平和外交研究所

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2017.11.14

トランプ大統領のアジア歴訪

 トランプ米大統領は11月5日からの日本訪問を皮切りに、韓国、中国と相次いで訪問し、さらにアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議に出席するためベトナム(ダナン)、ついでASEAN首脳会議拡大会議のためにフィリピンへと足を延ばした。ベトナムでは、環太平洋経済連携協定(TPP)の首脳会議がAPECと並行して開催される予定であり、米国は離脱を表明しているのでトランプ氏は直接関係ない立場であったが、やはり注目された。
米国の大統領がこれだけ長く母国を離れることは珍しいことであったという。

 事前には北朝鮮と貿易の二つが最大の注目点になっていたが、結局、貿易の比重が大きくなった。トランプ氏は日本、韓国及び中国において貿易面で大きな成果を上げ、中国とは28兆円にのぼる企業間契約を締結させた。また、APECでは、二国間主義を貫こうとするトランプ大統領に一定の配慮が払われ、非難めいたことは宣言に盛り込まれなかった。

 一方、北朝鮮問題が大きな問題にならなかったことは、ある意味、喜ぶべきことだろう。しかし、一連の会議においてではなかったが、トランプ氏は12日、ツイッターで、金正恩委員長について、「金正恩氏はなぜ私を『年寄り』と侮辱するのだろうか。私は彼を『チビでデブ』と決して呼ばないのに」と記した。さらに、ベトナムのチャン・ダイ・クアン国家主席との共同記者会見で、金正恩氏と友人になる可能性を問われ、トランプ氏は「あらゆることに可能性はある。人生、不思議なことが起きる。もし友人になれば、北朝鮮にとって、世界にとって良いことだろう。可能性は確かにある。そうなるかは分からないが、そうなれば非常に素晴らしいことだ」と回答したのは実に興味深い発言であった。
 トランプ氏が、条件付きであったとはいえ、金正恩氏と友人になれる可能性に言及したのは初めてだと思う。この発言は、トランプ大統領が、北朝鮮問題については圧力の強化を重視しつつも、かなり幅のある見方をしていることの新たな証左である。

 トランプ大統領以上に満足したのは習近平主席であった。何が飛び出すか分からないところがあるトランプ氏の訪中を大成功で終わらせることができたからである。トランプ氏をどのように遇するのがよいか、周到に準備したのは当たり前であったが、非常に巧妙であった。トランプ氏が理屈よりも「力」を重視する傾向があることを踏まえ、中国は米国よりはるかに長い歴史があること、中国のパワーは侮れないことを強く印象付け、さらに超大規模な企業間契約を成立させるなどしてトランプ氏を喜ばせた。また、中国は米国とともに世界の平和と安定を守っていくことを強調しつつ、処々に「大国中国」を印象付けた。
 これに対しトランプ氏は、会見で貿易不均衡問題に言及し、「我々は貿易上の問題を解決するために着実に行動しなければならない。米国企業が中国で公平に競争できるようにさせなければならない」と説く一方、「貿易不均衡は中国の責任ではない。その責任は放置してきた歴代の米大統領にある」と異例の発言まで行って歓待してくれた習近平主席にこたえた。
 そして習氏は、APECでトランプ氏が二国間主義にこだわるのをしり目に、中国は多国間協調を重視し、グローバル化を尊重しつつ積極的な役割をはたす姿勢であることを強調した。
 一方、各国から批判されやすい南シナ海問題については、ASEAN首脳会議は中国への配慮を示し、昨年言及した中国の活動への「懸念」は議長声明に盛り込まない見通しとなっている。

 安倍首相と習主席の会談では、今後の関係改善につながる希望が高まった。安倍首相が南シナ海の問題を封印するなどして中国との関係改善に積極的な姿勢を示したことが今回の会談成功に貢献したのはもちろんだが、習近平主席が笑顔で応じたのは、中国内では第19回党大会を成功させ、対外面ではトランプ大統領の訪中とAPECおよびASEANの首脳会議で大国らしい役割を果たしえた満足感が背景となっていたと思われる。

2017.11.07

トランプ大統領の訪日

 トランプ大統領の訪日(11月5~7日)は大成功であった。安倍首相とトランプ大統領の特別に緊密な関係には日本国民のみならず、世界が注目しただろう。米国の大統領がトランプ氏ほど日本に対する好意を表したことはかつてなかったと思われる。東アジアのみならず、世界の平和と安定にとって重要な役割を果たしている日米関係が一層固められたことは誠に喜ばしい。

 しかしながら、そのようなときだからこそ、米国の、というよりトランプ大統領の対日戦略は何かをあらためて見ておきたい。

 北朝鮮問題が今回の首脳会談の主要議題の一つであり、北朝鮮に対して「最大限の圧力」を加える必要があるとの認識で両首脳は一致した。これは事前の予想通りの結果であった。安倍首相は「日米が100%ともにあることを力強く確認した」と表明し、また、トランプ大統領も安倍首相の発言にうなずくなど、両者は北朝鮮問題で完全に一致していることを強くアピールして見せた。
 しかし、北朝鮮に関する両者の見解はほんとうに一致しているのか。安倍首相は北朝鮮に対して、かねてから「圧力を強化する必要がある」との一点張りであるが、トランプ氏はちょっと違うのではないか。

 トランプ氏は、就任後間もない2月にフロリダで行われた安倍首相との会談で、北朝鮮問題については100%安倍首相を支持すると述べた。そしてその後もその発言を繰り返してきたらしい。安倍首相の、日米両国は100%ともにあるとの発言はその反映のように思われる。

 しかし、トランプ氏の北朝鮮に対する認識にはかなりの幅がある。トランプ氏は、たしかに金正恩委員長を強く批判し、「リトル・ロケットマン」と嘲笑し、さらに米軍の圧倒的な軍事力を背景に恫喝的な発言までしているが、他方では、金正恩氏と対話する考えを漏らしたことがある。米朝両国が対話に進むか否かが問題になっている今は、さすがに言わなくなっているが、はたして本当に考えを変えたか、対話は望まなくなっているか疑問である。
 また、トランプ氏は金正恩氏を一定程度理解する考えを示したこともある。たとえば、去る4月末にCBSとのインタビューでの発言である。

 もしそうであれば、トランプ氏はなぜ安倍首相に100%支持するとまで表明するのか。
それは、安倍首相がトランプ氏に、北朝鮮の脅威を説き、圧力強化に集中することが必要だと説得した結果かもしれない。
 しかし、それだけでなく、トランプ氏は安倍首相の強硬策が米国にとって都合がよいとみているのではないか。北朝鮮の脅威が高まり、日本が安全保障上米国への依存度をさらに深めると、米国が日本と貿易・通商面で交渉するのに有利になり、高価な武器を日本に売りつけるのにも役立つからだ。今回の首脳会談ではそのような考えが露骨に示された。トランプ大統領が武器売却に言及した際にみせた生き生きとした顔は印象的であったという。
 
 もう一つ注目されるのは、トランプ政権には日本や中国との交渉に臨む際には一定の方針があるが、アジア・太平洋についての戦略はないことである。「アジアへのリバランス」を謳ったオバマ政権とは違っているのである。
 現在、ホワイトハウスにも国務省にも、アジア・太平洋における戦略についてトランプ大統領に説得できる補佐がいないことも影響しているのだろう。
 しかし、より本質的なことは、トランプ氏が多角的、地域的戦略を好まないことである。トランプ氏には、日本、中国、韓国などとどのように交渉するのがよいかについてはかなり明確な方針があるようだが、多角的、地域的戦略は見えてこない。見えてくるのは、「米国第一」と「偉大な米国の復活」への強い志向であり、環太平洋パートナーシップ協定(TPP)や地球温暖化に関するパリ協定などを退けようとする姿勢である。

 多角的、地域的バランスを重視しないトランプ政権の下で、米国の日本との同盟の絆が一層強まることは自然な流れであり、必然的なこととさえ思われる。しかし、そこに危険はないか。
 理論の問題でない。トランプ政権の下で現実にどのような状況が生まれるか、明確な見通しを以って対応していく必要がある。
トランプ政権は、「すべての選択肢はテーブルの上にある」と言い、安倍首相は、前述したとおり、それを支持して、「日米が100%ともにあることを力強く確認した」と表明した。
 しかるに、すべての選択肢のなかに北朝鮮に対する軍事行動が含まれているのは明らかであり、その意味合いを承知の上で安倍首相が米国を支持するのは危険なことであり、国民として容認できない。日本はあくまで米国が軍事行動に出ることに反対すべきである。それは地域的に必要なことでもある。米軍による軍事行動への支持は、「圧力を強化する」との表明よりも何倍も罪が重い。

 安倍氏とトランプ氏は馬があうようだが、深層心理においては非常に違っている。安倍氏は先の大戦での我が国の行動は他国に対する侵略ではなかったという考えであろう。
 一方、トランプ氏は「リメンバー・パールハーバー」を口にする米国人の一人である。今回の訪日に先立ってハワイを訪れた際にも、また、時間は前後するが、オバマ氏が米国大統領として初めて広島を訪問した際にもこの言葉を口にして批判した。
 トランプ氏は、1941年の日本軍による真珠湾攻撃を忘れていないのだが、ただ単に忘れていないのでなく、現在の政治状況の中でもそのことを問題視しているのではないか。
 また、トランプ氏はかつて日系人の強制収用は反省する必要がないという趣旨の発言をしたことがある。そこには、イスラムに対するのと同様、人種主義的な偏見があるのではないか。

 現在と将来の日米関係を語るたびに「リメンバー・パールハーバー」と日系人の強制収容のことを持ち出すべきとは思わないが、トランプ氏の根底にあるこだわりや偏見を忘れるわけにはいかない。
 米側でも安倍首相の戦争観を忘れていないだろう。日米間の同盟関係はゆるぎないものとなっているとしても、そのような側面があることには留意が必要である。
 平時においては、両者のそのような違いは問題にならず、相性の良さばかりが目立つだろうが、北朝鮮をめぐって軍事衝突が起こるとそうはいかなくなる。米国が日本に対し自衛隊の派遣を求めてくれば日本としてどのように対応するか。2015年に改訂された安保法制に従えば、自衛隊は朝鮮半島へ出動することが、厳しい要件が満たされる場合であるが、可能になっている。しかし、国会の質疑においては、安倍首相は自衛隊が海外に派遣されることはないと断言した。トランプ氏が自衛隊の出動を求めてきた場合に日本としてどのように対応するのか。このようなことも考えて北朝鮮問題に対応する必要があるのではないか。

2017.11.01

日本が提出する核廃絶決議案

 国連総会に日本が毎年提出している核廃絶決議案は今年も提出されたが、賛成する国は23カ国減少して144カ国となった。かつてない大幅な減少となったのは、先般成立した核兵器禁止条約をめぐって、核の抑止力に依存している国(慎重派)と、核の廃絶を何としても進めなければならないという考えの国(推進派)が対立することになったからである。

 今年の決議案について推進派が特に問題視したのは、去る7月に国連で採択された核兵器禁止条約にまったく触れていないことであった。慎重派からすれば、核兵器禁止条約はそもそも反対の意見を顧みず強引に成立させた条約だから、それを決議案に記入する必要はないということなのであろう。
 この立場の違いは解消されていない。慎重派である日本はこの条約に署名しておらず、そのため強い批判も受けているが、米国の核の傘に依存している限りやむを得ない選択だという判断もありうる。
 しかし、賛成か反対かはともかく、この条約の成立は核の歴史において一つの重要な出来事であり、無視することは適切でない。日本としては積極的に臨むことは困難であっても、核の廃絶決議案においてこの条約に言及しつつ、現時点では慎重派の意見にも注意を払う必要があることを記入するなど、工夫の余地があったと思う。

 推進派が問題視するもう一つの点は、これまで核をめぐる矛盾に満ちた、困難な状況下で、日本を含め各国が汗水流して考案してきた、核の非人道性や核廃絶の決意に関する文言が、今回の決議案によって薄められたことであった。中には、今回の決議案が、国際社会がこれまで努力してきたことに反しているという認識もあったようだ。NZのデル・ヒギー軍縮大使は「今年の決議案には過去の決議からの根源的な逸脱があり落胆している」とも述べたそうだ。スウェーデンやスイスの大使も来年以降の決議案の内容に強い警戒感を示していたという。
 これらの国は、大国ではないが、推進派の中でも急進的でなく、日本の状況をよく理解し、何かと助け舟を出してくれており、日本として協力していくことが必要な国ばかりである。日本政府には、これらの国の存在と意見を無視することがないよう希望したい。日本政府は、これまで、核兵器国と非核保有国との間の橋渡し役になると述べてきており、評価されてきた。日本政府は、今後もそのような姿勢を維持すべきであるが、そのためには核軍縮のために各国が払ってきた努力を尊重する必要がある。

 日本が1994年以来、核兵器の廃絶のために国連に提出してきたこの決議案は、被爆国でありながら、米国の核に依存しているという日本の矛盾した立場が根底にあった。そのため日本はどちらを向いているのか分からない、と疑惑の目で見られたことも少なくなかったが、苦しみながらもなんとか対応し、一方に偏するのを回避してきた。
 しかし、核兵器禁止条約の成立後の状況は違う。今までの方法でも決議案を成立させることはできるだろうが、その過程において日本は核の使用論者だという印象をますます強く与える結果になるおそれがある。日本は最近、米国の核先制不使用宣言に反対した。また、今回の決議案をめぐっても日本は核の使用を必要と考えているのだという疑惑を惹起してしまった。
 にもかかわらず、日本としては今後も核の使用に制約となることは一切言えないと考えるのであれば、推進派と折合う道はますます狭くなるだろう。逆に対立が強くなるおそれもある。そうなれば泥沼に陥る。

 極端なようだが、この際、思い切って、この決議案の提出を終了させてはいかがかと考える。そして、あらたに日本の積極性を示す方策を検討すべきである。
 その方策として、国連などで核の非人道性に対する各国の理解を深める努力を強化することが考えられる。数年前から始まった非人道性に関する会議は途中から推進派によって核兵器禁止条約に転換されてしまった。しかし、非人道性については表面的なことしか理解されていないという現実は変わらない。なすべきことは多々ある。また、日本としては特別の義務がある。非人道性を深める努力には核兵器国のなかにも理解しようとする国があるだろう。

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