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2020.11.12

バイデン政権になれば米国の外交はどうなるか

 バイデン政権が成立した場合どのような外交姿勢をみせるか、トランプ大統領が個性的、独断的であっただけに、予想しにくい面がある。

 最大の問題は中国との関係である。トランプ政権の対中姿勢は明確であり、しかし、批判された。G20や各種国際機関においても米国第一主義を貫いたために、結果的に中国を国際協調的にみせる舞台づくりをおこなったと言われた。

 コロナ禍に関しては中国を非難し続け、WHOは中国寄りだとして脱退したが、国内では約1千万人のコロナ感染者を出し、死者は23万人を超えるなどしたために主張は説得力を欠いた。トランプ政権の対中政策を総合的に示したのが、今年7月のポンペオ国務長官による中国共産党政権の全面批判であった。

 経済面では、中国製造業と不当な貿易が米国人の雇用を奪っていると主張し、中国に投資する米企業を批判して政府調達から締め出すなど強い姿勢で臨んだ。また、トランプ氏は、米国経済を中国経済から切り離す考え(デカプリング)に理解を示したが、そうすれば米国経済が被る不利益は巨額に上るとも批判された。
トランプ氏は、自分の再選のため習主席に農産物購入拡大を要請するなど露骨な矛盾を指摘されたこともあった(ボルトン前補佐官による暴露)。

 バイデン政権が成立すれば、中国に対する姿勢がどの程度変化するか。協力する場が拡大する可能性と対立が継続する可能性があろう。一部激化する危険もありうる。

中国との協力関係は進むか
 
 協力については、バイデン氏はコロナ対策を最重視する考えを示しており、WHOに復帰する考えを表明している。テドロス事務局長は11月9日、バイデン氏に祝意を表明ずみである。トランプ氏の脱退宣言の効力が発生するのは来年の7月であるので、それ以前に復帰が表明されるわけである。

 トランプ大統領が脱退した地球温暖化の国際枠組み「パリ協定」へ復帰する方針をバイデン氏は明言しているので中国とは協力する形になる。

 バイデン氏は米企業には国内回帰を促す方針である。必要な税制改革の意図も表明した。デカプリングは米経済の足かせになるとの理由で批判的である。 

台湾・香港・南シナ海など
 
 台湾の統一は習近平政権が実績を上げられないでいる最大問題である。そのせいか、最近、中国は台湾との中間線を超えた飛行を繰り返したり、南シナ海での演習を強化したりするなど緊張を高める行動をとっている。トランプ政権は、香港問題の影響もあったが、台湾に対する支持を強化したので、中国を一層いらだたせた。

 バイデン氏は、台湾について好意的だと伝えられているが、公にはまだ基本方針を表明していない。しかし、8月、大統領選挙への民主党候補になるに際し、それまでの民主党綱領には記載されていた「一つの中国」を削除した。新民主党綱領からこの文言を落としたのであり、これは大きな出来事であり、中国は強く反発した。

 中国は最近、米国との関係改善は困難だとの認識を深めた結果であろう。外交面、経済面で独自の道を進もうとする姿勢が顕著である。「中国の特色ある社会主義」の対外面での表れともいえよう。習近平主席は米国を批判し、内需主導型経済への転換、技術大国化など強調しており、いわゆるデカプリングは歓迎すると言わんばかりである。トランプ政権が中国の共産党政権と全面的に対決する姿勢を打ち出したのに真っ向から対抗する形になっている。

 中国は、南シナ海でもまた香港問題でも大胆に行動したことが好ましい結果につながっていると認識している可能性があり、中国の独自外交路線と相まって危険な事態に発展するおそれさえある。

 バイデン政権は中国と関係を保って自由化や民主化を促す歴代政権の「関与政策」に戻るともいわれるが、そのような政策が有効であったのは、中国が西側に遠く及ばなかった時代であり、今はその頃とは比較にならないくらい巨大なパワーとなっている。その中国が米国などとの協調の考えを放棄しつつあるとすれば一大事である。バイデン政権はトランプ前政権と異なる外交方針で臨むとしても、このような中国との関係では、戦略的な対応が必要になる。

北朝鮮

 北朝鮮については、バイデンはトランプのやり方を厳しく批判した。そして、金正恩委員長に対しても、お互いの舌戦であったが、「殺人独裁者(murderous dictator)」などと呼びつつ、「自分は金委員長と会わない」と明言した。
トランプには金委員長と会談することに、個人的な強い希望があったが、バイデンにはこれはない。
 
 一方、バイデンは北朝鮮問題については、韓国と日本との連携を重視し、中国に北朝鮮の非核化のため「強い圧力(enormous pressure)」をかける考えを示しているが、これだけでは収まらないことはすでに明らかになっている。バイデン政権はいずれ北朝鮮政策を深めることが必要となるのではないか。
日本との関係

 バイデン氏は、オバマ前大統領が日本政府と主導した環太平洋連携協定(TPP)については、公約である政策綱領への記載を見送った。市場開放に慎重な中西部の「ラストベルト」(さび付いた工業地帯)の激戦州に配慮であり、当面は「いかなる新たな貿易協定交渉にも入らない」と記した。かといって、バイデン氏は持論であるTPP再交渉を主張しようとしているのではない。トランプ政権下で保護主義に傾いた政策の急転換は難しく、再交渉問題は封印しているのである。

 在日米軍駐留経費の日本側負担をめぐる交渉については、「実務者による交渉を重視する姿勢に戻ることになる」、「(トランプ氏のような)法外な要求をすることはない」などの観測が聞こえてくる。常識的な見方であろうが、未確定である。

イラン・中東

 イランについては、バイデン氏は、当選すれば関係改善に取り組むと公言してきた。オバマ・バイデン時代に成立した歴史的なイラン核合意(JCPOA  JOINT COMPREHENSIVE PLAN OF ACTION)を、「トランプは投げ出し、イランが核開発計画を再始動させることを許し、結果として地域におけるリスクを上げてしまった」との認識を示しつつ、「イランは、再びJCPOAを遵守しなければならない。もしイランがそうするならば、私はJCPOAに復帰する。そして、私は同盟国とともに対話を用い、(核開発以外の)イランの域内を不安定化させる諸活動についてもより効果的に対抗する」と述べている(中東調査会「中東かわら版」2020年9月3日付)。

 トランプ氏は中東でオバマ時代とは非常に異なる政策を取ってきた。特にイスラエル寄りになったことであり、バイデン政権になるとイスラエルとの関係が変化するのではないかとの注目が集まっている。

 ロイター電は、イスラエルのネタニヤフ首相が8日、バイデン氏に「偉大な友人」と述べて祝意を表明したことを伝えつつも、その表明は各国よりも遅れたとコメントしている。ネタニヤフ氏がどのタイミングで祝意を表明すべきか、悩んだのは当然であろう。8日でも早かったという見方が成立するかもしれない。ネタニヤフ氏はバイデン氏に、「われわれは約40年の長きにわたり温かい人間関係を築いてきた。あなたはイスラエルの偉大な友人だと認識している」とも述べている。

 一方、ネタニヤフ氏はバイデン氏への祝意を表明した直後、トランプ大統領と撮影した写真をヘッダー画像に使っているツイッターアカウントへの投稿で、トランプ氏に謝意を表明し、「イスラエルと私個人に示してくれた友情」を挙げつつ、エルサレムをイスラエルの首都と認定し、ゴラン高原に主権を認め、イランと対峙し、アラブ諸国との国交正常化を実現させ、米イスラエル同盟を「空前の高みに引き上げた」と称賛した。

 ともかく、バイデン氏の中東政策についてはイスラエルとの関係を含め、不透明な点が存在しているのが現実である。
2020.10.21

原子力政策とプルトニウム問題

 日本の原子力規制委員会は2020年10月7日、使用済みの核燃料から取り出したプルトニウムを加工して新しい燃料を作る国内初の「六ヶ所再処理工場」について、新しい規制基準に適合しているとの判断を下した。事実上の合格だという。
 この判断を受け、事業主の日本原燃は、2022年度上期に新工場の稼働を開始する準備を進めている。本格的に稼働すればプルトニウムが最大で年間約8トン抽出される。プルトニウムを減少させる方策は八方ふさがりの状況に陥っているにもかかわらず、プルトニウムの保有は今後増大していくのである。

 日本の原子力政策に米国は協力しつつも懸念を抱いている。原子力発電により核爆弾の原料となるプルトニウムが作り出されるからである。日本は2019年末現在、約45.5トンのプルトニウムを国内外に保有している(2020年8月21日内閣府原子力政策担当室「我が国のプルトニウム管理状況」)。これは原爆6千発を製造するのに足りる量である。

 日本政府は、このプルトニウムは兵器目的でなく、原発の燃料として使用する計画(いわゆる「核燃料サイクル」)であり、国際社会に対し「利用目的のないプルトニウムは持たない」と説明している。

 日本は、この計画のため、「高速増殖炉」(「もんじゅ」)を建設し、1994年から稼働し始めたが、すぐに事故続きとなり運転できなくなってしまった。「高速増殖炉」は、現在原発に使われている「軽水炉」と違って、冷却が極めて困難なことなど技術的なハードルがあまりに高いためである。稼働できなくなった「もんじゅ」はそれでも二十数年間維持されたが、維持費は1日に5500万円もかかった。結局、手に負えなくなった政府は2016年に廃炉を決定した。

 しかし、廃炉を完了するのは一大作業である。「もんじゅ」から、使用済みの燃料、ナトリウム、建物、機械類など合わせて、約2万6700トンの廃棄物が出ると見込まれており、これを処理しなければならないが、いつ、どこで、どのように処理するか全くめどはたっていない。地元の福井県は県外に搬出するように求めているが、現在までのところどこにも搬出できない状態が続いている。搬出先は廃炉から5年以内に決めることになっているが、見通しは立っていない。

 「もんじゅ」は廃炉となったが、「核燃料サイクル」が廃止されたのではない。現在、政府は「高速増殖炉」に代わるプルトニウム使用の原子炉(単に「高速炉」と呼ばれている)の建設を検討中である。

 しかし、それは一体可能か、重大な疑義がある。「核燃料サイクル」はもともと1970年代の初頭に実用化すると予定されていたが、実際には「もんじゅ」に象徴されるように問題が続発し、予定は次々に延長され、2005年には2050年ごろに実用化するとの新たな予定が立てられた。この経緯だけを見ても「核燃料サイクル」がいかに非現実的であるか明らかであろう。

 国際的に見れば日本の特異な状況がいっそう浮かび上がる。米国など原子力先進国といわれる国々では1940年代から、発電用の燃料確保のために「高速増殖炉」の開発を始めていた。しかし、事故が続出し、実用化に見合うだけの経済性は見込めないと判断し、80~90年代に次々に「高速増殖炉」の開発を放棄してしまった。フランスは遅れたが、それでも1998年に「高速増殖炉SPX-1(スーパーフェニックス-1)」の廃炉を決定した。
 そしてフランスはSPX-1に続く原子炉としてSPX-2の建設を検討し始め、研究開発費の削減や開発リスクの低減を考えて英国やドイツと協力してヨーロッパ統一の原子炉(欧州統合実証炉)の建設設計を始めたが、結局これも「SPX-1のトラブルの影響と、世界的な「高速増殖炉」の低調な建設意欲の中で計画は打ち切られた」(日本原子力研究開発機構の資料「フランスの高速増殖炉研究開発 (03-01-05-05)」)。
つまり、フランスの有名な「高速炉スーパーフェニックス」は、いったん完成された第1号機はすでに廃炉が進められており、未完成の新型第2号機の開発も事実上とん挫しているのである。

 各国が開発を継続できないと判断している中で、日本だけが「核燃料サイクル」を維持して「高速炉」を開発しようとしているのだが、それは可能なこととは思えない。日本は、主要原発国の一つであるが、原子力利用の点では決して最先進国でない。原発後進国と言われたこともあった。それが現実である。

 また、日本は使用済み燃料を再処理して軽水炉でもプルトニウムを消費できるようにしようとしているが、この方法でも放射性廃棄物の処分が事実上できないという壁をクリアできない。このように見るのが正しければ、日本が内外で保有する約45.5トンのプルトニウムを減少させることはできないと判断すべきである。
 
 しかるに現在、日本は「核燃料サイクル」の実現に向け新たな一歩をふみだそうとしている。日本の原子力規制委員会は10月7日、使用済みの核燃料から取り出したプルトニウムを加工して新しい燃料を作る国内初の「六ヶ所再処理工場」について、新しい規制基準に適合しているとの判断を下した。事実上の合格だという。
 この判断を受け、事業主の日本原燃は、2022年度上期に新工場の稼働を開始する準備を進めている。本格的に稼働すればプルトニウムが最大で年間約8トン抽出される。プルトニウムを減少させる方策は八方ふさがりの状況に陥っているにもかかわらず、プルトニウムの保有は今後増大していくのである。
 
 経費的にも大問題であり、今まで「10兆円の巨費を投じても実現のめどが立っていない」とも言われている。「もんじゅ」の建設費が5900億円、稼働していないが年間に200億円弱の経費が掛かっており、「六ヶ所再処理工場」は建設が完了した付随の施設だけで2兆1千億円かかっており、維持費として年間1100億円費やされていることにかんがみれば、この数字は決して誇張とは思われない。ちなみに、この費用は基本的には電気料金などの形で国民が負担している。
これはこれまでかかった費用であり、今後「核燃料サイクル」をあくまで進めていこうとすれば、この数倍の費用が必要となるだろう。
 
 プルトニウムの大量保有と「核燃料サイクル」の問題は日本の中だけにとどまらない。、結局は日本と日本人の信頼性に関わってくる。「核燃料サイクル」は、「六ケ所再処理工場」の稼働に向け動き出す前に抜本的な見直しが必要である。
2020.10.02

日本学術会議の新会員に関する政府の拒否

 日本学術会議が8月末、新会員として政府に推薦した105人のうち6人が、菅義偉首相によって任命されなかった。会長(当時)の山極寿一・京都大前総長がそのことを知らされたのは9月28日の夜だったという。政府から任命拒否についての理由説明は一切なく、山極会長は「6人の方が新会員に任命されなかったのは初めてのことで、大変驚いた。菅首相あてに文書で説明を求めたが、回答はなかった」と説明した。

 新会長に選ばれたノーベル賞受賞者の梶田隆章・東京大宇宙線研究所長も、「極めて重要な問題で、しっかり対処していく必要がある。6人を任命しなかった理由について菅首相に説明を求めることを検討する」と述べている(引用の形式は一部修正した)。

 学術会議から推薦された人物について任命を拒否した政府の姿勢については以下の問題があると考える。

 まず学術会議の性格であるが、「行政、産業及び国民生活に科学を反映、浸透させることを目的として、昭和24年(1949年)1月、内閣総理大臣の所轄の下、政府から独立して職務を行う「特別の機関」として設立された」。具体的な役割は、次の4つである。

〇政府に対する政策提言
〇国際的な活動
〇科学者間ネットワークの構築
〇科学の役割についての世論啓発

 新会員の推薦が学術会議の趣旨にかなうか、慎重な検討の上行われたことは明らかであるが、政府が推薦に反対することは可能である。学術会議が推薦したからと言って推薦された人物について絶対的な保証があるわけはない。新会員の候補者による研究結果が100%正しいとは限らない。

 しかし、政府としては政府の方針に反対の意見をシャットアウトすべきでない。問答無用と突っぱねるべきでない。任命しないとの結論だけを押し付けるべきでない。少数であっても貴重な意見に耳を傾けるべきである。

 学術会議が政府の方針に賛成する学者だけで構成されるようになれば、翼賛会的な機関になる危険が増大する。そうなることは、政府にとって一時的に都合がよいかもしれないが、日本のためにならない。政府に都合の悪い意見を反政府的だなどと決めつけたり、排除したりすることがいかに危険なことであるか、日本国民はかつて嫌というほど経験した。今回、政府が行った、反論の機会も与えず、ただ排除したことはその轍を踏むことに他ならない。

 政治の信頼を取り戻すことも重要である。政府は権力を持つが国民全体のことを考えていることを実際に示してほしい。問題だと考える実質的な理由については何も説明せず、ただ、「今までも新会員の任命に問題はないか検討してきた。今回対応が変わったわけではない」と繰り返すだけでは、政治不信はますます深まるだろう。

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