2017 - 平和外交研究所 - Page 36
2017.03.20
THAADの韓国配備をめぐって韓国と中国の関係が悪化している。その影響は中国から韓国への旅行にも表れ、中国の国家観光局(中国国家旅游局)は3月15日から韓国への団体観光旅行を全面的に停止してしまった。韓国の『ハンギョレ新聞』や『朝鮮日報』などが関連の報道を行っている。
『ハンギョレ新聞』の取材に対し北京の各旅行社は、「国家観光局の指示により韓国行きのツアーをすべて停止した。もしどうしても行きたければ、自分で航空券やホテルの手配をするしかない。中国はどこでも同じ扱いになっている。韓国への旅行について旅行社に問い合わせがくれば、他の場所にしたほうがよいと勧めている。各旅行社では韓国関係の要員を日本や東南アジアへ向けている」と回答した由。
韓国の済州島は中国人に人気がありこれまで年間3百万の旅行者が訪れていた。今年も韓国のある旅行社は、3月11日までは毎日90人受け入れていたが、12日以降ゼロになったと嘆いているそうだ。
中国の国家観光局は、「部」(日本の省庁)でなく、一ランク下の国務院直属機関であり(税関、体育総局、統計局などと同列)、国務院の決定した方針を実施する機関であるが、観光市場を拡大させるための戦略計画の策定、各国の観光関連機関との協議、中国に設立する各国の観光事務所の審査と認可などを行う。また、海外に観光局の事務所を設置する。
中国政府は中国人の出入国に対して強い影響力を持っており、それを背景に国家観光局の権限は日本の観光庁(国土交通省の外局)と比べはるかに大きいと見てよいだろう。
中国は戦略的行動、すなわち、目標を立てその実現のために資源、手段を集中的に投入することが得意である。中国共産党は不利な条件の下で日本や国民党と戦うのにそうすることが必要だったのだ。
目標が大きすぎると達成は困難になるが、明確に、しかも達成可能な目標であれば、成功する可能性が高くなる。トランプ大統領に「一つの中国」を認めさせたのは成功した例であった。
韓国への旅行客を禁止ないし制限するのは何を目標としているのか。THAADの配備を止めさせようとしていることは容易にうかがわれるが、それは戦略的行動に適しているか疑問である。韓国としては米国との関係、さらには北朝鮮との関係から、中国が嫌がっても引き下がるわけにはいかないだろうからである。
目標を達成できなければ中国のしたことはいやがらせに終わる危険が高い。いたずらに韓国民を刺激することにもなる。
なお、中国は2014年、テロの脅威が理由で中国人がフィリピンへ渡航するのを自粛するよう勧告していた。実際には、アキノ前大統領の時代、フィリピンが南シナ海問題について国際仲裁裁判所へ提訴したことに反発し、フィリピンへ圧力を加えるためではないかと言われていた。
しかるに、中国は2016年10月、ドゥテルテ大統領が訪中したのをきっかけに勧告を解除した。同大統領はアキノ前大統領と違って対中関係を重視する姿勢をとっている。中国はそのような姿勢を積極的に評価したのではないか。
(短文)中国の戦略的行動は韓国にも向いている
THAADの韓国配備をめぐって韓国と中国の関係が悪化している。その影響は中国から韓国への旅行にも表れ、中国の国家観光局(中国国家旅游局)は3月15日から韓国への団体観光旅行を全面的に停止してしまった。韓国の『ハンギョレ新聞』や『朝鮮日報』などが関連の報道を行っている。
『ハンギョレ新聞』の取材に対し北京の各旅行社は、「国家観光局の指示により韓国行きのツアーをすべて停止した。もしどうしても行きたければ、自分で航空券やホテルの手配をするしかない。中国はどこでも同じ扱いになっている。韓国への旅行について旅行社に問い合わせがくれば、他の場所にしたほうがよいと勧めている。各旅行社では韓国関係の要員を日本や東南アジアへ向けている」と回答した由。
韓国の済州島は中国人に人気がありこれまで年間3百万の旅行者が訪れていた。今年も韓国のある旅行社は、3月11日までは毎日90人受け入れていたが、12日以降ゼロになったと嘆いているそうだ。
中国の国家観光局は、「部」(日本の省庁)でなく、一ランク下の国務院直属機関であり(税関、体育総局、統計局などと同列)、国務院の決定した方針を実施する機関であるが、観光市場を拡大させるための戦略計画の策定、各国の観光関連機関との協議、中国に設立する各国の観光事務所の審査と認可などを行う。また、海外に観光局の事務所を設置する。
中国政府は中国人の出入国に対して強い影響力を持っており、それを背景に国家観光局の権限は日本の観光庁(国土交通省の外局)と比べはるかに大きいと見てよいだろう。
中国は戦略的行動、すなわち、目標を立てその実現のために資源、手段を集中的に投入することが得意である。中国共産党は不利な条件の下で日本や国民党と戦うのにそうすることが必要だったのだ。
目標が大きすぎると達成は困難になるが、明確に、しかも達成可能な目標であれば、成功する可能性が高くなる。トランプ大統領に「一つの中国」を認めさせたのは成功した例であった。
韓国への旅行客を禁止ないし制限するのは何を目標としているのか。THAADの配備を止めさせようとしていることは容易にうかがわれるが、それは戦略的行動に適しているか疑問である。韓国としては米国との関係、さらには北朝鮮との関係から、中国が嫌がっても引き下がるわけにはいかないだろうからである。
目標を達成できなければ中国のしたことはいやがらせに終わる危険が高い。いたずらに韓国民を刺激することにもなる。
なお、中国は2014年、テロの脅威が理由で中国人がフィリピンへ渡航するのを自粛するよう勧告していた。実際には、アキノ前大統領の時代、フィリピンが南シナ海問題について国際仲裁裁判所へ提訴したことに反発し、フィリピンへ圧力を加えるためではないかと言われていた。
しかるに、中国は2016年10月、ドゥテルテ大統領が訪中したのをきっかけに勧告を解除した。同大統領はアキノ前大統領と違って対中関係を重視する姿勢をとっている。中国はそのような姿勢を積極的に評価したのではないか。
2017.03.17
米新政権が北朝鮮について新たな政策が必要だと考え、検討を進めているのはよいことだが、問題は新政策の内容だ。
「過去20年間は失敗だった」と言うからには、1990年代半ばからのことを問題にしているわけだが、そのころから失敗であったと簡単に片づけることはできない。
90年代半ばは北朝鮮がNPTから脱退して核開発を進め始めたことが問題になったときであり、クリントン政権下の米国は日本や韓国などと朝鮮半島エネルギー開発機構 (KEDO)を設立して北朝鮮に核開発を放棄させようと試みた。また、2003年からは6者協議を行った。しかし、北朝鮮は開発を継続し、2006年に初の核実験を行った。2016年には水爆実験も行った。
たしかに、90年代半ばからさまざまなことが試みられたが、北朝鮮の核開発を放棄させることは成功していない。
その意味ではティラーソン国務長官の発言はもっともだが、クリントン政権は北朝鮮の核開発問題に真正面から取り組んだ。しかし、6者協議から米国は韓国、中国、ロシアおよび日本と共同で取り組むようになり、なかでも中国の北朝鮮に対する影響力に頼るようになった。つまり、米国の姿勢は、自ら主体的に北朝鮮と交渉したクリントン時代と中国に頼ったブッシュ・オバマ時代とでは非常に違っているのである。
トランプ政権が北朝鮮政策を再検討しているのは積極的に評価できるが、中国に頼ることが変わらなければ、新政策も二番煎じになるだろう。しかるに、「過去の20年間を失敗だった」と言っているのを聞くと、中国に頼ることへの反省は見えてこない。ティラーソン国務長官は上院でも中国が北朝鮮に対する働きかけを強くすることが重要であると述べており、また、岸田外相との会談後の記者会見でも「中国の役割が極めて重要だ」と発言している。
反省すべきは、過去16年間の北朝鮮政策であり、中国に頼ることの限界である。今後も中国の協力を期待するのは結構だが、米国は自ら北朝鮮の非核化に取り組み、直接北朝鮮と交渉すべきである。
(短評)ティラーソン国務長官の北朝鮮政策
ティラーソン国務長官は16日、岸田外相と会談後の記者会見で、「北朝鮮に対して非核化を求めた過去20年間の政策は失敗だった」と認めた。さらに「高まる脅威に対処する新たな方策が必要だ」と述べ、トランプ政権が北朝鮮政策の見直しをしていることを明らかにした。米新政権が北朝鮮について新たな政策が必要だと考え、検討を進めているのはよいことだが、問題は新政策の内容だ。
「過去20年間は失敗だった」と言うからには、1990年代半ばからのことを問題にしているわけだが、そのころから失敗であったと簡単に片づけることはできない。
90年代半ばは北朝鮮がNPTから脱退して核開発を進め始めたことが問題になったときであり、クリントン政権下の米国は日本や韓国などと朝鮮半島エネルギー開発機構 (KEDO)を設立して北朝鮮に核開発を放棄させようと試みた。また、2003年からは6者協議を行った。しかし、北朝鮮は開発を継続し、2006年に初の核実験を行った。2016年には水爆実験も行った。
たしかに、90年代半ばからさまざまなことが試みられたが、北朝鮮の核開発を放棄させることは成功していない。
その意味ではティラーソン国務長官の発言はもっともだが、クリントン政権は北朝鮮の核開発問題に真正面から取り組んだ。しかし、6者協議から米国は韓国、中国、ロシアおよび日本と共同で取り組むようになり、なかでも中国の北朝鮮に対する影響力に頼るようになった。つまり、米国の姿勢は、自ら主体的に北朝鮮と交渉したクリントン時代と中国に頼ったブッシュ・オバマ時代とでは非常に違っているのである。
トランプ政権が北朝鮮政策を再検討しているのは積極的に評価できるが、中国に頼ることが変わらなければ、新政策も二番煎じになるだろう。しかるに、「過去の20年間を失敗だった」と言っているのを聞くと、中国に頼ることへの反省は見えてこない。ティラーソン国務長官は上院でも中国が北朝鮮に対する働きかけを強くすることが重要であると述べており、また、岸田外相との会談後の記者会見でも「中国の役割が極めて重要だ」と発言している。
反省すべきは、過去16年間の北朝鮮政策であり、中国に頼ることの限界である。今後も中国の協力を期待するのは結構だが、米国は自ら北朝鮮の非核化に取り組み、直接北朝鮮と交渉すべきである。
2017.03.14
「戦闘」があると判断すべきか否かについては、現地の部隊では「戦闘」が行われているという認識であり、それを記した日誌があるが、政府はごく最近に至るまでそのことを説明しなかった、つまり、事実と異なる説明をしていた。このいきさつに関し国会では激しい議論が行われているが、どのような形で収拾されるのか、よくわからない。
ただ、一国民としても考えておくべきことがある。南スーダンの状況を「戦闘」と呼ぶか、呼ぶべきでないかはともかくとして、自衛隊の部隊が危険を覚える状況にあったことは明確になっている。しかし、国連は、だからと言ってPKO活動を止めるとはなかなか言わない、平和維持活動の要件が失われたことをなかなか認めようとしないのが現実である。それには国連としての立場も悩みもあるが、PKO活動を重視する日本として独自の判断があってよいと思う。つまり、国連の基準では停戦が崩れていない場合でも日本としては別の判断を主張してよいと思う。
自衛隊を撤収するに際しても、勝手に引き上げるのではなく、PKOの最高司令官である国連事務総長の許可を得て引き上げるのだが、それは比較的技術的なことであり、日本が撤収を決めれば司令官たる国連事務総長が拒否することはない。
問題は、現地の状況が南スーダンのように微妙な情勢にあって判断が分かれる場合だ。PKOは本来和平・停戦が成立している場合に行われる活動であり、だからこそ日本としてこれに参加しても憲法に触れることはない。憲法は国際紛争に日本が巻き込まれることを禁止しているからである。
しかし、日本政府は、憲法の下で「自衛」の行動を認めることになったいきさつから、自衛隊は外国へ派遣できない(自衛でなくなるから)と考え、PKOについても非常に限定的に認めてきた(外国へ派遣するので)。このような解釈は政府として変更は難しいようだが、しかし、PKOについては憲法は禁止していないことを正面から認めるべきだと思う。
そのような理論構成をすべきか否かを検討するのに、南スーダンでのPKOへの自衛隊派遣は重要な事例である。今後も日本はPKOへの参加を求められるだろうし、積極的に参加すべきだ。そのためにもこの際問題点を徹底的に洗い出すべきだ。
そのような観点からみると、今回の政府の発表は物足りない。問題となりうること、国会で批判される恐れのあることはいっさい口をつぐんでいるのではないか。将来の日本の国際貢献のためにも、政府には工夫して論点を国民に分かりやすい形で説明してほしい。
(短評)自衛隊の南スーダンからの撤退
3月10日、日本政府は南スーダンのPKOに派遣している自衛隊部隊を撤収すると発表した。その理由については、このPKOへの派遣期間が5年になること、日本の部隊が担当している施設整備が一定の区切りをつけられること、幹線道路の整備に貢献してきたことなどをあげているが、かねてから問題になっている現地の状況、とくにPKOの条件である和平・停戦が崩れているのではないかという問題、国会で議論されている言葉では、「戦闘」が行われているのではないかという問題については何も言及しなかった。「戦闘」があると判断すべきか否かについては、現地の部隊では「戦闘」が行われているという認識であり、それを記した日誌があるが、政府はごく最近に至るまでそのことを説明しなかった、つまり、事実と異なる説明をしていた。このいきさつに関し国会では激しい議論が行われているが、どのような形で収拾されるのか、よくわからない。
ただ、一国民としても考えておくべきことがある。南スーダンの状況を「戦闘」と呼ぶか、呼ぶべきでないかはともかくとして、自衛隊の部隊が危険を覚える状況にあったことは明確になっている。しかし、国連は、だからと言ってPKO活動を止めるとはなかなか言わない、平和維持活動の要件が失われたことをなかなか認めようとしないのが現実である。それには国連としての立場も悩みもあるが、PKO活動を重視する日本として独自の判断があってよいと思う。つまり、国連の基準では停戦が崩れていない場合でも日本としては別の判断を主張してよいと思う。
自衛隊を撤収するに際しても、勝手に引き上げるのではなく、PKOの最高司令官である国連事務総長の許可を得て引き上げるのだが、それは比較的技術的なことであり、日本が撤収を決めれば司令官たる国連事務総長が拒否することはない。
問題は、現地の状況が南スーダンのように微妙な情勢にあって判断が分かれる場合だ。PKOは本来和平・停戦が成立している場合に行われる活動であり、だからこそ日本としてこれに参加しても憲法に触れることはない。憲法は国際紛争に日本が巻き込まれることを禁止しているからである。
しかし、日本政府は、憲法の下で「自衛」の行動を認めることになったいきさつから、自衛隊は外国へ派遣できない(自衛でなくなるから)と考え、PKOについても非常に限定的に認めてきた(外国へ派遣するので)。このような解釈は政府として変更は難しいようだが、しかし、PKOについては憲法は禁止していないことを正面から認めるべきだと思う。
そのような理論構成をすべきか否かを検討するのに、南スーダンでのPKOへの自衛隊派遣は重要な事例である。今後も日本はPKOへの参加を求められるだろうし、積極的に参加すべきだ。そのためにもこの際問題点を徹底的に洗い出すべきだ。
そのような観点からみると、今回の政府の発表は物足りない。問題となりうること、国会で批判される恐れのあることはいっさい口をつぐんでいるのではないか。将来の日本の国際貢献のためにも、政府には工夫して論点を国民に分かりやすい形で説明してほしい。
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