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2018.12.10

華為技術(ファーウェイ)の最高財務責任者の逮捕

 中国の通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)の孟晩舟(モン・ワンヂョウ)最高財務責任者(CFO)が、米国の要請を受けたカナダ当局により12月1日、バンクーバーで逮捕された。詳しい説明は行われていないが、米国の対イラン制裁に違反した疑いがかかっているという。米国はカナダに身柄の引き渡しを求めている。

 中国外交部の報道官などは強く抗議する姿勢を見せているが、中国政府としてどのように受け止めているか必ずしも明確でない。日本の新聞(全紙ではない)は、逮捕の事実関係に主眼を置いて報道しているようだが、米国のNY Times は、習近平主席が困難な立場に置かれており、同人の政治的な立場と全国のエリート官僚に対する把握力が試されるテストとなっているとする報道を行っており(たとえば12月7日)、これを引用する各国の新聞は少なくない。
 どちらの報道がよいか簡単には言えないが、それは別として、本件については一歩も二歩も踏み込んで考えておく必要があるだろう。

 第1に、中国内には、習近平主席に対し、貿易戦争でも、また、孟晩舟の逮捕についてもより強い立場で臨むべきだとする声があるという。軍はその一つである。
一方、中国の裕福なエリート層は、貿易戦争のさらなる悪化や今回の逮捕事件が彼らの立場に悪影響を及ぼすことを恐れているという。彼らは米国内に巨額の資産を持っているからだ。
孟晩舟逮捕のタイミングも悪かった。習近平主席がトランプ大統領とブエノスアイレスで会談していたのと同じ日だった。
米国としては、有名中国人とはいえ、一私企業のCFOの逮捕を中国政府に事前に説明する必要はないと考えたのであろうが、中国側では、どくに習近平の指導力に疑義を抱く人にとっては、習主席はメンツをつぶされたと映るだろう。中国の外にもそのような見方はある。それもわからないではない。もっとも、習近平は事前に知らされていたという説もある。

 第2に、中国が、鄧小平が残した遺訓とされる「韜光養晦」、すなわち、「爪を隠し、才能を覆い隠し、実力を蓄えて時期を待つ」の考えを放棄、ないし棚上げしたのは時期尚早であったという意見が出始めている。
習近平氏は「韜光養晦」を放棄すると述べたことはないが、就任以来、「中国の夢」を語り、「中国が米国と並ぶ大国である」ことをしきりに強調したことから「韜光養晦」は事実上棚上げしたとみられている。したがって、米中関係が悪化し、中国人の金持が心配するようになると習近平氏の大国主義は批判されるわけだ。

 第3に、華為(ファーウェイ)は中国の民営企業の代表格である。その創始者である任正非は民間人であり、華為は民間資本で立ち上げられた。しかし、民営企業だといいきるには注釈が必要だ。華為は四川省副省長であった任の岳父に助けてもらって国有企業から大量の購入を受け、成長のきっかけを得たのであった。
さらに、もっと深刻なのは、昨年秋から、すべての民営企業に共産党の支部を設置することになったことである。だからと言って、華為が民営企業でなくなるわけではないが、従来よりも強い共産党の支配下に置かれることになるのは明らかだ。

2018.12.04

中国の国家資本主義

 中国では最近、「国進民退」、すなわち国有企業が力を増し、民営企業が弱体化する傾向が問題になっており、そのような傾向を批判する意見と是認する意見に分かれている。ただ見解が分かれているだけでなく、その議論は激しくなっており、習近平主席が介入しなければ収まらない事態にまで立ち至っているという(当研究所HP 2018.11.29「中国の、外には見えない緊張感」)。

 国有企業が強くなること自体は何ら問題ないかもしれないが、その結果、あるいはその影響を受け私企業が不利益を被ることになれば、そうは言っておれなくなる。

 また、国際的には、各国の企業は中国の企業と同等の条件で競争できなくなり、自由経済を重視する現在の貿易ルールを見直さなければならなくなる可能性もある。WTOは改革が必要だとの主張が強くなっているのはその一つの表れだ。

 中国政府は、「国進民退」が進むのは問題であり、民営企業の発展が重要だという立場であり、習近平主席もくりかえしそのように表明しているが、実際にはどのように考えているのかよくわからない面がある。

 中国政府は最近、「中国共産党支部工作条例(試行)」を交付した。さる11月25日の新華社が、「最近」公布されたと報道したものだ。これにより、民営企業や外資系企業を含むすべての企業に「党支部」の設置が義務付けられた。
 その意味について、以前から民営企業にも共産党員がいたので特に新しい規則でないとする意見もあるが、それはお決まりの公式見解であろう。この条例が、企業における共産党の統制を強化するものであることは明らかである。11月30日付の『多維新聞』は、もし以前と変わらないのであれば、なぜわざわざ新しい規則を作ったのか、と指摘している。形式的には疑問だが、実際には反論だ。

 中国政府としては、民営企業が力をつけているのは歓迎したいが、中国経済の成長が鈍化する中で民営企業は必ずしも中国の利益になっていない、もっと中国に貢献すべきだという願望があるのであろう。この種の話において女優のファン・ビンビンの脱税事件が言及されるのも、中国政府が経済成長の鈍化と国家収入の減少に神経をとがらせているからだろう。

 さらに、前述の『多維新聞』は、「中国共産党支部工作条例(試行)」とともに、アリババの馬雲会長が共産党員であったことも中国では注目されているとしている。これも不思議な感じがすることである。民営企業と言っても共産党と密接なのは当然だと中国政府は言いたいのだろうか。
 ともかく、民営企業のチャンピオンである同人は、「国進民退」をめぐってもやもやした雰囲気がある中でどのような立場にあるのか、興味をそそられる。
 馬雲氏は、中国の「教師の日」である9月10日、公開書簡の中で、1年後のアリババ創立20周年、すなわち2019年9月10日にグループの会長を辞職し、現職の張勇CEOを後釜に据えると発表した。今後は公益と教育に専念し、中小企業、若者、女性の発展を支援するという。これだけでは「国進民退」と馬雲の会長辞職とは関係なさそうだが、本当にそうなのか、真相はもう少し時間をかけて見ていかなければ分からない。

 やや飛躍気味かもしれないが、中国の国家資本主義と世界の自由主義経済の対立は一歩ずつ深まっていると思われてならない。本当は、G20などの場でこの問題が議論されればよいのだが、今は、米国の保護主義に主たる関心が向いている。残念なことである。

2018.11.29

中国の、外には見えない緊張感

 最近、中国の政治状況は緊張感が増しているという見方がある。危機的状態に陥っているというのではない。かねてから、中国崩壊論と呼ばれる言論が出ては消え、消えては出ていたが、そのようなものではなさそうだ。中国の政治体制は基本的には強固であり、民主化運動の爆発を抑える武装警察は安泰だ。
 問題は中国共産党の官僚主義にある。これまで目覚ましい経済発展を支えてきたのは官僚だが、腐敗で国家に大損害を与えているのも同じ官僚だ。当然、共産党には厳しい目が注がれる。
 民主化運動が爆発することはなさそうだが、官僚や格差に対する不満は内に向かって沈殿していく。中国がかかえる病根は根が深そうだ。

〇11月21日付の『多維新聞』(在米の中国語新聞)の論評。

「2018年以来、中国の内外の環境は不安定化している。経済成長の鈍化、将来への不安など新旧の問題が集中的に噴出した感がある。
 
 中米貿易戦争はさらに激化する傾向にある。経済への影響だけでなく、外交面でも従来の戦略・方針に疑問が生じている。
不安感は臨界点に近づいている。何か小さいことでも、それがきっかけとなって大問題に発展することがある。

「国進民退論」「重慶大学入試政治審査問題」「メディア規制のさらなる強化」などは社会の感情的爆発に発展する危険がある。いずれも習近平主席が介入しないと収まらないのは問題だ。
(注 「国進民退」とは国有企業が強くなり、民間企業が弱くなるという意味である。
   「重慶大学入試政治審査問題」とは、11月初旬、重慶市の大学入試において「政治審査」、つまり政治傾向が審査の参考とされることとなって始まった紛糾である。)

 中国を支え、動かしている実務官僚に問題が発生している。
 第1に、実務官僚は中央の政治を見ながら仕事をし、あるいは手を抜くなどしている。さる7月に起こった「梁家河大学問」の研究がその例である。「梁家河」はかつて習近平が7年間滞在した場所であり、現在全国の注目を浴びている。陝西省の社会科学連合会は最近「梁家河」をキーワードとして、習近平思想との関連を研究することを呼びかけた。そのため官僚たちは中央の政治的雰囲気を探ろうとして躍起になっている。しかし、このような傾向に対し、逆に、個人崇拝に対する激しい批判が起こり、大問題となった。
 
 第2に、官僚は「左寄り」を装う保身傾向を生んでいる。「右寄り」と見られると危険だからだ。

 第3に、「出すぎると批判される恐れがあるので、何もしないほうがよい」という傾向を生んでいる。同じく保身のためだ。

 これらは官僚に限ったことでないが、実務を担う彼らの間でそのような傾向が生じると影響は大きい 中央の政策も正しく実行されなくなる。「官僚は新しい混乱の原因になっている」と指摘する者もいる。」

〇文化革命の再評価
 文革において盛んに使われた大字報(壁新聞)を積極的に評価しなおそうとする動きがある。

 北京ではさる11月17日、数十枚の新しい大字報が現れた。地方でも同様のことが起こっており、たとえば、河南省鄭州の人民広場でも多数の大字報が張り出された。それには「鄭州毛沢東思想宣伝隊」の署名が入っていた(注 文革時にいわゆる紅衛兵などはこのような形で活動した。今でも恐ろしい記憶として残っている)。
 この夏、深圳の工場でも左派系の労働者がいわゆる「維権(権利擁護)」を掲げ、共産党の官僚に反対するデモ行為を行った。鄭州毛沢東思想宣伝隊も参加した。

 文革を再評価すべきだとする運動は歴史教科書にも影響を及ぼし、文革が混乱をもたらし、破壊的行動であったなどの傾向を薄める修正が行われた(場所は鄭州か)。

 文革を再評価する人たちは、腐敗の蔓延を問題視し、汚職官僚の非合法的所得を公にしようなどと呼び掛けている。
 
 中国の一部では「ポスト鄧小平」から毛沢東に回帰する傾向が出てきており、「揚毛抑鄧」とか、「非鄧小平化」などと呼ばれている。ただし、中国の状況は複雑であり、いまのところこのような傾向が全国に満ちているわけではない。

〇北京大学での学生逮捕
 最近(『多維新聞』11月17日による)、警察が北京大学に入り、深圳の「維権」運動に参加した学生を逮捕したので大騒ぎになった。北京大学党委員会書記に新しく就任した邱水平が、学生に不穏な動きがあるとして強くコントロールしはじめた結果である。北京大学の党委員会は「巡査弁公室」と「内部統制管理弁公室」を設け、統制を強化している。インターネット上で学生が発表する記事も監視している。

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