅于軾とはどんな人物か。茅于軾は1929年に南京で生まれた。祖父も父親も中国で有名な橋梁と鉄道の専門家であった。茅于軾も上海交通大学を卒業後、機関車の運転手、エンジニアなどを経験した。文化大革命中に一念発起し、工場で働きながら独学で経済学を学んで学者となり、中国社会科学院米国研究所で勤務した。この間、多くの実績を上げた。「最適配分の理論」などという論文も発表した。
1993年に退職後、「天則経済研究所」の設立に尽力した。現在同研究所の名誉理事長である。
しかし、この研究所は閉鎖の危機に見舞われている。前述の許章潤の論文を発表したのも同研究所のウェブサイトであった。中国当局は研究所や、問題発言を繰り返す茅于軾と許章潤に対して指導をしようとしたのだろうが、応じなかったらしい。当局は同サイトをブロックし、中国国内では閲覧できなくなった。日本では12月17日の時点でアクセスが可能であったが、翌18日にはできなくなっていた。
なお、許章潤の論文が掲載されたのは7月24日であり、その時同人は日本に滞在中であった。現在も日本にいるとも言われているが状況は不明である。第三国に亡命を申請するのではないかという憶測も流れている。
当局は「天則経済研究所」を閉鎖しようとしたらしい。今年春、事務所の契約期間はまだ2年以上も残っていたが、不動産会社から退去を求められた。研究所が争う構えを見せると、鉄格子が設置され出入りが封じられてしまった。同研究所ではその後もホテルなどで学術交流会を開こうとしたが、当局の関係者とみられる集団に妨害されたという。
このような状況の中で、茅于軾がなおも意気軒昂に習近平と現体制批判を行っているのは驚異的と言うほかない。中国には茅于軾の他にも、共産党が強権で従えさせるのが困難な「長老」が健在である。かれらの言動が現実の体制と政治にどのくらいインパクトがあるか、定かではないが、影響力がないのであればほっておけばよいはずだ。そうはいかないのが現実であるようだ。
また、比較的若い世代には民主化を望む人たちが大勢おり、だからこそ、「国家転覆」だの「体制に対する脅威」が問題になるのである。茅于軾らの戦いは世界中が注目すべきである。
2018.12.14
とくに、世界のスマートフォン市場で現在第2位にあり、5G(第5世代移動通信システム)においては遠からず世界一になるとみられているファーウェイ(華為)は、高性能のスマートフォンを通じて人間の行動にも影響しうる多彩かつ機微な情報をも取得することになる。そうすると、中国政府もファーウェイを通じて各国の情報を入手するという。
米国政府と議会が危機感を高めているのは当然であろう。
ファーウェイは民営企業だが、共産党の指導下にあり、また、設立者の任正非は元軍人であったことから政府との関係は緊密だとみられている(中国政府とファーウェイとの関係については、当研究所HPの2018.12.10付け「華為技術(ファーウェイ)の最高財務責任者の逮捕」をも参照されたい)。ファーウェイが得た情報は中国政府に流れないと断言できる人は、中国人を除けば事実上皆無であろう。
当然、5Gスマートフォンの規格化、規制などが必要となる。本稿においてはその問題は論じないが、情報が中国政府に筒抜けになることは米国のみならず、世界全体の問題である。
中国ではいわゆる「国進民退」の傾向が進んでおり、政府はそれに対する対策を強化しようと呼びかけているが、一方では私企業を政府の監督下に置いている。要するに、「国家資本主義化」が高じているのであり、今回の事件は、中国の国家資本主義的傾向と世界の自由主義市場経済の矛盾が激化しつつあることを示唆している。
中国政府がカナダ人であるマイケル・コブリグとマイケル・スパバを逮捕したことについて、世界中の多くの人は孟晩舟の逮捕と関係があると考える一方、中国政府はそれを認めないが、どちらであれ、2名のカナダ人を逮捕したことは中国の声望に傷をつけている。そのような「仕返し」すること、いわば力で相手をねじ伏せようとすることは中国政府らしいと多くの人は思っているのではないか。
中国で、官民を問わず孟晩舟に対する同情と支持の声が上がっていることは理解できるが、「仕返し」をしたり、力ずくで外交目的を達成しようとすることは認められない。
習近平氏は「中国の特色ある社会主義」の旗印を高く掲げ、欧米の言いなりにはならないと強い姿勢を見せているが、このような方法は中国の利益とならないこと、国際法と国際慣習に従うことが結局は中国の利益になることに早く気付くべきである。
カナダ当局は、孟晩舟の逮捕は米国の要請に基づいて行ったと説明しているようだが、そもそもカナダはどういう理由で米国の要請に応じたのか。米国がカナダに対して圧倒的な影響力があるのはだれでも知っているが、だからと言ってなんでも米国の要請に応じるのではない。カナダが米国の言いなりにならないことも広く知られている。
カナダは米国の引き渡し要求に応じるか、また中国に拘留されている2名のカナダ人の運命はどうなるか、世界の注目を浴びているが、カナダの悩みは逮捕の要請を受けた時点からあったはずである。孟晩舟の米国への引き渡し問題がどのようなかたちで決着するか注目される。
なお、今回の事件の背景にカナダへの中国からの移民問題があると指摘する声もある。カナダでは全人口の4.8%が東アジア系であり(その中で最も大きいのは中国系で4.5%くらいともいう)、とくにバンクーバーやオタワなどの都市では20%以上になっており、中国人にとって国際的な活動の拠点となっている。孟晩舟もバンクーバーに自宅を保有しており、今回、まずカナダへ渡航したのであった。
中国からの移民が顕著に増加しているのは事実であり、カナダ政府は移民政策を修正した。以前は、政府関連事業に80万カナダドル(約7500万円)を5年間、無利子で融資した場合、永住権を獲得できるプログラムが有り、これを利用しているのは半数が中国系であったが、カナダ政府は2015年2月、このプログラムを打ち切った。その理由は中国人移民が急増したからだと言われている。
一方、米国政府が国家安全保障を理由にファーウェイなどの活動に神経をとがらせているのはもっともだが、トランプ大統領としても考え直すべきことがある。今回の事件ではカナダの協力が必要となった。トランプ大統領は就任以来わが道を行く感じで、一国ずつ、取引で外交目的を達成しようとしてきた。そして中国から「覇権主義」と批判された。ともかく、このような国別取引は短期的に見れば効果的かもしれないが、どこかで矛盾をきたすのは避けられない。IT関連の事業のように国際性の強い問題については各国との協力がとくに必要である。
米国は国家安全保障のために、友好国と協力しつつ、複眼的で、かつ戦略性の高い外交姿勢で臨むべきである。
ファーウェイ事件から露呈した国際問題
カナダ当局によるファーウェイの孟晩舟CFOの逮捕は、直接的には中国、カナダ、米国との間の問題であるが、グローバルな意味合いもある。とくに、世界のスマートフォン市場で現在第2位にあり、5G(第5世代移動通信システム)においては遠からず世界一になるとみられているファーウェイ(華為)は、高性能のスマートフォンを通じて人間の行動にも影響しうる多彩かつ機微な情報をも取得することになる。そうすると、中国政府もファーウェイを通じて各国の情報を入手するという。
米国政府と議会が危機感を高めているのは当然であろう。
ファーウェイは民営企業だが、共産党の指導下にあり、また、設立者の任正非は元軍人であったことから政府との関係は緊密だとみられている(中国政府とファーウェイとの関係については、当研究所HPの2018.12.10付け「華為技術(ファーウェイ)の最高財務責任者の逮捕」をも参照されたい)。ファーウェイが得た情報は中国政府に流れないと断言できる人は、中国人を除けば事実上皆無であろう。
当然、5Gスマートフォンの規格化、規制などが必要となる。本稿においてはその問題は論じないが、情報が中国政府に筒抜けになることは米国のみならず、世界全体の問題である。
中国ではいわゆる「国進民退」の傾向が進んでおり、政府はそれに対する対策を強化しようと呼びかけているが、一方では私企業を政府の監督下に置いている。要するに、「国家資本主義化」が高じているのであり、今回の事件は、中国の国家資本主義的傾向と世界の自由主義市場経済の矛盾が激化しつつあることを示唆している。
中国政府がカナダ人であるマイケル・コブリグとマイケル・スパバを逮捕したことについて、世界中の多くの人は孟晩舟の逮捕と関係があると考える一方、中国政府はそれを認めないが、どちらであれ、2名のカナダ人を逮捕したことは中国の声望に傷をつけている。そのような「仕返し」すること、いわば力で相手をねじ伏せようとすることは中国政府らしいと多くの人は思っているのではないか。
中国で、官民を問わず孟晩舟に対する同情と支持の声が上がっていることは理解できるが、「仕返し」をしたり、力ずくで外交目的を達成しようとすることは認められない。
習近平氏は「中国の特色ある社会主義」の旗印を高く掲げ、欧米の言いなりにはならないと強い姿勢を見せているが、このような方法は中国の利益とならないこと、国際法と国際慣習に従うことが結局は中国の利益になることに早く気付くべきである。
カナダ当局は、孟晩舟の逮捕は米国の要請に基づいて行ったと説明しているようだが、そもそもカナダはどういう理由で米国の要請に応じたのか。米国がカナダに対して圧倒的な影響力があるのはだれでも知っているが、だからと言ってなんでも米国の要請に応じるのではない。カナダが米国の言いなりにならないことも広く知られている。
カナダは米国の引き渡し要求に応じるか、また中国に拘留されている2名のカナダ人の運命はどうなるか、世界の注目を浴びているが、カナダの悩みは逮捕の要請を受けた時点からあったはずである。孟晩舟の米国への引き渡し問題がどのようなかたちで決着するか注目される。
なお、今回の事件の背景にカナダへの中国からの移民問題があると指摘する声もある。カナダでは全人口の4.8%が東アジア系であり(その中で最も大きいのは中国系で4.5%くらいともいう)、とくにバンクーバーやオタワなどの都市では20%以上になっており、中国人にとって国際的な活動の拠点となっている。孟晩舟もバンクーバーに自宅を保有しており、今回、まずカナダへ渡航したのであった。
中国からの移民が顕著に増加しているのは事実であり、カナダ政府は移民政策を修正した。以前は、政府関連事業に80万カナダドル(約7500万円)を5年間、無利子で融資した場合、永住権を獲得できるプログラムが有り、これを利用しているのは半数が中国系であったが、カナダ政府は2015年2月、このプログラムを打ち切った。その理由は中国人移民が急増したからだと言われている。
一方、米国政府が国家安全保障を理由にファーウェイなどの活動に神経をとがらせているのはもっともだが、トランプ大統領としても考え直すべきことがある。今回の事件ではカナダの協力が必要となった。トランプ大統領は就任以来わが道を行く感じで、一国ずつ、取引で外交目的を達成しようとしてきた。そして中国から「覇権主義」と批判された。ともかく、このような国別取引は短期的に見れば効果的かもしれないが、どこかで矛盾をきたすのは避けられない。IT関連の事業のように国際性の強い問題については各国との協力がとくに必要である。
米国は国家安全保障のために、友好国と協力しつつ、複眼的で、かつ戦略性の高い外交姿勢で臨むべきである。
2018.12.10
中国外交部の報道官などは強く抗議する姿勢を見せているが、中国政府としてどのように受け止めているか必ずしも明確でない。日本の新聞(全紙ではない)は、逮捕の事実関係に主眼を置いて報道しているようだが、米国のNY Times は、習近平主席が困難な立場に置かれており、同人の政治的な立場と全国のエリート官僚に対する把握力が試されるテストとなっているとする報道を行っており(たとえば12月7日)、これを引用する各国の新聞は少なくない。
どちらの報道がよいか簡単には言えないが、それは別として、本件については一歩も二歩も踏み込んで考えておく必要があるだろう。
第1に、中国内には、習近平主席に対し、貿易戦争でも、また、孟晩舟の逮捕についてもより強い立場で臨むべきだとする声があるという。軍はその一つである。
一方、中国の裕福なエリート層は、貿易戦争のさらなる悪化や今回の逮捕事件が彼らの立場に悪影響を及ぼすことを恐れているという。彼らは米国内に巨額の資産を持っているからだ。
孟晩舟逮捕のタイミングも悪かった。習近平主席がトランプ大統領とブエノスアイレスで会談していたのと同じ日だった。
米国としては、有名中国人とはいえ、一私企業のCFOの逮捕を中国政府に事前に説明する必要はないと考えたのであろうが、中国側では、どくに習近平の指導力に疑義を抱く人にとっては、習主席はメンツをつぶされたと映るだろう。中国の外にもそのような見方はある。それもわからないではない。もっとも、習近平は事前に知らされていたという説もある。
第2に、中国が、鄧小平が残した遺訓とされる「韜光養晦」、すなわち、「爪を隠し、才能を覆い隠し、実力を蓄えて時期を待つ」の考えを放棄、ないし棚上げしたのは時期尚早であったという意見が出始めている。
習近平氏は「韜光養晦」を放棄すると述べたことはないが、就任以来、「中国の夢」を語り、「中国が米国と並ぶ大国である」ことをしきりに強調したことから「韜光養晦」は事実上棚上げしたとみられている。したがって、米中関係が悪化し、中国人の金持が心配するようになると習近平氏の大国主義は批判されるわけだ。
第3に、華為(ファーウェイ)は中国の民営企業の代表格である。その創始者である任正非は民間人であり、華為は民間資本で立ち上げられた。しかし、民営企業だといいきるには注釈が必要だ。華為は四川省副省長であった任の岳父に助けてもらって国有企業から大量の購入を受け、成長のきっかけを得たのであった。
さらに、もっと深刻なのは、昨年秋から、すべての民営企業に共産党の支部を設置することになったことである。だからと言って、華為が民営企業でなくなるわけではないが、従来よりも強い共産党の支配下に置かれることになるのは明らかだ。
華為技術(ファーウェイ)の最高財務責任者の逮捕
中国の通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)の孟晩舟(モン・ワンヂョウ)最高財務責任者(CFO)が、米国の要請を受けたカナダ当局により12月1日、バンクーバーで逮捕された。詳しい説明は行われていないが、米国の対イラン制裁に違反した疑いがかかっているという。米国はカナダに身柄の引き渡しを求めている。中国外交部の報道官などは強く抗議する姿勢を見せているが、中国政府としてどのように受け止めているか必ずしも明確でない。日本の新聞(全紙ではない)は、逮捕の事実関係に主眼を置いて報道しているようだが、米国のNY Times は、習近平主席が困難な立場に置かれており、同人の政治的な立場と全国のエリート官僚に対する把握力が試されるテストとなっているとする報道を行っており(たとえば12月7日)、これを引用する各国の新聞は少なくない。
どちらの報道がよいか簡単には言えないが、それは別として、本件については一歩も二歩も踏み込んで考えておく必要があるだろう。
第1に、中国内には、習近平主席に対し、貿易戦争でも、また、孟晩舟の逮捕についてもより強い立場で臨むべきだとする声があるという。軍はその一つである。
一方、中国の裕福なエリート層は、貿易戦争のさらなる悪化や今回の逮捕事件が彼らの立場に悪影響を及ぼすことを恐れているという。彼らは米国内に巨額の資産を持っているからだ。
孟晩舟逮捕のタイミングも悪かった。習近平主席がトランプ大統領とブエノスアイレスで会談していたのと同じ日だった。
米国としては、有名中国人とはいえ、一私企業のCFOの逮捕を中国政府に事前に説明する必要はないと考えたのであろうが、中国側では、どくに習近平の指導力に疑義を抱く人にとっては、習主席はメンツをつぶされたと映るだろう。中国の外にもそのような見方はある。それもわからないではない。もっとも、習近平は事前に知らされていたという説もある。
第2に、中国が、鄧小平が残した遺訓とされる「韜光養晦」、すなわち、「爪を隠し、才能を覆い隠し、実力を蓄えて時期を待つ」の考えを放棄、ないし棚上げしたのは時期尚早であったという意見が出始めている。
習近平氏は「韜光養晦」を放棄すると述べたことはないが、就任以来、「中国の夢」を語り、「中国が米国と並ぶ大国である」ことをしきりに強調したことから「韜光養晦」は事実上棚上げしたとみられている。したがって、米中関係が悪化し、中国人の金持が心配するようになると習近平氏の大国主義は批判されるわけだ。
第3に、華為(ファーウェイ)は中国の民営企業の代表格である。その創始者である任正非は民間人であり、華為は民間資本で立ち上げられた。しかし、民営企業だといいきるには注釈が必要だ。華為は四川省副省長であった任の岳父に助けてもらって国有企業から大量の購入を受け、成長のきっかけを得たのであった。
さらに、もっと深刻なのは、昨年秋から、すべての民営企業に共産党の支部を設置することになったことである。だからと言って、華為が民営企業でなくなるわけではないが、従来よりも強い共産党の支配下に置かれることになるのは明らかだ。
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