平和外交研究所

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2017.11.01

日本が提出する核廃絶決議案

 国連総会に日本が毎年提出している核廃絶決議案は今年も提出されたが、賛成する国は23カ国減少して144カ国となった。かつてない大幅な減少となったのは、先般成立した核兵器禁止条約をめぐって、核の抑止力に依存している国(慎重派)と、核の廃絶を何としても進めなければならないという考えの国(推進派)が対立することになったからである。

 今年の決議案について推進派が特に問題視したのは、去る7月に国連で採択された核兵器禁止条約にまったく触れていないことであった。慎重派からすれば、核兵器禁止条約はそもそも反対の意見を顧みず強引に成立させた条約だから、それを決議案に記入する必要はないということなのであろう。
 この立場の違いは解消されていない。慎重派である日本はこの条約に署名しておらず、そのため強い批判も受けているが、米国の核の傘に依存している限りやむを得ない選択だという判断もありうる。
 しかし、賛成か反対かはともかく、この条約の成立は核の歴史において一つの重要な出来事であり、無視することは適切でない。日本としては積極的に臨むことは困難であっても、核の廃絶決議案においてこの条約に言及しつつ、現時点では慎重派の意見にも注意を払う必要があることを記入するなど、工夫の余地があったと思う。

 推進派が問題視するもう一つの点は、これまで核をめぐる矛盾に満ちた、困難な状況下で、日本を含め各国が汗水流して考案してきた、核の非人道性や核廃絶の決意に関する文言が、今回の決議案によって薄められたことであった。中には、今回の決議案が、国際社会がこれまで努力してきたことに反しているという認識もあったようだ。NZのデル・ヒギー軍縮大使は「今年の決議案には過去の決議からの根源的な逸脱があり落胆している」とも述べたそうだ。スウェーデンやスイスの大使も来年以降の決議案の内容に強い警戒感を示していたという。
 これらの国は、大国ではないが、推進派の中でも急進的でなく、日本の状況をよく理解し、何かと助け舟を出してくれており、日本として協力していくことが必要な国ばかりである。日本政府には、これらの国の存在と意見を無視することがないよう希望したい。日本政府は、これまで、核兵器国と非核保有国との間の橋渡し役になると述べてきており、評価されてきた。日本政府は、今後もそのような姿勢を維持すべきであるが、そのためには核軍縮のために各国が払ってきた努力を尊重する必要がある。

 日本が1994年以来、核兵器の廃絶のために国連に提出してきたこの決議案は、被爆国でありながら、米国の核に依存しているという日本の矛盾した立場が根底にあった。そのため日本はどちらを向いているのか分からない、と疑惑の目で見られたことも少なくなかったが、苦しみながらもなんとか対応し、一方に偏するのを回避してきた。
 しかし、核兵器禁止条約の成立後の状況は違う。今までの方法でも決議案を成立させることはできるだろうが、その過程において日本は核の使用論者だという印象をますます強く与える結果になるおそれがある。日本は最近、米国の核先制不使用宣言に反対した。また、今回の決議案をめぐっても日本は核の使用を必要と考えているのだという疑惑を惹起してしまった。
 にもかかわらず、日本としては今後も核の使用に制約となることは一切言えないと考えるのであれば、推進派と折合う道はますます狭くなるだろう。逆に対立が強くなるおそれもある。そうなれば泥沼に陥る。

 極端なようだが、この際、思い切って、この決議案の提出を終了させてはいかがかと考える。そして、あらたに日本の積極性を示す方策を検討すべきである。
 その方策として、国連などで核の非人道性に対する各国の理解を深める努力を強化することが考えられる。数年前から始まった非人道性に関する会議は途中から推進派によって核兵器禁止条約に転換されてしまった。しかし、非人道性については表面的なことしか理解されていないという現実は変わらない。なすべきことは多々ある。また、日本としては特別の義務がある。非人道性を深める努力には核兵器国のなかにも理解しようとする国があるだろう。
2017.10.28

中国共産党第19回大会

 東洋経済オンラインに、中国共産党の第19回大会に関する一文を寄稿しました。
「東洋経済オンライン」「習近平「一強」の独走体制ににじむ中国の焦り 7人の新最高指導部が選別された舞台裏」でアクセスできます。
 要点は次の通りです。

〇今回の党大会は「習近平思想」を党規約に書き込むなど、習近平体制は盤石のごとく固められたかに見える。しかし、一歩踏み込んでみてみると、そうでもなさそうだ。

〇習近平総書記の統治システムは、国政の全般にわたって非官僚機構的方法で改革を進めることと、反腐敗と言論統制の、いわば2本の鞭を用いて改革の実効性を高めることであった。

〇しかし、既存の政府、官僚機構がすべてダメなわけではない。また、習氏が設置した「小組」からの支持が常に正しいという保証はない。党の権威を背景に、2本の鞭が振るわれれば従うほかないが、既存の官僚機構にとって習氏の非官僚的方法による改革は、しょせん人為的に作り上げられたものに過ぎない。改革は今後も積極的に進められるであろうが、行き過ぎると反発を惹起する危険がある。

〇人事においてもいくつか特徴がある。
 国務院の各部長(我が国では各省庁の大臣)が党の序列では格下げになった。官僚機構に対する党の優位性がさらに進められたのだ。

〇新たに中国のトップ7(政治局常務委員)入りした5名はかつての部下など習近平と特に近い関係にあった者ばかりである。中国広しと言えども習近平が本当に信頼できる人物はあまりいないのだろう。

〇陳敏爾や胡春華など、習近平の後継者候補は常務委員にならなかった。習近平の意見に反対する勢力があるようだ。

〇鄧小平は、かつて、「才能を隠して、内に力を蓄える(韜光養晦)」ことを強調したが、それから約30年後の今日、習近平はそのような深慮遠謀策は捨て去り、大国化路線に転じた。それには、中華思想的体質を帯びている国民の心をくすぐる狙いもあったのだろう。

〇共産党の一党独裁については本来的に不安定な面がある。鄧小平が1989年の天安門事件後、西側諸国は「和平演変(平和的な方法で転覆させる)」を狙っていると言ったのは有名な逸話であるが、それ以来、歴代の指導者はだれもこの危機意識を払しょくできていない。習近平も例外でない。

〇中国共産党の独裁体制は今後5年間、習近平総書記の下で最も安定し、「中国の夢」実現に近づくかもしれないが、その後は、指導者、諸改革、経済成長いずれをとっても問題が増大する危険があるのではないか。


2017.10.24

《安倍政権5年》NSC設置に秘密保護法、共謀罪……防衛体制を整備

 安倍政権5年における防衛体制の整備について、次の一文をザページに寄稿しました。

「日本政府は、自衛隊の行動に関する権限の強化と並行して、防衛体制整備としていくつかの措置を講じました。

 まず、2013年に、国家安全保障会議(NSC)を設置しました。安全保障は外務省および防衛省を中心に複数の省庁にまたがるので、政府として一体性のある、機動的な対応が必要であり、この会議はそのための司令塔の役割を果たします。

 防衛予算は安倍第2次内閣成立までの数年間減少してきましたが、この減少傾向をストップさせて5年連続増額し、2017年度防衛予算は前年度当初比1.4%増の5兆1251億円となり、過去最高を更新しました。

 この中には、尖閣諸島など島嶼部防衛対策費、さらには、いわゆる「イージス・アショア」、つまり、イージス艦に搭載している迎撃ミサイルシステムを陸上に配備するための費用が含まれています。

 秘密保護法は、公務員らの情報漏えいに関する脅威が高まっている中で、外国の情報機関などとの情報共有を円滑に行うために必要な法整備として、2013年、制定されました。これは「防衛」「外交」「特定有害活動の防止」「テロリズムの防止」に関する情報の管理を厳格化しようとする法律で、これらの情報を扱う公務員の身辺調査なども含まれており、それではプライバシーの侵害が起こるという理由で反対する声が上がっています。また、テロ対策として原子力発電や放射線被害に関する情報の伝達が阻害される危険があるとも言われています。
 さらに、この法律はメディアへの悪影響が大きく、自由な取材が損なわれるという懸念も上がっています。

 武器は、これまで日本から外国への輸出を認めていませんでしたが、2014年、「紛争地などへは武器を輸出しない」という原則は維持しつつ、日本の安全保障に資するなど一定の条件を満たせば輸出を認めることにしました。武器輸出や技術移転を通じ、相手国と安全保障関係を強化することが狙いだと説明されていますが、日本製の武器は高価格なため輸出の大幅な増加は見込めないとも言われています。

 「組織的犯罪処罰法」の改正は「テロ等準備罪」(「共謀罪」とも呼ばれる)を処罰するもので、範囲が広すぎるという理由で強い反対がありましたが、日本政府は、テロ対策のために、また、「国際組織犯罪防止条約」の批准(署名はすでに行った)のために必要との認識の下に2017年、成立させました。
 しかし、この法律が適用される範囲は非常に広く、しかも明確になっていないとの批判があり、たとえば、国会では、数人で花見に行っただけでも共謀罪に問われることもありうるのではないかという質問が提出されました。政府側はそのようなことはないと答弁しましたが、納得はなかなかえられませんでした。

 全体的に、安保関連法案についての審議は十分でなかったという印象を国民は抱いたと思います。「権限篇」の「存立危機事態」に関して、法律案に明記されていることと異なる内容の答弁が行われたのは問題答弁の最たる例でした。また、審議が途中で打ち切られ、「強行採決」と言われる事態に陥ったこともありました。

 安全保障については今後もさまざまな場面で政府の説明が求められるでしょう。政府には、審議の時間の長さや形式だけでなく、内容について十分な説明が求められます。」

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