平和外交研究所

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2015.03.14

原発を危険にさらす無人飛行機ドローン

 無人飛行機ドローンが原発にとって危険なものとなりつつあるが、日本でそのことが十分伝えられているか疑問がある。
 2014年10月、フランスで原発の上空にドローンが侵入する事件が相次いで発生した。昨年12月21日付のThe Independent通信や2月24日付のニューズウィーク誌は、この事件を調べた英国の原子力専門家John Largeがつぎのように説明したと報道している。

○侵入事件は合計で13回あったが、そのうち5回は大西洋海岸からドイツとの国境の間の地域に広範囲に散在している原発において、数時間の間に一斉に起こっており、何らかの意図をもって計画的に行われた。
○この時使われたドローンは民間機だが、テロリストが試験的に使っている恐れは排除できない。事件に使われたドローンはヘリコプター式で、数十キロ飛行可能な強力なエンジンを搭載し、原発を照射する強い光線を発射する機会も積んでいた。カメラも装備していたと推定される。
○この他、パリでも正体不明のドローンが飛行しているのが目撃されている。また、同時飛行事件に先立って、Belleville-sur-Loireでは3人の男女が、インターネットで入手可能な、比較的簡単で100ユーロくらいのドローンを飛ばそうとして逮捕されたが、政治的意図はないことが判明し釈放された。Flamanvilleではアレーバ社の再処理施設の上空にもドローンが侵入した。
○英国でも電力需要の18%を賄っている16の稼働中原発が危険にさらされている。現存の原発はサイボーグ攻撃を想定していない。2014年中、英国の原子力施設で37件の警備ミスが起きており、抜本的な警備強化と原発の安全性診断を早急に行うよう求めたが、英政府は規制当局the Office for Nuclear Regulationに回しただけで自分たちで真剣に検討しようとしない。
○グリーンピース・フランスの要請で報告書はまとめ提出した。グリーンピースはこの報告書を公表していないが、政府は入手可能である(なお、Large 自身はグリーンピースの支持者でないと説明されている)。
○1月にフランスの原子力安全・規制局、仏防衛省と会う予定である。
○ドローンによるテロ攻撃のシナリオとしては、「まず、ドローンが外部電源を破壊し、次に緊急用ディーゼル発電機を破壊する。冷却電源を失った原子炉は30秒で炉心溶融を始め、放射性核分裂生成物が飛散する」ことが考えられる。また、内部の仲間と連携すれば、ドローンが爆弾を運ぶ必要はない。

 日本の原発も同様の危険にさらされているはずである。対策を強化する必要があるのはもちろんであるが、原発の脆弱性にかんがみると完全に防ぐことは可能か、大いに疑問である。
一方、ドローンの性能は急速に向上しており、今や高度1万フィート(約3千メートル)を飛行できるもの、映画ジュラシック・パークに出てくる翼竜ほど大きいものも出現している。コンピュータ制御も行われている。
 ドローンに対する需要は急増しており、日本政府はその普及に向けた特区を設ける検討を進めている。また、早急に強い規制を導入する必要性も認識されている。これら、比較的技術的な面では日本はよく対策を講じるであろう。
 しかし、問題はドローンを使用したテロ攻撃である。わずかな間違いも許されない原発においては違法に侵入してくるドローンは即座に撃ち落さなければならないが、それは可能か。有効な対策はほかにあるか。今後、従来に増してドローンの危険性に注意していく必要がある。
 なお、前述のニューズウィーク誌は、現状では、フランスのほとんどの原発はドローンを利用した攻撃に耐えられないので、閉鎖されるべきだと述べている。これは常識的には極論であろうが、問題意識の高さを表している。

2015.03.04

ネムツォフ暗殺とプーチン政権の姿勢

 ロシア政府がウクライナに介入したことなどを批判し、3月1日に反政府デモを呼びかけていたボリス・ネムツォフ氏(以下敬称略)が2月27日深夜、モスクワ市中心部の路上で殺害された。プーチン政権下ではセルゲイ・ユシェンコフ(2003年)、ユーリ・シェコチーヒン(2003年)、アンナ・ポリトコフスカヤ(2006年)、スタニスラフ・マルケロフ(2009年)、アナスタシア・バブロワ(2009年)、ナタリア・エステミロワ(2009年)など政治家、ジャーナリスト、人権活動家が暗殺されている。ロンドンでは2006年にアレクサンドル・リトビネンコ元情報将校が毒殺されている。
 事件発生後、ロシア政府の姿勢に各国の注目が集まった。プーチン大統領は犯行を非難し、特別の捜査チームを立ち上げ、みずから指揮するなど迅速に対応しているが、各国の新聞は、と言っても見たのは数えるほどであるが、プーチン政権に批判的な報道をしている。ロシア政府を直接批判することはできないが、次々に暗殺事件が起こる政治状況を改善できないことはロシア政府にとっても問題だという角度から論じている。
 ロシア政府を安易に批判することはもちろん差し控えなければならない。ネムツォフがロシア政府のウクライナ政策を批判するのは正しかったか、まちがっていたか、本当のことは簡単には分からない。そういう意味では西側の報道にも自制を求めたいところだが、しかし、ロシア政府に同情する気にはなれない。
 大きく言って二つの理由があり、その一つは前述した、暗殺事件が次々に起こるのに有効な対策を取れていないからである。
もう一つは、ロシア政府は、ネムツォフのような、政府に批判的な人たちを擁護しなかったどころか、ネムツォフが率いていた政党を非合法化することによりむしろ危険な状況に追いやったからである。テロリストにとっては、野党の指導者より非合法活動をするネムツォフのほうが攻撃しやすかっただろう。つまり、ロシア政府の決定は結果的に今回の事件発生を助長した面があったのではないかということである。
 ウクライナの親ロシア派を助けているロシア軍は、少なくともその一部は、政府の方針に逆らってでも民族主義的な行動に走ったという点で、ネムツォフを殺害したテロリストと共通している。平たく言えば、偏狭な民族主義的衝動に駆られて、してはいけないことをしてしまったということであるが、いずれの場合もロシア政府、プーチン大統領の姿勢は問われる。
 ロシア政府としては民族主義的主張に乗るのは即効性のある施策かもしれないが、ネムツォフのような人の存在と行動は、ロシアにおいてよりよい政治を求める理性と勇気があることの証であり、かりに政府にとって都合の悪いことを言ってもロシアという国にとっての貢献は顕著である。もしネムツォフのような人がいなければロシアのイメージは非常に悪くなっていたであろう。
 ロシア政府がネムツォフのような人を擁護するか否か、反対する者に対してどのような態度で臨むかは、ロシアの民主主義を測る尺度となる。これは国際社会にとってのみならず、ロシアにとっても極めて重要なことである。反対する野党を非合法化したことは政府批判の強権的封じ込め、言論の封殺であり、ロシア政府は民主化とは逆の方向に向いていたのではないか。
 3月2日付の英フィナンシャル・タイムズ紙は、「ウクライナを巡って国際的な緊張が高まる中、欧米諸国はロシアから手を引いて孤立させる誘惑に駆られるかもしれない。しかし、欧米諸国がそうした行動をとれば、ネムツォフ氏の命を賭けた仕事や他のロシアの民主運動家に対してひどい仕打ちをすることになる。
 旧ソ連時代と同様、ロシアの反体制派は欧米諸国の民主主義を希望の源と見ている。欧米諸国は、現政権に制裁を加えつつも、可能な限りロシアの人々との係わりを絶つべきではない。」と書いている。
 ロシアは日本にとってのみならず、世界中の多くの国々にとっても大切な隣国である。

2015.02.13

ウクライナの停戦合意とロシアの立場

ウクライナ東部問題に関するウクライナ、ロシア、フランス、ドイツの首脳会談は16時間という異例の長さとなったが、2月12日、ようやく合意に達して終了した。昨年9月5日にいったん停戦について合意したが、それは守られなかった。今回の合意は2月15日の午前零時を以て停戦するということ自体は明確であるが、ウクライナ政府と親ロシア派の境界線やウクライナ東部の自治など不明確であり、今回の合意が遵守される保証はなく、戦闘が再開する可能性は排除しえない。
ウクライナにとって最大の問題は、親ロシア派に対するロシアからの武器や兵員などの越境軍事協力を中止することについてロシアから明確な約束を取り付けられなかったことである。多数の民間人犠牲者を出している東部ウクライナでの戦闘を停止することは重要な合意であり、そのことにケチをつけるのではないが、ロシアからの軍事協力問題は交渉して打開が図れるような問題でなかった。ウクライナと米欧が、ロシアからの越境を明確に認識し、中止を要求しても、ロシアはそのようなことをしていないと言い張ってきた。これは主権国家としての体面に関わることであり、そういう他ない。このような姿勢は今後もくすぶり続けるだろう。停戦が遵守されている限りは表面化しないとしても、何らかの理由で情勢が再度不安定化するとその問題が表面化することは必至である。
あえて今次会議の状況を想像してみると、ロシアは越境軍事協力を中止すべきであるという要求を突き付けられてもそれには直接答えず、「米国はウクライナに対して武器を供与すると言っている。そのような脅迫の下でロシア系住民の安全は著しく脅かされている」「ウクライナ政府がロシア系住民の声を聴こうとしないこと、自治を認めないことが問題だ」などと反論したものと思われる。もちろん、ウクライナ側から見れば、これはロシアの言い逃れ、論点をそらすことに他ならないが、独仏などとしてはロシアの言い分を完全に否定することは困難であっただろう。つまり、ロシアは越境しているか否かの議論を表面上戦わせることは回避しつつ、実質面でウクライナ側の弱点を突こうとしたのである。
ともかく、ロシアは越境軍事協力について何も約束しないで停戦を実現させ、米国のウクライナへの武器供与や制裁強化の脅しも肩透かしで逃れた。しかも、9月5日以来拡大した親ロシア派の支配地域をウクライナ政府の管理下にもどすこともせず、一種の緩衝地帯としたことは会談の成果であった。逆にウクライナにとってはそれだけ不満であったが、停戦を実現しなければならないという大きな必要性の前には、ロシアに対する要求を控えざるをえなかったと思われる。マラソン会談終了後のプーチン大統領の笑顔とポロシェンコ・ウクライナ大統領の苦虫をかみつぶしたような表情は対照的であった。
 独仏がこのような合意で手を打たなければならなかったのは、ロシアとの対立が激化し、ウクライナの紛争が米ロの代理戦争になると双方の犠牲があまりにも大きくなり、ひいては自国の利益も損なわれることになる恐れがあったからであろう。そしてウクライナは、EUからの支援の継続と引き換えに不満を抑えざるをえなかったものと思われる。今次会談と並行してIMFの対ウクライナ追加支援が発表されたのは象徴的である。大局的に見れば、ウクライナがEUに接近する姿勢は2年くらい前とははるかに明確になり、もはや動かしがたくなっている。ウクライナにもこのような認識があるからこそ今回の合意についての不満を抑制することができたと考えられる。
 今次第2の合意においては、プーチン大統領はたしかに笑顔で会談を締めくくることができた。「一本取った」とも言われているが、はたしてロシアの立場が改善されたか、疑問である。石油価格の下落などによるロシア経済の停滞は一向に改善されていないし、西側による制裁はまだ継続している。プーチン大統領にとって、親ロシアからの援助要請、それに対するロシア軍部の同情と援助要求は今後も悩ましい問題であり続けると思われる。プーチン大統領は捨て身の技で一本決めたが、決勝戦ではなかったはずである。

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