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2018.04.16

化学兵器使用問題と米英仏のシリア攻撃

 4月13日、米国は英仏両国と共同でシリアの化学兵器関連施設をミサイル攻撃した。使用されたミサイルの数は昨年4月の際の約2倍、105発であったという。

 今回の攻撃を認めた国連安保理決議はない。シリア軍による化学兵器使用の疑惑については2013年以来複雑な経緯があり、国連安保理はこの間何回も開催されてきたが、シリア政府に対する攻撃を承認した決議は採択されていないのである。そうなったのは、シリア政府を擁護するロシアが拒否権を発動したからであり、米国の国連大使によれば、その回数は通算11回にのぼっているそうだ。
 今回の攻撃後、ロシアは安保理の開催を求め、逆に攻撃を非難する決議案を提出して反撃しようとした。しかし、これは、もちろん否決された。

 国連決議のない実力行使は問題だが、なくても認められる場合がある。「ある」と断定するのはまだ早すぎ、「そういう場合が出てきている」というべきかもしれない。ともかく、「人道上の理由」で認められる可能性が出てきているのである。その場合でも、他に方法がないことや過度の攻撃にならないことなどの要件を満たすことが必要だ。安保理で英国は、今回の行動はこれらの諸点を満たしていると強調し、国際法的に合法であると主張した。いかにも英国らしい。
 決議がなくても「人道上の理由」で攻撃が認められたのが、2014年9月の、米国をはじめとする有志国連合による過激派組織ISへの空爆であった。
 今回の攻撃について、日本では、安保理決議がないことを問題視する意見があるが、国際法はいつまでも同じ内容でなく、発展する。それに、もし、決議がないからといって行動をとらないと、アサド政権を助けることになる。これは悩ましい問題である。

 ともかく、シリア軍による化学兵器使用疑惑については真相解明が必要である。アサド大統領は前述の化学兵器使用疑惑が出た後の2013年9月、化学兵器禁止機関(OPCW)に加盟し、保有化学兵器約1300トンを全量引き渡した。この時にはロシアも協力的であったのでアサドも折れたのだろう。引き渡された化学兵器はすでに廃棄済みである。
 ところが、その後も化学兵器による被害はやまなかった。サリンや塩素ガスなどは、簡単に作れるらしく、化学兵器の廃棄後に製造された可能性があるといわれている。
 OPCWはもちろん調査を続け、2015年には国連と共同でOPCW-UN Joint Investigative Mechanism (JIMと略称。安保理決議2235号)を設置した。ここまではロシアも協力的だったのだ。
 ところが、JIMは2017年12月に期限切れで終了してしまった。ロシアが継続に反対したためである。当然ロシアは厳しく非難されたが、ロシアの大使は、手続きが強引であったため反対したのであり、いつまでも反対する予定ではなかったと弁明していたともいう。
 しかし、そのままに放置しておくわけにはいかない。真相の調査は絶対的に必要であり、今回の攻撃に先立つ4月9日、米国は真相解明に取り組むあらたな調査チームを設立する決議案に取り掛かった。しかし、事前の折衝で成立の見込みがないことが判明した。新決議案は、攻撃があった4月7日の軍の飛行記録やヘリコプター部隊の指揮官の名前の提出などをシリア政府に義務づける内容だったのに対し、ロシアのネベンジャ国連大使は「受け入れられない要素がある」として反対したのだ。ネベンジャ氏は、あったとされる化学兵器の攻撃の軌道や時期に不自然な点があると指摘したそうだ。シリアに駐在しているロシア軍の行動との関連があったのかもしれない。

 一方、OPCWは別途4月14日から、被害が出た東グータ地区で現地調査を始める予定であったが、これは延期されたと思われる。ミサイルが飛んでくる状況ではそれは無理である。今後OPCWではどのように調査を再開するのか、一つの重要なカギとなっている。なお、OPCWでは実質事項(matters of substance)は3分の2、査察に反対する場合は4分の3の特別多数決で決定される。拒否権は認められていないので一カ国だけの反対で前に進めなくなることはないはずである。

 今後、冷え込んでいるロシアと米欧諸国との関係が改善されるにはかなりの時間が必要となるかもしれない。また、トランプ政権のロシア疑惑も微妙に関係しているかもしれない。そのような事情はあるが、調査の早期開始は絶対的に必要であり、そのためには、ロシア批判をしばし抑制しても調査開始の決定を急ぐ必要がある。
 日本は、かねてからOPCWを重視している。中東問題、特に政治問題には直接の関係は少ないが、それだけに中立的に動けるはずだ。日本としても調査開始の決定に努めるべきだ。



2018.04.04

「北朝鮮の非核化」か「朝鮮半島の非核化」か―米韓の相違

 「北朝鮮の非核化か朝鮮半島の非核化か」シリーズの第3回。北朝鮮の非核化問題について各国の立場は一致していない。

 韓国は「朝鮮半島の非核化」を主張している。「北朝鮮の非核化」に反対しているのではないが、それは一部の問題であると考えているのだろう。文在寅大統領が示した「包括的かつ段階的な方法」は「朝鮮半島の非核化」問題である。

 これまで、韓国は「北朝鮮の非核化」に関われないできた。北朝鮮が、この問題は米国だけが相手であるとして韓国の関与を拒否してきたからである。米国だけが相手だというのは、朝鮮戦争以来の経緯からして北朝鮮に脅威を与えているのは米国だけであり、米国からの脅威に対抗するため核やミサイルを開発しているという考えに基づいていた。
 実際、多国間協議の場で北朝鮮の代表と同席することになった韓国代表が話し合いを持ちかけても北朝鮮側はかたくなに拒否し続けた。
 また、韓国は米国からも冷たくあしらわれてきた。文在寅大統領になってから韓国に対する米国の信頼はいっそう低下し、韓国が南北関係を改善しようとする姿勢を見せるのに対し、非核化問題については余計なことをするなと言わんばかりのサインを送っていた。

 ところが、金正恩委員長が対外協調姿勢を取り始めてから状況が一変し、韓国は「北朝鮮の非核化」の舞台に突然躍り出ることとなった。
 北朝鮮が変化したのは、制裁がかつてないほど強化され、経済に著しい悪影響が生じる恐れが出てきたことと、核とミサイルの開発が進展し、金委員長の言葉では、ほぼ完成に近づいたことが理由であった。そして、金委員長は、それまでの韓国に対する拒否方針をかなぐり捨て、一転して韓国に抱き着き、突破口を開いたのである。平昌オリンピックはそのために格好の舞台となった。

 一方、米国が求めているのは、「北朝鮮の非核化」であり、「韓国の非核化」は問題でなくなっている。米国はかつて韓国内に核兵器を保有していたが、冷戦終結後の1991年に撤去したので、韓国内には核兵器は存在しない。その意味では、米国にとって「北朝鮮の非核化」でも「朝鮮半島の非核化」でも同じことになっているのである。
 ただし、そういうと第2回目の関連記事で述べたように、「核の傘」の問題があるから、「北朝鮮の非核化」と「朝鮮半島の非核化」はやはり違うという指摘が出るかもしれないが、それは物事の反面しか見ない議論であることは前述した。

 しかし、米国が「北朝鮮の非核化」と「朝鮮半島の非核化」とを明確に区別しているか、よくわからない。2005年9月の6者協議共同声明は、「6者は、6者会議の目標は、平和的な方法による、朝鮮半島の検証可能な非核化であることを一致して再確認した」と謳った。6者とは、北朝鮮、韓国、日本、中国、米国およびロシアであり、米国も「朝鮮半島の非核化」として扱うことに同意したのである。

 経緯はともかく、米国の現在の立場は何か。また、来る米朝首脳会議で米国はどのような立場で臨むだろうか。
 米国にとって最重要課題の「北朝鮮の非核化」を達成できるのであれば、「朝鮮半島の非核化」として扱ってもよいと考えるかもしれない。前述の共同声明はそのことを示唆しているが、核の傘、在韓米軍の撤退、在韓米軍に対する査察などはほんとうに受け入れる姿勢があるか、疑問なしとしない。「朝鮮半島の非核化」は、米国は表立って反対していないが、本当は受け入れ難い面があるのではないか。
 さらに、米朝対話を成功させるという目的からすれば、変数の多い「朝鮮半島の非核化」より「北朝鮮の非核化」に焦点を絞り、関連する「韓国の非核化」問題、すなわち、在韓米軍に対する査察やその撤退問題はその枠内で処理するのが得策である。
 核の傘問題は、韓国のみならず、北朝鮮にもありうることとして見直すべきである。私見では、この問題を「朝鮮半島の非核化」に含めると、米朝間の対話は先へ進めなくなると思う。
 米国には、これまでの方針、すなわち、2005年の6者協議から変化していない考えも依然として有力である。そんな中にあってトランプ大統領はどのような考えで臨むのか。これが最大の不透明要因かもしれない。

2018.04.02

「北朝鮮の非核化」か「朝鮮半島の非核化」か-核の傘

 「北朝鮮の非核化」か「朝鮮半島の非核化」か。後者であれば米国が韓国に与えている「核の傘」も協議の対象になるとよく指摘される。これは常識的な見方だが、一歩踏み込んでみると核の傘については複雑な面がある。

 「韓国は米国の核の傘の下にない」というのではないが、韓国は、必要な場合、米国はかならず核で守ってくれるか、不安を抱えている。
 この問題は両国間の同盟条約の文言に基本的な原因がある。すなわち、米韓相互防衛条約第2条では、韓国はその防衛に米国の協力を得ることになっているが、脅威が発生した場合はまず米国と「協議」することになっており、米国が自動的に行動することにはなっていないのである。
 ちなみに、日米安保条約にも「協議」についての条項はある(日米安保条約第4条)が、米韓条約とは違って「随時協議」することになっているだけであり、韓国の「脅威」とは意味合いがかなり異なる。
 このほか、米韓条約の場合は、米韓両国は「武力攻撃を抑止するための力を維持・発展させる」ことが決められている(第2条後段)一方、日米安保条約の場合は「武力攻撃に抵抗するそれぞれの能力を維持し発展させる」と規定されているなど違いもあり、その解釈次第で米韓で想定されている抑止力は必ずしも弱くないと言えるだろう。
 
 ともかく、韓国側では、北朝鮮が盛んに核・ミサイルの実験をするにともない、米国の義務を強固にしたいという気持ちが強くなり、米国に対し、2016年5月には核兵器の「共同管理」を要望し、8月には第三国からの核の脅威に「核の傘を必ず提供するという確実な保障」を求めたが、米国はいずれの要望も断った。
 「共同管理」は米国と欧州諸国との間で部分的に行われているが、それはNATOのもとであり、韓国に米国が認めることはあり得ない。
 「核の傘を提供するという確実な補償」も、米国はその核政策に反するので、韓国の要望を断ったのは仕方がないことであった。
 
 「朝鮮半島の非核化」の場合は、北朝鮮についても厄介な問題がありうる。かりに、北朝鮮が非核化に同意することになれば、韓国だけでなく、北朝鮮についても実は類似の問題が出てきうるからである。
 北朝鮮はかつて中国およびソ連と軍事同盟条約を結んでいたが、ソ連崩壊後、ソ連(ロシア)との条約は失効した。しかし、中国との条約は今日も有効である。と言っても、冷戦終結後の国際情勢は大きく変化し、この条約はすでに形骸化しているとの見方もあるほどである。しかし、それは中国政府の公式の見方ではなく、同条約第2条の、「両締約国は,共同ですべての措置を執りいずれの一方の締約国に対するいかなる国の侵略をも防止する。いずれか一方の締約国がいずれかの国又は同盟国家群から武力攻撃を受けて,それによって戦争状態に陥つたときは他方の締約国は,直ちに全力をあげて軍事上その他の援助を与える」といういわゆる参戦条項は厳然と残っており、この条約に基づいて中国は北朝鮮に核の傘を提供する義務があると解釈可能だろう。
 今のところ、北朝鮮が中国の核の傘の下にあるということは議論されないが、北朝鮮が非核化した場合にはこの問題が出てくる可能性があり、そうなると、韓国に対する米国の核の傘以上に扱いにくい問題となるだろう。
要するに、「朝鮮半島の非核化」の場合に、核の傘は韓国だけでなく北朝鮮についても問題となりうるのだ。
 
 しかるに、このように複雑な核の傘問題をトランプ大統領と金委員長だけで解決できるとは到底思えない。両首脳の能力のためではなく、核の傘の問題は専門的な見地から慎重に扱わなければ混乱に陥るからである。そのように考えると、「朝鮮半島の非核化」はますます米朝首脳会談の目標とすべきでないのである。

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