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2022.01.24

北朝鮮の外交展望

 北朝鮮の朝鮮中央通信は1月20日、朝鮮労働党中央委員会政治局会議が19日に開かれ、「暫定的に中止していた全ての活動を再稼働する問題を、迅速に検討するよう当該部門に指示した」と報道した。北朝鮮は今月に入ってから5日、11日、14日、17日にミサイルの発射実験を行ったばかりであった。

 度重なるミサイルの発射実験や新たな核実験の示唆は、東アジアの平和と安全にとって大きな脅威となる。経済的に危機的な状況にある北朝鮮は、各国との関係を一層悪化させるようなことをなぜするのか、不可解である、というのが多くの国の見方であり、北朝鮮は危険な瀬戸際外交を行っていると非難される。だが、北朝鮮の考えを知る努力も必要であろう。北朝鮮としては以下のように見ているのではないかと思われる。

〇北朝鮮にとって米国との関係がどの国よりも重要であることは今後も変わらない。韓国とはいろいろな事情が絡んでおり、文在寅政権は北朝鮮に対して友好的姿勢をみせるが、北朝鮮として最も期待する制裁の解除には役立たない。韓国では3月9日に選挙が行われ、新大統領となるが、新政権は制裁解除に役立つかが最重要の問題である。

〇バイデン政権が成立以来の北朝鮮政策を維持する限り、新しい状況を作り出すことは困難である。バイデン大統領は、表舞台では北朝鮮のミサイル発射実験を非難しつつ、国務省の朝鮮問題専門家などに北朝鮮との交渉を進展させる道を非公式に探らせているが、その方法は官僚重視のボトムアップ型である。交渉を進展させるには米国としての政治的な意思を示すことが必要である。

〇バイデン政権は、成立以来中国に対して厳しい姿勢を取ってきたが、最近は、ロシアがウクライナにおいて事を起こす危険が高まっており、米国にとって、中国とロシアとの関係が最大の課題となっている。またその関係で米国内でもバイデン政権に対する批判が高まる可能性がある。これらの状況も米国が北朝鮮との関係においてイニシャチブを取るのに妨げになっている。

〇北朝鮮としては、中国及びロシアとの関係を損なわない範囲内で、米国に対し強い態度で臨むことが得策である。トランプ政権時代に踏み切ったミサイルと核の実験停止を解除する、あるいはそれを示唆することが北朝鮮の自由な行動の範囲を広めることになる。

〇中国との貿易は制裁により制約を受けているが、中国は米国と厳しく対立する結果、米国の言いなりにならなくなっている。北朝鮮との貿易にも柔軟に対応する可能性が出てきている。(注 中国からの援助物資を積んだ列車が数日前、2年ぶりに北朝鮮に入ったことが注目される。)


 一方、日本の岸田政権は、現在まで前政権の対北朝鮮姿勢を変えていないが、バイデン政権から新しい政策が取られる可能性はますます遠のいているだけに、日本としてどのような役割を果たすべきか、新たなマインドで検討すべきではないかと思われる。たとえば、北朝鮮がミサイルと核の実験を停止し続けることと引き換えに、毎年定期的に行われている、北朝鮮を標的とする米韓合同演習の在り方を日米韓で検討しなおす余地があるのではないか。
2021.12.29

佐渡金山遺跡の世界遺産登録問題

 我が国の文化審議会は2021年12月28日、2023年の世界文化遺産登録の候補として佐渡金山遺跡(新潟県佐渡市)を選定すると答申した。ただしこの答申には、「日本政府は審議会の答申通りにユネスコ(国連教育科学文化機関)に推薦するかどうか、総合的に検討する」という趣旨の異例の注釈がつけられた。

 日本の遺跡が世界文化遺産として登録されるのは喜ばしいことであるが、そのような注釈がついたのは、戦時中、佐渡の鉱山で朝鮮半島出身者が働いていたことが国際的に問題になりうるからである。世界遺産の登録を決定する「世界遺産委員会」は佐渡金山遺跡の登録申請に対して否定的な見解を示す可能性があるという。

 旧朝鮮半島出身労働者に関して国際的問題が起こったのは「軍艦島」(長崎市の端島炭坑のこと)が先であった。日本政府は軍艦島を含む23の「明治日本の産業革命遺産」について、2015年に世界遺産登録を求め、これは認められた。その際世界遺産委員会は旧朝鮮半島出身労働者関連の歴史全体を理解できるような工夫を加えることを日本側に求める決議を行った。これに対し日本政府は、犠牲者を記憶にとどめるための措置をとると約束し、2020年、「産業遺産情報センター」を東京新宿区に設置した。

 だが2021年6月、世界遺産委員会から派遣された専門家が同センターを視察した結果、旧朝鮮半島出身労働者らについての展示は、産業遺産の「より暗い側面」を見学者が判断できるような「多様な証言」を提示しようとしておらず、犠牲者についての説明も「不十分だ」と断定し、その旨を報告書で公表した。これを受けて世界遺産委員会は、7月22日、登録時に日本側に対応を求めた決議の多くの点は履行されているとしたものの、旧朝鮮半島出身労働者についてはいまだ十分でないとし、強く遺憾に思うとした決議を全会一致で採択した。つまり、「明治日本の産業革命遺産」について、世界遺産委員会は全体的には日本政府が追加措置をとったことを認めたが、旧朝鮮半島出身労働者に関しては措置を取っていなと批判したのであった。

 しかし世界遺産委員会の新たな決議に対し、日本政府は強気の態度を取り、約束は果たしていると突っぱねた。加藤勝信官房長官は21日の記者会見で、「我が国はこれまでの世界遺産委員会における決議、勧告を真摯(しんし)に受け止め、約束した措置を含め、誠実に実行して履行してきた」と表明した。また、外務省幹部は「決議で日本の立場を変えることはない」と話したという。

 そんな対応でよいのだろうか。国際的に問題を具体的に指摘されても、日本側に反論があれば主張すればよい。しかし専門家はセンター側の反論を聞き、実地に視察したうえで日本側の対応は不十分だと判断したのであり、また世界遺産委員会は強く遺憾に思うと全会一致で決議したのである。この状況は真剣に受け止めるべきであり、突っぱねるだけでは状況は悪化するのみである。世界の意思を無視した対応を取り続けると日本の汚点になる。

 佐渡金山遺跡の世界遺産登録を試みようとすれば、軍艦島に関して生じた以上の問題はそっくり降りかかってくる。対応策は地元と日本政府が協議して決めるのだが、あえて言えば、「軍艦島の例を反面教師として、旧朝鮮半島出身労働者問題について、国際的に通用する内容の説明を加える。それができるようになるまで、佐渡金山遺跡の登録申請を延期する」のがよいのではないか。

 本件のような問題については政治的なドロドロがつきものである。軍艦島問題も例に漏れないが、どんな泥泥臭いことが国内にあっても日本としての対応は世界に通用するものでなければならない。

2021.12.27

核問題に関する岸田政権の外交姿勢

 ニューヨークで来年1月4日から開かれる核不拡散条約(NPT)再検討会議に岸田文雄首相が出席して演説する方向で検討されていたが、アメリカで新型コロナのオミクロン株が急速に広がっていることなどから、会議への出席は見送られることとなった。

 被爆地・広島県出身の岸田首相は核軍縮に熱意を抱いている。さる12月9日には、核軍縮を話し合うオンラインでの国際会議において、「NPT再検討会議で『核兵器のない世界』に向けた実質的な前進となる合意文書の採択を目指して、全力で取り組む」と訴えた。

 ニューヨークへ行った際には首都ワシントンにも足を延ばしてバイデン大統領と会談を行う考えであったが、それもできなくなり、あらためて1月17日召集予定の通常国会までに訪米すべく米側と調整中だという。しかしバイデン大統領は内外の難問に追われ多忙であり、岸田氏の訪米が実現するか、状況は相当厳しいと言われている。4年8カ月の外相経験を誇る岸田氏は12月9日の衆院本会議の代表質問で、日米首脳会談を岸田外交のスタートにしたい考えを示したが、まだ動き出せないわけである。

 岸田氏としては訪米の日程を一刻も早く固めたいところであろうが、かりに訪米がさらに先送りになっても焦る必要はない。1年たっても決まらなければ深刻に受け止めなければならないが、そんなことにはならない。ワシントンの桜をバイデン大統領と連れ立って鑑賞するくらいのタイミングとなってもよいのではないか。

 日米の首脳が会談すれば中国、ロシアとの関係など両国にとっての難問について話し合うことになるのは当然だ。台湾を含む太平洋の安全を維持することは日米両国にとって共通の重要課題であるが、同時に、岸田首相としては核問題について明確な考えを示してもらいたい。

 我が国は前政権時代、核の先制不使用宣言などについて米国以上にかたくなな姿勢を取った結果、「日本は核軍縮に熱心でない」とささやかれた。日本がこのようにみられたことは国際的に大きなマイナスであった。

 核軍縮について日本としてどのような姿勢で臨むかは岸田政権のカラーを決めることになる。当面の課題として2022年3月にウィーンで開かれる核兵器禁止条約の第1回締約国会議がある。

 ドイツはこれにオブザーバー参加する方針を明らかにしており、ショルツ新政権の連立合意書にはその方針が盛り込まれている。

 日本としては、核の抑止力を損なうことなくオブザーバー参加することが可能である。日本としても米国の核政策を尊重するのは当然だが、米国以上に核を振り回すべきでないし、核軍縮を求める諸国を敵視したり、非難するべきでない。岸田首相とバイデン大統領が話し合いを深め、共同で核兵器禁止条約についての考えを公表できれば両国にとって利益となるのではないか。

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